綱渡り

現在、非常勤で出講中の高校でも定期試験の季節。
作問はいくつになっても、いつまでたっても、難儀します。
今回も締め切りギリギリで完成&提出。

試験に関連して、高校生でも、というか高校生だからこそのhandwritingの注意点があるので、資料を作って定期試験前に配布しています。

ツイッターでも紹介していました。

スライドも再掲。

もう2年以上前になりますが、この資料がWEBで公開されていて、誰でも手に入り、目に入るのですから、これからのhandwriting指導は、この先に進んでもらわないと、というのが正直な感想です。

www.jstage.jst.go.jp

文科省や自治体の指導主事だけではなく、教科書の執筆者として名を連ねている、「英語教育学者」や「小中高校段階を担当する著名な指導者」の責任は大きいと思いますよ。

所謂「現場の教員」が頼りにしたいのはそういう方たちであり、教室内外での学習や指導の成否のかなりの部分は、学習者、指導者だけでなく、その学習者・指導者を支える学習材・教材とその指導法・指導体系にかかっていますから。

さて、今日の「気になる語法」は、その「頼りにする」「…にかかっている」界隈の動詞表現。

英語ニュースでは毎日のように目にする、次の表現を「英語ニュース引用RT紹介&詳解」で取り上げていました。

句動詞の "hinge on" ですね。
COBUILDから、辞書の定義文と用例を引いています。


定義文は的確ですが、『コウビルド米語英英和』で、用例につけられた和訳は、補助線を加筆することが好ましいと思っています。

Something that hinges on one thing or event depends entirely on it. 次第である
The plan hinges on a deal being struck with a new company.
計画は新しい会社と結んだ取引次第だ.

この「ことの成否などが…次第である;…にかかっている」という語義を担う英語の動詞表現でのグループリーダーは、何といってもdepend on でしょう。

次のツイッターのタイムラインを見てもらえば、毎日のように見るこのグループの中でも、depend on が群を抜いて多いことが実感できると思います。

success depends on での検索
https://twitter.com/search?q=success%20depends%20on%20&src=spelling_expansion_revert_click&f=live

success rests onでの検索
https://twitter.com/search?q=success%20rests%20on%20&src=typed_query&f=live

success hinges onでの検索
https://twitter.com/search?q=success%20hinges%20on%20&src=spelling_expansion_revert_click&f=live

グループリーダーのdependの語義を確認しておきましょう。
G6 vs Wisdom

COBUILD (10th) vs 中級(5th)

気をつけておきたいのは、日本の英語教材では、兎角「人主語」の方を先に、教え・学び、覚えるように作られているという印象ですが、現代の英語としては、「もの/ことがら」を主語にする「…にかかっている」の語義の方が、「人が…に頼る;頼りにする」語義よりも、使用頻度も高く、習熟度・発達段階でも、より初期にある、というところです。

次のOxford類語辞典(小学館版 vs オリジナル)での、3例目の英文に注目。

ここで、前置詞的(分詞構文的?)に用いられている depending on を「頼る;依存する」といった日本語(訳)に絡めて提示するのは、誤解の元だと常々思っています。

LongmanのActivatorでは、元になる語としてdepend/it dependsを設定し、そこでまず、次の語義を示しています。

  • 1.when what happens is influenced by other facts or events

そして動詞の語義として

depend
if something depends on a fact, result, decision etc, it is not fixed or decided because it will change if the fact, result, decision etc changes

を示し、そのカテゴリーの中に、according to の次に、

  • depending on something (前置詞)として

use this to say that what will happen or what you do will change according to what happens in another situation

  • Inflation goes up and down depending on the state of the economy.
  • In many languages there are different words for “you” depending on who you are talking to.
  • I kept getting different answers depending on who I asked.

といった語義と用例を示しています。

近年、私が気になっているのは、この「…次第である;…にかかっている」という語義を、動詞句(句動詞)の

  • rely on

で表す人が増えていることです。

twitterでは、2008年には既に、このrely onの主語にsuccessが使われた例を見ることができますが、近年目にする頻度が増えた印象を持っています。

https://twitter.com/search?q=success%20relies%20on%20%20until%3A2009-01-01%20&src=typed_query&f=live

NYTのMagazineでは、2013年5月12日の記事 (オリジナルはBy Jon Mooallem, May 8, 2013) で、successを主語にした例があります。

NOAA was focused on saving an endangered species by repairing the ecology around it. But more and more, the success of conservation projects relies on a shadow ecology of human emotion and perception, variables that do not operate in any scientifically predictable way.

www.nytimes.com
(NOAAは絶滅危惧種を救うために、その種の生態系を修復することに注力していた。しかし、自然保護プロジェクトの成功は、ますます人間の感情や知覚という影の生態系、科学的に予測できない変数によって左右されるようになっている。)

FTでは、2020年の寄稿記事のタイトルで使われていました。

The BBC’s formula for success relies on the funding model
Tony Hall
JANUARY 13 2020

www.ft.com
(BBCの成功の方程式(が成り立つがどうか)は資金調達モデルにかかっている)

この記事には、”The writer is the BBC’s director-general” という注もついています。

NPR系のメディアでは、2020年の記事で、学生新聞編集長の大学生のコメントを引用する部分で使われていました。

"If the success of your plan relies on 18- to 24-year-olds being responsible, then maybe it's not a very good plan," says Anna Pogarcic, a senior at UNC and the editor-in-chief of the student newspaper.

www.kut.org
(「計画の成否が、18歳から24歳の責任感次第なら、それはたぶん、あまり良い計画ではないでしょう」と、UNCの4年生で学生新聞の編集長を務めるアンナ・ポガルチッチは言う。)

第78回国際連合総会議長Dennis Francisの2023年1月27日のツイートから。

The implementation and success of the SDGs relies heavily on the adherence to the Rule of Law.


(SDGsの実施と成功は、「法の支配」の遵守に大いにかかっている)。

グループリーダーのdepend と relyとの違いに関してですが、Oxford類語辞典では明確な棲み分けをしています。

rely on の方は、depend on のグループではなく、needのグループで、requireやcall forと仲間という扱いです。

古くは

“depend” は ”rely” よりも依存の度が強く切実なものがある。本人の好むと好まざるにかかわらず、頼らざるを得ない事情があるという含みがある。そしてまた依存する当事者が人間ではなく物事であってもよいのである。
“rely” の方は当事者は人間に限定されている。
最所フミ 『英語類義語活用辞典』(増訂新版、1984年、研究社出版;p.59)

という記述がありました。
しかしながらこの名著も既に、40年前の本。
現代英語では、relyは単なるneedの下位範疇ではなく、dependや hingeなどと同じく、「ことの成否を大きく左右する」「命綱を握っている」というような文脈でも用いられるようになっています。

日本語で考えても、「…が頼みの綱」という慣用句や、「あとは…頼みです」などという比喩表現もありますから、「ことの成否を左右する」という意味と「…を頼りにする」という意味とはつながっていると考えられていても不思議ではありません。

例えば、『研究社和英大』では、次の例のように、「…頼み」に depend on/depend uponを当てています。

どのくらいの距離を跳べるか, あとは風頼みです.

  • How far I can jump (today) all depends now on the wind.

その番組の視聴率はもっぱらその女性キャスター頼みだ.

  • The audience ratings for that program are wholly dependent upon the anchorwoman.

『ジーニアス和英』は、いち早くこの語義でのrely on を使った例を、「成否」の項に収録していましたが、同じジーニアスでも英和では、最新の第6版でも取り上げられていません。

Oxford系でも、OALDやOxfordのアカデミック版ではこの語義と思われる用例を載せていますが、どれもrelyの項目にはありません。

その一方で、現行のコウビルド(10th) では、rely の定義文に、ことがら主語の記述が全く見られないのも気になります。

rely VERB
If you rely on someone or something, you need them and depend on them in order to live or work properly.

  • [V + on/upon] They relied heavily on the advice of their professional advisers.

VERB
If you can rely on someone to work well or to behave as you want them to, you can trust them to do this.

  • [V + on/upon] I know I can rely on you to sort it out.
  • [V + on/upon] The Red Cross are relying on us.

コウビルドの初版(1987 年)では、人以外の主語の用例で、次のような文を載せていました。

  • Hong Kong’s prosperity relies heavily on foreign businesses.

この語義の記述は、現行版など、コウビルド典型の文定義ではなく、”To rely on something or someone means to need them and depend on them in order to survive or work properly.” という、 A means B の定義文を採用しています。因に、ここでの “(to) work properly” のworkは「労働」ではなく、”function” と同意の「適切に/首尾よく機能する」という語義で解釈するべきものでしょう。

Cambridge Advanced Learner’s Dictionary (第4版、2020年)では語義、用例でsuccessの文脈を取り込んでいます。

rely on sb/sth B2
to need a particular thing or the help and support of someone or something in order to continue, to work correctly, or to succeed:

  • The success of this project relies on everyone making an effort.

句動詞辞典を見てみましょう。
『ロングマン句動詞辞典』(1983年) には、ことの成否はおろか、ことがら主語の語義用例は見つかりません。
「モノ主語」の用例は、

  • The town relies on the seasonal tourist industry for jobs.

と「依存」の文脈での「…頼み」の用例で、この語義は、”to be dependent (on something)” と定義されています。

Oxford Dictionary of Phrasal Verbs (1993年)では、モノ主語の用例は全て受け身でした。

『マクミラン句動詞活用英英辞典』(2005年)では、モノ主語で、

  • The industry relies heavily on government subsides.
  • The museum relies on voluntary donations to keep open.

という用例を載せ、語義は “to need something in order to continue living, existing, or operating” と定義。

Cambridge Phrasal Verbs Dictionary(第2版、2006年) では, “to need something in order to survive, be successful, or work correctly”という定義で、次の用例を載せています。

  • This organization relies entirely on voluntary donations.

Collins COBUILD Phrasal Verbs Dictionary (第3版、2012年) は、現行のコウビルドの本体とは異なり、

  • This country’s success relies heavily on foreign businesses.

という用例を載せています。本体の初版にあった、Hong Kongを修正したものであることは明らかでしょう。
この語義の記述は、本体の初版と同様に典型的な文定義ではなく、A means B のタイプですが、”To rely on something or someone means to need them in order to survive or be successful. = depend on” となっていて、”to be successful” という初版にも、現行版にも見られない語義が加わっています。そして、depend on との同義で言い換えられるという注も含め、適切で的確な扱いになっていると思います。
なぜ、この2012年時点で、句動詞辞典では反映されている語義や用例が、本体の第8版、第9版、そして現行の第10版に継承されていないのか、気になるところです。

Longman Collocations Dictionary and Thesaurus (2013年)では、 “to need someone or something in order to do something” というかなりアバウトな定義ではあるのですが、その下に、

  • The country’s economy continued to rely heavily on tourism.

という用例を載せています。


ここからは、オンラインコーパスの検索結果を貼っておきますので、適宜拡大してご覧下さい。

NOW

単なるヒット数でいえば、depend on の6分の1程度ですが、hinge on よりは下、rest on よりは上ですね。

Glowbe

GBでのヒット数が目に付きます。

ベンチマークとして、COCA

SPOKでのヒット数はなし。2010年代以降で増えた?でも、2015-19ではヒットせず。

COHAで経年変化。

2010年代になって初めて2例。COHAはCOCAと同様に、均衡コーパスですから、この「2」にはそれなりの意味があるでしょう。

TVコーパスでも同様の印象。

今度は、COCAのコロケーションでの検索で、rely on よりも左にsuccessが出てくるものを探ってみました。

NOWで。ノイズも拾いますが、単純なヒット数は倍増。

生息域を観察&推測。




程度を強調する副詞で、entirely/solelyと共起する例を検索してみました。
GLOWBEから。

NOWから。

solelyで、ついに赤のslow query警告が出てしまいましたので、COCAでの検索は一段落とします。

代わって、Ngram Viewerでの結果。

全体





2024年5月20日追記:
この記事の執筆時にはCOCAで警告が出て、検索が止まっていたのですが、主語にfateを立てて「命運を握る」のような文脈で rely on が使われる例も見ておきましょう。
NOW




程度や強意の副詞付き

COCA

あくまでも印象ですが、近年になっての実例が拾われています。

rely on という表現が新たな生息域を見つけ、活性化してきている、という感じでしょうか。
辞書に適切に反映される日も、そう遠くはないのでは?

  • 「既に、現代英語の語法研究の成果が発表されて、知見は共有されているいるよ!」

という状況でしたら、ご教示下さい。

本日はこの辺で。

本日のBGM: お前次第ってことさ (口ロロ & the band apart)

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