"to my dismay" という表現に関して、失望したことには…

新年度の準備に余念のない日々ですが、昨年から継続する教材などは、十分精査してよりよい使い方を考えておくことが大事。
私の使ったもので言えば、例えば、このような英文。

To her great surprise, her uncle failed in the business. 
彼女がとても驚いたことに,おじさんが事業に失敗した。
Much to her disappointment, the fireworks were canceled due to rain. 
彼女がとてもがっかりしたことには,雨のために花火が中止になった。

イントロで総括するかのように「主語の感情」を述べる「どどいつ」=前置詞+名詞のチャンクの用法で、学参や問題集だと数例が箇条書きやパネルでの一覧で対訳がついて終わり、という感じ。

辞書ではそれなりに用例がありますが、「生息域」はなかなか。
例えば、Oxford類語には、フォーマルな文脈で用いられるという注記がありますが、そこでの用例はこの一文。

To her chagrin, neither of her sons became doctors.
残念なことに,彼女の息子は二人とも医者にはならなかった

フォーマルと言うからには、誰が誰に対して、どのような場面で、何を目的に発する文なのか?
といった実感に少しでも迫りたいと思うのですよね。
「辞書にも、もう少し、バラエティ豊かな用例を配して欲しい」という思いで、前任校では、学級文庫に異なる辞書を数多く用意していました。
当時の写真を参考までに。

表現のバラエティ、という点では、代名詞の所有格以外の用例も欲しいところです。
所有格は所有格でも、アポストロフィの例が、Longman連語にあります。

To everyone’s surprise, they announced that they were getting married.
To Edward’s disappointment, Gina was not at the party.

同辞典には感情の程度を強調するものもあります。

To my utter surprise, I won first prize for my essay.

BBIの連語辞典は、私の世代やその上の世代では人気のあった辞典ですが、「強調」の例をところどころ載せています。

To everyone’s great disappointment, she failed the course.

BBIでは、かっこづけで用例のオプションも示しています。

To my great dismay, she was absent again.
= Much to my dismay, she was absent again.

(Much) to my relief they got home safely.

(Much / Greatly) to my regret, she retired last year.

BBIで気になるのは、

  • オプションで強調形を示している名詞と、示していない名詞の差に何かあるのか?
  • 強調での修飾語が前置の場合と後置の場合での差は?
  • 前置のmuchとgreatlyが両方とも使えるものと、muchしか使えないものがあるのか?

というようなこと。

特に、「強調形」は、入試問題でも時折出題されているようですから、「頻出問題集」の類いでは、一例・一題くらいは収録しているものが多いでしょう。

入試問題の実例を少し眺めてみました。

To my great surprise, she won first prize in the speech contest.

これは、誤文指摘で出題されていたもの。誤文の方は示しません。

Much to the dismay of my Singaporean friends, the first app I ever downloaded was LINE, the instant messaging app that is popular in Japan but apparently not in Singapore.
(シンガポール人の友人たちを大いにがっかりさせたのは、私が初めてダウンロードしたアプリがLINEだったこと。日本では人気のあるメッセージアプリだが、シンガポールではそうではなさそうだったので。)

これは長文の中での空所補充。選択肢はあるので、まあ容易な部類かと。

そうかと思うと、次のようなのもあります。文章全体の第一段落です。

Dr. Jekyll and Mr. Hyde came to Robert Louis Stevenson in a dream, in October 1885, on a wind-whipped night by the sea. He'd fallen asleep uneasily, and as his wife, Fanny, remembered, "my husband's cries caused me to rouse him, much to his indignation. 'I was dreaming a fine bogey tale,' he said reproachfully"
ジキル博士とハイド氏がロバート・ルイス・スティーヴンソンの夢に現れたのは、1885年10月、風が吹きすさぶ夜の海辺でのことだった。彼は眠ったものの落ち着かない様子で、妻のファニーはこう回想している。「夫が何度も叫ぶので、私は起こしたんです。で、彼に物凄く怒られました。『せっかく、怪物の出てくる良い話で夢を見てたところだったのに」と恨めしそうに言ってましたね。」

出典はリンク切れが無ければこちらで読めます。

Findings: A Bogey Tale
By Brian Doyle | June 1, 2006
theamericanscholar.org

こんなものを語句の注無しで読まされる受験生も大変ですが、大手予備校の解答速報ではまず出てこないし、過去問を一般の教材として活用しよう、とはならないような出題校だと、殆ど話題にもなりませんね。

このタイプの感情表現で使われる名詞の代表例は

驚き surprise
落胆 disappointment
歓喜 delight
安堵 relief
後悔 regret
悲嘆 sorrow

など。
ただし、感情・情緒は重なる領域も多分にあるので、

  • chagrin = annoyance + disappointment

だったり、

  • indignation = shock + anger

だったり、はたまた

  • dismay = fear, worry, or sadness

だったりするので、ばっさりと境界線を引くことは難しいものだということは知っておくのが良いと思います。

その意味では、次のような入試での問い方は要再考ではないかと。

An opposite situation is described in Somerset Maugham's story "The Alien Corn." Here the elegant young son of a newly ennobled family, being groomed for a gentleman's life of hunting and shooting, develops, to his family's dismay, a passionate desire to be a pianist.

What does the underlined phrase, "to his family's dismay" imply?
(a) His family had always expected him to be interested in music.
(b) His family was shocked that he had developed an interest in music.
(c) His family believed that he would lose his interest in music.
(d) His family assumed that he would grow interested in music in Germany.

上智大学の2019年の出題で dismayを文脈に則して解釈させるもの。
本当に (b) のshocked で適切でしょうか?

私が類義語や反意語を確認する際によく引くのはCollinsの辞書ですが、そこでは適切な文脈を当てはめられるように、

  • Much to her dismay, he did not call.

という用例を配して、次のような類義語を載せています。

dismay
a feeling of alarm or depression
disappointment, upset, distress, frustration, dissatisfaction, disillusionment, chagrin, disenchantment, discouragement, mortification

ここには、"shock" は出てこない模様。
語義が分かっている人のほうが悩んだりしませんかね?

もう少し、語義や類義語を見てみましょう。
同じ辞典で、

  • consternation

を引くと、その語義と類義語はこうなっています。

consternation
a feeling of anxiety or dismay
dismay, shock, alarm, horror, panic, anxiety, distress, confusion, terror, dread, fright, amazement, fear, bewilderment, trepidation (formal)

語義では "anxiety + dismay" で、こちらの類義語には "shock" が入っているのですね。

上述の『Oxford類語』では、「類語スケール」で、意味の強さを表す工夫をしています。

<<

こちらでは、shockを上位語として、そのスケールの一番弱いところに dismayを配しています。
collinsで語義を説明するのに使っていた "alarm" の入るスケールが右にありますが、そちらを見てみます。
fearを上位語としていますが、そのスケールには shockは見当たりません。

米国の辞書出版社の定義に目を移すと、MW's の学習用では

dismay
a strong feeling of being worries, disappointed, or upset

となっています。shock に近い要素があるとすれば、これまた悩ましい、形容詞の "upset" に求めることになるでしょう。
同辞書で形容詞のupsetを引くと、

  • angry or hanhappy

と、そっけない返事。
米語で頼りになる学習者用辞書があまりない現状なので、少し古いですがマクミランの米語辞書から、形容詞のupsetの定義を、

  • very sad, worried or angry about something

なかなか、shockへ辿り着けず凹みます。
同意語、類義語などとよく言いますが、「語義」と「言い換え」の難しさを感じます。

他にも、上述の辞書からの引用例、入試出題例でも見られた「強調形」で典型的な、

  • much to one’s 名詞

  • to one’s great 名詞

とは、いつでも置き換え可能なのか?
も悩ましいところです。

実例を見ておきましょう。


The past two years, the Braves have closed in Philadelphia, much to their dismay. This time, they opened celebrating with a 9-3 comeback victory Friday.
(過去2年間、ブレーブスはここフィラデルフィアでは試合が開催されないままだった。今回、金曜日の試合で9-3の逆転勝利で祝杯をあげた。)

報道見出しですが、ここでは、 "much to their dismay"です。


Deputies said, "To our great dismay, the dogs have been identified as the two black labs, Colby and Caleb, that were stolen from the Waid Park area last week."
(副保安は、"大変残念ですが、この犬は先週ウェイド・パーク地区から盗まれた2匹の黒ラブの、コルビーとケイレブであることが判明しました "と語った。)

こちらは、 "to our great dismay" で文頭。公的な立場にある人の話しを引用した部分なので、話しことばではあっても、ある程度改まった場面、とは言えると思います。
どちらの表現も使われていることはわかりますが、そこから先の「使われ方」は、これだけではよく分かりません。

辞書や教材で、こういう「痒いところ」を押さえておいて欲しいと、無い物ねだりをしながら、いつもいつもいつも、ざっくりと検索し、比較検討して、授業に臨んできました。

それでは以下、検索結果を。
COCA系では、単語レベルではありますが、キーワードを元にした「類語」での検索が可能ですので、そちらを見て、語義と類語同士の頻度の差を確認します。

COCAで、surpriseの類語で検索

COCAで、dismayの類語で検索

COCAで、disappointmentの類語で検索

注目すべきは、 "dismay" から類語検索をすると、"disappointment" も "shock" も出てくるのですが、"disappointment" から検索すると、 "dismay"も"shock"も出てこない、というところ。相互に置き換え可能というわけではないということですね。
同様のズレは、chagrinにも当てはまります。

COCAで、chagrinの類語での検索

COCAで、regretの類語での検索

ここでも disappointmentが出てきます。

COCAで、sorrowの類語で検索

disappointmentの磁場に引き寄せられていますね。

COCAで、horrorの類語で検索

dismayやshockが出てきました。

プラスの意味合いの語も見ておきましょう。

COCAでdelightの類語

COCAでsatisfactionの類語

COCAでreliefの類語

relief一択ですね。

続いて、「強調形」の比較。

COCAでmuch to one's surprise

同じく to one's great surprise

頻度では、ダブルスコア以上で "much to" が優勢です。

COCAで much to one's disappointment

同じく、to one's great disappointment

大きな差は見いだし難いです。

COCAで much to one's dismay

同じく、to one's great dismay

disappointmentの磁場に影響されつつも、much to優勢。

COCAで much to one's chagrin

同じく、 to one's great chagrin

圧倒的に、much to 優勢。to one's greatの方はdisappointmentの磁場に呑み込まれた感じ。

COCAで much to one's regret

同じく、to one's great regret

disappointmentの磁場に呑み込まれ、大きな差は見いだせません。


最後は、Ngram Viewer で見てみましょう。

surprise/relief/joy で
全体




reliefeをベンチマークにして、dismay/delight





dismayをベンチマークにして、chagrin/regret
全体




<much to one's 名詞>と <to one's great 名詞>との間にそれほどの差がない名詞もあれば、明らかにどちらかが優勢な名詞もある、ということが確認できたと思います。
公式化して、過度の一般化でわかったつもりになるのではなく、

  • 「何が自然な結びつきで、英語らしい表現か」

というのも名詞によって変わってくることを理解しなければなりませんね。

本日はこの辺で。


本日のBGM: the disappointed (single version)/ XTC

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