木になる 気になる

今日は、いつもの「気になる語法」シリーズとはちょっと変わって、同じ「きになる」でも「木になる」モノ関連で、「それを英語で何と言う?」の話し。
先日の過去ログ

「1以外は皆複数」?
tmrowing.hatenablog.com

で私が取り上げた名詞を覚えているでしょうか?

名詞の単数複数を考える際に、名詞の可算性(不可算性)がどうしても絡んでくるので、私としてはかなり厳選した名詞を取り上げていました。

昔センター試験でも出題された “egg” なんていう名詞は、すぐに「料理/食事の素材」がイメージできてしまうので、不可算扱いしやすいように思われるわけですよ。

You’ve got some egg on your tie. Did you have fried eggs for breakfast?

でも、この2009年の出題で問われたのは、最初の卵、 “some egg” の不可算性の方で、二つ目の “fried eggs” の複数形は問われないわけです。嗚呼、何というご都合主義!

一応、Claude3の回答を載せておきます。

The plural form "eggs" is used in expressions like "fried eggs" or "bacon and eggs" because these phrases refer to a dish or meal that typically consists of multiple eggs, even if the specific instance may involve only one egg. This usage is an example of a frozen or fixed phrase in the English language, where the wording is idiomatic and does not necessarily follow the strict rules of grammar. The plural form "eggs" has become an established part of these culinary expressions, reflecting the common practice of serving multiple eggs as part of the dish.


ということで、拙ブログ記事では、potatoとかonionとか、料理の素材感の強いものは取り上げませんでした。
大元の文法書で取り上げられた名詞chairに対応するtableを示した後は、

  • student/teacher/friend

を取り上げています。
これらの名詞って「学生風」「教師らしさ」「友達甲斐」みたいな意味の名詞としてはほぼ使われないでしょう。
であればこそ、

  • no studentとno students
  • no teacherとno teachers
  • no friendと no friends

の両方が実際に使われていることを示す意義があると思ったわけです。
その後で、「不可算性」が強まることがある名詞として、「選択肢」界隈を取り上げ、

  • alternative/option/choice

の検索結果を示していますが、そこでも、この3語を敢えて選んでいる、ということですね。
それに続くのは

  • guarantee/excuse/opinion/expert

そして、それ以上細かく分けることのない最少の単位として

  • degree/second

を選んでいます (もっとも、今ではミリセカンドとかナノセカンドとか言いますけど)。

「素材感」の話しに戻ると、この記事を書いた後で、可算扱い、不可算扱いの両方がある

  • onion

に関連して、

  • garlic

っていう名詞を英語ではどう扱っているかを考えていました。
“garlic” って基本、不可算扱いなんですよ。「ニンニク」は素材感が強いから?形状よりも「匂い」とか「味」が主体?
いや、でも「ゴロッ」てしている形状などは「タマネギ」とそんなに変わらなくない?

ということで、英語では「ニンニク」をどう扱い、どの部分をなんと呼んでいるかを確認しました。

まず、料理/食事で使うニンニクをスーパーなどで探すと、かたまりで袋に入っていたりしますよね?その「ひとかたまり」を指すことばは、通例 bulbという名詞を用いて、

  • a bulb of garlic

と呼んでいるようです。植物の「球根」や「電球」を表すのと同じ名詞です。しかも、onionのあの形状もbulbと呼ぶのですよ。食用では「百合根」の形状もbulbです。
(2024年5月23日追記: 因に、乾湿温度計などのガラス管の下部の「球部」もbulbです。)
そして、garlicでは、そのbulbを構成する、「複数のかけら」状のモノに対しては、cloveという名詞を用いて、

  • a clove of garlic

と呼ぶようです。複数あれば、cloves of garlicまたはgarlic cloves。

Jeremy Wilson
The Garlic Grower’s Handbook (2021)
Squared Roots Farm
から写真を引用。

形状の描写には同じbulbという名詞をあてがっているのに、onion自体は可算/不可算両方で扱い、garlicそのものは不可算扱いするという、恣意性をまず確認しておくことは大事だと思います。

因に、MW’sの一般用の辞書によれば、
garlicの初出は12世紀以前なのに対して、onionの初出は14世紀。
ランダムハウスでは、
garlicの初出は1000年以前、onionは1356-57年、とのことです。

ここで気になったのが、「木になるもの」。
ようやく、本日の本題です。
複数のclovesがa bulbを構成する「ニンニク」と同じように、複数個が一つにまとまっていて木になるもので、食用となるものに、「栗」があるじゃないですか。
この「栗」は英語では可算扱いで、 “chestnut(s)” というのですね。

日本で見る栗の多くでは、一つの毬(イガ)となって木になる中に、3つとか4つとかのchestnutsが入っています。
そして、英語のchestnutの場合は、a chestnutを可算扱いしているわけですが、複数のchestnutsがまとまって「毬」に入っている時に、その「1毬(イチイガ)」は英語では何と言っているのか?


Hazelnut and Chestnut handbook (2020) より

  • a chestnut bur(r)
  • a chestnut case

と呼んでいるようです。
同じouter shell (外皮)でも、chestnut そのものの外皮は husk と呼んでいる模様。

burという名詞は、日本では「ひっつき虫」などとも呼ばれる、「葹(オナモミ)」のイガのような形状にも使われます。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a4/Xanthium_strumarium_000.jpg

Longman Lexicon of Contemporary English (1981)のイラストでのchestnut(上段右端)を見ると、「栗」は栗でも、文化圏・生息域が異なれば、その外見も違うことがよくわかります。因にLongmanは英国の出版社です、

このイラストのようなchestnutは、英国を代表するアーチストAnnie Lennoxさんの公式サイトにあるブログ記事で見られるものと近い品種だと思われます。


www.annielennox.com

ここでのキャプションは詩的ですね。

CHESTNUT TIME AGAIN… PAUSE TO CONSIDER THIS MIRACULOUS WONDER OF NATURE COUCHED IN A SPIKY PROTECTIVE SHELL UNTIL THE MOMENT COMES WHEN IT FALLS FROM MOTHER TREE TO SMASH WIDE OPEN ON THE GROUND BENEATH HER BRANCHES..
SEP 23, 2019 | BLOG

毬は、“a spiky protective shell” と形容描写されています。

これが、米国の辞書ランダムハウスだと、品種も異なり、次のようなイラストになります。

因に、ランダムハウスによる名詞chestnutの初出は1519年。MW’sも同じです。


では、いくつかの辞書から、bur(r) の定義を引いておきましょう。この言葉だけで絵が描けるでしょうか?

コウビルドは初版から変わらず、

N-COUNT
A burr is the part of some plants which contains seeds and which has little hooks on the outside so that it sticks to clothes or fur.

little hooksという形容描写で、「ひっつき虫」系ですね。

同じ系列でもBBC(1992年)では、

On some plants, a burr is a small round part which contains seeds and has little hooks on it that stick to your clothes or to animals’ fur

と微妙に異なります。

OALD

bur(also bur) [countable] the seed container of some plants that sticks to clothes or fur

毬(イガ)そのものの形状の描写は詳しくありません。

LDOCE

burr 又は bur
the seed container of some plants, covered with sharp points that make it stick to things

sharp points と大雑把で、stick to things も大雑把。

Cambridge

burr
a very small, round seed container that sticks to clothes and to animals’ fur because it is covered in little hooks

「ひっつき虫」系の定義で、hooksによって、動物の毛にも着くことが書かれています。
MED (米語版)

bur or burr
the part of some plants that is covered all over with PRICKLES (= small sharp parts) and contains the seed

こちらでは、hooksではなく、pricklesという形容描写です。

Collins

bur
a seed vessel or flower head, as of burdock, having hooks or prickles

こちらでは、hooks or pricklesとなっています。

Australian Oxford Dictionary (2nd)

burr also bur
(a) a prickly clinging seed case or flower head
(b) any plant producing these
(c) a person who is hard to shake off

一般用だけに簡潔。

AHD

bur also burr
A rough prickly husk or covering surrounding the seeds or fruits of plants such as the chestnut or the burdock.

典型例として、chestnutが用いられています。


さあ、ここまで

  • garlic / onion / chestnut

を見てきましたが、如何でしょうか?
英語ということばの言語的特徴によって決まっている、というよりは、それを使う人の暮らす文化圏と、その人たちのモノの見方に左右されていることが窺えるのでは?

自分の母語でも言えることですが、ことばの実感を持つのは、確かに大変です。
でも、それもこれも、みんな自分のことばですから。
日々、良い学びを!

本日はこの辺で。

本日のBGM: 午前3時の植物園(栗コーダーカルテット)

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2024年5月23日追記:

栗の毬の棘/針状の部分と、タラバガニでの棘状の突起部分の名称を補足するべく、Claude3の回答から。

栗の毬の「アレ」

タラバガニ (King Crab) の甲や脚に突起した「アレ」