Beware Boyfriend

今朝はいつものように英語ニュースザッピングをしていたのですが、その合間に見たある広告が気になり色々と回り道。
きっかけはこの

  • boyfriend cardigan

という語でした。

その経過はツイッターに投稿していました。

Ngram viewerで何時頃から広まっているのか、当たりをつけてみましたが、あまりよく分かりません。

jeansを入れると、他とのギャップが大き過ぎて、比較にならないのが悩ましい。

ツイッターで一番古い "boyfriend cardigan" を含む投稿は、

そのリンクを辿ると、まだ記事が読めました。

youlookfab.com

ただ、これだけでは、どのようにpopularityを得たのか、など詳細は分かりません。

NOWコーパスでboyfriend cardigan(s) をざっくりと。

2012-2013のデータを反映しているGLOWBEだと、意外にもGBに複数形 cardigansの例がひとつ。

英国の書き言葉ではヒットしないものが多く、他にも色々と検索して情報を集めていたのですが、「もうChatGPTとコラボしよう!」ということで、検索結果を元に3分43秒ほどのレクチャーに仕立ててみました。
語数は約600語。200語で要約するとすれば約1/3ですね。

ちょうど東外大のレクチャーの長さに近いので、情報の信憑性(credibility)には一部「?」が残りますが、レクチャーのメモ取りに慣れるというくらいの効果はあるでしょうから、こちらで音声が聞けるようにしました。

私がこのレクチャーの内容に賛同しているとか、それを聴く人に押し付ける意図は全くありません。
あくまでも個人で楽しむものとして公開します。

www.dropbox.com

一応、メモ取り用のワークシートもどきもこちらに。

繰り返しますが、情報の信憑性やこの内容の支持不支持に関しての苦情はご遠慮下さい。
英語そのもののミスは、コメント欄などに書かずに、こっそりと教えてください。

レクチャーのスクリプトと200語程度のサマリーは、また日を改めて。

※2024年2月7日追記:
要約とスクリプトはこちらのエントリーで示しています。
culculating, manipulative or whatever you want to call it - 英語教育の明日はどっちだ! tmrowing at second best

本日のBGM: Lovefool (The Cardigans)

open.spotify.com

From the start

一般対象の「チャンクセミナー」に続いて、受験生対象のセミナーも無事終了しました。
受講者の皆様、ご受講ありがとうございます。お疲れさまでした。

特に、受験生講座の方は、少人数で、志望校に特化した内容と水準で、かなり濃い取り組みができたのではないでしょうか。
とはいえ、私も魔法使いではないので、この僅か3時間の講座とメールでのフィードバックで、ライティング力が劇的に向上するということはそうそうないとは思いますが、確かな視座は得られたのではないかと。

一橋大学は絵画やイラスト、写真に基づく描写/説明の英文ライティングが度々出題されています。
この時期に私のところに過去問を持ってくる受験生は予備校や塾、または参考書などで何らかの対策をしてきたとは思うのですが、こと「描写」となると、課題が多いと思わざるを得ません。

過去問を解いて添削するだけで、肝心な学びや気づきがないからでしょうか?
では、限られた残り時間で何をどう学び、身につけるか?

やはり英文ライティングの基礎基本がよく分かっている指導者から学ぶ、ということなのだと思うんですよね。
早稲田のイラスト問題への対応でも、高校生はほぼ同じ克服すべき課題を持っていると感じます。
そして、市販教材では、その部分への手当てが十分に出来ていない。


ツイッターでも注意喚起はしてきました。

場面描写・人物描写はそれなりに練習をしないと全ての文が同じパターンで単調になったり、メインとサブ、背景と焦点がボケたりします。適宜、登場人物間の「やりとり」で表現すればリズムやダイナミズムも生まれてきます。
でも、それってちゃんと書かれている小説(や戯曲)を読めば分かりますよね。
https://twitter.com/tmrowing/status/1752919896458158224

結構、有益なヒントも提供。

老婆心ながら補足。
この観光関連のアカウントのツイートでなされている記述・描写の英文はタワーの側から、その展望台から見る眺望に関わるものなので、それをこっちから見ている描写・記述で練習する、っていうことですからね。
https://twitter.com/tmrowing/status/1753535186778869861/quotes


こういった、入試対策も一方では、大変に、また一方では便利な時代になりました。
大変な一例としては、最近は、著作権の問題から、所謂「赤本」を買い求めても、問題が公開されていないことが多くなりました。
例えば、今回の講座で対応した東京外国語大学。

前期試験の英語の最後の問題が

  • レクチャーのリスニングに基づく要約とお題作文(意見文・論証文が比較的多い)

となっています。

他大学では余り見られない内容と水準になっているのは、要約もお題作文も200語程度の分量で答えさせるものだからです。
良くも悪くも中途半端で、この分量に納めるのは慣れが必要です。
また、レクチャーの方も、2013年くらいにこの形式が始まったと思うのですが、初期では結構長めのものもありましたが、今はスピーキングテストが入った分、試験全体の時間が短くなったこともあり、それほど長いものを課すことが難しくなったのではないかと推測します。


先月の受験生B講座では、外語大志望者がいなかったのですが、今回のD講座では外語大志望者に合わせて、赤本では公開されていない2022年のレクチャー問題をAIとのコラボで作ってセミナーで使っています。
音声もtakeondo先生に教えていただいた、

elevenlabs.io

を活用して、かなり自然な音声を狙いました。
いやー、本当に便利な時代になったものです。
有料ですが、ここまでのクオリティで音声合成ができれば、いまのところは充分。
レクチャー用音声は、入試本番とは異なり、男性と女性、英音と米音の両方を作成してリスニングそのものへの対応も図っています。


実際の試験で使われたスクリプトは、出典で示されているTED Talk そのものとは違う独自編集でしたが、そのスクリプト以外に、試験の設問で明らかにされているレジュメにある情報のキーワードをもとにして、テーマ、トピックなどから情報を補って、AIと何回かやり取りをして4分半程のレクチャーを仕立てています。

同じ情報に基づいて作られた、表現や語彙、構文が少々異なるレクチャーを聴いても、同じようにメモが取れ、要約ができるか?
と考えれば、充分取り組む価値があると言えるでしょう。

他にも、キーワードが二つあるけれども、一方をダシにして持論を展開するのではなく、両論の対比のまま進み、類似点相違点を詳述するという構成のレクチャーなどは、今、どっちのキーワードの具体例を話しているのか?という部分なども、2回聴けるという、大学入試ならではの利点を最大限に活かすという意味でも、一度は体験しておくと良いと思います。

ということで、描写問題と、レクチャー融合問題に関しては、せっかく直前対策の「群を抜く」ための素材を作成しましたので、一橋大志望者、東京外国語大志望者で、最後のもうひと伸びを目指す人は、メールやツイッターのDMなどを通じて、ご相談下さい。
有料ですが、日程や条件が合えば、対応いたします。

まだ国公立前期まで20日ありますから。
心身の健康が第一です。
本日はこの辺で。

本日のBGM: Bewitched (Laufey)
※祝、Grammy受賞!

open.spotify.com

…にもかかわらずである。

前回の共通テストもどきの「お話」は殆ど反響がなく、ちょっと凹みましたが、先日の満月を見たら、こちらの気も満ちてきたので、プラマイプラスです。

tmrowing.hatenablog.com


今日は英語の語法の話し。

接続詞のthough/although と前置詞のdespite/in spite of の区別は、生徒の定着度はさておき、高校段階の英語授業では、明示的にはきちんと指導されているように思います。
テスト、特に大学入試を想定すると、

( Although ) Tokyo has a relatively small land area, it has a huge population. 
東京は比較的小さな面積しかないが,非常に多くの人口を抱えている。

という意味になるような空所補充の四択完成問題で、錯乱肢に despiteやin spite ofが配置される、または、

He came to the party ( despite ) his illness.
彼は病気にもかかわらずパーティーにやって来た。

という意味になるように英文を完成させる問題で、錯乱肢に thoughやalthough が配置されるというのがお決まりのパターン。
でも、その辺りで止めておけばいいものを、次のような出題をして、受験生を篩にかけようという、大人の思惑は醜い。

( ) being the last to have finished the exam, the student got the highest score.
① Despite ② Despite the fact that
③ However ④ In spite of the fact that

私は、このようなことをして英語力を測ろうという人とは仲良くなりたくない。
②が正解なら④も正解になるはずだから、正答の選択肢としても、錯乱肢としても機能していない。

正答となるように補充して完成するであろう英文、つまり、出題者が求めている英文は、

Despite being the last to have finished the exam, the student got the highest score.
一番最後に試験を終えたにもかかわらず、その生徒は最高得点を獲得した。

のようです。
確かに、文法語法的にもどこにも間違いはありません。意味で読み手、聞き手に誤解させる余地もない。にもかかわらず、この副詞句のイントロはいただけません。
前置詞+動名詞+名詞の後置修飾となる完了不定詞の知識が試されている?
この程度の内容を言うなら、

The student was the last to finish the exam, but (he [she]) got the highest score.
その生徒は一番最後に試験を終えたが、最高得点を獲得した。

で充分でしょ?
さらには、先程の錯乱肢にあったように、前置詞despite にthe factなど同格節を従える名詞が続くものの習熟を問う問題も見られる。

  • 特に、読解問題には出るのだから教える必要がある。

という人もいます。
例えばこんな文。

We may think of all art as highbrow or elitist despite the fact that we like certain movies (film is an art) enough to see them over and over.
私たちは、ある映画(映画も芸術だ)が好きで何度も見ているにもかかわらず、すべての芸術を高尚なもの、エリート主義的なものと考えているかもしれない。

このdespite the fact (that) SVが所謂英英辞典の用例でどの程度扱われているか見てみましょう。

COBUILDの第9版 (2019年)には一例もありません。
米語版(2014年)では2例。
factの項で、

Despite the fact that the disease is so prevalent, treatment is still far from satisfactory.
その病気があれほど流行しているという事実にもかかわらず,満足できる治療法はまだない.

mirrorの項で

Despite the fact that I have tried to be objective, the book inevitably mirrors my own interests and experiences.
客観的になろうとしたにもかかわらず,その本は必然的に自分の関心や経験を反映している.

OALDでは、
despiteの項で

She was good at physics despite the fact that she found it boring.

factの項で

She’s taking her children on holiday, despite the fact that school starts tomorrow.

LDOCEでは、
despiteの項で、

She went to Spain despite the fact that her doctor had told her to rest.

文法ノートの中で

She seemed no happier, despite the fact that her physical condition had improved.

Cambridgeは、オンラインの英和にのみ

The company has been forced to reduce its price, despite the fact that the offer has been very popular.

というような用例を収録しています。

語法辞典での扱いで注目すべきは、Garnerでしょう。
Garnerの旧版では扱いも小さく、頻度も

  • despite the fact that : in spite of the fact that = 4:1

でした。

現行5版(GoogleBooksのNgram viewerでの2019年データを使っているとのこと)では扱いも大きくなり、頻度の比率は5:1となっているだけでなく、 “Remember the useful word although” との助言があります。

ざっくりとした検索ですが、私が学生の頃の1980年代からdespite優勢ですよ。 次のNgram Viwerでの差を見てください。

COCA系でもざっくり。


despiteの生息域推測。

でもね、事実なら though < even though で節を使えば簡単なんです。 では、何故despiteで同格節を?というところに踏み込まないと、何も言ってないのと同じですから。

私が初任校にいた頃に買って、日々教材研究で引いていたCGSAE (1993年) も既に30年前。 in spite of the fact that は事実を伝える表現ではなく、意見を述べるもの、というのは的確。

古いスタイルガイドだけではなく、現代でも、カナダのTranslation Bureau が提供しているWriting Tips ではin spite of the fact thatはwordy なので避けるように、と代替案を示しています。


入試対応とはいえ、習熟すべきなのはdespite the fact (that) SV であって、もし、「長文読解ではin spite of the fact that SV が多用されるので、そちらに重点を置く」、という英語指導者がいたら、ちょっとねぇ…。

そして、このdespiteに続く同格節、ことがらを取る名詞句の語法は近年変化が見られるので要注意です。

twitter (今ではX)の私の投稿から。

記事本文からthatのない同格節と「実現形」make sureの例。
Despite the fact she had to spend more than she planned, Lydia says she does not want compensation.
She added: “I want to make sure the whole world knows what they have done.
despite+名詞句
make sure の節中の現在形
を確認。

この同格のthatが現れずに、直接SVの節が続くものを「直節」のSVと名付けたのですが、普及までには至らず。

fears直節SV
despiteに続く名詞fears同格節でのthatの省略

「直節SV」の「直節」って「直接」の変換ミスだったわけですが、この同格節を導くthat省略の現象を説明するのに都合がいいような気がするので、ハッシュタグとして使うことにしました。
Among them is Oklahoma, where President Donald Trump is pushing ahead with plans to hold a large election rally with tens of thousands of people next weekend, despite fears it could help spread the virus.

この「直節SV」のパターンは英語ニュースではもう、factに限らず、一般的な表現となっています。
同格のthat節を取り得る名詞がdespiteに続く場合に、thatが省略されることが多い。ここではconcernsに直節SVが続いていることを確認。ハイフン形容詞としてのbetter-than-expected「期待 [予想] 以上の」は近年よく見る印象。比較のthanに続くSVの省略も丁寧に。

Despite concerns the delta variant would keep moviegoers at home, Ryan Reynolds' sci-fi action comedy "Free Guy" had a better-than-expected start at the domestic box office.

この同格の名詞節を導くthatが現れないということは、既に、2006年の時点で、書籍でも論じられています。

  • 「同格名詞節を導くthatの省略」(滝沢直宏 『コーパスで一目瞭然 品詞別 本物の英語はこう使う!』小学館、pp.155-157)

滝沢氏によれば、despiteに同格の名詞節を持つ名詞が続く用例中約10%がthatなしで使われている、とのこと。そこから既に、17年が経過していますので、その浸透度がどうなったかは気になるところです。

twitterの英語ニュース紹介から、類例を追加します。

#直節の同格名詞節
前置詞+ことがら系名詞+「直節」のSVの例
amid speculation SV 「SVという憶測が流れる中;憶測の最中に」は同格名詞節を導くはずのthatが消えているもの。 接続詞thatを使わずに直接、節が続くので「直節」と呼んでいます。
despite the fact での「直節」はお馴染みでしょう。

#肯定平叙文のfew
#同格の名詞句でthatを使わない直節のSV
基準時は現在。fewは「(ゼロとは言わないけれど)殆どない」。書き言葉だと誤解の余地なく「低評価」を伝えられます。話し言葉では、only a fewやvery fewなどで。名詞signは同格のthat節が可だけれど、接続詞thatのない「直節」のSVを確認。

ここまでが長いイントロで、ここからが本題。本日のタイトルに該当する英語表現。
このような、同格の名詞節を導くthatが現れないものとは、ちょっと違うdespiteの用法で、私が気になっているものがあります。
基本となる形は、次のように、先行文脈を受けるthis やthatに続いて譲歩となる内容を述べるものです。
このような例は、学習用の英和辞典にも載っていません。実際基本的な使い方であるにも関わらずです。

Prices of many Fukushima products, which crashed following the disaster, have not recovered to 2011 levels. This is despite the fact that such Fukushima products are shipped only after they clear tough screening against radioactive contamination.
震災後に暴落した多くの福島産品の価格は、2011年の水準まで回復していない。こうした福島産の製品は、放射能汚染に対する厳しい審査をクリアして初めて出荷されるにもかかわらず、である。

類例を追加しておきます。

Therefore, while some areas in the northern regions produce so much solar electricity that it is totally free during some months, the most highly populated areas, which are in the central and southern regions, are not seeing the same benefits. This is despite the fact that solar power generation capacity from the country’s central and southern regions has increased 300 percent to 770 megawatts in the last two and a half years.
そのため、北部の一部の地域では太陽光発電による電力が非常に多く、月によってはまったく無料で利用できる一方で、人口の多い中部や南部の地域では同じような恩恵が得られていない。この2年半で、中南部地域の太陽光発電容量は300%増の770メガワットに達しているにもかかわらず、である。

Recycling rates in the U.S. are low and getting lower. The U.S., by far the world’s biggest consumer of aluminum cans, lags behind other industrialized nations in the percentage of these cans that we recycle. This is despite the fact that the number of cans sold is fairly constant.
米国のリサイクル率は低いのだが、さらに低下中である。世界最大のアルミ缶消費国である米国は、(5)アルミ缶のリサイクル率で他の先進国に遅れをとっている。アルミ缶の販売数はほぼ一定であるにもかかわらず、である。

数多ある学参とは異なり、

  • 田上芳彦 『読解のための上級英文法』(研究社、2023)

では、上述の、this is/that is で先行文脈を受けて、despiteに「同格のthat節」が続く例と、その先行文脈の受け方でisが脱落し、破格に見える “This despite …” や “This, despite …” の実例で注意喚起をしていました。流石です。

田上氏は用例を大学入試の問題から引いていましたが、文体としては、論文でも用いられているものです。

SciELO - Brasil - Corpus linguistics and second/foreign language learning: exploring multiple paths Corpus linguistics and second/foreign language learning: exploring multiple paths
As for the intentional negation of the benefits of corpus research in L2L, it may be caused by the often-cited ‘ivory tower effect’, i.e. the perception by teachers that linguists work in their offices at university and have no idea of what teaching is about - and this despite the fact that some of those linguists are also teachers.
(L2Lにおけるコーパス研究の利点が意図的に否定されていることについては、よく言われる「象牙の塔効果」、つまり、言語学者は大学のオフィスで仕事をするものであって、授業をする重要性をわかっていない、という教師側の認識が原因かもしれない、その言語学者のうち、実際に教師もしている者がいるにもかかわらずである。)

この例は、ケンブリッジのコーパス中にも見つかります(和訳は松井による)。

https://www.cambridge.org/gb/cambridgeenglish/better-learning-insights/corpus
This, despite the fact that it arose from the discipline of dialectology, whose prime focus was geographical space.
(それが地理的空間に主眼を置いていた方言学という学問分野から生まれたものであるにもかかわらず、である。)

確かに、見た目は破格ですが、上述の基本形が身についていれば、それほど混乱はしないでしょう。やはり、基本形とどれだけよい出会いを重ねているか、が重要なので、スペースは取りますが、学習用の辞書には一例くらいは収録しておいて欲しいものです。

このdespiteの用法の類例として、先行文脈を受けた主語を立て、補語の位置にことがらを表す譲歩の節がくるものも見かけます。
even though SVが続く例。

twitter.com
Turkey is the cheapest place to retire. This is even though Portugal and the Netherlands are among the most affordable places in Europe.
トルコはリタイアして過ごすのに一番安い国である。ポルトガルとオランダがヨーロッパで最も物価の安い国のひとつであるにもかかわらず、である。

metro.co.uk

He never appears to have wondered what we might lose about ourselves, if we used Neuralink to upload our brains to the ether. This is even though Isaac Asimov, an author whose work Musk claims inspired him to start his company SpaceX, felt very differently about this very subject.
彼(マスク)は、もし私たちがニューラルリンクを使って自分の脳をエーテルにアップロードしたら、私たちは自分自身について何を失うのだろうかと考えたことはないようだ。
アイザック・アシモフという作家は、マスクがスペースX社を立ち上げるきっかけとなった作家だというが、このテーマについてはまったく異なる考えを持っていたというのに。

同じ譲歩の接続詞でも、althoughの例は少ない模様。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aba9652

These results demonstrate that at a regional level, oyster fisheries were resilient and experienced multiple stable states over the last 5000 years before the 1900s. This is although the population grew exponentially from the Late Archaic to the Mississippian period and experienced shifts in political organization (e.g., from egalitarian to ranked systems) and changing economies (e.g., from foraging to a mixed economy that included some maize agriculture).
これらの結果は、地域レベルでは、1900年代以前の過去5000年間、カキ漁業は弾力性があり、複数の安定した状態を経験していたことを示している。後期アルカイック期からミシシッピ期にかけて人口が飛躍的に増加し、政治組織の変化(例えば平等主義からランク制へ)や経済の変化(例えば採食からトウモロコシ農業を一部含む混合経済へ)を経験したにもかかわらず、である。

even if の例も参考までにあげておきます。

Vows and Oaths - IslamQA
A person took an oath that he will not enter your house. He then landed onto your roof by jumping from the upper storey of the house next door. By him standing on your roof, his oath will break. This is even if he does not come down into your house.
ある人が、あなたの家には入らないと誓った。彼は隣の家の上階から飛び降り、あなたの家の屋根に降り立った。彼があなたの屋根の上に立つことによって、彼の立てた誓いは破られることになる。たとえ彼があなたの家に降りてこなくても、である。

  • This is true even though SV.
  • This is so although SV.

であればそれほど違和感はないだろうと思いますが、実際に、この譲歩の接続詞が補語の位置を占めていて、しかも意味が整合している、というところに、ちょっとしたハードルがありますね。

このような表現を踏まえて、私が今気になっているのは、上述のdespiteに続く無冠詞の名詞の後ろにもthatが現れないだけではなく、同格のthat節がとれない名詞に見られる、伝達動詞の -ing形でthat SVをとるものが増えてきているのではないか、ということです。

少し前に、twitterの英語ニュース紹介で取り上げていました。

いまのところはまだニュースなどの英語で見るだけかもしれないけれど、確実に使われ始めている
that [this] is despite data showing SV
dataは無冠詞で使われているのが殆どだけれど、そこは大丈夫。
this [that] is despite evidence SVも見聞きするので、despiteの地殻変動の方が気になります。
Most Americans think there’s more crime in the U.S. than there was a year ago, according to a Gallup poll. That’s despite data showing violent crime has dropped in 2023.

Why the misperception?
@paulsolman looks into one type of crime that may be getting outsized attention.

https://twitter.com/tmrowing/status/1740886015508992300

DeepLでのデフォルトの和訳は、

  • ギャラップ社の世論調査によれば、アメリカ人のほとんどが、アメリカでは1年前よりも犯罪が増加していると考えている。2023年に凶悪犯罪が減少したというデータがあるにもかかわらず、である。

となるのですが、肝心なThat’s despite以下はむしろ、

  • 2023年に凶悪犯罪が減少したと、データが示しているにも関わらず、である。

と「ことがら」で読んだ方が良いと考えています。

despite the fact that SVではthatのないことが多いので、thatが省略されているというよりは、もう無くても気にしないのが吉、となるくらいthis [that] is despite で先行文脈とのギャップを補語的に示す、叙述の用法そのものに馴染むのが良いでしょう。

次のような例はよく見聞きします。

metro.co.uk

Chocolate company Mars has been found to be using cocoa beans harvested by children in Ghana, a report has been found. Children as young as five were revealed to be working on farms which supply the confectionary giant. This is despite the company’s pledge to protect children in its supply chain.
チョコレート会社のマースが、ガーナの子どもたちによって収穫されたカカオ豆を使用していることがわかった。同社にカカオ豆を供給している農園では、わずか5歳の子どもたちが働いていることが明らかになった。これは、同社がサプライチェーンの子どもたちを保護することを誓約しているにもかかわらず、である。

関係詞的に使われるthatと同格の名詞節を導くthatとの見極めに、完全文が続くか、不完全文が続くか、などとやっている間に、肝心の英語表現の方がどんどん姿を変えていっている、という危機感を一人でも多くの英語教育関係者と共有したいと思っています。

本日のBGM: アポロ (ポルノグラフィティ)

youtu.be

2024年3月14日追記:
このエントリーで取り上げたThis is despiteに関連する表現は、後日新たな記事で取り上げています。

tmrowing.hatenablog.com

先行文脈を受ける This is despite と、その省略版のThis despite界隈のオンラインコーパスの検索結果を参考までに。

Ngram Viewerで関連表現と推移を。



この省略表現で気をつけるべきなのは、A. This despite B. という情報の流れで、Thisは先行文脈のAを受けるということだけに囚われて、
(X) それ (= A) にもかかわらず Bである。
という読みをしてしまうことです。
適切な処理は、
(○)そう(= A) であるのは、Bにもかかわらずなのです。
ですから、やはり、一度、基本形・原型ともいえる、"This is true [so] despite ...." を通過しておくのが吉。
是非、このエントリーの最初から再読されたし。

“What's in a name?”

先日、今年の共通テストのリーディング第5問について批判的な記事を書きましたが、私はセンター試験の問題に戻せなどとは全く考えていないので、共通テストを批判する人を十把一絡げにしてラベルを貼るのは勘弁してくださいね。

ムダに長い物語文や説明文も、語彙や構文をコントロールしなければならない制約を考えると仕方がないとは思いますが、

  • 長かったけど、まあ、面白かった。
  • 今まで、知らなかったことが知れて良かった。

くらいのお土産がないと、辛抱してお付き合いする甲斐がない気がします。

ということで、ChatGPTとコラボで、ムダに長い「お話」を作りましたので、精神衛生の良い状態のときに読むことをお奨めします。

  • 怒り心頭

という事態は避けたいので。よろしくお願いします。

設問はつけていませんが、センター試験や共通テストの長文化を意識して、それらのテストでこれまでに出題されていないくらいムダに長くしています。

  • 約1300語!

ChatGPTさんとは、何度もやりとりしてこの形に落ち着きました。

CambridgeのTextInspectorでのスコアカードでは、リーディングの文章としては、全体でCEFRのB1レベルとのことです。

いまは無きセンター試験の2019年本試験の第5問はこんなスコアでした。

リーダビリティの指標などはこちら。

EVPでの語彙レベルをCEFRのランクで。 我ながらというかChatGPTながらというか、良いバランスに納めたと思いますよ。

参考までに2019本試験第5問は…

メタディスコース。語彙レベルを抑えると、語彙的結束性に頼り難くなる分、過剰使用を余儀なくされるつなぎ語が出てきます。


という先入観をしっかりと持ってもらった上で、以下の「お話」をお読みください。
2024年1月26日の Ver.1です。今後進化するChatGPTとの共同作業で改訂版としてよりよい「お話」に育てていければと思っています。

本日のBGM: Tonya Harding (Sufjan Stevens)

Different countries and regions have different ways of speaking English, but the way they write English is mostly the same. However, there are some important differences in spelling between British and American English. For example, the British word “vapour” is spelled as “vapor” in American English. This is also true for other words like “favour” and “favor,” “flavour” and “flavor,” “endeavour” and “endeavor,” and “rumour” and “rumor.”


Because of these spelling differences, it makes sense to think that VapoRub is a product of an American company. Despite its current ownership by the American company P&G, the story of how VapoRub was made is more complicated than that.


VapoRub, first launched in 1905, was the product of Richardson-Vicks, Inc., a family-owned business based in North Carolina. In 1985, the company was bought by Procter & Gamble, a multinational corporation whose founders, William Procter and James Gamble, emigrated from England and Ireland respectively.


Today, the name Richardson no longer remains even in the product name. One would have to look at the background and accomplishments of Richardson to see how an American company came up with the naming of the VapoRub.


In Selma, North Carolina, there was a young man who worked as a pharmacist. His name was Lunsford Richardson, and he loved to make new medicines for common problems. He had learned from his teacher, Jules Bengué, a French pharmacist who had made Ben-Gay, a popular cream for pain relief. Lunsford admired Jules' skill and creativity, and wanted to follow in his footsteps.


One day, Lunsford got a letter from his brother-in-law, Joshua Vick, a physician who worked in a nearby town. Joshua wrote that he had heard of a new invention that could change medicine: a machine that could make electric sparks and heat. Joshua invited Lunsford to come and see the machine for himself.


Lunsford was curious about the invitation, and decided to go to Joshua's laboratory. Joshua's workshop was full of machines and noise. There, he saw a big metal coil. Joshua called him to come closer.


Joshua: Lunsford, my friend, look at this amazing thing - the Tesla coil. It was made by Nikola Tesla, an incredibly smart Serbian-American scientist.

Lunsford: (curious) Tesla coil?

Joshua: Yes. It makes electricity that changes very fast, and it can be used for many things in medicine and science.


Lunsford was very interested, and he wanted to know more.


Lunsford: Joshua, this is wonderful. Can I use it for my experiments?

Joshua: (smiling) Sure, Lunsford. My lab is yours.


Lunsford started to explore with excitement. He thought about what the Tesla coil could show him about his own things. Ben-Gay, for example.

In the quiet lab, Lunsford put some cream on a cloth, and put it near the Tesla coil.


Lunsford: Let's find out the secrets.


The machine started to work, and the air smelled like menthol. Lunsford, with big eyes, felt a nice warmth in his senses.


Lunsford: (astonished) Joshua, it's changing the menthol into gas!
Joshua: (proudly) Exactly! The Tesla coil has turned the menthol into vapor, making a calming effect on your breathing system.


Lunsford took a deep breath, and understood the Tesla coil's magic - a relaxing mist, a beautiful mix of invention, medicine and science.


Lunsford was amazed by what he found, and wondered if he could use it to make a new medicine for colds and coughs. He decided to mix some menthol with petroleum jelly, a thing that he had used to make candles. He hoped that the petroleum jelly would help the menthol get into the skin or the air. He called his new product Richardson's Croup and Pneumonia Cure Salve, and started to sell it in his pharmacy.


The salve was very popular among his customers, who said it worked well and was easy to use. Lunsford got many messages from people who had used his salve to help their symptoms, and said that it had made them better. Lunsford was very happy with the good feedback, and decided to make his business bigger.


Lunsford turned to Joshua for help. He held a small tin in his hand, containing his homemade cream.


Lunsford: Joshua, I need your help. I have a great product here, but I don't know how to sell it. It's a salve that can help with colds and coughs. It has menthol and other natural ingredients.

Joshua: Let me see. (He takes the tin and opens it. He smells the cream and nods.) It smells good. What do you call it?

Lunsford: Well, I don't have a good name for it yet. I just call it Lunsford's Salve.

Joshua: (shakes his head) No, no, no. That won't do. You need a catchy name, something that people will remember and trust. Something that sounds American.

Lunsford: American? Why?

Joshua: Because we are in America, my friend. And Americans love things that are made in America. They are proud of their country and their culture. They want to buy things that reflect that.

Lunsford: I see. But what kind of name should I use?

Joshua: Well, how about using my last name, Vick? It's short and simple, and it sounds good. It's easy to say and spell. And it has a nice ring to it.

Lunsford: Vick? Hmm, I like it. But what about the salve part?

Joshua: Oh, that's another thing. You should change that word too. Salve sounds old-fashioned and boring. You should use something more modern and exciting. Something that shows how to use it and what it does.

Lunsford: Like what?

Joshua: Like rub. Rub is a good word. It's a verb, so it shows action and movement. It's also a noun, so it describes the product. And it implies relief and comfort. When you rub something, you make it feel better.

Lunsford: Rub. I see. That does sound better.

Joshua: So, let's put them together. Vick's Rub. How does that sound?

Lunsford: (thinks for a moment) It sounds good, but it's missing something. It needs a little more flair.

Joshua: Flair? What do you mean?

Lunsford: Well, you know how the cream has menthol in it, right? And how it makes a vapor when you heat it up?

Joshua: Yes.

Lunsford: Well, how about adding that word to the name? Vapor. It sounds cool and mysterious. And it shows the effect of the product. It makes you breathe easier and feel refreshed.

Joshua: Vapor. I like it. It adds some spice to the name. So, let's see. Vick's Vapor Rub. How does that sound?

Lunsford: (smiles) It sounds perfect. It's catchy, easy to remember, and American. It's the best name for the best product.

Joshua: (smiles back) I'm glad you like it. Now, let's go and sell it. I'm sure people will love it.

Lunsford: Thank you, Joshua. You're a genius.

Joshua: No, thank you, Lunsford. You're a friend.


Then, Lunsford made the name official, and started to make Vicks VapoRub in large quantities. He also made a special blue jar with a red lid, which became the famous look of the product. He sent Vicks VapoRub to pharmacies and shops across the country, and soon, it became a name that everyone knew.


Vicks VapoRub was a success story that spanned decades and continents. It was a product that was born from a combination of curiosity, innovation, and collaboration. It was a product that was inspired by a French pharmacist, a Serbian-American engineer, and a North Carolina physician. It was a product that was made by an American pharmacist, who had a dream to make a medicine that could help millions of people. It was a product that was named after a family, who had a legacy of excellence and generosity. It was a product that was Vicks VapoRub.

私が使う英語・避ける英語

高校1年の教材研究の途中で古い本を引っ張り出して、ある英語の語法について考えていた。
あんな本や、こんな本。

昔とは言わず、近年の大学入試での英語の出題でも、

  • a. But for your help, I could never have finished the job.
  • b. If you (hadn’t helped), I could never have finished the job.

という、ほぼ同意となるような連立完成の空所補充問題は見られるようです。

  • 「あなたの支援がなかったなら、私は絶対にこの仕事を終わらせられなかった。」

というような意味合いになるもの。
このa. の表現の肝は、for以下にくる名詞の存在意義・価値を高く評価し、それを裏返しで伝えることにあるのだが、教室での指導の際に、その辺りを強調されたことのない学習者、生徒さんが多い模様。

私は、自分の授業では、この「…の存在がないとしたら」という意味での but for +名詞句は取り立てて重点を置いて扱っていない。
いや、表現系を主眼とした授業なので。
同じような意味を表せる代替の表現で、より高頻度で間違い難いものに重点を置いて教えている、というのが実情。
とはいえ、この設問であれば、but forを読んで意味が分かる人が、より一般的な表現で言い換えられるか、を見ていると考えれば、まあ、ギリギリ許容範囲の出題とは言えるのだろう。

古くは、先の写真にも写っている、出版社アルクの雑誌『アクティブ・イングリッシュ』のサポートで、編まれた

  • 田中茂範 『ネイティブ100人に受験英語の使用実態を徹底調査 データに見る現代英語表現・構文の使い方』(1990年、アルク)
  • 田中茂範 『青春の汗がいま輝く 会話に生かす受験英語』(1990年、アルク)

がこの表現も含めた、所謂仮定法の「…がなければ」に関する英語表現をとりあげ調査している。

そのときの調査で用いられた用例に便宜上番号を振っておく。

1. But for your support, the campaign would have been bankrupt.
(あなたの援助がなければ、選挙運動は大失敗だったことでしょう)

に加えて、関連表現として

2. If it weren’t for weekends, I’d go insane.
(もしウィークエンドがなかったら、気が変になっちゃう)
3. If it had not been for the agent, she wouldn’t have gotten the contract.
(もしあのエージェントがなかったら、彼女は契約にこぎつけることはできなかっただろう)

の3つをたたき台に、ちょっと話しをしたい。

先の田中本では、英語ネイティブのインフォーマントの回答をもとに分析がなされているのだが、その観点は、

ビジネスレターでの使用度(%)
くだけた会話での使用度(%)
改まった会話での使用度(%)

でスピーチレベルを比較、

改まり度(0〜5)
自然さ度(0〜5)

でフォーマリティを比較している。

その数値から、私の方で一覧にしてみると、次のようになる。

but for はビジネスレターや、改まった会話では使われないわけではないが、かなり改まった表現であり、インフォーマルな会話では殆ど使われず、自然さも低くなっている。
今から30年ちょっと前の、英語使用者の実感の一例を示したものとして興味深いが、いかんせん古い。

  • 30年で一世代、言葉は変わるよ。

という人も多いことでしょう。
ということで、比較的新しいものは、というと、

  • 佐久間 治 『ネイティブが使う英語・避ける英語』(研究社、2013年)

がある。

この本では、

  • 「あなたの助けがなかったら、私は失敗していただろう」

を取り上げ、

  • Without your help, I would have failed.
  • If it had not been for your help, I would have failed.
  • But for your help, I would have failed.

といった英語表現に関して、使用域等を英語ネイティブ十数人(うち米語話者1人)に尋ねているだけでなく、Google Books のNgram Viewerを使って経年の推移も見ている。
その相対的頻度は上から順に、10 : 3 : 1 で示されている。
but for の語感に関して、英インフォーマントの反応では

  • archaic(廃用)とまでは言わないがhigh style(格調高い文体)
  • formal and high register (フォーマルでレベルが高い)

が紹介されている。

佐久間の分析には、

But for … に比べると、Without …は汎用度が高く、頻度が格段に高くなる。If it had not been for は意味と時制(過去)を明示するのに適している。頻度は標準だが、倒置形の Had it not been for …とすると、 high styleになって、再び頻度は落ちる。(pp.47-48)

とある。

この佐久間の最後の指摘にある、倒置形の頻度について、以下のCOCA系の検索結果とすり合わせて欲しい。
既に、私がnoteで公開している、「あらためて時制と法を考える」のマガジン

note.com

でも、オンラインコーパスでざっくり検索した結果を示しているが、ここでは、もう少し詳しく、見てみようと思う。

佐久間の尋ねた英語ネイティブには米語話者が少なかったので、まずCOCAを見てみる。



均衡コーパスのCOCAで、明らかに全体のヒット数に差が見て取れるが、佐久間のコメントとは裏腹に、どの使用域でも、倒置形の had it not been for の方が5〜6倍多いことに注意したい。さらに、倒置のうち、文頭に来る例を見てみると、全体の6分の1くらいのヒット数で、話し言葉では桁が違っていることに注意したい。


次に世界20エリアでの最新のデータが得られる、報道メディアのNOWコーパスで。こちらはケタ違い。均衡コーパスではないので、経年でヒット数が増えていることの意味は、一次ソースも含めて検証が必要だが、その年代区分での基本形と倒置形両者の比較は可能。


次に、所謂「仮定法過去」で用いられる、if it were not for …とwere it not for … の比較をCOCAで。こちらでも、ブログ、話し言葉から、小説、報道、アカデミックな文脈まで、全ての使用域で倒置形の方が2倍近く高頻度となっているだけでなく、全体のヒット数が、仮定法過去完了had it not been for よりも多いことに注目。
ここでも、文頭で用いられるのは、全体の6分の1程度で、話し言葉ではケタ違いであることがわかる。



仮定法の条件節でのifの省略&倒置は「フォーマルな文体」と認識されているように思う。
日本の某英語学者にはボロクソに言われていた、M. Swanの「実用書」(Practical English Usage第4版、2016年) でも、

Section 22
244.5 leaving out if: formal inversion structures – Had I realized …

として、were / had / shouldの例を示している。 (p.244)

このような記述に基づいて、接続詞ifの省略と倒置の全てを「あらたまった表現・文体」と捉えてしまうと、先程のコーパスから得られたデータで、倒置の方が全ての使用域で段違いに頻度が高いことの説明がつかないのではないかと思う。

日本の英語教室や英語教材での指導や学習を振り返ると、

  • 条件節を導く if を使って、仮定法過去の if it were not for を学ぶ
  • 条件節を導くifを使って、仮定法過去完了の if it had not been for を学ぶ
  • 接続詞の省略&倒置の仮定法過去 were it not forを学ぶ
  • 接続詞の省略&倒置の仮定法過去完了 had it not been for を学ぶ
  • 節を用いずに、前置詞句での表現を学ぶ
  • ほぼ同意での相互の書き換えを学ぶ

という手順は、習得・習熟の発達段階や、使用頻度の実態から考えても再考の余地が大いにあることが分ってもらえるのでは?

因に、MW‘sのAdvanced の学習用辞書では、次のように、if not for が見出し語(句)として項立てされていて、その中で、if it were not forとif it had not been for の用例がひとつずつ示されている。彼我の差を感じるところ。


多分にノイズも拾うけれども、Ngram Viewerで経年の推移を見ておこう。

教師の思い込みで学習者、生徒を苦しめていないか、振り返り、内省が必要なところかと。
過度の単純化を戒め、一つ一つの表現の生息域を感じつつ学ぶこと、教えることが大切、といつもの同じ話しをして、本日も終了。

本日のBGM: きみがきみでよかった (Mamalaid Rag)

Is it worth it?

2024年1月13日&14日の二日間で大学入試センター 共通テスト(本試験)が行われました。
センター試験や共通一次の頃とは全く異なり、「面白かったからもう一回読んでみようかな」とか、「高1、高2の生徒にも是非読ませたい」という文章は姿を消した共通テストの英語。
共通テストに限った話ではないけれど、とりわけ共通テストの英語の作問には要改善点が多いので、以下、長々と苦言(愚痴?)を。
癒される(?)イラストがあっただけ、まだマシでしょうか。


注記:共通テスト以前のセンター試験に関しては、毎年、かなり真剣に問題の分析批評をしていましたので、ご興味のある方は、過去ログを掘り起こして見てください。基本的に「解法」は書いていませんので悪しからず。
tmrowing.hatenablog.com
tmrowing.hatenablog.com

さて、
「リーディング」とタイトルがついている問題では、多様なジャンルの文章を読ませたいという作問の意図はわからないではないのですが、受験生自身の「リーディング」力を見て欲しいです。

  • 誰かが読んだ読み方に基づいて問いを作る

ではない方向に進化できないものかと。

もう一方の「リスニング」でも

  • 誰かの話を盗み聞きしてその理解を問う

とかから、そろそろ脱皮して欲しいと切に願います。

リーディングでいえば、例えば「第5問」。
なぜ「次の物語文を読んで設問に答えよ」という、昔ながらの設定で設問にしないのか?
情報転移型、情報の再構築型の設問も充分可能だろうに。 テストだからという理由以外に、その英文を読む必然性がないのは、「ディスカッションの準備をしている」ことにさせられる無理筋の設定でも同じこと。

第6問も同じ。
A.は

  • 「英語の先生から課題文を与えられて、発表をするのでそれに備えて読む」

という設定。
いや、これはテストだから皆その英文を読まなきゃならないんだよ。もっともらしい御託を並べていないで、普通に読ませて、問い方そのもので切り込みなさいよ。いや、問1を除けば4択だけどね。

第6問Bの世界線も凄い。

  • 科学部のプレゼンの準備

俗にいう「理系」的な文章を読ませたいんでしょ?
「素直になりなさいよ。」とさえ思います。
科学「的」だから雰囲気さえあればいい、ってわけにはいかないので、出題側・作問側でちゃんと吟味した英文を読ませて問うて欲しいのですね。
DNCにはこんな前科があるので。
リンク先は化学が専門の東洋大学の柄山正樹先生からの問題提起。

化学への偏見に繋がる共通テスト英語の甘くない問題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/69/4/69_179/_pdf/-char/ja?fbclid

この「出題」の酷さは、「過去問文化」で誤った知識が強化され拡大再生産される危険性へと発展します。
所謂「進学校」の文化・風土では、過去問は「教材」として再利用されてしまうところに(も)、更なる問題があるのです。ただの悪問というだけなら、その回に受験した全ての人にとって等しく害を及ぼすわけですが、通過して終わりという人もいるでしょう。でも、その次の年度からは、新たな受験生や高校生が、その過去問を教材・学習材として学ぶのですよ。その人たちが、皆、誤った情報の訂正を確認してくれる保証はどこにもないので。害しか見つけられません。

先程の柄山先生からの指摘にもあったように、科学「的」ならなんでも許されるわけではないから、ちゃんと吟味した英文を読ませるべきなんです。

問2の「誤りを見つけて指摘する」ものも、分析力や思考力を見たいから?
だったら、なぜ

  • 「誰かが読んだ結果の間違い」

を探すために本文とスライドを行き来して読ませられるのか?
出題者との対話で充分だろうに。

リーディング問題の分析批評や解法に関しては、いろいろな情報が出ていますが、山添玉基先生のものが堅実で誠意あるもののひとつでしょう。

note.com

私は、山添先生も「コスパが悪い」と評した、第5問についてもう少し書いておこうと思います。
英語を使うプロの方からも酷評されていました。

TwitterのTLでは「第5問 物語文」の時系列が乱れている、みたいな声がチラホラあったようだけれど、あんなものは乱れたうちに入らないでしょ。ただ最終的にあの文章に決めた人のセンスがないだけ。

  • 読み手のナラティブ耐性の低下

がそもそもの問題です。

この「ナラティブ耐性の低下」に関しては、かれこれ10年以上、ツイッターやブログで危機感を表明し、教材も世に問うてきましたので、そちらをご覧下さい。

tmrowing.hatenablog.com


今年の第5問は、私が解いてみて、巷で言われているほど、設問自体は難しく感じませんでした。

  • ただただ、ムダに長い。

そして、

  • 物語の途中の複数の登場人物に関わる出来事の時系列を確認してその順番を答えさせる問題が完全解答で配点が3点。
  • 主人公の年齢を、高校卒業後20年の同窓会開催と、卒業後家業を継いだ年齢の19歳という情報から推測させる問題の配点が3点。

この2問の認知負荷や情報処理の労力が同じ扱いっていうのが、致命的にセンスないでしょ。
そもそも論ですが、「ディスカッションのグループで物語を紹介する」ためのレジュメを完成させるわけですけれど、このレジュメをもとに紹介した物語でグループ内では何をどう議論するのか、が全くイメージできませんでした。「もっともらしい場面設定」の陥穽として批判されるべきところですが、こと共通テスト問題となると、その場面設定の入り口から入れさせたら勝ちで、その後は出口がなくてもいいかのようです。

あと、慣用的な表現で
“you really know your coffee”
へのツッコミがツイッターのタイムラインに流れてこないのは何故?Xになって、時系列が乱れているから?

この表現をセンテンスで載せているのは、『ジーニアス』だけでしょうか?

流石は「守護神」?

この物言いは、ワインの話でよく聞きますよね。

https://y.yarn.co/65e03086-f99b-47da-8ae0-360faf6ed968.mp4

https://y.yarn.co/7dc8d4f8-3710-442e-8d19-0227c3a56ca3.mp4

でも、ならでは、と思える所有格の名詞句を使わなくても、ほぼ同様の内容は伝えられるので。

https://y.yarn.co/796daadf-623c-470c-b9a5-2e2cfc9fe2b7.mp4

平幕の助動詞 do (ここでは三単現でdoes) を使っての強調。

https://y.yarn.co/df9e8253-fc5d-433f-b02b-c562d10bb4a6.mp4

ワインの他には、チーズでも所有格を使った名詞句がありですね。

Do you know your cheese?

How well do you know your cheese?

でも、

  • You (really / sure) know your wine.

という表現自体は別に知らなくても困りませんよね?

  • You know a lot about wine(s).

  • When it comes to wine(s), you know what's what [you know your stuff].

という表現の方が汎用性が高いと思われますので。
だからこそ、ソーシャルメディア等で、この表現に関して、予備校等のお受験業界からコメントが全然ないのが不思議だと感じたのでした。

他にも、第5問の「表現」では、こんな指摘をしてくれる方がいらっしゃいました。

もっともな指摘です。その時の私の返信が次のようなもの。

確かに、この部分はもう少し丁寧に描くべきところでしょうね。the irony is that はインフォーマルなやり取りでも使われますが、youで面と向かった相手に言うとすると、皮肉、忠告、同情や憐憫、助言、激励など、前後のつながりが重要になる表現だと思います。
https://twitter.com/tmrowing/status/1746470183072645230

そして、一夜明けて思い直したのがこちら。

これ、オリジナルのライターは、別の表現で、もう少し丁寧にやり取りを描いていたっていう可能性はないですかね?
レジュメでその場面を the irony is … と要約してみたけど、原文のどこをどうすればironyという語が出るかが難しいので、原文の方にもthe irony is thatを使って書き直した、なら?
https://twitter.com/tmrowing/status/1746470183072645230

真相は如何に?

とまれ、受験生の皆さんはお疲れさまでした。

個別試験や私立大入試で「英作文」「ライティング」が必要な方、巻き返しのためには、これまで以上に表現のクオリティを高めなければいけない、とお思いの方は、こちらの講座を是非。

1月20日 B講座は国公立難関大対応
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2月4日 D講座はB講座と同内容
志望校決定に悩みに悩んだ受験生のために。
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直前で切実に必要としている受験生に、この情報が届きますように。
拡散協力、よろしくお願いします。

本日はこの辺で。
本日のBGM: Everybody Knows (Except You) / The Divine Comedy

I rest my case.

今日から「共通テスト」。
これを書いている今は、そろそろ外国語(筆記)の終わる頃ですかね。
2日目もありますから、一喜一憂せず、心身の健康&安全第一でお願いします。

  • The number of students who let a small mistake on the first day ruin the rest of the test is increasing.

ということにならないように。

ツイッター(今ではX)での「英語ニュース引用RT140字紹介&詳解」で、こんなツイートをしていました。

COVID-19パンデミック以降完全に定着した感のある
hospitalizations have risen のSV
the number of で単数呼応するでもなしhospitalizationsを限定する in number もなし。
複数形名詞で可算性が前面に出て、容認度が高まっていると考えられるけれど、これが波及する名詞がどこまで拡がるか要観察。

当該の英語ニュースの英文はこちら。

COVID-19 hospitalizations have risen for the ninth straight week while flu hospitalizations decreased for the first time in weeks, CDC data shows.

https://twitter.com/ABC/status/1745986196713402563

この語法の変化は、既に、2021年末には指摘していたことですが、そこからさらに2年でよりはっきりしてきたので再度取り上げる次第。

2年前の投稿。

この2年で大きく変わった語法としては
増減の表現
が挙げられる。とりわけcaseという名詞が増加の動詞を直接取る用法が定着した感がある。the number of casesとかいちいち言っていられない更新頻度が背景にあるのだろうか。case以外の名詞にも波及は感じられる。最早「変動する」と感じるならOK?

当時取り上げた英語ニュースの英文は次のようなもの。

Dr. Sean O'Leary, vice chair of AAP's Committee on Infectious Diseases, shares tips with @GMA for parents of kids under age 5 as COVID cases rise and the vaccine for that age group is delayed.

https://twitter.com/tmrowing/status/1473406231083876352

President Joe Biden gives updates on COVID-19 as omicron cases rise across the country.

https://twitter.com/USATODAY/status/1473378813539147779

何がどう変化しているか、よく分かっていない人もいるかと思うので、「規範的な」書き方の例も示しておきましょう。

ふた昔前の入試英語ではこんな表現でした。

On present trends, the number of cancer cases is likely to double by 2020 with 20 million new cases a year.
現在の傾向では、がん患者数は2020年までに倍増し、年間2,000万人が新たに罹患する可能性がある。

the number of +複数形のcasesが主語で、動詞はthe numberに合わせて単数呼応。

英語ニュースからも引いておきましょう。

Sweden announces new restrictions as the number of coronavirus cases continues to rise.

https://twitter.com/BNOFeed/status/1473313147473780741

このようにthe number of で増加・減少する対象をrise の主語として示すもの、とされていると思います。

The number of cases in which ambulance crews struggled to find where to take emergency patients in Japan hit a record high in the week through Sunday.

https://twitter.com/japantimes/status/1483892906003939339

一見、増減の表現に見えにくいですが、hit a record high は「記録更新」ですから、既存の記録の超過&最上級を表します。その主語は、casesではなく、the number of cases。これも規範的。

The number of tribunal cases in which employees are alleging menopause related discrimination is on the rise.

https://twitter.com/BBCWomansHour/status/1466845205299187714

the number of で主語を立てるもう一つの規範的表現としては、動詞のrise ではなく、名詞のriseを使って… is on the riseとする、というのも規範的な書き方です。

このcasesに関わる語法の変化は、2年前の時点でも、英語を使うプロの方にも指摘してもらっていました。


本題に戻って、このcasesのように複数形名詞が直接数量や変化/増減の動詞を取る例。

ざっくり見ただけでも、増減の表現の変化の予兆くらいは感じられるのでは?
1,2枚目はCOCA。
コーパスのデータは2019年まで。つまりコロナ禍以前のもの。
cases 47位
deaths 58位
hospitalizationsは100位までに入らず。
3枚目はNOWコーパス。
昨日までのデータが反映されていることになっています。

https://twitter.com/tmrowing/status/1745995997577409013



現在完了形の生息域で、過去分詞にどのような語が来るか?
2020を境に世界線が変わっているのが分かる?

cases
hospitalizations
deaths
そして比較のために
births
の4つで確認。

たとえざっくりでも、ここまで来れば、結構、見えてくるものがあるのでは?

https://twitter.com/tmrowing/status/1746004330040508748





この変化が、他のどのような名詞にまで拡大していくのか、目が離せません、よね?

現在の私の授業では、こういった実態には言及するものの、noteで公開している記事(写真の例文32のコメント)と同じく、

  • 「本来は不適切」

という言い方で、ライティングの際には、in number などの増減を測る物差しを示すことを説いていますが、こういった但し書きは、書き言葉の語法でも、不要になる時が(すぐそこまで)来ているのだろうなぁと思っています。

本日はこれまで。

本日のBGM: ある愚か者の場合 (斎藤 誠)

What a star!

年末のセミナー受講者からのフィードバックも続々寄せられています。

今回で、私のセミナー受講が2回目という、比較的若い世代の先生から。

コロナ前に新宿でのライティング講座を受講して以来, 先生の講座を受講させて頂きました。
当時は経験が浅く内容を目で追うので精一杯でしたが, 改めてその時のセミナー資料も見返しながら, また今回の講座の内容も振り返り, おぼろげながらですが松井先生が膨大な知見とご自身の経験の中で積み上げてきたライティング指導の形が少しずつ立体的になって見えるようになってきました。
・意識せずに非常に狭いテキストタイプ・ジャンルを扱っていたこと。特に非常に多様な説明文があることに気付かされました。
・高校生に対して、1コマ単位の場面描写(説明文)と複数コマのナラティブはどちらを先に指導すべきかどうかで、まずはストーリーグラマーに基づき話の流れを説明できるようになるというナラティブの指導から始めて、より細やかな1コマずつの描写である場面描写はあとでも良いかなと思いました。

次はこれまでに多数のセミナーを受講してくれた先生の長文から抜粋。

今回の講座は表題の通り、「和文英訳」と「英文ライティング」の指導のバランスをどのように取っていくかということに焦点が当てられていましたが、松井先生がこの講座やその他の講座を通していつもおっしゃっているように「エイブン(形だけ英語になっている英語もどき)」ではない「英文」をしっかりと書けるように指導しましょうというメッセージが強かったように感じます。「和文英訳」を逐語訳的な縦のものを横に置き換える作業にするのではなく、和文で発せられているメッセージを英文流の論理・作法で表現するにはどうすればよいのかを考えていくことの必要性を改めて感じました。そして、それを意識したライティングの指導をしていれば、和文英訳であれ自由英作文であれ、結局は「英文ライティング」という同じものを別の角度から見て指導しているだけだということに確信がもてました。

そして、英語流の表現の仕方をマスターするために必要な英語と日本語の論理構造の違いや、文法知識を松井先生が高校のどの時点までにどういう風に仕込んでいるのか、その舞台裏をnoteの記事を読むことで確認できたのも良かったです。文法知識も重要ですが、松井先生が常々強調されている英文を構成するために必要な「英文未満の要素(名詞チャンク)」の指導の仕方もとても気になるトピックでした。この名詞チャンクをいかにして仕込んでいくかというテーマの講座も是非開講いただけますとありがたいです。

内容が多岐にわたるため、講座の全ての要素を振り返ることはできませんでしたが、今回特に参考になった点をまとめさせていただきました。今後も松井先生が積み上げてこられた遺産を後世に継承していけるように精進して参ります。ありがとうございました。

この方のリクエストにお答えするかのようなセミナーを開催します。

passmarket.yahoo.co.jp

英語の名詞句の理解と定着は、英文法の全体像を理解するためにも重要です。
学習者も指導者も、とかく「問題演習」と称して、「英文」の空所補充や並べ替えで「ひとつの文」を完成させることに躍起になりがちですが、その前段階の文未満の単位である「チャンク」、とりわけ「名詞句」に着目し、段階的なドリルを積みあげる上での表現の取捨選択の背景、記号付けの手順などをお話しします。
・なぜ「チャンク」?
・なぜ「名詞句」?
・なぜ「四角化」?
・文未満の単位から文へ
・文を超えた「つながりとまとまり」から文へ
講師の松井による学校採択教材『チャンクで積み上げ英作文』(三省堂)の執筆の背景となる理念や使用上の注意点、また四角化ドリルに至る、またそこから展開する教室内外での実践についてもこの機会にお話しします。
※学校教員以外の方は、三省堂の『チャンクで積み上げ英作文』の購入や見本本の請求はできませんので、その点をご理解の上、受講して下さるようお願いします。
既にnoteで公開している有料記事、「名詞句の限定表現 得手不得手」の前半、後半の記事を事前にお読みになると、理解がスムーズかと思います。
前半:
名詞句の限定表現 得手不得手(前半)|tmrowing

後半:
名詞句の限定表現の得手不得手(後半)|tmrowing

※学校採択教材そのものをpdf等で配布することは致しませんのでご注意下さい。

都合のつく方は、是非、同僚の方をお誘い合わせの上お申し込みください。

さて、

  • 「見たいものを見る、聴きたい音を聴く、読みたい本を読む、話したいことを話す、書きたいことばを書く、会いたい人に会うのを厭わない、邪魔されない、そんな2024年に。」

と New Year’s Resolutionを書いていましたが、新年最初の会いたい人に会いに行くイベント。
9日は久々に渋谷に出かけてきました。

  • Musement 新譜 “Physical Landlady” リリースパーティ

矢部浩志さん(元カーネーション;Controversial Spark) のソロプロジェクトであるMusementが2023年7月に配信でリリースしたアルバム『ソング・パビリオン (Song Pavilion)』は、全て矢部さん一人による打ち込みでの制作で、キャリア初らしい作詞に加え、女性ボーカルは全てAI生成で録音されたものでした。
矢部さんは2020年に急性骨髄性白血病の治療を優先し、音楽活動を休止していたのですが、その復帰第1作となる素晴らしい作品でした。
そのAI生成ボーカルに代わって、生身の女性ボーカルを配し、新曲も加えた新譜が『フィジカル・ランドレディー (Physical Landlady)』です。

今回のリリパのゲストボーカルは、WAY WAVE、usabeni (宇佐蔵べに)、加納エミリ、広瀬愛菜の皆さん(敬称略)。矢部さんはドラムではなく、キーボードで。WAY WAVEや広瀬愛菜さんの楽曲も手がける関美彦さんがシンセでサポート(凄かったです)。

改めて、physical = authentic な歌唱で、楽曲の良さを実感しました。Way Waveが歌う新曲からのお披露目もあり、歌っている二人が「本当に良い曲」と言い、矢部さんも「でしょ!」と応じるところでは、個人的にウルっときました。
あっという間の二時間。何よりも、矢部さんが終始嬉しそう、楽しそうだったのが良かった。
このアルバム Physical Landlady はポップマエストロ矢部浩志の真骨頂です、一家に一枚、是非どうぞ。
当日の私の呟きはこちら。

そして、昨日11日は高橋幸宏さんの命日でした。
早一年。
朝一のツイートはこちら。

喪失感との折り合いはなかなかつけられませんが、非常勤先への行き帰りはこちらのプレイリストを聴いていました。

昨日のツイートでも述懐していましたが、日付変更線というものがある関係で、日本の1月11日が西側では1月10日である時間帯が結構長いのです。
デビッド・ボウイ (David Bowie) の命日は1月10日とされていますが、訃報が届いた日本では1月11日でした。

当時のブログではこんなことを書いていました。

tmrowing.hatenablog.com

ということで、1月11日は個人的に哀しみが重なる日となっています。

昨日は天気予報では雨の可能性も言っていましたが、帰路では夕焼けが物凄く赤く空を染めていました。
Starは恒星ですからね。

本日のBGM: スターダスト (Musement feat. 加納エミリ)

🎵どんなものでも君にかないやしない🎵

元日にtwitterで新年の呟きをしていました。

本当に辛く悲しい2023年でした。新年を生きて迎えられたことに感謝。私の残り時間も少ないので、見たいものを見る、聴きたい音を聴く、読みたい本を読む、話したいことを話す、書きたいことばを書く、会いたい人に会うのを厭わない、邪魔されない、そんな2024年に。
https://twitter.com/tmrowing/status/1741560022243676326

例によって、早朝の5時くらいに書いていたので、まさかそれから半日足らずで大震災になろうとは予想だにしませんでした。会いたい人に会えないまま、失われてしまった命を思うとやり切れないです。

生業の英語教育関連で記事を連投してきましたが、今日もその続き。
和文英訳・英文ライティング指導法セミナーでは、英文として自然なつながりとまとまりを求めるという私の基本的な視座を示しています。
そして、このつながりとまとまりというのは、

  • 6大メジャー・ノーム

を当然視するものでも、それを強要するものでもありません。
※「6大メジャー」と私が呼んでいるのは、オンラインコーパスのCOCAでの枠組みで、米国・カナダ・英国・アイルランド・オーストラリア・ニュージーランドの6カ国(6エリア)のことです。

セミナーでも授業で配布するハンドアウトの実例をお見せしましたし、オンラインコーパス等を利用する上での考え方もお知らせしました。

オンラインコーパスでCOCA系を使う場合でも、6大メジャー以外でも広く英語が使われている実情に照らして

  • NOWコーパス
  • GLOWBE コーパス

で検索することが最も多いのです。
そこから均衡コーパスである

  • COCA (時にCOHA)

を調べてベンチマークに見立てて、

  • TVコーパス 

を見ていき、ある程度視界が開けてきたら

  • Google Books Ngram Viewer

で経年変化を眺めて

  • SKELL

で相対的な頻度を比べてみる
ということをやっています。
殊更globalであることを志向しているわけではないのですが、英文ライティング、英語表現においては、

  • “reputable, national, and in present use”

ということを常に意識しています。中尾清秋氏の著作から私が学んだことでもあります。
(過去ログだと
tmrowing.hatenablog.com
に詳しいです。)

前回のエントリーでは高校入試問題を取り上げました。
公立高校入試も様変わり、ということも書きましたが、私が今一番危惧しているのは、私立高校の入試問題の中身です。大学入試の出題で問題視されていた部分が、前倒しではないのでしょうが、私立高校入試で見られる印象があります。難易度を上げ、他校との差異化を図りたいのかもしれませんが、やはり入試の設問で使われる、受験生との間でやり取りされる「英語」の中身・質には細心の注意を払って欲しいと思っています。

たとえば、既にtwitterでも指摘していた比較の表現から。
同意文に書き換えよ、という設問で

  • Time is the most precious thing.

という最上級の表現を示して

  • (Nothing) is so precious (as) time.

を解答に求めるものがあります。
否定主語での比較文で実質最上級相当の意味を表そうとするなら、原級の as/asよりも比較級のNothing is more precious than time. が優位に高頻度であることに注意が必要です。

preciousでの原級 vs 比較級

  • (Nothing is as refreshing as taking a walk) early in the morning.

これは、「朝早く散歩することほどさわやかなことはない」を整序完成させる設問。しかもnothingが不足しているので補えというもの。最上級でダイレクトに言えばいいものを裏返して否定主語で実質最上級にしたい、という。だったら比較級がまだマシ!

refreshingでの原級 vs 比較級

この比較の表現は大人気のようで、和文つきで全文の整序完成でこんなものもあります。

地球温暖化ほど、議論するのに重要な問題はありません。
Nothing is as important to discuss as the problem of global warming.

これはまだ、一語欠落とか一語余剰の問題でないだけマシですよ。
でもね、とかくテストになると不足とか余剰でつくりたがるのは何故?それで難易度が上がる?弁別度が高まる?次が典型例。いや、私立高校入試の出題ですよ。

子どものころによい友人を持つことほど大事なことはない。
[Nothing is as important as having good friends in ] childhood.

で anythingが余剰語という出題なんですね。面倒くさがってないで全文書かせろって!

出題されているものには対応できるようにさせるのがプロだろ、という方と議論する気は全くありません。

  • この意味で英文の産出を求める価値があるのは最上級か比較級。

ですから。
importantの比較界隈でのCOCA系とSKELLの検索結果を貼っておきますので、そちらをじっくり観察して自問されたし。

おなじことは大学入試問題にも言えるので、そこからのスピンオフで作られた頻出問題集などを使った指導では気をつける必要があります。
大学入試の出題の悪いところが見逃されて、高校入試に降りていくことのないように、有識者には警鐘を鳴らして欲しいのですが、まあ、無い物ねだりなのでしょう。


入試に限らず、テストでの連立完成などといわれる、同意での書き換えを要求する問題で気をつけたい項目に、受け身があります。
動作主を表す by +名詞ではない、前置詞+名詞が続く表現がよく出題されていますが、これを単純に書き換えさせるのは考えものです。
例えば、

  • Wine is made (from) grapes. 「ワインはぶどうからつくられる;ワインはぶどうを加工してできる」

で前置詞のfromを答えさせるのは良いでしょう。しかしながら、これを裏返して

  • (?) Grapes are made into wine.

とするのは感心しません。ぶどうは食用では生でも食べるし、加工して干しぶどうにもなり、飲用として、ジュースにもなるからです。

私が授業で提示するのはだいたいが

  • Grapes grown around here are made into wine. (この辺りで栽培されるぶどうはワインになります。)

のように、主語に限定があるものですね。

この A make B into C の受け身の表現で大学入試に出題されたことがあるものでは、

  • This milk is going to be made ( into ) cheese. (この牛乳はチーズになります。)

があります。intoを答えとして求めるものですが、主語のmilkに限定があることが重要です。
大昔の英検の4級で実際に出題されたものでは、

  • Milk can be made into butter. (牛乳はバターにすることもある。)

という助動詞canを使うことで断定を弱めていました。
敢えてパラフレーズすれば<現在形+some [sometimes]>で、

  • Some milk is made into butter. (牛乳のうちにはバターに加工されるものもある)

とでも言えるものです。

この辺りは、学参や問題集だけでなく、辞書の用例も一通り調べておくのが吉。
G6 (G5& G大)は、

These grapes are made into wine.
これらのブドウからワインが作られる.

と主語のgrapesにthese限定つきで適切な例。

OALDとOxford英語類語はコーパスを共有しているので、

The grapes are made into wine.
その葡萄はワインになる

と限定つきの同じ用例を収録。G6と似てますね。
 
Wisdom和英 は、「加工」の項には、

ミルクは加工されてバターやチーズになる
Milk is made into butter and cheese.

という用例があります。これはandのペアで用途のバリエーションを示して自然さを増しているので許容範囲だろうと思います。それに対して、

  • 「できる」

の項目では、

ワインはブドウからできる
Wine is made from grapes. / (ブドウを主語にして) Grapes are made into wine.

という例を載せていて、intoの方の用例は要再考ではないでしょうか。
テスト依存からの脱却は、言うほど容易くはありませんが、私も今しばらくは「がんばってみるよ」とだけ言っておきます。

本日はこの辺で。

本日のBGM: カルアミルク (クラムボン Live@福岡 博多百年蔵2日目)

picking up the pieces

年末の指導者対象セミナー受講者からのフィードバックも、過去2回で紹介してきました。

tmrowing.hatenablog.com

tmrowing.hatenablog.com

前回の水本篤先生以外にも、今回参加してくれた大学の先生がいますので、匿名でご紹介。
文字指導など、私のセミナー、ワークショップにも参加してくれた方です。ご所属を詳らかにはできませんが、内容を読んでいただければ大体お分かりになるかと。

セミナー受講させて頂きありがとうございました。今回のセミナーも文字指導、四角化ドリル同様に大変勉強になりました。
ライティング指導で教員が考えるべきこと、教えるべきことはもちろん、生徒に考えさせるべきこと、身につけさせるべきことを先生のこれまでの経験と実践例から教えて頂けたことは大変貴重でした。
私の場合は教員を志望する学生を指導することに活かすだけではなく、学生自身が先生のような視点を持って指導できるようになって貰いたい、ということも考えながら先生のセミナーを受講しました。生徒からの総括票のコメントにある通り、フィードバックのプリントでのポイントの示し方、補足資料の提示については指導する上での多くの気付きがありました。
また、そもそもの「問題文」へのアプローチは日英語の比較に対する意識・感覚を持つこと、もっと言えば「ことば」そのものへの意識・感覚を持つことの重要性を改めて痛感しました。この「ことば」そのものへの意識・感覚については、大津由紀雄先生の講演を聞いた際にも思ったことです。
話題の生成系AIについても教員がどう活かすかは今後重要になってくることを痛感しました。この点に関しては水本先生のコメントも大変参考になりましたし、色々な方が参加するセミナー形式の良いところだなと実感致しました。
今後も都合が合えば参加したいと思っています。この度は本当にありがとうございました。

ありがとうございます。
大学で学生に英語を教える方、そして将来英語を教えることになる(であろう)学生にに教える方にも響くようなセミナーを今後とも開催していきます。

さて、
来週末には「共通テスト」で本格的な大学入試シーズンのスタートという空気です。
「ライティング」の指導とその研究に長く関わってきて、高校の教員対象のセミナーや研修なども随分やってきましたが、

  • 現役生は、国公立の個別試験の2月末までにまだまだ伸びる!

という声をよく耳にしました。そして、それを「ライティング」に関しても仰る方が多かった印象です。

身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、私からすると、

  • この1月の共通テスト(その前身のセンター試験)が終わるまで、ライティングそのものの指導って何をどうしてきましたか?
  • 高3の4月から、継続的にライティング指導をしてきていたら、もっと伸ばせるとは思いませんか?

という「??」が浮かんできてしまいます。

大井恭子先生もよく仰っていました。

  • もっと、もっとライティングを!

私も痛感します。

大学入試とパラレル、とはなかなか言えないのが高校入試。
進学率は大学とは全く違うものの、大都市圏では、公立も中高一貫校が増えてきたことや、自治体によっては、民間試験の学力試験換算など、高校入試の問題が、どの程度中学卒業段階での英語力の到達指標の代わりとなるか、玄人にもわかり難い状況です。

今日は、その公立高校入試のリスニングを、そしてライティングとの関わりを取り上げたいと思います。
現行の学習指導要領で「やりとり」が強調されているせいか、公立高校入試のリスニングの素材として、アナウンスなどのモノローグタイプが減った印象を持っています。出題数の減少だけならまだいいのですが、テクストとしてのつながりとまとまりなど、質の低下があっては困るなぁ、と思うのです。
英文の質には注文をつけるが、リスニングテストとしての作問の是非、適否には触れない、という見方もあるかもしれませんが、やはり設定が杜撰だと、テクストは生きない、テクストが活かされないと思っていますので、適宜突っ込みを入れます。

群馬県2022年後期の出題。

東京新聞のサイトから
https://www.tokyo-np.co.jp/article/159021

中学生のShotaは、アメリカのABC Parkに来ています。これから、ABC Parkの案内が流れます。案内を聞いて、No.1と、No.2の問いに対する答えとして適切なものを、それぞれの選択肢の中から選びなさい。また、No.3の質問に1文の英語で答えなさい。
[Map]

[スクリプト]
Good morning! Welcome to ABC Park. We have many places you can enjoy. You are now in the North Area. There is a tall tower in this area, and you can see it from all the areas of the park. In the East Area, there is an art museum, and you can enjoy beautiful pictures there. In the South Area, there is a big garden. You can see a lot of beautiful flowers there. But please be careful. Now, we are making a new road from the West Area to the South Area. So you can go to the South Area only through the East Area. If you like animals, please visit our zoo in the West Area. You can see a lot of animals there, and pandas are the most popular animal in the zoo. But if you see pandas in the morning, they are just sleeping. So afternoon is the best time to see them. We hope you enjoy your time at ABC Park. Thank you!
(168 words)

No.1 次の①、②の施設がある場所を、[Map]中の ア〜エの中からそれぞれ選びなさい。
① The art museum
② The big garden
No.2 現在通ることができない道を、[Map]中のA〜Dの中から選びなさい。
No.3 Why is afternoon the best time to see pandas in this park?

問題は以上です。

では、スクリプトで示されている英文を精査していきます。

  • Good morning! Welcome to ABC Park. We have many places you can enjoy.

※ガイドがいて話してくれるのか、自動応答のメッセージなのか、は定かではない。恐らくは後者と思われる。「manyと書いたら、その後に具体化」がライティングの鉄則。この辺りは中学段階の教材や、テストではかなり緩いのが気になりますが、恐らく、この次に具体例が展開されるものと期待して進む。

  • You are now in the North Area. There is a tall tower in this area, and you can see it from all the areas of the park.

※まず、Shotaは何を目的にこの公園に来ているのかが分からないので、結構大変なリスニングとなる。
普通は、正門などのゲートに地図があるか、リーフレットのようなものが入手でき、手元で地図が確認できるだろうもの。ゲートに設置の地図なら、You are here.(現在地)表示があるのが普通。見学や研修に車で訪れているなら、駐車場とゲートの位置関係とかは重要。
このどこからでも見えるa tall towerの何をenjoyするのかが不明。出口が正門しかないとしたら、必ずここに戻ってこないとダメなので、このtowerを目印にして、より近づいて行けばいい、とか役立つ情報が欲しいところ。

  • In the East Area, there is an art museum, and you can enjoy beautiful pictures there.

※ここはan art museumに注目。美術に限定して楽しむことになる。pictures(絵画)に特化するなら、世界的に著名な画家の名前や、エリアや時代区分の情報がないと見に行こうとは思わないのでは?地元ゆかりの著名な画家がいる?もっとも絵画以外にも彫刻などの美術作品はあるものだとは思います。

  • In the South Area, there is a big garden. You can see a lot of beautiful flowers there. But please be careful. Now, we are making a new road from the West Area to the South Area. So you can go to the South Area only through the East Area.

※このa big garden も悩ましい。bigというが、そもそもの花壇/花畑はHow big? なのか。面積でいえば野球場やサッカー場と比べてどのくらいなのか、とかいう情報があってしかるべき。そうでなければ、a lot of beautiful flowersという部分をもっと具体化しないとダメでしょう。そして設問にも絡む、道路工事。これも通例は地図に書いてあるはず。

  • If you like animals, please visit our zoo in the West Area. You can see a lot of animals there, and pandas are the most popular animal in the zoo. But if you see pandas in the morning, they are just sleeping. So afternoon is the best time to see them.

※「動物好き」に有益な情報提供がなされるけれど、ここでもa lot of animalsで終わり。パンダが一番人気、というけれども、他にどんな動物がどのくらいいるのかは不明。その情報ナシで一番人気といわれてもねぇ…。「パンダは午前中は寝ているよ」情報よりも前に、もっと説明すべきことがあるでしょうに。

※因に、お題の設定にある「アメリカ」が、「アメリカ合衆国」ということであるならば、2024年1月6日現在で、パンダがいる動物園はアトランタだけです。サンディエゴ (2019年5月)とスミソニアン(2023年11月)は既に中国に返還済み。メンフィスは一頭が死亡(2023年2月)でその遺体と生存していたもう一頭を中国に返還済み(2023年4月)ですから、2022年度入試作成の段階では、スミソニアンに3頭、メンフィスに2頭いたであろう、ということになります。どちらの動物園を想定していたのでしょうか?

  • We hope you enjoy your time at ABC Park. Thank you!

※hopeのthat節中の動詞の時制はenjoy で現在形ですね。

ということで、注をつけることが難しい公立高校入試のリスニングスクリプトと作問にいかに制約があるかを感じ取ってもらえたのではないかと思います。
これでは語彙や構文をコントロールできる卓越したライターをもってしても、自然なつながりやまとまりに欠けた英文になりかねません。そして、受験生はそのつながり感、まとまり感の薄い、弱い英文を聴いて解答を余儀なくされます。断片的に、しかも偶然に情報をキャッチできた場合でも正答が得られてしまうことがあるのですが、英文全体を適切、的確に理解できている保証はありません。そもそもつながり、まとまりを担保するために必要な、場面設定/人物設定が甘く、スカスカなので、細かいところまできちんと聞こうとすると、上述の私の指摘のように、突っ込みどころが満載で「?」が次々と浮かんできて、思考停止となってしまうこともあるわけです。

このブログでかつて紹介していた私の実践、「全国公立高校リスニングテスト制覇の旅」を覚えているでしょうか?
その過去ログの中に、今回の群馬県のスクリプトに関連して、是非、読み返して欲しいエントリーがあります。

“Cradle to the grave”
tmrowing.hatenablog.com
で紹介した岩手県の2013年出題。
次に
tmrowing.hatenablog.com
で紹介した都立国際高校の出題。

岩手県の2013年のスクリプトの英文は、短く、つながりとまとまりに欠けるものでしたので、高1の授業でこの素材を扱う際に、私が高校1年生レベルに書き直したものを使っていました。manyの扱いなど、確認して欲しいところが沢山あります。
https://tmrowing.hatenablog.com/entry/20161125 のエントリーに上記3本をまとめてはいますが、こちらにも再録しておきます。

岩手県 2013年オリジナル

Welcome to the Forest Bus Trip. My name is Mike. I'm very happy we have many people on the bus. Today we will go into the forest, so you will see such animals as birds, monkeys, deer, and foxes. There are over 50 animals. The trip takes about 30 minutes. Before we start, I’m going to tell you some important rules. First, this is a long trip, so you can eat and drink in the bus. Second, some animals will come near the bus, but please don’t give any food to them and please don’t put your hands out of the windows. Of course, you cannot get off the bus. Third, don’t stand up while the bus is moving because the bus may stop suddenly. Any questions? Now, let’s go!
(130 words)

高1用松井加筆修正版

Welcome to the Forest Bus Trip. My name is Mike, your guide today. I’m very happy we have so many people on the bus who are interested in wildlife.
Today we will go into the forest, where you can see a variety of animals: birds, monkeys, deer, and foxes. Sorry for you, but we do not have any lions or tigers. No elephants or giraffes. There are over 50 kinds of animals, though. The forest is so large that the trip takes about 90 minutes.
Before we start, I’m going to tell you some rules here. If you don’t follow these rules, you may risk your life. So listen very closely.
First, do not get off the bus until we get back. Animals, even small birds, may attack you if they feel threatened. Second, some animals will come near the bus, but please don’t open the windows. You may not put your hands out of the windows or give any food to them. Third, this is a long trip but we do not have a bathroom on board. There is no public bathroom along the course. Please make sure you go to the bathroom before departure. Fourth, remain seated while the bus is moving. We drive safe but the bus may stop suddenly.
Any questions? Now, let’s go and enjoy the forest!
(221 words)

都立国際2016年オリジナル

Welcome to the Animal Tour Bus. Hi, my name is Kelly and I will be your guide today.
Our tour is one of the most popular tours in the world. More than ten thousand people from all over the world visit our park every month. There are about five hundred different kinds of animals in the park. Our park is the second largest natural park in the country.
Before we begin, I'd like to tell you some rules we would like you to keep during the tour today.
First, please do not eat anything on the bus. Before the tour starts, please put any food you have in this box, animals will come near you if they see that you have food.
Next, please keep children under six away from the windows because it is very dangerous. The bus sometimes shakes very much. Please keep your arms and legs inside the bus at all times, and don't stand up while it is moving.
Also, please turn off any sounds from your phone because animals will be surprised at the phone sounds.
However, you can use your phone to take pictures and movies. And please wear the caps that we are passing out now, especially when you get off the bus to rest. If you need any help during the tour, please raise your hand. The tour is going to start soon. We hope you enjoy it.
(236 words)

当時の授業で強調したポイントを再録します。

主として「リアリティの欠如」を補っています。なぜ、欠如するのか?それは言うべきことを言わないから、さらには言うべきことが言えないような、語彙や構文の制約を課してしまうからではないでしょうか。
このリライト版では、分量も90語ほど増えています。ある程度の分量がないと、内容が伝えられない、ということを考えてみる必要があります。短ければそれだけやさしい、という思い込みを揺すぶって下さい。200語くらいになると、かなりのことが描写・説明でき、ナラティブからの足場が少し広がり、景色もより見えてくるようになると思っています。

英語教育の研究者が、中高接続の改善点などということを説いてくれることがありますが、この高校入試のリスニングテストのスクリプト一つを取ってみても、

  • 「あの英文は、細かいところを気にせずとも大体分かれば解答可能なんですよ」

と入学者に言うだけで、高校の学習内容に移っていて、どんどん難しいことを求めている割りには、その高校レベルの難しい素材も

  • 「この英文も、細かいことを気にせずとも大体分かればいいんですよ」

としか言っていないことが多いのではないでしょうか?

  • 「では、あの時は、おおまかな理解で良かった英文を、細かいところまできちんとわかるためにはどのくらいの英語力が求められるのか?」

という部分は一向に示してこなかったことこそが問題なのでは、と四半世紀近くずっと思っていますし、その改善のために試行錯誤しながら実践を続けてきました。

ということで、

  • 高校レベルの、語彙や構文の難易度が高い英文を、親鳥がかみ砕いてヒナに与えるが如く、易しく書き直して導入する

というのとは全く逆のベクトルで、

  • 中学段階で通り過ぎてきた、つながりとまとまりの薄かった、弱かった英文を精査し、必要に応じて切り取り、取り換え、補強して再提示し、学習素材とする

というのが「全国縦断公立高校リスニングテスト制覇の旅」という企画だったのですね。上述のリンク先も含め、過去ログでは、他にもいくつもの都道府県のリスニングスクリプトと、私のリライト版とが残されていますので、発掘してみてください。
進学校じゃないところ、毎週、範囲を決めて小テストとかがないところの方が、すぐにでも取り入れることが可能なのではないか、と思います。
お試しあれ。

本日はこの辺で。

本日のBGM: 回奏パズル (スキマスイッチ produced by KAN)