「名詞は四角化で視覚化」

本日のタイトルは「名詞は四角化で視覚化」。

※改訂された「四角化ドリル」に関しては、こちらのエントリーをご覧下さい。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150503

今では、すっかり私の指導の定番となった「名詞は四角化で視覚化」。いったい、いつ始めたのか、正確には、もうちょっと思い出せないけれど、初任校で教壇に立った頃には、自分の中での体系化は始まっていたと思うので、20年以上、自分の指導の拠り所としているのだろうと思います。
「記号付け」では、寺島隆吉先生の実践と理論化がよく知られているだろうけれど、それともちょっと (かなり?) 異なるモノとなっているように思います。80年代に鬼塚幹彦氏の「関係詞」の指導に影響されていた時期もあったので、そのあたりで今のような形に近づいたのだと思います。

私は中学校で英語を学び始めた頃、名詞の扱いが本当に悩みの種で、

  • people

という語に泣きました。
私はずっと、

  • 単数形 = person
  • 複数形 = people

だと思い込んでいました。
辞書を見て、

  • peoples

という複数形の存在を知った時は、かろうじて生き延びたのですが、

  • a people

という単数形を見た時には、「もうだめだ…」と感じていました。

そんな私がよく英語の世界の波に乗れ、英語教師としてここまで来られたものだと思います。
研究社の『英語ニューハンドブック』、東後勝明先生の『ラジオ英語会話』、そして、そのきっかけを作ってくれた、ブロンド娘との出会い。ただただ幸運に感謝です。

中学校で英語を学んで3年後にあたる高校1年でも、私の授業では「再入門」してもらっていますし、高3でも必ず扱うのが、「名詞句」です。
現時点での「四角化ドリル」の前半部分を公開しておきます。
これまでにも、ファイルは公開していましたが、「四角」の付け方がよく分からないという声を耳にしていましたので、朱線で記号付けしたファイルを公開します。
ダウンロード可能ですし、二次使用など全く構いませんが、中1であれ、高3であれ「独習」は難しいと思いますので、必ず、自分の目の前の生徒・学習者に合わせた「手直し」をした上でお使いになることをお薦めします。

※こちらのものは2013年度版朱書きファイルです。
2015年度版の新しいファイル(朱書きなし)が
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150503 
で公開されていますので二次使用等ご注意下さい。

「名詞は四角化で視覚化ドリル」 その1〜その6
「四角化で視覚化」 ドリル朱書_1-6.pdf 直

以下、それぞれのドリルの解説です。

その1 
「名詞のかたまり =句」の認識と、「核になる名詞=語」の識別、を狙いとしています。
「名詞の気配」を感じたところから、下線 (実線) をスタートさせ、ここがその名詞のかたまりの中心・核となる名詞だ、と思った語を四角で括ります。一筆書きですので、左から右、下から上、右から左、上から下という具合に四角を描きます。向かって、左を向いた野球帽のように見える、そのツバの部分には、その四角化された名詞に対する「形容詞」の働きをする語 (句) があるのだ、ということを実感してもらいます。myやthe, thatなど、限定詞などと呼ばれる、「椅子取りゲーム」になる語句を四角の中に入れないために、この帽子のツバの形を基本形として捉えてもらうようにしています。
hisとか、theirなど、「代名詞の所有格」と呼ばれる語は、その数と、四角化する名詞の数 (または不可算性) とで悩むことになりますから、「その5」(さらには、「その7」〜「その9」) で集中的に扱うことにして、深入りはしません。ひたすら四角化のみです。「2. 二枚のコンサートチケット」で、

  • concertも名詞だよね?

という疑問が浮かぶ者もいますので、

  • 名詞と名詞が、つなぎ語なしで並んだ時は、前の名詞が次の名詞に対して、形容詞の働きをする。

という原則は教えています。本当は、19番のafternoon も四角化しなければいけないのですが、「どどいつ」の「いつ」は、ドリルの「その3」で扱うので、そこから戻ってやり直しています。
この「その1」が終わったところで、

  • 名詞の三分類は、「ヒト」、「モノ」、「コト (ガラ)」。「モノ」と「コト」の境界線は時として曖昧。

ということを教えています。

その2
「どどいつ」の「どこ」、つまり「位置・空間」に関わる語 (句) の扱いです。

  • 前置詞は名詞の前に置く詞 (ことば)

と唱えて、波線を引かせています。
日本語の助詞の、「てにをは」だけでは、表しきれない、「移動」とその「軌跡・結果」などは、いくら前置詞のイメージが持てたところで、日本語を英語に移し替える時点で、頻繁に間違えることになりますので、一応「斜字体のボールド」でハイライトはしてあります。
「角を曲がったところに」、「通りに沿って」、「虹を越えて」など、日本語では「動詞的」な表現で補うことでかろうじて成立している部分を英語では前置詞一語が担っている、ということに「イメージ派」、「フィーリング派」が気づいてくれるのはいつの日でしょうか?
そうそう、andなど「接続詞は○で囲む」という手順も教えています。白い○で「お餅」のように、「くっつく」感じが出せればいいなあ、という私の恣意的なイメージで、何の根拠もありません。

その3
「どどいつ」の「いつ」、つまり「時間」に関わる「語 (句)」を扱います。この扱いは、ここ2年で劇的に修正・変化がありました。末岡先生のおかげです。
前置詞の必要な「絶対時間」と、前置詞のつかない「相対時間」との違いをここで学びます。日本語の表記での (助詞) のかっこの付け方で、その部分に配慮してあります。
ただし、大人や教師は、この説明で「腑に落ちる」でしょうが、日常の日本語使用で「助詞」を使わずに、「絶対時間」を使いがちな学習者には、身近な言語の使用場面を使って、「理解・実感」してもらうことが必要です。今年の1年生には、

スケジュール帳や手帳に自分で予定を書き込む場合は、「12時50分集合、13時出発」とか、本来「絶対時間」なのに、「てにをは」ナシで使っているよね。それは、「自分の予定」だから「自分基準・自分中心」ということ。他には、「先生からの指示伝達」など、上から下への情報伝達でも、「てにをは」は省かれることが多いね。

と説明しています。
この「その3」を学んでから、もう一度「その2」に戻ることで、

  • では、「位置・空間」表現には、「絶対」と「相対」の区別はないのかな?

という揺すぶりをかけることも可能ですが、それは様子を見てから。

その4
これは、ジブリに感謝です。おかげで、絵を描かせ易くなりました。

  • 「ポニョの上の崖」の絵を描け!

というのが最近の定番です。特に今年の1年生は、「ポニョ」の絵が上手な人が多かったように思います。少し難しい語句を扱うと、とたんに、「ポニョの上の崖」の理解・表現にしてしまう生徒が続出します。
この「その4」は、後置修飾との出会いでもあります。「その2」、「その3」で扱った、<前置詞+名詞>が単独の「どどいつ」として使われるのではなく、<名詞1+前置詞+名詞2>の大きなかたまりを作っているのだ、と認識することと、

  • で、今話している中心となるのは、1と2のどっちの名詞 (=四角) なの?

という「核」になる名詞を意識すること、を主眼としています。
ここが上手く行くと、「意味順」のボックス、スロットの中の「語順」の問題解決にも使えます。
「その4」を明確に位置づけられたことで、「どどいつ」の「その2」と「その3」が扱いやすくなったのが近年の大きな成果でしょうか。

  • She is in the gym.

とか

  • I live near the lake.
  • Where do you come from?

などといった基本的な表現・文であるにも関わらず、その中の<前置詞+名詞>は斬り捨てられて、邪魔者扱いするのは、「文型」に縛られた学習文法観の弱点でもあると、ずっと思い続けていながら打開策がなかなか打ち出せずに英語教師をしてきた私の罪滅ぼしでもあります。

その5
限定詞 (という用語は使いませんが) を実感するドリルです。と、同時に「名詞の可算性・数」というものを意識してもらう機会でもあります。ということでhairなどという「不可算扱い」の語も敢えて入れてあります。このような名詞句を「代名詞」で受ける時に、必ずと言っていいほど「悩み所」「迷い所」が来ますが、それは「その7」で扱いますので、ここでは、my, her, their に続く名詞に、「人」は持ってきていません。

その6
これは組田幸一郎先生の指導実践から、「拝借」したものです。「A of B でBのA」というフレーズに、ラップもどきの節回しをつけて、教室で唱えています。

あなたの友だちが、 “a big fan of Ichiro” だ、という時に、そのお友だちは「イチロー」なの「ファン」なの、どっち?

と確認して、意味順の日英での違いを意識してもらいます。
faceやbackなどの多義というか、比喩が働いて意味に広がり・発展が生まれる名詞を意図的に散らかしています (1と15のheartなど)。
your date of birthとa friend of mine そして、the house of my own は、この中ではちょっと異質な名詞句に感じられるかも知れません。
ofの扱いは、後々、悩みますが、どうせ悩むのだったら、

  • いつ悩むの? 後でしょ!

で、今後、出てきたところで悩もうという割り切り方をしています。
悩み所の1つは、先日の過去ログで公開した、「その9」のof の扱いですので、そちらをご覧下さい。

とりあえず、「名詞は四角化で視覚化」と私が言っていることの概要くらいは伝えられたかと。

本日のBGM: Pretty Eve In The Tub (God Help The Girl)