2024年1月13日&14日の二日間で大学入試センター 共通テスト(本試験)が行われました。
センター試験や共通一次の頃とは全く異なり、「面白かったからもう一回読んでみようかな」とか、「高1、高2の生徒にも是非読ませたい」という文章は姿を消した共通テストの英語。
共通テストに限った話ではないけれど、とりわけ共通テストの英語の作問には要改善点が多いので、以下、長々と苦言(愚痴?)を。
癒される(?)イラストがあっただけ、まだマシでしょうか。
注記:共通テスト以前のセンター試験に関しては、毎年、かなり真剣に問題の分析批評をしていましたので、ご興味のある方は、過去ログを掘り起こして見てください。基本的に「解法」は書いていませんので悪しからず。
tmrowing.hatenablog.com
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さて、
「リーディング」とタイトルがついている問題では、多様なジャンルの文章を読ませたいという作問の意図はわからないではないのですが、受験生自身の「リーディング」力を見て欲しいです。
- 誰かが読んだ読み方に基づいて問いを作る
ではない方向に進化できないものかと。
もう一方の「リスニング」でも
- 誰かの話を盗み聞きしてその理解を問う
とかから、そろそろ脱皮して欲しいと切に願います。
リーディングでいえば、例えば「第5問」。
なぜ「次の物語文を読んで設問に答えよ」という、昔ながらの設定で設問にしないのか?
情報転移型、情報の再構築型の設問も充分可能だろうに。 テストだからという理由以外に、その英文を読む必然性がないのは、「ディスカッションの準備をしている」ことにさせられる無理筋の設定でも同じこと。
第6問も同じ。
A.は
- 「英語の先生から課題文を与えられて、発表をするのでそれに備えて読む」
という設定。
いや、これはテストだから皆その英文を読まなきゃならないんだよ。もっともらしい御託を並べていないで、普通に読ませて、問い方そのもので切り込みなさいよ。いや、問1を除けば4択だけどね。
第6問Bの世界線も凄い。
- 科学部のプレゼンの準備
俗にいう「理系」的な文章を読ませたいんでしょ?
「素直になりなさいよ。」とさえ思います。
科学「的」だから雰囲気さえあればいい、ってわけにはいかないので、出題側・作問側でちゃんと吟味した英文を読ませて問うて欲しいのですね。
DNCにはこんな前科があるので。
リンク先は化学が専門の東洋大学の柄山正樹先生からの問題提起。
化学への偏見に繋がる共通テスト英語の甘くない問題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/69/4/69_179/_pdf/-char/ja?fbclid
この「出題」の酷さは、「過去問文化」で誤った知識が強化され拡大再生産される危険性へと発展します。
所謂「進学校」の文化・風土では、過去問は「教材」として再利用されてしまうところに(も)、更なる問題があるのです。ただの悪問というだけなら、その回に受験した全ての人にとって等しく害を及ぼすわけですが、通過して終わりという人もいるでしょう。でも、その次の年度からは、新たな受験生や高校生が、その過去問を教材・学習材として学ぶのですよ。その人たちが、皆、誤った情報の訂正を確認してくれる保証はどこにもないので。害しか見つけられません。
先程の柄山先生からの指摘にもあったように、科学「的」ならなんでも許されるわけではないから、ちゃんと吟味した英文を読ませるべきなんです。
問2の「誤りを見つけて指摘する」ものも、分析力や思考力を見たいから?
だったら、なぜ
- 「誰かが読んだ結果の間違い」
を探すために本文とスライドを行き来して読ませられるのか?
出題者との対話で充分だろうに。
リーディング問題の分析批評や解法に関しては、いろいろな情報が出ていますが、山添玉基先生のものが堅実で誠意あるもののひとつでしょう。
私は、山添先生も「コスパが悪い」と評した、第5問についてもう少し書いておこうと思います。
英語を使うプロの方からも酷評されていました。
共テの英語長文って、sense of wonderを全否定してきますよね。どんな人間があのトーンであんな語数の長文を書けるのだろうと思っている。英語を読むことが楽しくあってはならないという思想があるんでしょうか。
— nofrills🍉文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2024年1月14日
TwitterのTLでは「第5問 物語文」の時系列が乱れている、みたいな声がチラホラあったようだけれど、あんなものは乱れたうちに入らないでしょ。ただ最終的にあの文章に決めた人のセンスがないだけ。
- 読み手のナラティブ耐性の低下
がそもそもの問題です。
この「ナラティブ耐性の低下」に関しては、かれこれ10年以上、ツイッターやブログで危機感を表明し、教材も世に問うてきましたので、そちらをご覧下さい。
遠回りのようでも一番いいのは、普段の授業で「ナラティブ耐性」を養うことからなんですけど、とかく促成栽培みたいな結果を求めがちなのでね。
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2019年12月23日
センター試験 第5問 いわゆる「物語文」への対応#1|tmrowing @tmrowing #note https://t.co/5JKcwawSTz
今年の第5問は、私が解いてみて、巷で言われているほど、設問自体は難しく感じませんでした。
- ただただ、ムダに長い。
そして、
- 物語の途中の複数の登場人物に関わる出来事の時系列を確認してその順番を答えさせる問題が完全解答で配点が3点。
- 主人公の年齢を、高校卒業後20年の同窓会開催と、卒業後家業を継いだ年齢の19歳という情報から推測させる問題の配点が3点。
この2問の認知負荷や情報処理の労力が同じ扱いっていうのが、致命的にセンスないでしょ。
そもそも論ですが、「ディスカッションのグループで物語を紹介する」ためのレジュメを完成させるわけですけれど、このレジュメをもとに紹介した物語でグループ内では何をどう議論するのか、が全くイメージできませんでした。「もっともらしい場面設定」の陥穽として批判されるべきところですが、こと共通テスト問題となると、その場面設定の入り口から入れさせたら勝ちで、その後は出口がなくてもいいかのようです。
あと、慣用的な表現で
“you really know your coffee”
へのツッコミがツイッターのタイムラインに流れてこないのは何故?Xになって、時系列が乱れているから?
この表現をセンテンスで載せているのは、『ジーニアス』だけでしょうか?
流石は「守護神」?
この物言いは、ワインの話でよく聞きますよね。
でも、ならでは、と思える所有格の名詞句を使わなくても、ほぼ同様の内容は伝えられるので。
平幕の助動詞 do (ここでは三単現でdoes) を使っての強調。
ワインの他には、チーズでも所有格を使った名詞句がありですね。
Do you know your cheese?
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2024年1月14日How well do you know your cheese?
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2024年1月14日
でも、
- You (really / sure) know your wine.
という表現自体は別に知らなくても困りませんよね?
- You know a lot about wine(s).
や
- When it comes to wine(s), you know what's what [you know your stuff].
という表現の方が汎用性が高いと思われますので。
だからこそ、ソーシャルメディア等で、この表現に関して、予備校等のお受験業界からコメントが全然ないのが不思議だと感じたのでした。
他にも、第5問の「表現」では、こんな指摘をしてくれる方がいらっしゃいました。
自分は同じ大問で、The irony is that ~ が出てきたことにも少し驚きました。会話的なくだけた文が目立つ文章でしたがこれも少々テクニカルな文ですし、この一文は最後の小問にも関わってくる部分なのでなかなか高度なことを要求しているように思います。
— こばると (@428sk1_guardian) 2024年1月14日
もっともな指摘です。その時の私の返信が次のようなもの。
確かに、この部分はもう少し丁寧に描くべきところでしょうね。the irony is that はインフォーマルなやり取りでも使われますが、youで面と向かった相手に言うとすると、皮肉、忠告、同情や憐憫、助言、激励など、前後のつながりが重要になる表現だと思います。
https://twitter.com/tmrowing/status/1746470183072645230
そして、一夜明けて思い直したのがこちら。
これ、オリジナルのライターは、別の表現で、もう少し丁寧にやり取りを描いていたっていう可能性はないですかね?
レジュメでその場面を the irony is … と要約してみたけど、原文のどこをどうすればironyという語が出るかが難しいので、原文の方にもthe irony is thatを使って書き直した、なら?
https://twitter.com/tmrowing/status/1746470183072645230
真相は如何に?
とまれ、受験生の皆さんはお疲れさまでした。
個別試験や私立大入試で「英作文」「ライティング」が必要な方、巻き返しのためには、これまで以上に表現のクオリティを高めなければいけない、とお思いの方は、こちらの講座を是非。
1月20日 B講座は国公立難関大対応
合言葉は「砂漠の中のオアシス」
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1月27日 C講座は私立大対応
これまでに学んできた「解答例」へのセカンドオピニオン提供も可能です。
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2月4日 D講座はB講座と同内容
志望校決定に悩みに悩んだ受験生のために。
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直前で切実に必要としている受験生に、この情報が届きますように。
拡散協力、よろしくお願いします。
本日はこの辺で。
本日のBGM: Everybody Knows (Except You) / The Divine Comedy