♪さあ君が今欲しいものをひとつだけ♪

tmrowing2013-07-13

今学期のレギュラー授業が終了。
高3の「読解」と高1の「コミュニケーション英語」は、定着の度合いに課題を残したのが気がかり。
進学クラス高2、高1は夏期休業中の「課外」があるので、どこまで地道に取り組めるか、自分を信じましょう。
成績処理と通知表の作成に追われつつ、今日は模擬試験の監督。
模試を受けると、「できなかった…」と落ち込む人がいるのだけれど、所詮、模試ですから。
全国、どの高校のカリキュラム、進度にも対応できるように問題作成できるくらいなら、全国の高校のカリキュラムやシラバスは共通になっているはずでしょ?全国どの大学にでも当て嵌まるように問題作成できるくらいなら、全国の入試問題は統一できるはずでしょ?最大公約数を達成したとしても、それは誰からも等距離にある「落としどころ」なのですよ。
とはいえ、私が高校2年生だった1980年代初頭でも、自分の学年である高2第1回の模試を受ける前に、高3の先輩に混じって教室の隅っこの席で「全国模試」を受けていたくらいだから、模試は気になるものなのだろうけど…。

さて、
私が共著で関わった、『パラグラフ・ライティング指導入門』 (大修館書店、2008年) には、高校段階の「ライティング指導例」が載っています。巷にある、数多の「ライティング教本」との最大の違いは、

  • 「入試の出題形式」ではなく、英語の文章のテクストタイプ (作文類型) に応じて、課題を設定していて、narrativeと descriptive な作文を、persuasiveな作文と同等以上に重視して扱っていること。
  • narrativeには「story grammarの6つの観点」を、descriptiveには、 “Cubing” を、persuasiveなもので、賛否を問うものには、”topic-flower” と”topic-ladder” を、問題解決的要素の強いものには、”SPRE/R” のアプローチをとる、というように、それぞれのテクストタイプに応じて、個別のアイデアジェネレーションの手法を固定して扱うことで、「書くプロセス」を振り出しに戻って仕切り直しができるような指導手順をとっていること。

というところだろうと思います。私が、明確に「テクストタイプ別」のライティング指導を始めてから、かれこれ18年位経つのですが、なかなか高校現場には普及・浸透しません。随分ともどかしく思ってきましたが、最近、少し分かってきました。
このような指導法を採るには、教える教師の側に、「英文はどのようにして紡がれ、織りなされるのか?」といった「テクスト観」、もっと正確に言えば、

  • それって英語?

という、「textureを感じ取るセンス」が求められるのだろうと思います。
個人的には、

  • 生徒が言いたかったけれど、言えなかった表現と、シラバスの中でどのように出会わせ、習熟させるか?

といったところにばかり意を注いでいたので、この “texture” 感覚の彼我にもどかしさの原因があろうとは思っていませんでした。
いつだったか、日向清人先生に、

  • ポリエステルしか知らない人に、シルクの肌触りを教えるのは難しい。

というようなことを言われたことがありましたが、

  • 最近、少し分かってきた。

という自分の「気づき」が生まれた、その契機は新課程の「教科書」の英文です。
新課程の教科書、とりわけ「英語表現」の教科書では、「パラグラフの指導」、とは名ばかりで、「つながり」や「まとまり」のない文章をモデルとしたレッスンがいくつも見られます。
残念なことに、

  • 文科省の教科書検定で合格しているからといって、そのことが英語の質を保証してくれるものではない。
  • 教科書の著者に英語ネイティブの名前があるからといって、そのことが英語の質を保証してくれるものではない。

ということが露呈してきた、と言えるでしょうか。

ごく一部の教科書のごく一部のレッスンが、「残念な」クオリティであるならまだいいのですが、実質はその逆で、一部の真っ当な教科書を除けば、「英語になっていない文章」が目立つ教科書の方が多くなってしまっている、とさえ感じます。
「教科書」がこのような状況だと、高校現場でも、「学校設定科目」として独自のカリキュラムを立てるか、「英語表現」は開講するし、「教科書」は買わせるけれども授業では使わずに、その代わりとなる「市販教材」や「学校採択の副教材」に白羽の矢を立てる、といった打開策を見いだすことになるでしょう。
ここで注意が必要です。

  • ダメだといって斬り捨て、排除するのではなく、「教科書」の英文を丁寧に、冷静に比較検討しましたか?
  • 「教科書」に取って代わる教材として、本当に自分の目で「市販教材」「学校採択教材」の英文を読みましたか?

という自問自答です。
「センター試験リスニング」の対策教材で見られる英語の不備に関しては、過去ログでも指摘してきました。冷静に考えればわかることですが、「つながり」「まとまり」を欠いた、教材としてのクオリティが満たされないような英文を、繰り返し聞くことで、「英語力」がつくとは誰も思わないでしょう。まして、そのような英語の文章 (と呼んではいけない気がしますが) につけられた「設問」に答えられたからといって、「英語のリスニング力」があるとは、誰も信じないでしょう。「ストラテジー」などともっともらしいラベルを貼って誤魔化すのが関の山です。
「ライティング」の教材、もっと広く「英語表現」の教材を考えても、同じことが言えます。
生徒、学習者が間違いを犯すのは当たり前です、教師が教室で使う英語にも、多くの「不自然な」英語があることでしょう。しかしながら、「教科書」の著者が、低レベルの誤りに気づかずに、お粗末な英語を垂れ流していてはいけません。

このところ、「呟き」やFBで頻繁に、「良質の教材」や「指導に当たって参考になる本」を紹介しています。
今日も、

  • 西村嘉太郎 『ストーリーテリングのすすめ』 (三省堂、1993年)

という絶版書を薦めました。

残念ながら、既に絶版なのですが、英文の「つながり」と「まとまり」を考えるのに格好の素材とヒントに溢れています。
https://twitter.com/tmrowing/status/355868283846656000

FBでも同様の文面でアップしていました。
その後数時間で、A書店のマーケットプレイスの在庫が一気に減りました。気にしてくれている英語教育関係者、英語学習者が存在することが確認できて少し嬉しかったです。
このような良書が存在していたのに、なぜ、ことごとく絶版になっていくのか、ということと、「日本の教材の英文」が「つながり」と「まとまり」を欠く嫌いがある、ということとが、どこかで繋がっているように感じています。
「英文のパラグラフ」、「つながりとまとまり」というものを考えるための良書が、これまでに何冊も出ていますから、それらをきちんと読み、消化吸収していれば、少なくとも「後発教材」の方が、英文のクオリティは上がっていくはずなのです。でも、現実は…。

本当なら、このリンク先の「リスト」の本がいいのだけれど、みな絶版の模様。図書館か中古で探して下さい。でも、みんな、これ以外のどんな本を読んでいるというのだろうか?
https://twitter.com/tmrowing/status/355874825690038273

本当に素朴な疑問なのです。
学習者として、受験生として、実社会で英語を運用する者として、さらには英語教師として、他の人たちは、どんな教材を使って、どんな本を読んで「英作文」とか「英文ライティング」を身につけたのでしょうか?
私の一連の「呟き」では、信頼に足る『現役本』として、

  • 日向清人 『即戦力がつく英文ライティング』 (DHC)

のカスタマーレビューを引いておきました。

https://twitter.com/tmrowing/status/355875086542188544

実際にこれを「テキスト」として使っている高校の教室もあるのですよ。

最後に、西村嘉太郎 『ストーリーテリングのすすめ』から、引いておきます。(pp. 20-32)

次の例は、中学校向きの教科書のあるレッスンの全文を切り詰めを行い、必要最小限度の書き替え (アンダーライン) を施したものである。できあがったもののほうが、よりcoherentなものとなっている。 (英文略)
このように長いものを切り詰めるということは、代名詞と実詞との書き替え関係を軸に行われるcohesiveでcoherentなactivityであるといってよいと思うが、次の例は左側が原文、右側はそれを作り替えたもの3通りである。 (英文略)
以上、3通り (108語、83語、96語) それぞれ、趣の異なるものとなっていることに注目してほしい。
次の例は、S. Craneの The Red Badge of Courage (1895) の第24章全文と、Michael West のA General Service List of English Words (N.Y., 1953) に準拠して、3000語レベルでretoldしたものである。これをさらに、われわれのSTの資料に作り替えるやり方を試みる。長さは約300語、中級 (高校生) 向きのものとする。また、初めての作業ということを考えて、削除を中心に実行してみた。「戦いすんで、日が暮れて、明日はいずこのいくさやら」、争いの空しさを漂わせている名作『赤い武功章』の結末はよく知られているが、その味をどこまで出せるだろうか。(英文略)

どのような原文がどのようなST英文に作り替えられたのか、そのコツは?など詳しくは、是非とも現物を手にとってご覧下さい。このように書くと、どこぞのセミナーのtrailerのようで気が引けますが、まだ手に入る内に是非。

本日のBGM: 日向の猫 (山田稔明)

※2013年7月14日追記: 昨日の呟きから一夜明けて、密林でも在庫がなくなった模様です。公立図書館の所蔵状況はこちらから。
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002267126-00