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新刊の『学習英文法を見直したい』(研究社) が広く読まれるまでには、今しばらくの時間が必要だろうと思うのですが、その間にも、残念な教材が世に出続けることを危惧します。というのも、既に数年も前に「学習文法」での重要な提言が英語教育界の重鎮からなされているにもかかわらず、教材作成の現場はほとんど改善されていないどころか、今まで以上に「酷い」教材が増えているように思えてならないからです。

次の指摘には、謙虚に耳を傾けたいと思います。

副教材や市販の参考書、問題集の総点検
(前略) いろいろと参考書や問題集を見ていると、やはり問題は文法と語彙といったところにあることがわかります。文法に対する誤った理解、古い文法規則の重視、それに単語の使い方が分かっていないために生じるおかしな英語表現などがもっとも深刻です。 (中略) 今は高等学校の英語教育の中には「英文法」という科目がありません。その代わり進学校と言われる学校ほど、副教科書などと称する文法の解説書が多く使われているようです。古い英語の宝庫であった「英文法」の教科書はいらない、という姿勢はよく理解できます。その結果。英文法という教科そのものを廃止してしまったのはまずかった。そして、英文法の教科書を廃止してしまったのもまずかった、と私は思います。
中学校・高等学校の教員であればおそらく誰でも、英語をしっかり理解させるためには文法を欠かすことができないということが分かっているはずです。だからこそ文法の準教科書などと言われるものが使われるのです。まずは、この種の「準教科書」から総点検を始めるべきだと思います。そこはおそらく本書で扱ってきた種々の問題の百貨店だと思っています。種々の学習参考書や問題集も点検しなければなりません。 (pp. 171-172)

この勢いで、問題点の指摘、提言が更に続きます。

信頼のおける学習英文法書を
英語はそのマーケットの広さからか、英語の学問的研究とは関係のない人たちが解説書や参考書・問題集を作ります。そのこと自体は自由ですが、問題はその出来上がった結果です。今の時代の研究成果を生かさない解説書などないほうがましです。
いろんな言語学者が英語の研究を進めていますが、それがなかなか高校生用の参考書や問題集に反映されません。英語に関する研究はまさに日進月歩です。教科書あるいは参考書、副教科書がそのような研究成果と無関係に再生産されているという現状は改めなければなりません。(pp.172-173)

で、その総点検の後に何をするか。

学習文法の構築のために
文法の生命である用例は、信頼のおける実際のデータからとらなければなりません。どうしても文法を書く人が英作をしなければならない場合は、信頼のおける英語のネイティブ・スピーカーに相談しなければなりません。
どのような教科であれ、教科書はその時代の制約を受けています。(中略) しかし、時代の制約の中ではあるが、その時点で分かっていることを教えるべきであることは明白です。だから、少なくとも大学入試対策とか、教員採用試験だとかいう試験問題を作る人はもとより、解説をしたり、説明をしたりする人は、その最前線を認識しておかねばならないのは言うまでもないでしょう。担当者にそのような役を担わせることが不可能ならば、信頼のおける専門の相談役をおくべきです
大学の入試問題作成者が参考にするような学習文法書を作りあげることが、今もっとも大事なことです。(pp.173-174)

そして、現場の教師への叱咤激励。

英語の変化の実態を知る
言語は変化します。英語ももちろん変化しています。その変化が良いのか悪いのかなどと考えてもしかたありません。(中略) 現場で教えている教師が日常的に英語の変化に敏感である必要などないのですが、教科書や参考書、英和辞典などを作成する人は敏感である責務があります。みょうな自作の例文を作ってはいけません。時代遅れの英語を教えていてはいけません。そして、現場の教員は夏休み中に新しい知見を吸収する、というのが理想の姿です。 (中略) まず、言語は変化する、英語も言語であるから変化しているという事実を確認することが必要です。100年前に書かれた本の内容が、まるで今でも生きているかのように、時が止まったかのように、信奉を続けることは止めなければなりません。30年前に学んだことが今でも生きているのか、それを調べなおすくらいのことはできるはずですし、しなければなりません。そのような最低限の努力は英語教育にたずさわる人の責務だと思います。そのようなきっかけを与える講習会のようなものが必要です。 (pp.176-177)

以上、八木克正 『世界に通用しない英語 あなたの教室英語、大丈夫?』 (開拓社、2007年) の第6章より引いてみました。私は、この本の内容の全てに頷く訳ではありませんが、ここで引用した部分での指摘・提言はもっともだと思いますし、襟を正したいと思っています。

八木氏の言うように、現場の教師が、「日常的」に「英語の変化」に敏感であり続けるのは難しいでしょう。夏期休業とは名ばかりで、研修に足を運べる人はまだ恵まれた方だというのも事実かも知れません。であれば、少なくともその恵まれた方たちとは、しっかりと「きっかけ」を共有したいと思っています。

ELEC夏期研修会のご案内

日時: 2012年 8月15日 (水)
   13:30 -16:20
講師: 松井孝志 (山口県鴻城高等学校)
ライティング指導の伝統に学ぶ「活き活きとした英語」
※ 講座は1日単位の受講申し込みとなっております。
  午前の部は、飯塚秀樹先生 (自治医科大学) のご担当です。
詳しくは、こちらの概要をダウンロードして下さい。http://www.elec.or.jp/teacher/kensyukai.pdf

この講座にかける意気込みは、過去ログを是非!

私の講座で「定番」となる、「テクストタイプによる分類」に関しての、最近の過去ログ。

市販教材の評価から、「パラグラフ」の結束性、結論文の働き、効き目に関してはこちら。

市販教材の論理と英語表現の問題点はこちら。

現在指導している高校生のproductの例 (narrative) はこちら。

前任校での実例はこちらに。新課程での「英語表現」の教科書にも言及しています。

受験対策のエキスパートだと思っている人もそれなりにいるだろう「予備校」の講師がテキストの補足に作ったプリントが、実は検定教科書の一部をコピーして使っていた、という驚きの事実を指摘したのがこちらの回。

今年の3月に開催された「ELEC同友会」の「ライティング研究部会公開研究会」での私の配布資料は、こちらから。

昭和の「英作文指導」の名人から学ぶなら、まずは、「出直しライティング塾」のエントリーでの、名人たちの序文を。

「英作文」参考書にも良いものはあるのです。

教師としての私のバックグラウンドなどはこちらを。

学習者としての履歴はこちら。

2年前のELEC夏期研修会のアンケートを踏まえた振り返りはこちら。

ひとまず、こんなところから。ご縁がありましたら、8月15日にお会いしましょう。

さあ、明日は高校野球県大会決勝戦。兄弟校対決です。
野球だけが特別、というわけではありません。私だって、去年までは自分の本業のインターハイ前で日々練習でしたから、球場に足を運ぶことは全くありませんでした。
競技スポーツに本気で関わったことのある人なら皆わかっていることですが、どの地方大会でも、メジャースポーツ、マイナースポーツを問わず勝つこと、勝ち抜くことは大変です。ですから、競技種目が違っても、試合のその場にいなかったとしても、頑張っている選手、スタッフはお互いを理解し、応援することができるのだと思います。
自校チームは準々決勝の相手、準決勝の相手からそれぞれ千羽鶴など「思い」「願い」を託されていました。自校の選手は勿論、対戦相手にも最大限のリスペクトを払いたいと思います。

本日の晩酌: 貴・純米大吟醸・兵庫県東條産山田錦40%精米 (山口県・宇部市)
本日のBGM: Over There (The Housemartins Live at the BBC)