教科書の未読の課に変な英文がありませんように

昨日は「七夕」でした。
「短冊メーカー」で本日の表題のような願い事をぶら下げて、一夜明ければ、梅雨明け宣言。
作問祭りも終了。
採点天国の扉を開くと、そこはもう猛暑。
悲喜交々ですね。
進学クラスの高1「学校設定科目」の「クリエイティブ英語」の答案を見ていました。
まだまだ、「意味順」のシステムが定着していないので、打開策を思案中。「ドリル」になっているところの答えだけ覚えていたのでは、自分の頭の中に浮かんだ意味を、英語の語順で形にするところまでは辿り着きません。『基礎英語3』のテキストの消化吸収も同じ。
テスト以外の動機付けが薄い学習者は、

  • 目の前にある適切に用いられた英語素材から学ぶ

ための方法論が貧者、脆弱です。

  • 目の前に突きつけられた「英語」に対して、何ができるのか?

それこそが、最良の「テスト」でしょうに。
「問題を解く」ことに意識が行き過ぎて、「理解可能なインプットの量を増やす」という語学学習の基本が抜け落ちてしまっては本末転倒です。
音源がついていて、和訳や対訳もついていて、統語上の注意書きもあり、表現の注意点も書いてある「教材」なのですから、あとは「再構築」すること。「言語材料の精緻化」です。パラフレーズでも要約でも、具体化でもいいのです。

  • そこに、あなたがいますか?

ということが問われているなら。
最近は、英語学習雑誌や、メディアなどでも「カタカナ用語」が飛び交います。
ただ、

  • インプット→インテイク→アウトプット

と、あたかも、これらがみなリニアな段階、プロセスであるかのような物言いをしている節があるので、学習者は惑わされないことが大切。くれぐれも、「暗唱」することが「インテイク」だなどといった乱暴な単純化には耳を貸さないことですね。「意味順」の懐の深さと、優先順位を見切った潔さとに気づくまで、もう少々辛抱が必要かも知れません。新課程の目玉科目、「コミュニケーション英語」での健闘に期待します。

高3の英語II のコマでは、「読解」で、いわゆる「名詞構文」を集中的に扱いました。
授業で紹介した参考文献が、

  • 真野泰 『英語のしくみと訳し方』 (研究社、2010年)

だったこともあり、生徒によっては、「日本語への訳し方」としてしか捉えていない嫌いがありました。確かに「訳の問題」でもあるのですが、それだけではないのです。「英語のしくみ」、その意味と構造を理解して自分の中に英語としての居場所を作る---それがパラフレーズであれ、要約であれ---ことも英語学習での大切な仕事なのです。
確かに、不必要なnominalization は戒めるべきですし、自らが会話で使うことは少ないでしょう。とはいえ、書き言葉では頻繁に出てきます。読解の際に、「一読了解」でオンライン処理ができる人と、そこで止まってしまったり、右往左往してしまう人との差は、小さくありません。

  • 自分の英語は今、何歳か?

と自問自答し、授業で扱った教材の「英語」を愛でるように学び尽くして下さい。乳幼児をこの夏の暑い環境で放置していたら危険でしょ?あなたの英語がまだ幼いのであれば、適切なケアが必要不可欠。でも、転ばないようにあれこれ先回りして、危険を回避する必要はありません。躓き所では躓けばいいのです。迷い所で迷い、悩み所で悩むうちに、平々凡々な「森の人」として自立していくものなのですから。

「名詞性」に関連する過去ログは、

あたりですかね。時間のある時にでも読んでおいて下さい。

「四角化」に始まる、私の名詞句の限定表現の指導で、いわゆる「不定詞」の扱いを過日のエントリーで記していました。それをお読みになったお二人の先生からのご指摘、情報提供を受けて、再度考察してみます。
過去ログでは、

  • the first man to land on the moon
  • the first man to land on Mars

の対比でした。ここでの、landという動詞は初学者にはイメージが持ちにくいかも知れませんので、”walk” に改めたいと思います。T先生有り難うございます。
さて、
このような名詞句の限定表現は、巷では「不定詞の形容詞的用法」などと呼ばれます。この定着は難しいというのが私の正直な実感です。
確かに、入試などの「出題」を考えれば、パターンが決まっていますから、対応は可能でしょう。しかしながら生徒が自分で「選択して」使えるようになるには、「名詞句の限定表現」相互の棲み分け、得手不得手の実感が必要か、と思っています。その難しさは、塾などでの「日本語訳」による区別だけの「指導」で生き延びてきた高校入学生には、よく分かってもらえません。
『高校生の英文法』 (三省堂、1984年) でも、「原形」の分類から、前置詞toのもつ「方向性」を頼りに「不定詞」を説明していますが、深入りはしていません。このあたりは、田尻悟郎先生の「英文法」関連の本でも、金枝岳晴先生の問題集 『中学英語の基礎問題』(学生社、2006年)でもあまり変わらないという印象です。

関係詞を用いた後置修飾では、動詞・助動詞が使えるため、「時制」による、「事実」と「話者の心的態度・可能性の査定」のどちらも「明示」できたものが、「不定詞」では、呑み込まれてしまいます。というわけで、その「時」が呑み込まれた代表例としての「対比」を考えていた時に、『宇宙兄弟』の主題歌を聴き、「火星に降り立」ったわけですね。
この「不定詞」の toを、<前置詞toの原義>を活かして、「方向性」という比喩で考えるにしても、副詞的用法では、「目的」と「結果」、「感情の生まれた原因」で「方向性」が逆の様な印象を持ちやすいことに注意が必要です。

  • I went to N.Y. to study theatrical arts.

は、「目的」「意図」を、went to のto からの連想で、「→」で示すことで対応可能でしょう。
では、次の例ではどうでしょうか?

  • I am glad to see you.

こちらの例では、gladという「感情の原因」を示すものとして、「行為」をあげています。「→」を用いるとすれば、

  • なぜ、gladになったのか、という理由・原因を求める先は?

とでもいうような「日本語による補足での絞り込み」が不可欠です。
現時点での、私の授業での説明は「意味順」の「なぜ?」ボックスで逃げています。

  • She lived to be ninety-nine years old and only weighed eighty pounds but she’d raised eight kids. (COBUILD)

という例でも「→」のイメージは使えそうですが、

  • 生きた、その「結果」どうなりましたか?

と矢印を活かすための<補助線><ガイドライン>が、実際の「→」よりも長いのではないか、と思っています。
ちなみに、この、「判断・根拠・結果」を表す toは前置詞プロパーの用法としても、使用頻度はあまり高くないとはいえ、

  • To my horror, I saw James' car draw up outside the gate. (Activator)

などとして、現実に使われます。この前置詞の to 用法に関して、「丸暗記を排した『理屈』や『説明』」で、芳しい例に出会うことは希のような気がします。このブログをお読みの皆さんで、よいお知恵がありましたら、ご教示下さい。

「不定詞の形容詞的用法」のうち、単独で名詞句で取り出しにくい、全体否定の名詞句に関して、補足とまでは行きませんが、気づいたことを引いて締めくくります。授業では、

no one to help me
no place to hide
no need to hurry
nothing to remember
nothing to remember him by
no time to lose

などの例を挙げ、<存在文>との関連を指摘するに留めましたが、先程繙いた、

  • 林語堂 『開明英文文法』 (山田和男訳、文建書房、1960年)

の pp. 263-264には、このような不定詞の形容詞的用法で作られた<名詞句>の中に、

no desire to study
no chance to see him
no time to wait
no money to spend

などの実例が含まれています。
さらには、

上述の語句を華語に (日本語) に訳し、更に英語に戻してみよ。この操作を各自でペンをとってやるもよし、また教師乃至は仲間の学生の助けを得て、各語に相当する華語 (日本語) を言ってみるのもよかろう。次いで、上述の語句を用いて文章をつくり、更に、 no chance, no time, no opportunity, ability, desire, nothing, something などを被修飾語とする新らたな語句をつくれ。

という、母語と英語との橋渡しができるような練習方法と助言がなされていて、驚くばかりです。
半世紀以上前の偉大なる知性が残してくれた言葉を反芻して就寝。

本日のBGM: サマー・ソルジャー (2000.12.24@新宿リキッドルーム解散ライブ) / サニーデイ・サービス