dictionaries to grow wise with

過去3回に亘って、『コウビルド』ネタを提供してきました。

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noteの無料公開記事でも「アプリ辞書の活用法」を書いています。

note.com

物書堂さんのセールも残すところ1週間を切りましたので、この週末にでも再読して購入をご検討ください。
個人的にも、1987年の初版から『コウビルド』を愛用してきましたが、万人に勧める辞書ではありませんし、最初の英英辞典として勧める辞書でもありません。

それでも、

  • この実感は『コウビルド』でなくっちゃ!
  • そうそう、こういうところが『コウビルド』らしさだよね。

とでもいうものが確実にあるので、手放せません。

私自身の英英辞書遍歴は、高1の終わりから。

詳しくは、こちらの過去ログをどうぞ。
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ラジオの「百万人の英語」の懸賞で

  • 『コンサイス英英』(三省堂)

が当たり、使い始めたものの、「隔靴掻痒」は否めず、悪戦苦闘していたところに、LDOCEの初版が出てきました。高2、高3とLDOCEと研究社の『大英和』を使い、学習用辞典の担うような「より身近な訳語や用例」「語法解説」などは、『新選英和』(小学館)を使って補っていました。

大学はG大でしたので、授業で求められるレベルもそれなりに上がりますが、苦学生でしたので、辞書を買いそろえるまではなかなか。それでも、図書館に行けばほぼなんでも見つかりますし、何より怪物のように英語ができる人が目の前に、周りにいるわけですから、良い環境に助けられていました。

辞書を買いだしたのは、卒業後、教壇に立つようになって、安定した収入が得られるようになってからですね。
80年代の終わりにCOBUILDが出て、『ジーニアス』が出て、『ロイヤル』のお手伝いをちょっとだけして、というころに、三省堂の教科書のTMを書く仕事をしていて、職場で隣の席にいらしたY先生のWBD (World Book Dictionary) とコリンズから出たばかりのBBCを主に使って、「ならでは」な定義や用例を示していました。編集部には、一般の先生方のシェアしやすいもの、ということでOALDのものに結構差し替えられていたのを覚えています。

2000年代に一番使ったのは、MED。マクミランの英語辞典でした。マイケル・ランデルですね。
今では、完全にオンラインに切り替わり、紙の辞書は廃していますが、良い辞書だったと今でも思います。

ということで、コウビルドの話に戻りますが、コウビルドに代表される定義文の if/when など、定義を書く側の意図と使う側の処理・理解とのギャップに関しては、マイケル・ランデルがずいぶん前に指摘しています。

michaelrundell.com

Rundell, M. 2006. ‘More than one way to skin a cat: why full-sentence definitions have not been universally adopted’. In Corino E., Marello C., Onesti C. (eds.), Proceedings of 12th EURALEX International Congress. Alessandria: Edizioni Dell’Orso.
https://www.euralex.org/elx_proceedings/Euralex2006/040_2006_V1_Michael%20RUNDELL_More%20than%20one%20Way%20to%20Skin%20a%20Cat_Why%20Full_Sentence%20Definitions%20Have%20not%20been.pdf

この論文は引用本数も多く「辞書学」が専門ではない私でも知っているくらいなのですが、若い方はまだお読みではないかもしれないので、この個所に注目して欲しいと思います。(p.332)

• the If/when distinction: most verb definitions begin with 'If, but a substantial minority begin with 'When'. For example:
When a horse gallops, it runs...
If you gallop, you ride a horse that is galloping

The distinction is motivated rather than arbitrary: it is intended to say something to the user (Hanks 1987.126). In most cases I can understand why one is used rather than another (though the entry for break has defeated me). I am more or less certain that the average learner (assuming s/he even notices this variation) will not pick up the difference the lexicographer intends.

この学問領域がエキスパートの方には、ここでランデルが指摘したことの掘り下げをして欲しいんですよね。
彼に

「私はわかるからいいけどさ、(でも、breakの項には私も参ったけど)、大体の平均的学習者には定義書いた人の意図を汲んで区別するなんてできなくない?」

って言われて終われなくなくなくない?
いや、多くの研究者(そんなに多くもない?)がsingle-clause when-definitions(名詞にぶら下がるような、対応する主節のないwhen単独節)に関して利点も問題点も指摘してくれるのはありがたいですよ。
例えば、こちら。

https://www.euralex.org/elx_proceedings/Euralex2012/pp997-1002%20Lew%20and%20Dziemianko.pdf

流石はエキスパートだと思います。

  • でも、英語がL2の日本の学習者、教師には、シングルじゃないヤツが実は厄介なのではなくて?

ということです。

・when=whenever の解釈ができるときは if と交換可能
・副詞節を導くwhenはifよりも確実に起こるという話者の想定
というような概説を繰り返してもらったところで、コウビルドの文定義の実情・実態・隔靴掻痒に納得できるか?

  • では、whenしか使えないのはどんな定義?

っていうところですよ。
ランデルも参ったというbreakを含め、whenの生息域を確かめられる好例を載せておきますので、味わってください。

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break1

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break2

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born

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die

3回のシリーズで「コウビルド読みのコウビルド知らず」にならないように、という願いというか、挑発というか、私の本心を投げかけておきましたけれど、自分へのブーメランとなるような語というか用法に、初心を取り戻させてもらえた気がするので、こちらにツイッターから出だしの投稿だけ引いておきます。

ここからの一連のツイートは、単なる「いいこと聞いた」レベルの情報価値だけではなく、ことばにかかわる「頭の働かせ方」という面でも、読んでおく価値の高いところではないかな、と思っています。効率よくテストのスコアを上げたいとかいった、消費財としての辞書ネタ、語彙・語法ネタを求める人や、そういうネタが好きな人にはお勧めしませんので悪しからず。

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Sinclair & Rundell

TwitterのTLでは、その後、『P単』の思い出話の方が、この『コウビルド』ネタよりも反響があったような印象ですが、そこで読み返して欲しいのは私のこのツイートですね。

この機会に、過去ログの辞書活用法とnoteの有料記事も併せてお読みください。

辞書を使いこなすには
tmrowing.hatenablog.com

以下は note の有料記事へのリンクです。

note.com

note.com

本日はこの辺で。


本日のBGM:Curiosity Killed the Cat (Emile Gassin)

辞書活用法:『COBUILDの芸風に慣れよう!』その3

現時点で最新版であるCOBUILDの第9版では、特に「動詞の用法」、「文型」と呼ばれることの多い「動詞型」に関して、どのような記号を用いて、どのように意味と形・構造を整理して扱っているのか、というCOBUILDならではの「芸風」を知っておく、慣れておくことが重要だ。

という趣旨で第1回、第2回と書いてきました。
この第3回で締めくくりの予定です。

辞書の機能、特色の全てを扱うわけには行かないので、「動詞型」に焦点を当てています。
第1回、第2回のおさらいは、ここから過去ログを見て下さい。

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第9版は2018年刊行で、物書堂のアプリ辞書のリリース(update)が2020年ですが、それでも誤植はあります。
例えば、基本語中の基本語である動詞 give。

語義の2番目。

give
[2] VERB
You use give to say that a person does something for another person. For example, if you give someone a lift, you take them somewhere in your car.

英系語法ですから、具体例では、liftという名詞が使われていますね。
これに続く、一例目、二例目の用例とその前の動詞型表示をよく見て下さい。

[be V-ed n] I gave her a lift back out to her house.
[V n n] He was given mouth-to-mouth resuscitation.

逆になってますよね?

COBUILDの記述では、 giveのとる動詞型も語義によって注意が必要というか、有益な指摘をしてくれているので、こういう誤植は非常に痛いものです。
[V n n] 表記があれば、いわゆる「二重目的語」を取る、ということは分かるでしょう。でも、その同じ語義に、[V n + to] がない場合は、to を用いての書き換えができない、または頻度が極めて少ないことを示唆します。
先程の [be V-ed n ] は二重目的語を取る動詞型の、いわゆる「間接目的語」を主語にした受け身が可能、ということですが、この表記がない語義の場合は「ない」のか、「少ない」のか、など、それなりの注意を払って読むことが望ましいと思います。

では、語義の9番目を見て下さい。

[9] VERB
If you give something thought or attention, you think about it, concentrate on it, or deal with it.

主節側で、ちょっと欲張った三択を束ねていますが、この語義に対応する用例が、

[V n n] I’ve been giving it some thought.
[be V-ed + to] Priority will be given to those who apply early.

となっています。 二例目の受け身の例文では、[be V-ed n] ではなく、 [ be V-ed + to] となっていることがわかるでしょうか?
能動態では、[V n n] が普通だが、受け身では、[be V-ed + to]が普通なのか?疑問が浮かびます。

新情報の焦点が、語義の[2]で見た、

  • [be V-ed n] I gave her a lift back out to her house.

とは異なることは分かりますが、それは語義によって義務的なのか、任意なのか、に関する情報は与えてくれません。動詞型の表記が正しいとしても、その処理、理解は悩ましいところなのですから、冒頭で示した「誤植」は本当に痛いのです。

COBUILDの動詞型の表記で気をつけるべき項目で、まだ扱い切れていなかったものに、「句動詞」での表記があります。

どういうわけか、この句動詞のパターンというのは、「試験での頻出項目」のようになっていて、個人的には、「それがスラスラ解けるなら、他の英語の語順も相当容易くできるんだろうな」と思うくらい、随所で問題を目にするような印象です。

  • The crowd gathered at the airport to see the President off. 群衆が大統領を見送りに空港に群がった。
  • I’ll pick you up at your house at 7:00. 7時にお宅に車でお迎えにあがります。

などというときの、目的語の名詞と、副詞(不変化詞)の語順の扱いがポイントになるのでしょう。

まずは、see off から。

see off
[2] PHRASAL VERB
When you see someone off, you go with them to the station, airport, or port that they are leaving from, and say goodbye to them there.

この定義に対応する用例が、

[V n P] Dad had planned a steak dinner for himself after seeing Mum off on her plane.
[Also V P n (not pron)]

です。 

  • 動詞+目的語+off 

の語順になりますね。
Vは当該の、ターゲットとなる動詞 (ここではseeのこと)、Pは (adverbial) particle いわゆる「副詞(不変化詞)」を表します。
最後の補足は、[Also...] は「用例は示さないが、こういう場合も可」という意味でした。pronはpronoun 「代名詞」ですから、「この [V P n] という環境になるのは、n が代名詞以外のときですよ」という但し書きです。

先程の用例を見てみましょう。目的語に来ている名詞は Mumでした。大文字ですから、自分の母親です。
第9版では、Mum という語を引くと Nという品詞ラベルが貼られていて、一般名詞扱いであって、代名詞扱いではありません。
ではなぜ、[V P n] にならないのでしょう?悩ましいですね。
COBUILDでもかつての版や米語版では、N-FAMILY という特別なラベルを貼っていました。
家族の呼称で所有格や限定詞なしで、固有名詞のようにも使う、という注記がなされていた語群です。

先程、第9版以外から、例として引いた、

  • The crowd gathered at the airport to see the President off.

という文に動詞型表記をするなら、 [V n P]となります。でも、この the President は代名詞ではないのに、なぜ?悩みますね。
第9版でも、この president には「肩書き」を示す N-TITLE というラベルを貼っていますので、特別扱いでしょうか?

では、第9版には、初学者でも分かる代名詞以外の目的語が来て [V P n] になるような日常的で、平易な用例はないのでしょうか?
アプリ辞書での用例検索の出番、とばかりに検索してみました。

なんと、…。ないのです。

困りましたか?
いや、代名詞以外の場合は、[V P n] にもなるといいつつ、用例の豊富さを誇るCOBUILDのデータに、典型例がないのであれば、「見送る」という場合には、 see 目的語 off がデフォルトで押し通してOKということでは?という気もします。

というように、「句動詞」では、この目的語の名詞をどこに置くか、という語順にかなり悩まされるのですね。

辞書活用マニュアル、といえば皆さんお馴染み、私も随分お世話になっている、

  • 磐崎広貞 『英語辞書をフル活用する7つの鉄則』(大修館書店、2011年)

でも、句動詞のとる語順を類型化して注意を喚起しています。
磐崎は4類型で、自動詞扱いか他動詞扱いか、目的語の入るべき位置(=スロット)はあるか、あるならどこかで整理をしています。

また、今は、紙版を廃し、オンライン辞書に特化しているマクミランが出していた英語辞典では、5類型を文法コードで示していました。
では、COBUILD第9版は?

先程のもの以上の記号、コードによる識別はしていません。

slow down を見てみます。自動詞としても他動詞としても使われそうな句動詞です。

slow down
[1] PHRASAL VERB
If something slows down or is(ママ) if something slows it down, it starts to move or happen more slowly.
[V P] The car slowed down as they passed Customs.
{V P n} There is no cure for the disease, although drugs can slow down its rate of development.
[V n P] Damage to the turbine slowed the work down.

この動詞型表記には代名詞の注記がありませんから、目的語は動詞の直後でも、副詞の直後でも構わない、という読みでいいのでしょう。

続いて tell apart

tell apart
PHRASAL VERB
If you can tell people or things apart, you are bale to recognize the difference between them and can therefore identify each of them.
[V n P] The almost universal use of favourings makes it hard to tell the product apart.

これ以外のパターンを示していないということは、 tell+名詞+apartの形でしか使われないということを示しています。ただ、用例が使役動詞 make の形式目的語 it を受ける不定詞ですので、初学者には分かりにくいでしょう。

allow for はどう扱われているでしょうか?

allow for
PHRASAL VERB
If you allow for certain problems or expenses, you include some extra time or money in your planning so that you can deal with them if they occur.
[V P n] You have to allow for a certain amount of error.

ここでも、これ以外のパターンは示していませんから、常にallow for+名詞 の形で使うことが分かります。

気になりますよね?
「え、何が?」って、allow はCOBUILD以外の多くの辞書では、他動詞扱いの動詞です。そのallow を用いた句動詞も、次の、自動詞扱いの動詞を用いた句動詞 come byも、動詞型表記では見分けがつかないことになります。

come by
PHRASAL VERB
To come by something means to obtain it or find it.
[V P n] How did you come by that cheque?

COBUILDの句動詞の動詞型表記では、

自動詞由来か他動詞由来かは不問(もともと自他の区別をしていないから)。
本来、不変化詞[小辞] (= particle) ではなく、前置詞 (= preposition) であるものも、記号はPで表す。

ということに注意が必要です。

やはり、丁寧に「文定義」の部分を読み、主語や目的語の意味の関係と制約を踏まえた上で、用例と記号とを照合することが重要だと思います。時間がかかりますよ。

ということで、あらためて文定義を眺めて「COBUILDの芸風に慣れよう」(その3)、そして、このシリーズも締めくくりたいと思います。
ポイントは、

  • 文定義では、いつwhenを用い、どんな条件で if を用いるのか?

です。

ここは逐一解説せず、アプリ辞書の定義をひたすら引きますので、面倒でも読み比べた上で、それぞれの「生息域」を感じて下さい。(リストは長いですよ。)

日常生活系

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sleep

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wake

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wear

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put on

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walk

知覚系

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see

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hear

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listen

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glance

喜怒哀楽系

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laugh

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smile

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grin

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chuckle

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giggle

伝達系

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say

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speak

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tell

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talk

「ちゃんとちゃんと」系

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deal with

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cope with

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handle

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address

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wrestle with

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grapple with

『コウビルド英語辞典』の文定義との折り合いが、「ちゃんとちゃんと」つけられることを願ってやみません。


本日のBGM: ラストダンス (綿内克幸)

辞書活用法:『COBUILDの芸風に慣れよう!』その2

前回の第1回の記事は、

現時点で最新版であるCOBUILDの第9版では、特に「動詞の用法」、「文型」と呼ばれることの多い「動詞型」に関して、どのような記号を用いて、どのように意味と形・構造を整理して扱っているのか、というCOBUILDならではの「芸風」を知っておく、慣れておくことが重要だ。

という趣旨で書きました。私の手元の原稿では、A4版で10ページほどになったのですが、今回の「その2」も同じくらいの分量です。
お時間のあるときにお読み下さい。
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以下、COBUILD Advanced Learner's Dictionary の記述・用例の引用は、書籍版は「桐原書店」が販売している『第9版』に基づくものです。

Collins コウビルド英英辞典 桐原書店編集部

www.amazon.co.jp

一方、アプリ辞書の記述・用例の引用は「物書堂」が販売しているものに依っています。

www.monokakido.jp

COBUILD の現時点での最新版である第9版の『使用の手引き』は小室夕里先生の筆によるものですので、桐原書籍版を購入する方は(既に購入している方も)『使用の手引き』を必ずお読み下さい。


まずは、「前回のおさらい」からです。

COBUILDの第9版では

・原則として「文定義」で、主語に何が来るか、動詞のあとに何が続くか、など動詞の使われる典型的な環境を示し、記号に頼らなくても「動詞型」が分かるようにしている。
・「語義のまとめ」のような、個々の語義の上位概念のようなものは示さない。
・自動詞 Intransitive verb = I / 他動詞 Transitive verb = T というような区別をそもそもしていないので、それに対応する別々の記号はない。
・動詞がとるパターンの表記では、主語は明示されず、目的語にも特別な記号は与えられない。名詞句は全てn という記号で表す。
・v-ing という形で、いわゆる「動名詞」と「現在分詞」を区別していない。
・形式主語、形式目的語などの it であることを明示する記号(とその説明)はない。
・定義文の主要パターンとしては、

  • When SV1, SV2. / If SV1, SV2. のそれぞれ V1 のところに、ターゲットとなる当該の動詞が配置される。接続詞whenやif によって共起する主語や目的語などの語句の制限、使用場面の制限を加えることで、語義・用法を明確に示す。
  • 動詞の前後(主語や目的語など)の名詞句に後置修飾などで選択制限を加え、語義・用法を明確に示す。

ということを確認しました。
今回は、これらのCOBUILD第9版の特徴のうち、前回取り上げたものを踏まえた上で、さらに注意が必要なあれやこれやに光を当てたいと思います。

前回に続き、tell のエントリーから語義の定義を見ていきます。

tell

[5] VERB [no cont]
If you can tell what is happening or what is true, you are able to judge correctly what is happening or what is true.
[V wh] It was already impossible to tell where the bullet had entered.
[V that] You can tell he’s joking.

まず、no cont ですから、進行形は不可。
定義文の if 節の中に当該のtellの動詞句が入っていますが、can tell wh節 という助動詞のcanを伴う動詞型が反映されるような文で記述しています。そして、主節の you are able to judge wh節の方は、単純現在であることに注意して下さい。

進行形は不可だけれども、今の事柄に言及する場合でも、過去の事実に言及する場合でも、tellは単純な現在時制や過去時制ではなく、助動詞のcanと一緒に使われることで、この語義を表す、ということです。旧版 (現行の『米語版』) では、このtellの語義には、

oft with brd-neg 

という記号が付けられていました。oft = often しばしばはすぐにわかるでしょうが、brd-neg = broad negative は説明が必要でしょう。これは、「否定文の中で、または否定語と一緒に、または、否定的な文脈の中で用いられる」ということを表す記号でした。「語用論」といわれる学問的知見を反映させたものでしたが、この記号も、この第9版では使われていません。(※個人的には、この手の注記がないのは、もったいないと思っています)

最新の学習用英和辞典であれば、「語法注記」のような形で

  • 通例可能性を暗示する語句を伴って(『ウィズダム英和』 三省堂)
  • 通例可能性や難易を示す表現(can, impossible, hardなど)を伴って

という但し書きがあるところですが、旧版では配慮のあったCOBUILDでも、第9版では、冒頭の「文定義」で、使用する文脈、場面を捉まえておかないと、英和辞典が提供しているような語用論的情報は得られないことになります。

用例の一つ目は、形式主語のitを受ける to+原形=不定詞のtell の部分が、ターゲットとなる動詞型の表記なので慣れが必要です。多くの英和辞典では、動詞の語義に続く用例の一つ目には、文のメインの述語動詞としての用法で、時制を持った動詞として示されることが多いと思いますが、COBUILDは「生きた英語」で「フルセンテンス」の用例を謳っていますので、このように、文の中でさまざまな形合わせをした末の「動詞の姿」を捉まえなければなりません。
ここでは、tellの目的語がwh節であることを示しています。

二例目には、肯定文で接続詞thatが省略されたものが使われています。

どちらの例でも、記号付けに nという記号はなく、wh/that節をとるとだけ示されていますから、この語義では、二重目的語をとらないことがわかります。


tellの語義を続けます。

[6] VERB [no cont]
If you can tell one thing from another, you are able to recognize the difference between it and other similar things.
[V n + between] I can’t really tell the difference between their policies and ours.
[V n + from] How do you tell one from another?
[V wh] I had to look twice to tell which was Martin; the twins were almost identical.

この[6]の語義の冒頭にも [no cont]とありますから進行形は不可です。
そして、定義文のIf節の中に、can tell と助動詞のcanが使われているのも、[5]と同じです。
この語義も、旧版では、 [oft with brd-neg] の注記がつけられていたものです。

用例を見ると、[5]よりも一つ例が多く、
一例目:否定文
二例目:How の疑問文(助動詞は doであり、canは使われていない)
三例目: 見た目は肯定文でcanもimpossibleも、hardも使われていない

というように、

  • [5]よりも使われ方の幅が広いのかも?

という印象を持つかもしれません。
ここは、もし、旧版のようにbrd-negという記号が付けられていたとしても、学習者が適切な理解ができる保障はありません。三例目では、セミコロン以降で、「その双子はほとんど同じだから」という文脈が、「難しさ」の背景・理由を表している、という(分かっているひとには何でもない)ことを補う必要があります。
今、私が示したような「補助線」がなければ、せっかくの「生きた用例」も宝の持ち腐れだ、ということは学習者だけでなく、指導する側が弁えておくべきだと思います。


語義を少し戻って、tellも一区切りつけようと思います。

[3] VERB
If you tell someone to do something, you order or advise them to do it.
[V n to-inf] A passer-by told the driver to move his car so that it was not causing an obstruction.

日本の「中学英語」でもお馴染の、tell+目的語+不定詞ですね。COBUILDでは、目的語という表示はありませんから、一貫して、nで「名詞句」として示しています。不定詞は、to-infですから、
the driverがn、そのdriverに命じてしてもらう行為行動が to move his car ...の不定詞となることがわかります。一見、日本の英和辞典の記述との差が余り感じられないところです。
語義では3番目に記述されていますから、「使用頻度」は高い語義であることがわかります。しかしながら、
・不定詞の否定 tell n not to-inf
・受け身. (be) told to-inf
については何も情報がありません。

COBUILD 第9版には、

  • I already told you not to come over. (alreadyのエントリー)
  • Because of the danger of identity theft, we are told not to give personal information over the phone. (identity theft のエントリー)

という用例は収録されていますので、「もったいない」印象を受けます。
こういったところこそ、「アプリ版」を使う利点を感じられると思いますので、是非活用を。

続いて see を見てみましょう。
アプリ辞書の定義のうち、[1]と[2]と[4]に着目します。
このうち [1]と[4] は [no cont] で進行形不可です。
先に、文定義だけを比較しますから、これだけで、それぞれのseeの意味、使われる場面を実感できるか自問自答してみて下さい。

see

[1] When you see someone or something, you notice it using your eyes.
[2] If you see someone, you visit them or meet them.
[4] If you see that something is true or exists, you already realize by observing it that it is true or exists.

定義の [1] の接続詞はWhenで事実や状況の説明。[2]と[4]は接続詞If を用いた条件設定です。
[2] には但し書きがないので、「人を訪ねる;人と会う」というときのseeは、[1],[4]とは違い、進行形になることがあると考えられます。
[1]と[4]では、「目的語」の中身が異なります。[1]は「人」または「もの」であるのに対して、[4]では「ことがら」です。

以上の留意点を踏まえて、それぞれの用例に当ることで、用例から読み取れる情報が変わってくるのではないかと期待します。以下、記号付けで注意が必要な部分を取り上げます。

[1]
[V n] You can’t see colours at night.
[V n v-ing] I saw a man making his way towards me.
[V that] As he neared the farm, he saw that a police car was parked outside it.

二例目の [V n v-ing] のnは目的語となる名詞句、v-ingは日本の教室でいわれることの多い目的格補語となる現在分詞、に対応するものでしょう(教材では、SVOCなどといった記号が付けられがちな動詞型です)。
この用例は、旧版では見られなかったもので、日本の学習者にとっては歓迎すべき改訂と言えるかもしれません。

三例目では目的語がthat節ですから、

  • 定義文にあるような、単なるsomethingではなく、「ことがら」を表していて、[4]の語義に分類すべきではないのか?

という印象を持ちますが、文定義の接続詞が Ifではなく when である、という「縛り」が、この用例をこの[1] の語義に留めておく鍵なのかもしれません。

[2]
[V n] Mick wants to see you in his office right away.
[V n] You need to see a doctor.

どちらも「目的語」として名詞句をとるのは同じで、その名詞が「人」であることも同じですが、二例目のseeを「会う」という日本語で理解する学習者はほとんどいないだろうと思います。「(どこか)具合の悪い(であろう)あなたと、医者とが顔を合わせる」機会というのは、「診療」や「治療」に関わる行為でしょうから、日本語の慣用から適切な理解や表現としては「医者に見てもらいに行く」とでもなるところでしょう。

[4]
[V that] I could see she was lonely.
[V wh] A lot of people saw what was happening but did nothing about it.
[V n v-ing] You see young people going to school inadequately dressed for the weather.
[V] My tastes has changed a bit over the years as you can see.
[be V-ed to-inf] The army must be seen to be taking firm action.

「ことがら」を目的語にとる用法での seeの語義。この項目は、旧版でもあまり上手く整理されていなかったように思いますが、第9版ではどう扱われているでしょうか?

一例目のthat節、二例目のwh-節とも、いわゆる「名詞節=ことがら」ですから、問題はないでしょう。
三例目の [V n v-ing] の nは目的語の名詞句、v-ingは、いわゆる「目的格補語」としての現在分詞ということです。
ここで気になるのは、
[1] の語義に配されていた用例、

  • [V n v-ing] I saw a man making his way towards me.

と、
この[4]の語義に配されている、

  • [V n v-ing] You see young people going to school inadequately dressed for the weather.

とでは、見た目の動詞型は同じでも、「語義」が異なる、ということになります。
その場合の、「語義の違い」を学習者が本当に理解できるか、という疑問が浮かびます。ここでも、最初にあたえられた「文定義」の whenとif の違いが鍵なのでしょうか?
何らかの補足、補助線が必要なところだと思います。

四例目の記号が [V] だけ、というところが気になりました。これは「目的語などをとらない」 という理解でいいのでしょうか?ここでは、関係詞的な使われ方をする as に続く節ですので、seeは言い切って終わりというわけではありません。その次の部分に来るべき「理解する内容」を先取り/抽出して as で括りだしているわけです。この記号 [V] を適切に処理するためには、この語義のseeを理解するだけではなくて、as の用法が分かっていなければならないということです。COBUILDが、いくら「生きた英語」しか用例として使わない、といっても初学者にはちょっと負荷が強すぎると思います。

五例目の [be V-ed to-inf] はここで初めて取り上げました。
受け身であることはすぐに分かると思いますが、V-edとVが大文字になっているところに注意して下さい。
このエントリーで扱う動詞そのものが受け身になっている例ですので、当該の動詞は大文字のVで表します。そして、過去分詞が後続するのではなく、その当該の動詞が受け身の環境で使われることを示すのに、 be V-edの記号が使われます。後続するのは、to-inf いわゆる「不定詞」であることに注意が必要ですから、ここに記号を配していることは頷けるものです。

能動態であれば、[V n v-ing] という動詞型で使われる語義だということは三例目でわかっているのに、その語義に対応する受け身では、v-ingではなくto-inf と「不定詞」を必ずとる、と理解してもいいのでしょうか?頻度が高いものを選んで載せている、ということでしょうか?
この部分に関しては、何も情報が与えられていません。

日本で使われている教材では俗な言い方ですが、「知覚動詞のSVOCの文型」というような項目立てで、焦点が当てられて扱われているのではないかと思います。

『ウィズダム英和』(三省堂)では、次のような語法注記を加えています。

私は彼が通りを横断する [横断している]のを見た
I saw him cross [crossing] the street.
((1) cross は私が見たときはほぼ横断していたことを、crossingは横断している途中にあったことを含意する。(中略)。
(3) 受身では He was seen to cross [was seen crossing] the street となるが、前の方は「誰かに見られた」、後の方は「話し手が目撃した」の意)

COBUILDではこのような文法・語法上の補足説明はありませんし、ここで引用したような用例の対比で、語義・文意 (含意?)の違いを示すこともないように思います。

日本の教材で学んでいる場合に、この see の語義で、

  • 受け身では「to のついた不定詞」となる。

というところは多くの人が理解できているでしょうが、

  • では対応する「能動態」では、原形ではないのか?

という疑問の浮かぶところです。第9版の seeのこの語義には、原形をとる用例は示されていません。

では、COBUILDの第9版では、知覚動詞の能動態で V n に続く語が原形になる例はないのでしょうか?
いえ、あるのです。しかもかなり平易な例で。

  • I saw him do his one-man show in London, which I loved. (one-manのエントリー)
  • I saw him take off his anorak and sling it into the back seat. (slingのエントリー)

どちらも、目的語の後には動詞の原形=infが続いていますから、 [V n inf]で表すことができる動詞型ですが、このパターンは、肝心の動詞seeの項目には示されていないのです。
使用頻度が低いのであれば、他のエントリー (上記、one-manやsling) の例文としても適切さを欠くように思いますが、どうしてこのような扱いになっているのか、編集のさじ加減が私にもよく分かりません。

seeの語義の中では、慣用度が高いと思われるものを取り上げます。

[12] VERB
If you see that something is done or if you see to it that it is done, you make sure that it is done.
[V that] See that you take care of him.
[V to it that] Catherine saw to it that the information went directly to Walter.

「ちゃんと…するようにする;…であるようにする」という、私が「ちゃんとちゃんと系」の動詞と呼ぶものです。しかも定義には、「ちゃんとちゃんと系」のもう一つの代表例である make sure that節が使われています。この make sure の方も、多くの学習者は「確かめる」という訳語で覚えがちなので、この定義で、日本の学習者が的確&適切な理解ができているかは甚だ疑問です。

that節中の動詞の時制が現在形、または過去形であることに注意が必要な表現で、「受験に頻出」などと言われたりもするようですが、日本の学習者の習熟度は余り高くないと思われる表現で、何か「補助線」が欲しいところです。しかしながら、COBUILDのこの文定義と記号からだけでは、この表現を使う際の節中の時制など、「留意点」は見えてこないようにも思います。

形式主語の it (同様に、形式目的語に相当する it)自体を項目立てて記述していないのが、第9版の文法語法の扱いですから、この2例目の [    ] 内にある、 to it という語句の働きはよくわからないまま、「定型表現」として覚えることになってしまうのでは、という危惧を覚えます。

that 節を見たついで、ではありませんが、次は、suggestにどのような形が続くかを見てみましょう。日本の英語学習者にとっては、試験でもお馴染で、重要な項目という認識が強いことでしょう。

suggest
[1] VERB
If you suggest something, you put forward a plan or idea for someone to think about.

[V n] He suggested a link between class size and test results of seven-year-olds.
[V that] I suggest you ask him some specific questions about his past.
[V + to] I suggested to Mike that we go out for a meal with his colleagues.
[V wh] No one has suggested how this might occur.
[V with quote] ‘Could he be suffering from amnesia?’ I suggested.
[V v-ing] So instead I suggested taking her out to dinner for a change.

定義文の接続詞はWhenではなく、 Ifです。目的語には人ではなく、somethingと「もの」が来ています。

ここで注目すべきは、二例目、三例目、六例目です。
二例目で、that節をとることはすぐに分かると思いますが、肝心なのは、その節中で用いる動詞の形合わせです。この例では、主節のsuggestは現在形ということはわかりますが、節中のaskが現在形なのか、原形(= inf) なのかを示す記号や補足情報はありません。

三例目の [V + to] で、この語義のsuggestは人を目的語にとらないことがわかります。誰に対して、ということを示したい場合には、前置詞のtoを使う、という記号です。重要なのは、この三例目のthat節の扱いです。主節の suggested が過去形であるのに対して、that節中では goという形が用いられています。これは原形ということでしょう。であれば、先程の二例目の節中のaskも原形だったのではないか、というように、すぐに頭が働くでしょうか。そう簡単ではないように思います。

六例目、v-ingはCOBUILDでは現在分詞という扱いですが、このv-ingには、日本の教材の多くで「動名詞」として扱われているものも含まれています。
ここでは、taking her out to dinner for change 全体の、このv-ingのかたまりそのものが、「ことがら」を表しているという「読み」がもとめられるところです。

このCOBUILDのv-ingの扱いには、慣れておく(慣れて行く?)しかないのですが、語義とのすり合わせには、多くの学習者が苦労するだろう、とも思います。

insistを見てみましょう。

insist
[1] VERB
If you insist that something should be done, you say so very firmly and refuse to give in about it.
If you insist on something, you say firmly that it must be done or proved.

[V that] My family insisted that I should not give in, but stay and fight.
[V + on] She insisted on being present at all the interviews.

一例目の that節をとること自体はすぐにわかります。では、節中の動詞は?ここでは、助動詞のshould +動詞の原形となっています。先程の suggest のように、原形=infではない、という理解でいいのでしょうか?

二例目ではどうでしょうか?人が目的語にこないことはわかりましたが、前置詞のonに続くのは人でも、ものでもないように見えます。一般的な名詞を直接目的語にとることはなく、ことがらを表すv-ingの形に変えて、前置詞onに続ける、という風に考えればよいのでしょうか?補助線が欲しいところです。日本の教材であれば、insist on + 動名詞というような処理で済ませているのではないかと思います。

かつて (20世紀末)のCOBUILDでは、動詞型にはかなり細かい「下位区分」がありました (書籍としても販売され、今でも中古市場では高値がついているようです。)
私も随分と学ばせていただきました。
その「レガシー」は、こちらに残されています。

THE COBUILD SERIES
/from/
THE BANK OF ENGLISH
COLLINS COBUILD
GRAMMAR PATTERNS 1: VERBS

arts-ccr-002.bham.ac.uk

コリンズ社のオンライン辞書関連のサイトでも、動詞型の下位区分は示されています。

https://grammar.collinsdictionary.com/grammar-pattern/verbs
こちらにもあることはあるのですが、ブラウザの設定によっては広告が煩わしいので、私は上記の「レガシー」版とでも呼ぶべきリンクから入って下位分類を参照することが多いです。

前回のその1、今回のその2で、私が拾った動詞型がどのように扱われているのかを、この下位区分まで辿って読む意欲とヒマのある学習者は稀でしょう。
でも、指導する側の人には、できれば目を通しておいて欲しいと思います。


「その1」同様に、長々(くどくど?ぐだぐだ?)と欠いてきた「その2」ですが、「COBUILDの芸風」に少しは馴染めたでしょうか?
最後に、COBUILDの文定義のうち、これまでに示した3大パターンに加え、もう一つの主要パターンを示して締めくくりとしましょう。

動詞 afford の項を見て下さい。旧版であれば brd-negのラベルが貼られる動詞ですね。

afford
[1] VERB
If you cannot afford something, you do not have enough money to pay for it.

この文定義は、かなり見慣れてきたことでしょう。

次の文定義です。

[2] VERB
If you say that you cannot afford to do something or allow it to happen, you mean that you must not do it or must prevent it from happening because it would be harmful or embarrassing to you.

この定義文を読んで「語義」は十分に理解できたでしょうか?「十分」ってどのような基準に達したら「十分」なのでしょうか?
接続詞は、語義[1]と同じ Ifが使われていますが、その後のSVのV が単なる動作・行動ではなく、sayなどの「発話」に関わる動詞が使われ、その発話の中身として、当該のエントリーの語(語句・表現)が続いているところが大きく違います。また主節との意味のつながりでも大きく異なっており、主節のSVのV にmeanが来ていることが特徴的です。

この If you say that A, you mean that B. という文定義は慣れると、「便利だな」と思えてきます。

  • (あなたが) Aという語(語句・表現)を言うとすると、(そのあなたの)意味する [意図する] ところは、Bということですよ。

というつながりとまとまりになるものです。語義を他の語に置き換えて直接示すのではなく、語義そのものを説明するのでもなく、「あなたの言いたいこと、言わんとしていることは、こういうことなのですよ」という定義の仕方です。

ここで、用例と照らし合わせてみましょう。
[V to-inf] We can't afford to wait.
先程の定義文の、"must not" 「禁止;だめ、ぜったい!」の「意図」が表れている用例です。
私は、「ただこのまま待っているわけにはいかないぞ!」というような「語気」 を感じました。
先程の定義文も、「あなたが、affordできないというときには、あなたの意図は、そうすることがあってはならない、とか、そうはさせておかないぞ、というものですよ」と読むべきで、このaffordを「余裕がある」という訳語で済ませてしまうことがあってはならないと、言われているかのようです。
日本が誇るお笑いトリオの「我が家」のローテーションコントで、「言わせね〜よ!」と杉山さんが突っ込むところまでが、一つのユニットとなるようなものでしょうか。

私:それって、もう「語義」じゃないでしょ?
COBUILD:え?でも、この語をどう使うのか知りたいんじゃないの?

と諭されているみたいで、「語義」命、の私のようなものにとっては、この文定義の仕方は革命的とすら感じられます。

文字通りの意味ではない場合も含めて、語(句)を他の語(句)で単純に置き換えられない場合、発話の背景・理由が複雑な場合に、いったん you mean that 節で落ち着く「踊り場」のようなものを与えて、その後にさらに詳細な内容を続けることがままあります。読む側がmean that節そのものに慣れていないと全く役に立たない文定義なのですが、that節に続いてさらに、接続詞 SV, SV を続けたりすることで、説明の呼吸、リズムを整える効果もあります。
このような、文定義の効能を味わい、

  • 「コウビルドが使いにくい、なんて言わせね〜よ!」

と嘯くだけの余裕はあるでしょうか?

以上、COBUILDの芸風に慣れよう、の「その2」でした。

前回、今回と私が参照した書籍を写真で紹介しておきます。

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借りるなら、「巨人の肩」
過ごすなら、「我が家」
Stay Home
Stay Safe
ですね。

本日のBGM: Monday Monday (綿内克幸)

追記:「物書堂」さんのアプリを使っている方は、こちらの noteの記事(期間限定で無料公開です)も是非お読みください。
note.com

辞書活用法 : 「COBUILDの芸風に慣れよう!」その1

1987年の初版の衝撃から、33年で既に改訂8回。
学習用〜中級用英英辞典として確固たるポジションを占めているCOBUILD の辞書に関して、その特徴と使い方の留意点、そして是非活かしたい使い方を示して行きたいと思います。

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COBUILD 第9版とその『手引き』

以下、COBUILD Advanced Learner's Dictionary の記述・用例の引用は、書籍版は「桐原書店」が販売している『第9版』に基づくものです。

Collins コウビルド英英辞典 桐原書店編集部

www.amazon.co.jp

一方、アプリ辞書の記述・用例の引用は「物書堂」が販売しているものに依っています。

www.monokakido.jp

COBUILD の現時点での最新版である第9版の『使用の手引き』は小室夕里先生の筆によるものですので、桐原書籍版を購入する方は(既に購入している方も)『使用の手引き』を必ずお読み下さい。

本編の文法コードの表記、パターンの類型の中には、日本の英語教育で長らく支配的な位置を占めている「文型」の表示がありません。いえ、本当に、「5文型」であれ、「7文型」であれ、「動詞型」を類型化して凡例/典型例を示す、というやり方を採用していないのです。

巷で多く行われている「文型」はいわば「動詞型」のことですから、その動詞の使われ方の典型的な用例が既に分かっている人にとっては、例文が示されれば、数字・番号であれ、何らかの記号付けであれ、意味や形・構造との対応は容易です。

ところがCOBUILDでは、日本の英和辞典のような文型表示とはなっていないので、どのような記号を用いて、どのように意味と形・構造を整理して扱っているのか、というCOBUILDならではの「芸風」を知っておく、慣れておくことが重要だと思います。

まず、動詞の類型化で用いられる記号付けで、日本で広く見られるのは

  • 自動詞/他動詞

といった動詞の大きな分類ですが、これに対してCOBUILDの第9版では品詞分類や記号付けでの対応をしていません。

  • 自動詞 Intransitive verb = I
  • 他動詞 Transitive verb = T

というような区別をそもそもしていないので、対応する記号もないということです。

※この点はCOBUILDの旧版や、現行の『米語版』『米語英英和版』とも大きく変わっていますので、よく理解しておく必要があると思います。旧版等ではV-I でいわゆる「自動詞」を、V-Tで「他動詞」を表していました。そしてV-T/V-Iの併記で、そのどちらでも使われる動詞(以前の版ではERG「能格動詞」として表記していたもの)を表していましたが、それらの区分を表す記号は廃しているわけです。


その一方で、

be動詞など連結動詞 Linking verb = LINK; V-link
助動詞 Modal verb = Modal
句動詞 Phrasal verb = PHRASAL VERB

のような品詞分類上のラベル付けは採用しています。

英和辞典でも、以前は、

  • SVOC

などといった記号を付け、「5文型」に対応していた時代が結構続いたかと思いますが、いまでは、多くの学習用英和辞典が、

  • 目的語=目
  • that節= that 節
  • wh節=wh節

などといった目的語を含めた文構造を示すために、その部分の文法上の「名前」、「文法用語」を使っていることが多いと思います。

COBUILDでもこの点は同様で、

名詞句=noun phrase = n
代名詞=pronoun = pron
that節= ‘that’-clause = that
wh-節=wh-word = wh

という記号を使っています。最後の wh-には、how / if / whetherも含まれます。
また、名詞節を導く when も、副詞節を導く when も同じ見かけになるので、要注意です。(では、なぜそれらが同じ記号付けでも、大きな混乱を生まないと考えられているのかは、後ほどお話します。)

そしてそれらの動詞が、述語動詞としての時制以外にとるさまざまな「形」ということで、

原形 = inf
to+原形 = to-inf

という記号が使われます。

注意が必要なのは次の扱い。

動名詞/現在分詞=v-ing

この二つは見た目、見かけが同じ -ing形となりますが、これらはCOBUILDでは、どちらも v-ing となります。COBUILDでは、日本の多くの英語教材で見られる動名詞と現在分詞を類型上分けていないということは必ず知っておくべきです。

過去分詞 = v-ed

  • 所謂「過去分詞」は規則変化動詞や一部の不規則変化動詞では、-edで終わりますか ら、COBUILDではv-edの記号を使っています。※個人的には v-enの方がベターだと思っています。

その他、動詞が使われる環境を示すということで、
時制・相・態に関しての制約/注記もなされます。

進行形=continuous = cont

  • 進行形でしか使われない語義の場合は only cont
  • 通例進行形で用いられる場合は usually continuous = usu cont
  • 進行形が不可の場合は no cont

という記号で使われる環境が表されます。

受動態=passive

  • この場合も、only / usu / no などで制約を表します。


では、COBUILDで、何らかの動詞の使い方が知りたいと、引いてみた、調べて見たときに、動詞のとるパターンを類型化できるような工夫、他とは使い分けられるようなしくみとして、どのような記号付けを施しているでしょうか?

誰でも知っているであろう動詞のひとつ、 comeでCOBUILDらしさを覗いてみましょう。

まず「語義」「定義」が示されます。この部分でも、旧版からの変更点があります。旧版では、多義である動詞の場合に、その意味を大まかに下位区分した上で、個々の語義の定義に入っていましたが、それはなくなりました。旧版でも、全ての動詞に、大まかな語義区分が示されていたわけではないので、公平な扱いになったともいえます。

come
[1] VERB
When a person or thing comes to a particular place, especially to a place where you are, they move there.

という定義に続いて、
紙版では

[V prep/adv] Two police officers came into the hall.
[V prep/adv] Come here, Tom.
[V prep/adv] You’ll have to come with us.
[V] Can I come too?
[V v-ing prep/adv] The impact blew out some of the windows and the sea came rushing in.

のように、各用例・例文の前に、記号での表記がなされています。

ここでの記号で、

Vは時制を持った動詞
prepは前置詞
advは副詞(または不変化詞)
v-ingは(いわゆる)現在分詞

となります。
これらの記号付けには全て、「主語」を示す記号がないこと、文型を類型化する番号などもないことに驚いて下さい。

紙版では、用例・例文と記号表記は同じ黒い印字が使われ、用例・例文はイタリック体で、記号は直立体で、とフォントも変えています。

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come [1]

先程、主語を表すSなどの記号・表記がないと言いましたが、定義を見てもらえば、その理由が分かると思います。定義の中で、どのような名詞が主語として使われるのか、「典型例」であったり「必須の資質」であったりといくつかのバリエーションはありますが、既にその動詞が使用される「文」としての環境の説明がなされているわけです。この例で言えば、主語には「人」または「もの」がくることがわかりますから、記号付けで示す必要はないということなのでしょう。

最新の「物書堂」のアプリ辞書の第9版では、この用例・例文が先にしめされ、記号表記は、それぞれの例文のあとにきています。さらに、動詞の例に限らず、用例・例文はイタリック体で表されていますが、品詞ラベルと用例・例文はブルー系で印刷されていて、他の記述とのコントラストがより明確になっています。

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アプリ版 come

comeの続きをもう少し進んで、後半の語義を見てみましょう。

[11] VERB
If a thought, idea, or memory comes to you, you suddenly think of it or remember it.
[V + to] He was about to shut the door when an idea came to him.
[V to n that] Then it came to me that perhaps he did understand.

アプリ版ではこうなります。

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come [11]

先程の定義は when でしたが、今度は if になっていることに注意して下さい。when が「あるある」での通常営業だとすれば、ifは「いつもとはちがって…だとすると」という条件設定のスペシャルな状況です。それでも、主語には「人」ではなく、「考え・考え・記憶」がくるということがわかります。悩ましいのは、thoughtという「考え」とideaという「考え」が担う意味の分担が初学者にはよくわからないことです。

記号付けでも、一例目から、ちょっとドキドキします。ここでの toは前置詞です。では、なぜ、prepとは書いていないのでしょう?答えは、「特定の前置詞に決まっているから」です。典型例としてto が用いられ、勝手にforやwithに置き換えられないので、prepではなく、+ toという表記になっています。不定詞のtoであれば、 to+動詞の原形 を表す、 to-inf という表記となるはずですから、区別は容易でしょうか?
それでも、「前置詞 to」の目的語に相当する名詞は記号では全く触れられていませんから、定義文を当てはめて、「前置詞toの後なのだから名詞が来る、そしてその名詞はyouとなる」という補助線を自分で引かなければなりません。さらに、この場合のyouは「あなたのこと」という特定の二人称ではなく、一般論を表す場合のyouであることにも注意が必要です。
日本の多くの英和辞典の表記とは異なるので、慣れが必要なところでしょう。

二例目の記号付けと用例との照らし合わせは少々面倒です。
ここでの nは名詞句のひとかたまりを表します。そして、その名詞句にthat節が後続する「見た目」になることがわかります。
用例に当てはめると、
V + to n 「時制をもったcome の後に、前置詞 to 、さらに名詞句が続く」というのですから、
it came to me と代名詞のmeがtoの後に続き、さらにthat節 (that perhaps he did understand) が続いています。

「記号通りの説明でいいじゃないか。どこが悩ましいのか?」と訝る人はいませんか?
私が悩ましい、と言ったのは、

  • 「では、次のような例と同じと考えていいでしょうか?」

ということです。
動詞 explain のエントリーにはないexplainの用例ですが、

  • I’m going to have to explain to them that I can’t pay them.

という例がCOBUILDには収録されています(前置詞 to のエントリーです)。
ここでのexplainは助動詞have to の後ですから、動詞の原形になってはいますが、その使用環境は
[v to n that] ということになるでしょう。

vがexplain
to+名詞句が to them
そしてthat節のまとめる内容が、I can’t pay them
「あれ?何か違うぞ!」と感じましたね?
そうです、come to 人that 節の場合の用例として、主語に来ていたのは it でした。
日本で広く用いられている(であろう)文法用語でいえば、「形式主語」にあたるものです。そして、that節の内容を予告する働きをしています。explainとは異なり、あくまでもcomeは「自動詞」として使われているのですが、COBUILDのこの第9版では、しつこいようですが動詞の分類に自動詞・他動詞を区別する表記法を採用しなくなりました。
それに対して、explain「説明する」は他動詞で、しかも人ではなく、「ことがら」を目的語にとる動詞ですから、誰に対してその説明をするのか、と「人」を示すためには前置詞の to が必要となる、というわけです。

二つの動詞の由来も、ふるまい方も異なるわけですが、見た目には同じ記号が付くことになるわけですね。旧版では、形式主語などで用いられる代名詞の it には、「予告のit」として、it という記号を当てていましたが、それがなくなりましたから、先程の explainで見たような、純粋な(?)名詞句と、形式主語などの it を動詞型の中で見極める目安となる記号がないということです。
このような現象が、そこかしこで生じるため、COBUILDでの文型・動詞型の記号付けを適切に処理して、例文の意味を的確に理解するためには、やはり最初の「文による定義」を丁寧に読む必要があるのです。

comeからもう少し気になる例を見ておきましょう。

[15] VERB
If someone or something comes from a particular place or thing, that place or thing is their origin, source, or starting point.
[V + from] Nearly half of the students come from abroad.
[V + from] Chocolate comes from the cacao tree.
[V + from] The term ‘claret’, used to describe Bordeaux wines, may come from the French word ‘clairet’.

ここでも条件設定のifで文定義となっていますが、主節の動詞の時制は先程と同様に is と現在時制であることに注意して下さい。この「出身、由来、起源」を表すcome from の用例は全て現在時制となっています。前置詞fromには名詞句が続くことは自明とされ、何も表記されません。
また、用例の提示順は、

  • もの
  • ことば

というように、具体性の高い名詞→抽象度が高い名詞の順に並べることで、理解の助けとなるように配慮されていることにも注目して下さい。

そして、この[15]を前提として、次の語義が説明されます。

[16]VERB
Something that comes from something else or comes of it is the result of it.
[V + from] There is a feeling of power that comes from driving fast.
[V + of] He asked to be transferred there some years ago, but nothing came of it.

定義は文の形になっていますが、これまでに見てきた、

When sv, SV.
If sv, (then) SV.

ではなく、

S 関係詞の後置修飾 V.

という文構造での定義となっています。
英語にあまり慣れていない人は、この文構造でメインのVにあたる is の主語が的確に捉まえられていないかもしれません。

後置修飾の部分をA、Vの述部が表す内容をB と置き換えると、

Aである、またはAをするSは、Bをする、またはBであるということです。

という定義の仕方となります。

COBUILDの文定義の主要3パターンと私が呼ぶもののうち、この主語に対しての後置修飾部分に、主語となり得る名詞の制約を含めるものは、「自分が調べたい用例」のうち、どの部分をこの文定義のどの部分に当てはめればよいかを知る上でも重要です。
動詞型を示す記号付けだけでは、対応関係の理解が不十分となるような場合にも、文定義をよく読むことで見えてくることがあります。冒頭の文定義のパターンに慣れることはとても重要で、有益です。

名詞の後置修飾のバリエーションとしては、この関係代名詞の他にも

  • 名詞+前置詞+名詞
  • 名詞+ to V    ※COBUILDでは. to-inf
  • 名詞+ V-ing
  • 名詞+ V-en ※COBUILDでは V-ed
  • 名詞+ 関係副詞 ※COBUILDでは、 wh-

があります。
このバリエーションに関しては、他の語を扱う際に、また項を改めて説明します。

[15][16]をアプリ版から。

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come [15-16]

続いて、動詞bring を少し見てみましょう。
comeが自動詞なのに対して、bringは他動詞として使われますが、COBUILDでは、この自動詞/他動詞を区別するために動詞そのものに用いる個別の記号はない、ということはもう説明しましたね。

bring
[1] VERB
If you bring someone or something with you when you come to a place, they come with you or you have them with you.
[V n] Remember to bring an apron or an old shirt to protect your clothes.
[V n] Come to my party and bring a friend with you.
[V n with adv] Someone went upstairs and brought down a huge kettle.
[V n + for, V n prep] My father brought home a book for me.

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bring [1]

動詞の説明の最初に come を取り上げた理由が分かってもらえたかと思います。
comeの説明に bringは不要でしたが、このbringの説明には comeが不可欠ですね。
COBUILDでは、他動詞の表記をしない代わりに、文定義の中で、目的語を明確に示しています。そして、その目的語への働きかけがわかるように、定義文の主節が書かれています。

動詞型の説明で使われる記号では、小文字の n は「名詞句」を表しています。 Vに名詞句 n が続く、という表記ですから、辞書を引いた人は、この部分を読んで「n が目的語の働きをしているのだな」という理解をすることが期待されています。
二例目と三例目の例文と記号付けを読んで違和感を覚えた人はいませんか?

「二例目の例文には、前置詞のwith が使われているのに、記号付けの方には with がない!」
「三例目の例文には、前置詞の withは使われていないのに、記号付けには with がある!」

どういう理由でこうなっているのでしょうか?
四例目が、そのヒントとなるでしょう。
三例目は

[V n with adv] という記号の表す意味は「動詞に名詞句が後続し、副詞と一緒に使われる」ということであって、(X)「前置詞のwith と使われる」ではない

のです。[V n 切れ目 with adv] というまとまりだと思って下さい。

それに対して、特定の語と一緒に使われるのが典型的であるときには、その環境を「+」の記号で表します。
四例目を見て下さい。[V n + for, V n prep] とあります。この記号付けは、「動詞に名詞句が後続し、前置詞の for をとるまたは、動詞に名詞句が後続し、前置詞をとる」と読むことを期待されているわけです。しかしながら、この四例目として示されている英文では、
“brought home a book for me” という環境ですから、正確には、

動詞+副詞+名詞句+前置詞 for (+名詞)
V with adv n + for

という表記がなされてしかるべきところです。

このbringの前に取り上げた come の文定義の主要3パターンを覚えていますか?
要注意といった三番目のパターンは、後置修飾が付くことによって、主語に来ることができる名詞を絞り込む働きをしていました。
come は自動詞でしたから、主語を絞り込みました。
では、今度のbringは他動詞。とすると?


そうです、他動詞の場合は、目的語に来ることができる名詞を後置修飾で絞り込むことが予想されます。

[3] VERB
If you bring something that someone wants or needs, you get it for them or carry it for them.

後置修飾部分が確認できましたか? or での分配を的確につかみましょう。

  • something that someone wants or needs 「誰かが欲しがっている、または必要としている何か」

という内容が、この語義で用いるbringの目的語に求められるわけです。では、記号付けはどうなっているでしょう。

[V n + for] He went and poured a brandy for Dena and brought it to her.
[V n n] The stewardess kindly brought me a blanket. [ Also V n, Also V n + to]

一つ目の用例と、記号付けが対応していませんね。記号では 「前置詞 for が典型例」とありますが、forが使われているのは、pour n for という結び付きであって、brought の方は、前置詞 to が後続しています。むしろ、2例目の補足で示されている Also V n + toの V n + to が当てはまるところでしょう。
二例目では、V n n と名詞句を表す n が二つ示されていますから、動詞に名詞句が二つ続く、所謂「二重目的語」をとるということがわかります。

ところで、今、紙版を中心に説明してきましたが、物書堂のアプリ版では、これらの記号付けは全て、用例の後にカッコで示されますから、この2例目の表記は、

The stewardess kindly brought me a blanket. [ V n n , Also V n, Also V n + to]

となることに注意が必要です。いずれにせよ、動詞型の類型全てに用例が対応しているわけではないことは頭のどこかに置いておいた方がよさそうです。
V n の例としては、COBUILDにはありませんが、

  • Just bring yourself! 手ぶらで来てよね。
  • Please bring your wife to the party next time. 次にパーティするときには奥さんも連れてきてね。

などが考えられます。


続いて、コミュニケーションなど、伝達に関わる動詞を見てみましょう。

tell です。

tell
[1] VERB
If you tell someone something, you give them information.

随分とあっさりとした定義ですが、用例は豊富です。この文定義で、所謂「二重目的語」がとれることがわかります。さらに、人を目的語にとり、もの・ことがらをその次に前置詞なしで続けることができることもわかります。

[V n that] In the evening I returned to tell Phyllis our relationship was over.
[V n wh] I called Andie to tell her how spectacular the stuff looked.
[V n n] Claire had made me promise to tell her the truth.

f:id:tmrowing:20200502155103j:plain
tell [1]

ここまでの例では、動詞に後続する名詞句 n は人であることが共通していて、「ことがら」に当る名詞句が、that節、wh節、名詞句で表されることをそれぞれ示しています。
特に、三例目では、2つ目の目的語は単にn としか示されていませんが、このような提示順であれば、the truthは 名詞ではあるけれども、「ことがら」の性質が感じられるものであることにも納得が行くことと思います。
四例目以降も見てみましょう。

[V n + to] I only told the truth to the press when the single was released.

+表記の to ですから、典型例として、前置詞のto (とそれに後続する名詞句)が続くことを示しています。情報を与える「相手」を、前置詞 to以降で示すものです。

[V n + about] Tell us about your moment on the summit.

今度は、+表記で about が来ています。この場合は、情報を伝える相手、ではなく「情報の内容」を補足・絞り込むための前置詞です。

[V with quote] Her voice breaking with emotion, she told him: ‘It doesn’t seem fair.’

この例では、+のない with ですから、単に共起する物を示すものです。動詞との位置関係は自由であることに注意してください。
quote は「引用する直接話法の内容」に相当します。 that節や wh節のように文に埋め込まれた文ではなく、誰かの発言を引用するのに、その部分の表現、文言を、原則書き換えずに “ “ で囲んで伝達していることを表しています。
この例では、動詞told のあとに、himという nが来ていますから、記号付けとしては、

  • [V (n) with quote]

とでもしていてくれればわかりやすかったとは思います。

前回の bring同様に、[Also V of n] という記号付けが一例、宙ぶらりんになりました。
この tell のエントリーには、肝心の用例はありませんが、COBUILD内に収録されている用例で[Also V of n] に相当するものに、

  • The story tells of a runaway slave girl in Louisiana, circa 1850.

というものが見つかります。ただ、初学者には、circaという語は未習でしょう。
ここでの of は about と同様で「伝達する情報」の内容・要旨・主題が続いています。

まだまだ、押さえておきたい「芸風」はあるのですが、「その1」としては、この辺で一区切りとしたいと思います。
「その2」は、また日を改めて。

本日のBGM:ハミングバード(綿内克幸)

追記:「物書堂」さんのアプリを使っている方は、こちらの noteの記事(期間限定で無料公開です)も是非お読みください。
note.com

「むやみに家を出ないで」

3月以降、「コロナ禍」での日常を生きているわけですが、その間に、一つ、WEB媒体での仕事が公開されました。

こちらからどうぞ。

OLEXブログ
英語のオシゴトと私
第13回―松井孝志
「甲子園」と「タンバリン」
http://olex.obunsha.co.jp/blog/2020/04/03/1795/

細井先生、河村先生と受け継がれたバトンを私が受け取りました。次に誰に渡されるのかが分かるのは2か月後くらいですかね?
Stay Safe!

私自身、新年度は新たな環境で「英語教育」と関わっていくわけですが、首都圏では学校教室での対面授業が成立しない環境に置かれていますので、教師も生徒も、「遠隔授業」という物理的にも、精神的心理的(頭と心の両面)にも、負荷のかかる状況で進める場合には、無理をしないことが大切だと思っています。

こちらに北星学園大学の松浦年男先生 (twitterでは「まつーらとしお=@yearman : https://twitter.com/yearman?s=20」でおなじみですね) の作ってくれたnoteの記事があります。参考にしましょう。

「オンライン授業をがんばりすぎないように」
note.com

こちらには、「アリシマ」先生のブログ記事があります。流石はアリシマ先生。細やかな配慮が記されています。こちらも、「無理せず」に、時間的に余裕のあるうちに、少しずつ整理、整備していくのがよろしいかと。

Arishima.info
「オンライン授業に移行するときの覚書」
arishima.hatenadiary.jp

私が最近せっせとやっているのは、「ことばの採集」です。
ひょんなことから、こちらの「表現集」に書き込みを始めました。
@nofrills (https://twitter.com/nofrills?s=20) さんを中心にプロの翻訳家の方たちが表現集を構築してくれています。

(仮)パンデミックに関する英語表現集
2020年の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックについての英語圏の報道記事やTwitterの投稿などから、翻訳に役立つ表現を蓄積していくことが、当Wikiの目的です。
english-vocab-covid-19.memo.wiki

これまで、私が「ライティング」の授業で、「書くために読む」ということを説いてきたことと、通底するような感触があり、微々たるものではありますが、いくつか書き込ませてもらっています。

先日までは、 “flatten the curve” と “bend the curve” の生息域の把握に、いささか時間を取られましたが、その甲斐あって自分の中でしっかりと整理ができたと感じています。

そして、昨日から、少し悩んでいるのが、「疲労困憊の;出し切ってぐったりの」などという意味で用いられる “drained” と共起する副詞の語義です。

辞書的な定義を見れば、そもそもが「液体が流れ出てなくなった(状態)」を表す語ですから、形容詞としてのエントリーがあるものでは、

very tired : exhausted (MW’s)
very tired and without energy (OALD)
feeling as though you have no mental or physical energy left (MED)

のように、動詞のエントリーにぶら下げるものでは、

deprive of strength or vitality (ODE)
If something drains you, it leaves you feeling physically and emotionally exhausted. (COBUILD)

の中に、-ed/en形での用例が示されています。

では、私が一体何に悩んでいるのか、といえば、こういう実例での副詞の並列の処理なのです。
日本語では一般に「心身」「身も心も」という「二分」「二項」での物言いが多く、英語でも、"physically and mentally" とだけすることが多いように思っていたので、この「コロナ禍」だからなのか、「三つ」畳みかけるような声を耳にする機会が増えたように感じています。

以下、主として市井の一般人のツイートから拾っています。

I have never in my life felt so physically, emotionally, and mentally drained. I am running on about 2% and am swamped in homework that I cannot even get myself to start.

I am physically, emotionally, and mentally drained. I’m sorry if I haven’t been as positive or more myself in our interactions lately. I’m trying, but I’m exhausted and I think it’s showing.

Mentally, emotionally, and physically drained

Our frontliners are physically, mentally, and emotionally drained. They serve with no complaints.


Philippine Red Cross Rizal Chapter Pasig-Pateros Branch, Shaw Blvd Barangay Kapitolyo, Pasig (2020)

この副詞との共起で何を悩むのか?
それは、mentallyと emotionally の棲み分けです。
この語を単に、「精神的」「情緒的」と訳して何かが腑に落ちるか?頭の中の映像はクリアーになるか?違和感なくしっくりとくるのか?ということです。
最近、とかく話題の「精度の高い自動翻訳」の結果を見てみましょう。

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「精度の高い」自動翻訳

疑問には殆ど答えてくれませんね。
Ngram viewer で俯瞰してみましょう。

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Ngram viewer 単体

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Ngram and 順番

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Ngram physically との共起

大まかな「趨勢」というようなものはわかりますが「語義」はわかりません。

例によって、COCA系のオンラインコーパスでの検索が効果的か否か、見てみました。

COCAでdrained と共起する副詞の頻度を見てみます。

f:id:tmrowing:20200413074221j:plain
COCA概要

COCAでのand での頻度がこちら。

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COCAでのandでの順番

次に、ニュースメディアでの実際の使われ方を反映するNOWコーパスで見てみましょう。
頻度分布。

f:id:tmrowing:20200413082719j:plain
NOW頻度

では、「意味の棲み分け」はどうなっているかが分かるか?というとそれはこのような検索結果からだけでは無理なのですね。

副詞→形容詞→名詞というような形で、キーワードのエッセンス、肝とでもいうところまで掘り進めないとだめでしょう。

そして、ここでの「キーワード」とは何か?
ズバリ、

  • body, mind and spirit

です。

body がphysicallyに
mindがmentallyに
spiritがemotionallyに

それぞれ対応していると考えれば、なぜ3つなのか、が窺い知れるのではないでしょうか?
私が序盤で、「腑に落ちるか?頭の中の映像はクリアーになるか?違和感なく…」と疑問を投げかけていた伏線もなんとか回収できましたね。

英英辞典から、その匂いが感じられる用例を。

  • healing for body, mind and spirit (OALD)
  • a harmonious balance of mind, body, and spirit.(COBUILD 9th)

COBUILDの旧版では、

  • the need for wholeness and harmony in mind, body and spirit (COBUILD)

という用例があるのですが、その訳文は、
「心、身体、精神の完全性と調和の必要性」とあり、「心」と「精神」の識別は判然としません。

先ほども見てみた「精度タカシ」での三位一体の訳例。

f:id:tmrowing:20200413073025j:plain
精度タカシ三位一体

この訳では識別の役に立ちませんね。

COCAでの「三位一体」の用例。

f:id:tmrowing:20200413074438j:plain
COCA三位一体用例

NOWでの「三位一体」の用例。

f:id:tmrowing:20200413132013j:plain
NOW三位一体用例

この

  • mind と mental の対応
  • spirit と emotional の対応

辺りのことは、
中村保男『日英類義語表現辞典』(研究社、1998年)で詳しく扱われています。
ここまで「こころ」の扱いが詳しいことには唸るしかないです。先達の慧眼と偉業に感謝です。

このブログでも、

類友
tmrowing.hatenablog.com

でこの中村(1998) を少しだけ取り上げています。気になったときに、調べて書いておいてよかったです。


ということで、COVID-19関連の記事を読む、そのニュースに反応する市井の人々の声に耳を傾けるにも、日常飛び交う「ことば」をしっかりと掴み、観察することが大切ですよ、という話でした。

Stay Calm.
Stay Home.

本日のBGM: ストーリーの先に (Glim Spanky)

What’s in a name?

私は大学を卒業してすぐに公教育の現場に出て、それ以来30年以上、高等学校を中心に英語を教えてきました。その中でも、「ライティング」指導、評価が自分自身の専門分野だと自負しています。ライティング指導を続けてきて強く感じるのは、書けるためには読めなければならない、ということ、そして、ライティングでも、読解でも、「語義」の適切・的確な理解が、それらの技能を身に付ける上でも、技能を発揮するにしても生命線だということです。

「語義の把握」の部分がしっかりしていないと、たとえ文法的な誤りが見られない表現が「書けた」と思っても、その表現は実際には読み手に大きな負担をかけることになります。これは、表面的な「添削」を施しただけで解決する問題ではありません。その「読み手にとって負担が重いはずの表現」を、書いている本人は既に読んでいるのに、自分で自分の書いた表現の「重い」部分を重いとは気付けないのです。

にもかかわらず、高校段階の英語学習の多くの局面で、生徒は「語義」にそれほどの関心を寄せることがないという印象を持っています。紙と活字の辞書であれ、電子辞書であれ、多くの高校で入学時に辞書を推薦したり、指定したりして、全員に持たせているとは思うのですが、高校生はまだまだ、辞書を充分に生かせていないようです。一方で、これは、指導する側の教師が「辞書指導のノウハウ」を知り、それを伝授する、ということだけでは解決しないことであるとも思っています。そもそも、学習者の側に、英語を学び、使い、身に付ける中で、その語句の「語義」をつかみたいという、「意味の希求」とでもいうものがなければ、教師からの指導も、辞書の情報も、それこそ「意味がない」でしょうから。

そのためにも、「大まかに語義を捉えた理解」と「定義や使用場面も含め語義を的確に把握した理解」との間に大きな差があるのだ、と気付く機会を、学習活動であれ、言語活動であれ、授業の中で提供し、語義把握の重要性を「実感」してもらうことが英語教師の役割の一つだろうと思うのです。

とはいえ、語義の輪郭線は自明のものではありません。見る角度によって輪郭線は変わるからです。比喩が本質を捉え切れないことを承知で喩えますが、円柱であれば、その真上から見れば円ですが、真横から見れば四角に見えます。語義の輪郭線を捉えた、と思っても、少し角度を変えて見れば、異なる形に見えることは多々あります。ことばの輪郭線は、運用と学習や教授とを繰り返す中で、自分に見える「像」として浮かび上がる、絵画で言えばスケッチのようなものと思った方がいいでしょう。


この2020年3月下旬に、日本のメディアにとある「カタカナ語」が頻出しました。

「オーバーシュート」* です。

私は、「その語の元になっている英語の overshoot の方には、そのような語義はないのでは?」という違和感から、英語ニュースメディアでの使用例をウェブで検索し、数多の辞書を引き比べ、辞書で得られる用例とニュースメディアでの実例とを照らし合わせ、さらには、いくつかのオンラインコーパスから、その語が名詞であれ、動詞であれ共起する語句を確かめ、といった作業を経て、自分なりの結論に達しました。

以下、呟きから転載。

これまで自分自身が学習者として「語義」を確かめようとするときに、どんなリソースに頼ってきたか、そしてそういった「確認」のための作業の成否はどうだったか、という記憶があるから、また、検定教科書の著者として、materials writerとして、語釈・語注をつけたり、教師用指導書に収録する「定義」や「用例」の採取、吟味をしてきた経験があるから、そして、高校生を中心としたライティングの評価、添削、フィードバックを通じて得られた知見など、一定の「経験知」があればこそ、一連の「調べ作業」ができたのだと思っています。

では、高校生など「学習者」が、自分の手元にある英和辞典や英英辞典を引いてみたときに、同じことができるでしょうか?また、同じだけの労力をそこに割くべきでしょうか? 多くの高校生には独力では難しいでしょうし、個々人にそこまでの労力を求めるのは不適切でしょう。

ただ、「語義の把握」の重要性に気付く機会を提供するためにも、その下調べ、下ごしらえの部分は、教師の側がしておいて、授業の中で、折りに触れ指摘する、ということは重要な意味を持つと思っています。

普段の英語学習のさまざまな段階で、丁寧に語義と向き合い、その語の「持ち味」「肌触り」「匂い」「温度」「生息域」などを実感する機会を得ることで、まずは「読んで分かる」精度が高まり、次第に自分の英語表現として身に付き、ひいてはライティングにも活かせる日が来るのだと思って、今日も「英作文眼」で英語を読み、ライティング修業に励みます。

本日のBGM: Veronica (Elvis Costello)
www.youtube.com

※3月24日現在でも、まだ、TVなど大手ニュースメディアで、「オーバーシュート」を、「爆発的感染者の増加」の意味で用いていることを憂慮しています。

the company you keep

久々に入試問題を取り上げたら、少しは反応、反響がありました。アクセス数が異様な動きでしたから。
前々回で取り上げた東大の和文英訳は、鶴見俊輔の相当初期の文章を使ってはいますが、下線部の前後をちゃんと読めば、やはりそこには「鶴見み」とでも言えるものが感じられるわけです。ネットでも公開されてきた各種業者の解答例では、それが殆ど感じられないのがもどかしいところですね。

私の英訳例も、なんか変なところで取り上げられて奇妙な解説をされていた模様。
英訳の適否を論じることも大事だけれど、これを機に肝心の鶴見俊輔の著作や文章を読んでおいて欲しいと切に願います。

私の英訳例では、 “their weakness or awkwardness” って書いていましたけどこれって、文の形に解凍したら “they are weak or awkward” とか、語義を抽出したら、 “they repeatedly show something weak in them or something awkward about them” みたいな感じになるでしょ?
で、そういった文脈に応じたawkwardの語義は本当に実感できていますかね?『ランダムハウス英和』では、awkwardにこんな語義(訳語)を示してくれています。

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awkward

見方を少し変えて、たとえば、 “self-esteem” ということば。こんな定義と用例です(OALD より)。

a feeling of being happy with your own character and abilities

  • to have high/low self-esteem

ここでhigh or low でどちらなのかと言えば、それはもう、people with low self-esteem の人の言動についてのhigh過ぎる人の言動が焦点となりますね。

だから私は、原文での「われわれ」の処理を重視したのでした。
流行りの物言いなら ”one team” として、主力となったり、リーダーシップを発揮したり、organizeやinspireしたりするにも「ほど」があるだろうと。

曽田正人先生の名作、『昴』の第61話のセリフなら、「なんでできないかな〜!?」とカンパニーのみんなに言っちゃうアレですよ。
・じれったい
・かたわらいたい

先程の二つに加えて、例えばこういった資質を持つ人、言動をする人に対する不寛容さの現れ、とそのことへの戒め、諫めを踏まえて、「われわれ」「自分たち」として連なり、向こうの「世界」とどう対峙するのか?というのが、私の感じた「鶴見み」です。
・おどおど
・まごまご
・とろくさい
で、さっきの話の続きで、Moonの第7話だと、カティア・ロールのセリフ、

「なんで
そんなことが
できないの?」

のところですね。

でも、昴だってただ傲慢なわけじゃなくて傷ついてるんですよね。第8話の最後の、

あんなの
ぜんぜん
ちがうのにっ。

なんでみんな
わかんないの!

のフルひらがなのセリフなんか、もう最高ですよ、曽田先生!

で、さらに、「で」で、振り出しに戻って、東大の出題の素材文。
この「鶴見み」の源泉とも言える話しを、「議論」とか「論理」とかに矮小化している時点で百万年早いと思いますよ。
でも、そんな百万年分をも受け入れて連なることこそが、「鶴見み」ですから。

前回の大阪大学の英文和訳に関しては、せっかく「補足」としてインタビュー動画を貼り付けたのに、殆ど見てもらえていないようで、とっても残念です。当該箇所だけ書き起こしておきます。話し言葉なので、文法的な整合性が崩れているところ(疑問詞相当のwhatの名詞節の中での語順とか、終盤の what の名詞節の中で再度that を繰り返すところとか)、も散見されますが、むしろ、そういうところが、この人の頭の中にある「ことばの種」「アイデアの端緒」を知るヒントにもなろうかと思います。

https://youtu.be/wzd_-bjzrWs

There’s some theories about what is it about being outdoors that makes us feel so a lot I’ve been and when you look at the brain there’s a thing called attention restoration theory which is there’s part of the brain when we’re working on a problem that’s really really difficult, like a math problem or a mechanical problem, it really taxes our brain and we can be drained from that because we’re so laser-focused on that problem. And yet when we out in nature, we’re not focusing on solving a particular problem, but we’re out enjoying the colors, enjoying the textures, enjoying the wind and enjoying the flowers. At that point brain has an opportunity to rest and to restore and rejuvenate, so in that capacity, we feel really relaxed, and that’s part of what a neuroscientist, if they are thinking about and doing studies, ought to show that in that state we are fully relaxed and that may be part of why we feel so alive when we’re in nature.


前回取り上げた大阪大の出題文で、下線部より後ろの、 “... , which call on ...” の関係代名詞の非制限用法が”..., requiring ...” とパラレルだという解釈は慎重に扱うべきだと思っています。平行(並行)だから同じ構造や論理とは限りませんから。
呼応する動詞の形が call ですから主語は先行文脈の中から複数扱いできるものを抽出することになります。
では、単にここで列挙される「自然の光景」か?私は、ここでpatternsにorと続くところで、自分のことばのリズムと上手く合わなくて足踏みしました。ここは、enjoy observing patterns に続くor での複数要素を繰り返す、複数回のenjoyingを意味上の主語としているのだろうというのが私の解釈です。

  • そんな都合の良い意味上の主語の「抽出」が許されるのか?

という人もいようかと思います。
では、そういう方は、この “enjoy observing patterns or ...” の or をどう処理してるんだろう?と思うわけですね。そちらの処理の方が私にとっては興味関心が高かったのですが、その部分の解釈は、多くの方にとって、あまり注意は要求されなかったということなのでしょうか。
そんなことをあれこれ考えていたら、インタビュー動画を発見したということで、アップした次第。

  • enjoy observing patterns に続くor での複数要素を繰り返す、複数回のenjoyingを意味上の主語としている。

と言ったことが少しは分かってもらえるかなと。非制限用法でも、既出の名詞句を先行詞とするのではなく、「ことがら」を抽出することは多々あるというのが私の意図です。

本日のBGM: You're foolin' nobody (Roger Nichols & the small Circle of Friends)

direct feedback

2020年入試では、大阪大学の出題が話題になっています。

下線部和訳の形式ですが、大手予備校の解答でも、解釈・扱い・和文の処理で解答が別れているようです。

当該の問題文は、こちら。この切り取られた一節のうち、下線部のみを訳出することが求められています。
争点は、下線部の最後、主節に後続する “... , requiring” の処理のようです。


(B) Attention restoration theory looks at the two main types of attention that humans employ: directed and undirected attention. Directed attention requires us to focus on a specific task and block any distractions that may interfere with it. For instance, when we are working on a math problem, or engrossed in reading a literary passage or in assembling or repairing an intricate mechanical object, our brains are totally dedicated to the task at hand, requiring our direct undivided attention. After we complete the task we often feel mentally fatigued or drained. Conversely, when we are outdoors, we may enjoy observing patterns or a sunset, clouds, flowers, leaves or a beautiful meadow, which call on our undirected attention.


「見た目」だけでいうならば、このような主節に後続する所謂「現在分詞」が、先行文脈を主語として関係代名詞の非制限用法(継続用法)のような使われ方をする例は、現代の英語でも普通に目にするものです。

ちょっと回り道ですが、このあたりから確認しておきましょう。
いわゆる「分詞構文」→副詞か形容詞か?どうでもいいのか?

1. Putting down my newspaper, I walked over to the window.
※ 見て分かるように、主節の主語は “I” であるから、分詞で表された内容を関係詞節のような読みで I に掛けて、「新聞を置いた私は」と解釈するのには無理がある。非制限用法的な読みをするなら、分詞は「原因」や「理由」と取らなければ意味が整合しない。
※ 川端康成の『美しい日本の私』、大江健三郎の『あいまいな日本の私』という形容・修飾は、日本語であっても極めて例外的なもののはず。そのつもりで以下の用例を吟味すること。
(以下、2, 4, 5の用例はMichael Swan のBasic English Usage (1985年)より。
和訳&解説は松井による)
2. I sat reading some old letters. (私は座って古い手紙を読んでいた)
※ 2. では、reading の意味上の主語に当たるものは、主節の “I” と同じで問題ない。「座る」行為と、「読む」行為のオーバーラップ。

3. I saw her standing there. (私は彼女がそこに立っているのを見た)
※ 3. では、stand の意味上の主語は、her で表されている「彼女」。<彼女がstandしている>という「映像」を捉えること。「立ち上がるところ」ではなく、「立っているところ」を見たという「動画」の -ing。いつ始めて、いつ終わるかは不問。

4. Not knowing what to do, I telephoned the police.(どうしていいか分からず、私は警察に電話した)
※ 4. では、主節に先行している (否定された) knowing の意味上の主語は主節の “I” である。

5. It rained all the time(,) completely ruining our holiday.
 (ずっと雨が降って(いたために)、休日が台無しになった)
※ 5. では、 “ruin” の意味上の主語にあたるものは、 “it” ではなく、「雨が降り続いたこと」とでもなるはずであり、ruin は、その「結果」として生じることになる。「因果関係」と見なせば、「理由・原因」、時間差があるとはいえ「雨が降っている間は、期待外れの休日」となるわけなので、「同時並行」という読みも出来なくはない。
  ただ、そのどの解釈をする場合でも、雨が降ってくれなければ整合しない意味なのであるから、ruiningをitに対する形容詞的な修飾語として、独立した名詞句の限定表現を想定して、 (X) 「私たちの休日を台無しにした雨は…」と考えることには明らかに無理がある。

  このような、「語」ではなく、それまでの「内容」や「状況」を主語と見立てて引っ張っていく-ingも実例は多々ある。
  記憶に新しいものでは、

6. Most insects are able to survive with little water, making them an ideal alternative food for locations with severe water shortages. (2018年センター試験)
 「たいていの昆虫は水が殆どなくても生きられる、そのことが昆虫を深刻な水不足の地域での格好の代替食材とする。」
→『たいていの昆虫は水が殆どなくても生きられるので、深刻な水不足の地域では、格好の代替食材となる。』

という英文は、話題を集めた使用例だったのでは?


7. I would like to conclude my remarks, wishing that this Conference will have fruitful results, making for a safer world.
  会議が実り多い成果を挙げ,一層安全な世界に向かって進むことを願い,開会式に寄せる言葉といたします。
   (国連防災世界会議開会式 (2005/01/18; 阪神淡路大震災10周年に神戸で開催された) における天皇陛下のお言葉の締めくくりの一文。)
※ make for (≒contribute to) の意味上の主語は「会議」ではなく、「この会議によってもたらされることが望まれる実り多い結果」または「会議によって実りの多い結果がもたらされること」とでもいうような内容。


私の手元の入試問題データベースは、00年代までの長文素材が中心なのですが、その中から、主節に後続する ", requiring ..." が 3例見つかりました。出典がちょっと不明で申し訳ありませんが、以下にある程度の文脈で示します。

A.

Digital technology also brings potential problems. There are threats to privacy: digital systems can gather and communicate large amounts of information about people, often without their knowledge. There are environmental issues: devices can become unusable quickly, requiring huge investments of energy and materials to replace them. There are also socioeconomic issues: richer people and richer societies will always have greater access to the new technologies on which we may all one day depend.


B.

We are mesmerized by the exactness we perceive in the universe, and we seek to copy its grandness here on earth. History for us is a continuing exercise in engineering. The earth is like a giant hardware store, made up of all sorts of parts that need to be assembled together into a functioning system. Our job is never done. There are always new designs to consider and new jobs to be performed, all requiring the constant rearrangement of parts and the enlargement of processes. Progress then is “geared” toward the perfection of the machine.


C.

For young Japanese today, the keitai (mobile phone) is a universal communication device, personal organizer, contact list, timepiece, and individually decorated amulet to the harmony of connectedness, the locus of the fragile web of personal relationships with a virtual community, requiring constant maintenance. Neglected keitai don’t die, of course, but to lose one’s keitai is to virtually lose one’s identity, to cease to exist within the mediated world.


1例目の A は明らかに、主節の内容を先行文脈として受けるもので、

, which requires ...

とパラフレーズされるような例、ということはすぐ分かるかと思います。では、この場合はその「主語」として想定される、語句、または、ことがらとは?と考えると、主節の内容を受けて、「その結果として…」という和文処理ができるでしょう。

それに対して、2例目、3例目は主節中の名詞句を意味上の主語として捉えて、取り出したもののように感じます。

ただ、2例目、B. の不定詞の後置修飾がある名詞句

  • new designs to consider
  • new jobs to be performed

を意味上の主語として想定するならば、「(常に)新たなデザインを考えること」、「(常に)新たな仕事を遂行すること」のように、名詞句そのものに「ことがら」の意味が少し濃くなるので、ただ単に名詞句を「意味上の主語」と説明するだけでなく、「意味のつながり」を丁寧に説明することが必要だと思います。

3例目のC. では、

individually decorated amulet to the harmony of connectedness, the locus of the fragile web of personal relationships with a virtual community

かなり長い同格の名詞句を受けているので、つながりが一読では直ぐにわからないものだと思います。老婆心ながら、「定期的メンテナンスが必要」なのは、a virtual community ではなく、「つながっていることから生まれる心の平静」「人間関係の壊れやすい網」なのでご注意を。

これらが文法書関連で詳しく扱われているか、未だ確認はしていませんが、主節に後続する , -ing の処理は文脈、主題に合わせて丁寧に行う必要あることを示唆している例だと思います。

ここであらためて、大阪大学出題の英文の当該箇所を見てみましょう。

when we are working on a math problem, or engrossed in reading a literary passage or in assembling or repairing an intricate mechanical object, our brains are totally dedicated to the task at hand, requiring our direct undivided attention.

  • 従属節である副詞節を導く when S+V の内容 → A
  • 主節の内容→ B
  • 後続する , requiring の内容→ C

と大まかに整理すると、

A: 私たちがある数学の問題を解いている、または夢中になって文学作品を読んだり、複雑な機械仕掛けの組立や修理をしたりしている

B: 私たちの脳は完全に目の前の作業だけに専念している

C: そのことは私たちの直接的で一つに集中した注意を要求する

という展開・構成になっている、というのが私の解釈です。

争点となっていると思われる requireの扱いですが、パラフレーズするとしたら、

  • call for = demand
  • deserve
  • involve = entail

辺りになるだろうと思います。

require は当然のことながら他動詞なので、「その主語にあたるものが、誰・何に、何をどこに向けることを要求するのか」をそれこそ整理する必要があります。

もし、requiring 以下を、関係副詞の非制限用法でパラフレーズするとしたら、

  • , where we have to focus or unite our attention to the task at hand

のように、"Require who to direct what to what?" が表面にあらわれてきます。
これに対して、原文のように、分詞構文を使った場合には、その部分が表に出てこないため、特に「注意の向けられる先がどこなのか?」を読み手が求めるのは自然なことであり、 "the task at hand" を意味上の主語として捉える解釈が生まれる余地があるのだろうと思います。その読みをする場合には、恐らく、 require の部分は deserve のような意味で解釈しているのだろうと思います。

For instance, 以降の試(私)訳

例えば、私たちがある数学の問題を解いている、または夢中になってひとつの文学作品を読んだり、複雑な機械仕掛けの組立や修理を仕上げようとしたりしているときには、私たちの脳力は完全に目の前の作業だけに注がれることになり、そのことで分断、分散することのない注意が要求される

以上、私に誤読・誤解があるようでしたらご教示願います。

ちなみに、この出題の原文では、パラグラフの終わりの切りのいいところまでに、もう少し文が続いています。

Using our senses to touch, see or smell in natural settings doesn’t require a task-specific, problem-solving approach. Instead we can enjoy our experience in nature and be rejuvenated by taking in the sights and sounds at a relaxed pace. Undirected attention is easy to summon and maintain and leads to reduced stress and anxiety.

Edwards, Andrés R. 2019. Renewal (pp.42-43). New Society Publishers. Kindle 版.
ここまで読めると、ヒントが増えるように思います。


本日のBGM: Attention Stockholm (Virna Lindt)

※2020年3月2日 6:32 追記
大阪大学の出題ではカットされた段落の残りを貼り付けていましたが、
“a task-specific, problem-solving approach” の部分を読めば、解釈が分かれるのも宜なるかな、と思います。the task at hand を意味上の主語と解釈する読みは前者を採っているのでしょうし、私のように「ことがら」を抽出する読みは後者を採っているのでしょう。

一点補足すると、出題の下線部での ”direct“ に私は「分断しない」という訳語を当てていますが、これは、

  • immediate 「間に邪魔をするものの介入を許さない」

という、”block any distractions that may interfere with it“ の意味を集約させたものです。

今回のエントリーにコメントもいただきましたが、コメント欄では議論しませんので、こちらに拾える内容は、この追記のように拾うか、エントリーを新たにして書くかしたいと思います。
取り上げる取り上げないは完全に私の判断です。私のブログですから。

下線部より後ろの、 “... , which call on ...” の関係代名詞の非制限用法が”..., requiring ...” とパラレルだという解釈は慎重に扱うべきだと思っています。平行だから同じ構造や論理とは限りませんから。

もともとの作者の癖、言葉の選び方も考えたいとは思っています。
”, requiring...” と”, which call on ...” をパラレルに見るのはいいのですが、目的語が人ではなく不定詞を伴わない時点で、call on =employ という読みをするのが「自然」だと思いますが、or が気になるんですよね。

関係詞に続く動詞の形がcall ですから主語は先行文脈の中から複数扱いできるものを抽出することになります。では、単にここで列挙される「自然の光景」か?私は、ここでpatternsにorと続くところで、自分のことばのリズムと上手く合わなくて足踏みしました。

ここは、enjoy observing patterns に続くor での複数要素を繰り返す、複数回のenjoyingを意味上の主語としているのだろうというのが私の解釈です。下線部の処理以上に、「みんな、この ”enjoy observing patterns or ...” の or をどう処理してるんだろう?」という方が私にとっては興味関心が高かったのですが、その部分の解釈には、あまり注意は要求されなかったということなのでしょうか。

そんなことを思いながらブログをアップした後で、こんなものを見つけました。
25分過ぎくらいからが当該箇所ですが、呼吸やリズムを合わせるにはその少し前くらいから聞いた方がいいかもしれません。

Renewal Through Nature with Andres R. Edwards

youtu.be

先程「enjoy observing patterns に続くor での複数要素を繰り返す、複数回のenjoyingを意味上の主語としている」と言ったことが少しは分かってもらえるかなと。

非制限用法でも、既出の名詞句を先行詞とするのではなく、「ことがら」を抽出することは多々あるというのが私の意図です。

もっとも、後出しジャンケンで何を言おうと、試験場で当該英文を処理するのとは話が違いますね。
今回は、皆さんが「何をどのように読んだのか」というところから多くを学ばせていただいております。ありがとうございます。

大学入試「和文英訳」雑感

直前の受験生対象「英文ライティング」セミナーでは、京都大、大阪大、奈良女子大に代表される「和文英訳」は扱わなかったのですが、今春の前期試験で出題された「和文英訳」を見て、いろいろと思うところがあったので、二題だけ取り上げておきます。


東京大学 2020年
英語 2B

文章中の下線部のみを和文英訳する形式。
出典は、鶴見俊輔 『アメリカ哲学』ということなのですが、版も何も記されてはいません。
おそらく、もともとは英語で書かれていたものを後に日本語で再構築したものなのではないか、という印象はあります。
因みに、講談社学術文庫の増補版は1986年。私が教員一年目の時。

以下、出題の「和文」。この下線部を英訳せよ、というお題です。

生きてゆくにはまず、若干の自信を持たねばならぬ。
しかし自信ばかりで押し切っては、やがていつかは他人を害する立場に立つ。自分たちは、いつも自分たちの信念がある程度までまゆつばものだということを悟り、かくて初めて寛容の態度を養うことができる。
自信と疑問、独断主義と懐疑主義との二刀流によって、われわれは世界と渡り合うことにしたい。

英訳例

Self-confidence, if carried too far, can and will cause offense to your fellows. Instead of criticizing their weakness or awkwardness, keep a skeptical view even on what you believe is right. You will, then, learn to accept your own flaws as well as theirs’.

※下線部の前後がキーワード処理のヒントになりますね。「他人」とは書かれていますが、その「他人」も「自分たち」「われわれ」として連なる存在として認識され、「世界」と対峙する、という論の展開なのだろうというのが私の解釈です。

下線部以外だと、鶴見ならではの、ひらがな表記の「われわれ」までを射程に入れてどう英語で処理するか?というのは結構悩ましいのですが、受験では下線部のみの解答を求められているので、解答例としてはまあ、許容範囲かなと。



京都大学・2020年
第3問 和文英訳形式

出典は特に示されていません。お分かりの方がいましたらご教示願います。

この素材文では、全く主語は表されていないのですが、一人称での「軽妙文」とでも言えばいいのでしょう。ただ、英文だけを読んで「つながり」と「まとまり」が分かるためには、「主題」にあたるものを想定して補う必要があると感じるのですが、「大学入試の和文英訳」はそこがブラックボックスで鬼門、下手をするとこちらが鬼籍に、ということになりかねませんので、やはり悩ましいですね。

以下、お題の「和文」です。

 お金のなかった学生時代にはやっとの思いで手に入れたレコードをすり切れるまで聴いたものだ。歌のタイトルや歌詞も全部憶えていた。それが今ではネットで買ったきり一度も聴いていないCDやダウンロード作品が山積みになっている。持っているのに気付かず、同じ作品をまた買ってしまうことさえある。モノがないからこそ大切にするというのはまさにその通りだと痛感せずにいられない。

英訳例 
※太字の部分は、「つながり&まとまり」を整備するために敢えて補っている部分です。

I have been a big fan of music. I was such a struggling student that I bought a single or an album with what little money I had saved and would listen to them repeatedly until they were worn out. That made me remember the title of each song and every single word in them.
Now I earn enough myself to buy a lot of pieces of music on the Internet. But I have never listened to many of them afterward, only piling up CDs or storing downloaded tunes. Sometimes I do not even realize I already have one until I buy the same title and bring it home.
I still love music a lot, but my love for what I have seems to have changed. I have learned this lesson the hard way---if you have less, you would appreciate it more.

以上、和文英訳二題雑感でした。

本日のBGM: さよならアメリカ(くるり)〜 さよならアメリカさよならニッポン(はっぴいえんど)

“Life can be hard enough”

受験生対象の直前「ライティング」セミナー、大阪での指導者対象「文字指導/handwriting指導法」セミナーも終了しました。

時節柄、様々な懸念を感じながらの参加だったかと思います。本当にお疲れ様でした。
昨日25日、そして本日26日が国公立大学の前期試験。
実力を発揮できていることを願っています。

今さら何を、と言われるかもしれませんが、今回の直前セミナーを開いてみて、大手模試で「高偏差値」と目される高校生、受験生でも、英語らしいつながりとまとまりのあるパラグラフを書けないケースが多いということ、そして、そういうケースでも適切なガイダンスとフィードバックがあれば「過去問」の演習だけでも、ライティング力として生きてくるということを受講生の素晴らしい取り組みで実感しました。

受験生対象講座の受講者からの感想を、了解を得てこちらに載せておきます。

このセミナーを受講した理由は、身の回りにライティングを見ていただける先生がいないことと、エッセイの論の進め方が分からないことでした。」松井先生は「ナラティブ」というテクストタイプから始まり、比較、定義、対比などの英語表現を、受験生の陥りやすい点に言及しながら、提示されました。これは単調で説得力がない文を続けがちな私への処方箋となったと思います。英作文は、文法について習う機会が多かったのですが、ここまで英語ライティングの論理を丁寧に教わる機会が無かったので、今日の授業は新鮮でした。まずは、復習に励んで今日習った表現を吸収しきります。

先日はありがとうございました。有してはいる知識 (パラフレーズや具体・抽象など) の読解以外での新たな使い方を教えていただき、正直なところ目から鱗でした。 私が現在通う予備校では (大手かつ首都圏で教育機会は充実しているはずですが、それでも) 自由英作文単体の講座というのは大変少なく、そうした講座でさえも 講師1人:生徒100人超 という場合が多く添削システムには限界があります。また直前期である今は講師の出講日は不定期であり、添削が必要でも十分には頼みきれないという現実があります。
 そんな中、志望大をセンター後に変更し急遽自由英作文対策が必要となった私の目に飛び込んできたのが今回の講座でした。いざ行ってみると解説で脳内がスッキリと整理されて、その後受けた添削では大学の出題意図までが見通せるようでした。また、オンライン添削が付くのも非常にありがたかったです。C講座もD講座も私大入試と重ならなければ参加したかったです。残り日数は少ないですが、努力のベクトルは示唆して頂いたのでやれる事をやり、「砂漠の中のオアシス」を目指したいと思います。お世話になりました!

今回私はA講座B講座の2つの講座を受講しました。A講座ではガイダンスとの事でしたが、松井先生の仰る事1つ1つが新しく知ることで自分のライティングにおいての未熟さを痛感しました。学校や予備校では習うことのないだろうものを知ることができ、1回の受講でも今後の英語を学ぶ姿勢や方法に生かせるなと感じました。私の勝手な解釈ではありますが、長文から英語を学ぶ、生きた英語から英語を学ぶということを伝えたいのかなと感じました。B講座では受講者の数があまり多くないということもあってか、志望大学に特化して添削をして頂きました。論理のつながりはエッセイライティングの基礎ではありますが多くの人が出来ていないポイントで松井先生はそこに重点を置いて教えて下さりました。受験まで残り僅かではありますがこの2回の講座を通して学んだことを生かしていけらなと思います。また受験に限らずこれからの英語の学習においても生かしていきたいです。

今まで感覚的だった、英語らしい話の組み立て方、自然な繋がり方を論理的に理解することが出来ました。また、準1級の模範解答の添削を通して読み手の感覚を、自分の書いたものの添削を通してイイタイコトにしっかりとした輪郭をもたせる書き手の意識を教えていただきました。ありがとうございました。

講座は短時間で終わってしまいましたがとくに内容・論理展開の面では一年分の勉強に勝るくらい(私が不勉強なのもありますが)鍛えられたと思います。私の語法・表現のレベルは、おそらく先生に見ていただくレベルにまだ達していなかったと思いますが、既習事項との関連という観点から多くのものを学ばせていただき、自分の勉強の質を高める必要性を改めて痛感いたしました。


D講座は、本当に直前の受験生対象セミナーとなりましたが、東京外国語大学と東京大学の「ライティング」に関しては、本当に有益なセミナーだったのではないかと自負しています。

今回の受講者の方は、皆twitterでのつながりから申し込んでくれた方たちでした。どなたとは言えませんが、大手予備校の講師の方から直接受講を勧められたという方もいらっしゃいました。この場を借りて御礼申し上げます。

一橋とお茶大の「ライティング」も見てみたかったのだけれど、「ニーズ」がないことには始まりませんね。短期間で少人数だったけど、あらためて受験生の頑張りと、自分の「経験知」の高さを感じました。本当に、よくその場で「言いたかったけど言えなかったこと」を的確に汲み出せるな、と自画自賛。

オンラインでやりとりしている他の国立大志望の受験生の「ドラフト」を見て感じるのは、やはり「語義」をしっかり捉えているか、ということ。主題から外れずに論を展開するにも、キーワードの「語義」、その語義の「グループリーダー」となる語を、そこで「バシッ」と出せるか、というのが大きいなと。

ある受講生のコメントにあった「砂漠の中のオアシス」というのは、私がセミナーで説いた心構えです。凡庸で紋切り型のテンプレートに当てはめただけの「エイブン」答案が何百枚も続く「砂漠」の中で、採点官が出会う「オアシス」のような、つながりとまとまりの満たされた「英文」を目指しなさい、ということです。

東大志望の某受講生とは、「この語は、守備範囲に入っている?入ってる。じゃあ、この次の展開では…」とか、「それは、今の私にはちょっと出てきませんね」という反応に対して「では、これだったら?」というやりとりができて楽しかったです。

別の受講生の方は直前のC講座とD講座だけでしたが、上述のコメントとは裏腹に、既に堅実な合格圏の答案を作れるベースのある方でした。そこからの「飛躍」「群を抜く」というところを目指すべくフィードバック、助言をさせてもらいました。

首都圏在住ではない方に、オンラインで過去問添削指導もしていましたが、国公立大志望の方の親御さんから、こんな感想をいただきました。

(子供も) こんな英文添削は初めてで、丁寧で分かりやすいと感動しています。やる気スイッチも入った様子。ありがとうございます。

オンライン指導をしてきた別の受験生の親御さん&本人からはこんなコメントをいただいています。

娘の英作文の添削をお願いしたのはセンター試験終了後。筆記とリスニングでそれぞれ9割はとれたものの他教科がふるわず、ワラにもすがる気持ちで松井先生にお願いしました。ご多用にもかかわらず、快く引き受けてくださった先生には感謝の気持ちでいっぱいです。志望校の二次の英語は難易度が高く英作文の配点が高いので、ライティングの専門家である松井先生のご指導を是非にと思う親の願いを汲んでくださいました。

使用語彙・コロケーション・内容・英文構成にとどまらず、作問者の意図を読み解答者としての娘の思いを活かしたアドバイスをしていただいています。細かく書き込みをしていただいており、内容はどれも痒いところに手が届くものばかりです。最初のアドバイスをいただき二度目のライティングをしたときに、書きながら松井先生からの言葉が浮かびスラスラと書けたと言っておりました。

娘には、ライティングのエッセンスとヒントがたくさん書かれてある松井先生のブログを読むことも薦めました。彼女がやる気になる言葉もアドバイスの中に散りばめてくださり、以前より二次に向け前向きに取り組んでいます。自信を持ち二次に向かい良い結果を掴み取ることを願い、松井先生のご指導のもと頑張らせたいと思っています。

松井先生に添削して頂いて、英作文を書くときにする自分の癖がよく分かりました。文も前後がきちんと繋がるように展開を今まで以上に考えるようになりました。1つの単語にもどの単語と組み合わせたらより良いのかなど教えて頂き本当にためになりました。対面式でのやり取りではなかったので最初は上手くできるか心配でしたが、添削して頂いて良かったと思います。ありがとうございます。二次本番に向け最後まで努力しますのでご指導よろしくお願いします。


お読みいただけば分かると思いますが、こちらの親御さんは英語のことが本当によく分かっていらっしゃる方です。オンラインのみで制約は多いのですが、私もできる限りの支援をさせていただきました。

対面&オンラインとも、直前の短い間の指導しかできませんでしたがで、こちらこそお礼を言いたい気持ちです。ありがとうございました。

ということで、以前の呟きの繰り返し。

通常の読解の授業であっても、その重点の半分、ことによると半分以上が「語義」なので、やはり辞書は欠かせません。なんとなくで済ませていると肝心なところで「端折って」いることに気づかない。そして「読み」では端折れることがあっても、「書き」では無理。

  • 今こそもっと「ライティング」を!

ということですね。

大阪セミナーの前夜、兵庫の加藤京子先生が「セミナーで使って」と言ってマスクを一箱持って会いにきてくれて、久々にその慈愛に包まれました。
加藤先生に学ぶチャンスを得たY先生と三人で会食。お店の方に「そろそろ閉店で…」と言われて気がつけば5時間以上経っていてびっくり。
ライティングに関して、英語教育に関して、そして教育に関して、大変な思いをすることは多いのですが、本当にこの人を目指して、この人に学んできて良かったと、そして、その私が体験できた学びを、自分よりも下の世代につなぐことができて良かったなと実感できたのが何よりの収穫でした。多謝深謝。

本日のBGM:(I’m) A Believer / The Lilac Time