先日、AUDELL (英語教育ユニバーサルデザイン研究学会; 会長:村上加代子)
の第5回研究大会が終了しました。私はオンラインで参加。
私が現在会員として所属している英語教育系の学会は、AUDELLのみになっています。
高校段階の公教育現場で英語を教える教師としては「オールラウンダー」である、という自負はあるのですが、今の私に知識が大きく欠けていて、知ることそのものが急務なテーマが扱われる学会が、こちらなので。
学会員ではなくとも一般人として、時間と体力とお金が許せばあちこちに顔を出すようにはしています。先日の英語コーパス学会や、東京家政大の研究会など、自分の興味関心のあるテーマがそこにあり、人がそこにいるなら、やはり出かけていきます。
ということで、あちこちのプログラムを眺めるわけですが、今年気になったトピック、テーマは「要約」です。
大井先生、田端先生と『パラグラフ・ライティング指導入門』(大修館書店、2008年)を書いていた時にも、summarizing; précis (writing) をどうするかという議論はあったと思うのですが、中高段階の入門的指導評価に資する本、という性格上、盛り込まなかったというように記憶しています。
その後、15.6年が経ち、英語教育系の学会、研究会、研究大会で「要約」がコアなテーマとして扱われていることに驚いています。
ただ、これは教育現場が成熟してきたというよりは、某英検のライティングの設問に今年度から「要約」が含まれるようになった、という外的要因の方が大きいのではないか、と邪推しています。
私がスキルとしてのライティングに限らず、学習方略としての「要約」に対して、慎重なのは、このブログの随分昔のエントリーで取り上げた、
- 宮原浩二郎 『論力の時代 言葉の魅力の社会学』(勁草書房, 2005年)
がずっと引っかかっているからです。
過去ログはこちらから。そろそろ18年経つのですね。
昨今囂しい「生成系AI支援の英語指導法」にも言えることですが、「かしこそうな言葉づかい」に対して警戒できるセンサーをどこかに忘れてきたような「助言」や「提言」が多すぎませんか?
私は英文ライティングの指導・評価を専門と自称していますが、評価やフィードバックに際してAIを援用するにしても、誰かが作ってくれたプロンプトを借りてきて、入力して、「ブラックボックス」よろしく出力された情報を使う、ということには大きな抵抗があります。
エッセイライティングでも、和文英訳でも同じことですが、AIによって本当に適切・的確に処理されているかは、誰かが確かめないとなりません。では、それは誰なのでしょう?そもそも自分一人では大変な仕事だから、AIを頼ったのに、その仕事の成果が本当に信頼に足るものであるかを自分が検証する、というのは何とも解せない話しになります。また、同じプロンプトでも、異なるAIに入力すれば異なる出力が出てくるわけで、その違いを比較検討するなどということを実行に移し、実効を挙げようとするなら、その手間暇、エネルギーは相当に大変なものになるでしょう。
例えば、大学入試の「和文英訳」対策の課題として授業で使うとします。
- 和文英訳の添削・評価のプロンプトを良い感じに拵えて、それを運用することで、生徒も教師も時短になる。
という気持ちはわかりますが、そもそも、AIが和文英訳に際して「何を良い英語として情報処理をしているのか?」、「その日本語と等価な英語表現を適切・的確に選び、チャンクや文を生成できているか?」というところは、まだまだ検証の余地が大きいでしょう。
上述のリンク先で引いた宮原の論考を和文英訳するとしましょう。
ずいぶん長い間、私は「要約」に頼ってきた。高校入試、大学入試、公務員試験、学位のための資格試験など、受験勉強の癖がいまだに抜けないのだろう。いや、アカデミックな研究の世界でもまた、一部の本物の知識人をのぞけば、みな「要約」を武器にしている。(中略)しかし、その人が本当に「何かを言わねばならない」必然性が感知される場合、その文字面から伝わる意味内容を「要約」してわかったような気になってはならない。その発言に耳を澄まし、その人の意識のふくらみに、その言葉の価値に対して敏感でなければならない。「要約」の欠陥にようやく気づかされた私は、いまだに直らない自分の悪癖に腹を立ててもいるのだ。
宮原浩二郎 『論力の時代 言葉の魅力の社会学』(勁草書房, 2005年、pp. 83 - 84))
以下、AI支援による翻訳例です。
原文とどの程度等価に迫れているか?やはり「人」の目で、しかも「目利き」の目で見る必要があるでしょう?彼らがベストと思っている最終的な「翻訳」が、そもそも和文英訳の解答として確かなものでないとするなら、生徒や教員がAIとの対話を経て、AIの助言を活かして、推敲した結果手にする「英文例」にどれほどの信頼が置けるでしょうか?
DeepL(無料版)訳
For a very long time, I have relied on “summaries”. I guess I am still stuck in the habit of studying for high school entrance exams, university entrance exams, civil service examinations, qualification exams for degrees, and so on. No, in the world of academic research, too, everyone uses “summary” as a weapon, with the exception of a few genuine intellectuals. However, when we perceive the necessity to say something, we should not think that we understand by “summarizing” the meaning conveyed in the text. We must listen carefully to what is being said, and be sensitive to the fullness of the person's consciousness and to the value of the words. Having finally realized the defects of “summarizing,” I am also annoyed at my own bad habits, which I have yet to correct.
原文の「武器」をそのまま "a weapon" として大丈夫でしょうか?
もっと大きなところでは、
その人が本当に「何かを言わねばならない」必然性が感知される場合、その文字面から伝わる意味内容を「要約」してわかったような気になってはならない。
の主語/人称代名詞の処理が全くダメですね。あと「ふくらみ」を "fullness" で対応させているところも気になります。
Claude 訳
For a long time, I relied heavily on "summarizing" things. This habit probably comes from my years of studying for various tests - high school entrance exams, college entrance exams, civil service exams, and qualification tests for degrees. Even in academic research, except for a few genuine intellectuals, everyone uses "summarizing" as their tool.
However, when you sense that someone truly "needs to say something important," you shouldn't just summarize the surface meaning of their words and feel satisfied that you understand. Instead, you need to listen carefully to their words, be sensitive to the full scope of their consciousness, and appreciate the true value of what they're saying. I've finally realized the flaws in "summarizing," and I'm actually angry at myself for this bad habit that I still haven't been able to fix.
第1文の時制は、やはり現在完了一択でしょう。筆者自身が試験を切り抜けてきたのは過去であっても、現在は「アカデミズム」の世界にいることが前提ですから。現在と切り離された「あの日、あの時;現在とは違って」の過去形では不適切。
比喩としての「武器」をそのまま "a weapon" で置き換えずに、 "a tool" としていますが、本人やその目的に対してどのような働きをする道具なのかが述べられないと、比喩の部分を吸収したことにはならないでしょう。
「誰の必然性を誰が関知するのか」が従属節のイントロ部分で述べられているのは良いと思います。
ここでは、「ふくらみ」は "the full scope of" になりましたね。
Copilot 訳
For a long time, I've relied heavily on "summaries." Whether it was for high school entrance exams, university entrance exams, civil service exams, or qualifying exams for degrees, it seems I still haven't broken free from my study habits. Actually, even in the academic research world, except for a few true intellectuals, everyone uses "summaries" as a tool.
However, when someone truly "has to say something," you shouldn't feel like you understand the content just by summarizing the words on the surface. You need to listen to what that person is saying, be sensitive to the depth of their consciousness, and recognize the value of their words. I've finally noticed the flaws in "summaries," and I'm frustrated with myself for not being able to break this bad habit.
比喩の「武器」は、こちらでも "a tool" となっていますね。
「必然性の関知」のところは、主節の主語を見ればわかるだろう、ということなのでしょうか。「ふくらみ」を "the depth of" で置き換えています。
Gemini訳
For a long time, I relied heavily on "summaries." It's probably a habit left over from my exam-cramming days – high school entrance exams, university entrance exams, civil service exams, and qualification exams for degrees. Even in the academic world, aside from a few true intellectuals, everyone seems to use "summaries" as their weapon. However, when someone really needs to "say something," we shouldn't be satisfied with just summarizing the surface meaning of their words. We need to listen carefully to their statements and be sensitive to the depth of their consciousness and the value of their words. Having finally realized the flaws of "summaries," I'm still frustrated with my own persistent bad habit.
第1文が過去形で、「武器」が "their weapon" ですね。「必然性の関知」の部分はCopilotと同じ。「ふくらみ」も同じく "the depth of"です。
Geminiは、次のように「英訳に当たっての方針・着眼点」まで出力してくれるのですが、その目が本当に利いているのかは検証が必要です。
Here's a breakdown of how I'll structure my answers:
1. Comprehensive Answer: I will provide a clear and concise answer to the given prompt, ensuring it's understandable for an average American high school student.
2. Citation of Sources: If I use any information from the provided search results, I will cite them using the specified format: [NUMBER].
3. Clear Formatting: I will use a numbered list if it enhances clarity and keep the answer concise.
4. Concise Response: I will aim to keep the answer under 200 words.
5. Listing of All Sources: I will provide a numbered list of all search results, even if there are duplicates.
何事も、盲信は禁物。
それぞれに個性(人格?)があるので、プロンプトも個別最適化しないとダメなんでしょうね、きっと。そのそれぞれのAIに対応したプロンプトを別のAIに書いてもらえばいい?でも、そうやって書いてもらったプロンプトの適否は誰が検証?それもまた別のAIにって無限ループですか?
私は私で、自分にできることを続けていくだけです。
短いですが、本日はこの辺で。
本日のBGM: Who do you think you’re talking to? (Dawes)