前門の虎後門の狼

先日、初めて「いきものがかり」というバンド名が「兎さん担当」「亀さん担当」などの「係」で、「生き物係」なのだと知りました。ずっと「総掛かり」の「かかり」だと思い込み、『うしおととら』の見開き描写の如く「生き物全てからの猛反撃を受ける」イメージで彼らの楽曲を聴いていました。バンドのお三方と、藤田先生に、謹んでお詫び申し上げます。
当然の如く、彼らのポップな曲調、若者の共感を呼ぶ歌詞と、前述の「猛反撃」のイメージとは相容れず、今ひとつ好きになれない自分がいました。梅雨明け宣言も出たことですし、私も晴れやかな気持ちで今後は彼らの曲を聴けるようになると思います。

作問祭りにも目処。
残すは「コミュニケーション英語」の2種類。
今年度採択している検定教科書は、某資料によれば、最も難しい1冊ともっとも易しい一冊となる。慧眼を自画自賛。もっとも、進学クラスの方は、2学期半ばまで、授業では中学の復習を徹底することになるので、「…基礎」と呼ぶのが相応しいのだろうけれど、肝心の「…基礎」の教科書をどの出版社も作りたがらず、そのことを文科省も指導しないので、結局は現場にしわ寄せが来る。
『ぜったい音読』も、入門編と標準編の2冊で、2400円。『基礎英語3』関連2冊で、2650円。『意味順』で、1200円。高校レベルに移行するまでの高額出費である。

  • 教材と行政のしわとしわを合わせて、…。

と茶化している場合ではない。検定教科書の唯一の利点は、価格の安さ、ということにならないといいのだけれど…。

進学クラスの高2と高3はともに、絶滅危惧科目の「ライティング」。ということは、私は「トキ繁殖センター」のような、授業とテストをしていることになるのだろうか?

「辞書持ち込み可」のテストなので、監督も私自身で。

  • はい、辞書を持ってパラパラ振って。メモ挟んでないか確認。
  • 自分の引いた個所の目印に「付箋」が貼られているくらいならいいけれど、ハガキ大のポストイットみたいなのを貼ってあったらダメ!

実際に、授業で扱った「もの」が定着しているかを診る問題と、そこで身につけたスキルを発揮して新たな課題に取り組む出題と。
高2の出題を紹介、

次のそれぞれの英文は世界の偉人についての説明文である。空所に入るべき人名を答えなさい。
1. [ 人名 ] was a Spanish painter of the twentieth century and one of the most influential contemporary artists.
2. [ 人名 ] was an American inventor of the late 1800s and early 1900s who perfected the electric light bulb and the phonograph, an early form of the record player.
などなど

という、英語難民救済問題に始まり。

次の偉人から3人を選んで、その説明を英語で書きなさい。(☆はボーナス問題。きちんと書くことが出来れば、得点が、1.5倍になる)
1. Walt Disney
2. Mahatma Gandhi
3. Martin Luther King Jr.
4. Michael Jordan
5. Mao Asada ☆

という、「丸覚え」「棒暗記」でも対応できる問題を経て、授業で自分が選んで、ドラフトに「朱」が入り、私のフィードバックを受けて、書き直しができていますか?ということを問う次の問題。

次の日本を代表する人物から、1人を選んで英語で説明を書きなさい。
1. 高杉晋作
2. 金子みすず
3. 中原中也
4. 野口英世
5. 中沢啓二
6. 黒柳徹子
7. 野口健

最後は、グループ課題を人に頼ってばかりいる生徒には厳しいけれど、自分で消化吸収している生徒には「ごっつぁんです!」という問題。

次の 1 〜 5 のうち、2つを選び、類似点・相違点を踏まえて英語で定義・説明を書きなさい。
1. 保健室 (a nurse’s office, a sick room) と保健所 ( a public health center)
2. 階段 (stairs; a staircase; steps) と非常階段 (an emergency staircase; a fire escape)
3. 廊下 (a corridor; a hallway; a passageway) と渡り廊下 (a roofed passageway; a breezeway)
4. 出入り口 ( a doorway; a gateway; a door)と非常口 ( an emergency exit)
5. エスカレーター (an escalator) と動く歩道 (a moving walkway)

意見とか感想とか、自己表現とかは一切やっていません。
テクストタイプに応じて、「何から書き始めるか?」「どうすれば書いたことになるのか?」というタテ糸の頭の働かせ方と、「それで英語になっていますか?」という、ヨコ糸の言語材料、英語表現の吟味が問われます。ゴールは見えていても、英語表現の定着・運用には「山あり谷あり」なので、「辞書持ち込み可」としています。
「高杉晋作」を選んだ生徒の答案。誤りも含めてそのまま引きます。

Takasugi Shinsaku was a samurai of the early 1800s Yamaguchi, in Japan. He was a member of “Syokasonjuku,” founded by Yoshida Shoin, who was a great leader of Edo era. Takasugi organaized “Kiheitai,” which fought against the Edo Bakufu to get back the Emperor’s political power. (46 words)

「出入り口と非常口」を選んだ生徒の答案はこちら。こちらも「まま」です。

A door is an opening that you walk through for going in or out a building, a room, or a vehicle. An emergency exit is a special doorway that you use to evacuate from a public building or a vehicle when you are in a serious or dangerous situation that demands immediate actions. The difference between a door and an emergency exit is that you use a door to go in or out a building, a room, or a vehicle while you use an emergency exit to go out only. (90 words)

彼らの英語力なりに奮闘・健闘していると思います。I’m proud of you guys.

高3のライティングは、いつものネタですので、検索性が著しく低い過去ログでもご覧下さい。

ライティングを指して、自虐的に「絶滅危惧科目」と書いていますが、「危惧」で済むよう、日々尽力しているわけです。「新課程」の教科書を見ると、本当に暗澹たる気持ちになることがあります。前回、「花見」を扱った英文を取り上げましたが、「話題繋がり」で話しが拡散していき、「主題」から離れて宙ぶらりんになる英文が含まれた「もの」が、モデル文として与えられています。
私もこれまでは、

  • 多肢選択による内容理解を求める設問付きの情報処理的読解・聴解

が主流になったことと関連しているのだろうな、と漠然と思っていました。
しかしながら、最近「暗唱」や「ディクテーション」が大事だ、と謳うような教材であっても、英文の質が全く保証されていないという「市販教材」「学校採択教材」を目にして、

  • このライターは、ディスコースというもの、パラグラフというもの、そしてテクストタイプというものを全く理解していないのではないか?

という「気づき」を得るに至りました。
「つれづれなるままに…」という随想や感想であれば、話題繋がりも許容されるでしょう。
私も、高1の学校設定科目「クリエイティブ英語」では、『基礎英語3』のダイアローグで、「お花見」に関するものを扱い、その教材のダイアローグを、テストでは「後日談モノローグとなる『メール文』を完成」する、という形で出題しています。

Our first week in Japan is over. When spring comes around, Japanese people are happy to go “cherry blossom viewing.” To see cherry blossoms in our first week is wonderful. Cherry blossoms at their best are far more beautiful than I thought. Just take a look at the photo sent with this mail. You can see how beautiful they are. A lot of people get together in the park. Some come just to see the cherry blossoms under the trees. Some others come to enjoy picnicking! They also eat and drink there. I learned one thing about the local people. Everyone loves the cherry blossoms here. Nobody tries to take the cherry blossoms away. How nice! I love the park, and the people here, too. I’ll write again soon.

中学段階で出会う名詞句は後置修飾も含めて復習は一通り終えていますが、時制はまだ「現在完了」を終えていないので、やや不自然な繋がりを残しています。とはいえ、「花見」という日本の年中行事を英語でプレゼンせよ、というような課題ではないので、許容範囲の英文と言えるでしょう。
これに対して、「定義・説明」など一定のテクストタイプに従って、文と文の「つながり」と、段落での「まとまり」を満たす必要がある「文章」では、やはり「主題」への収束・貢献が不可欠です。先程、高2の出題例と解答例を記しましたが、私のシラバス、カリキュラムでは、この「つながり」「まとまり」の部分を高2、高3で詳しく扱っているわけです。
高1から、『意味順』のアプローチをとっていますから、和文英訳の形式での出題も当然あります。

次の日本語を英語に直しなさい。
1. 私は英語を勉強するためにニューヨーク(New York)へ行った。
2. あなたは始発電車(the first train)に乗るために早く起きるべきだ。
3. 日本語を勉強しているのは彼女 (a girlfriend) を作るためなの?
4. 今、あなたと話している時間はない。
5. 彼は自分の部屋を掃除し始めました。
6. 数学 (math) を勉強することは難しい。
7. 私の夢は外国人と結婚することよ。
8. それは結婚するのにいい理由ではないね。
9. 私たちは長い時間待っていたのよ。
10. お湯をどうやって使うかわからなかったんです。

生徒の中には、まだまだ、「覚えられたもの」だけ解答している者も見受けられますが、ここで求められているのは、単なる「棒暗記」や、「和文和訳」ではありません。
入試対策と称して、「和文和訳」を謳う教材の多くが、日英語の比較、分析がいい加減で、「ブラックボックス」のような、場当たり的な対応をしているように思います。
いくら「大学入試」対策で、「点を取る」ための教材だとはいえ、日本語とはどのような統語上の特徴を持ち、英語のそれとはどのように違い、どのように対応すればよいのか、きちんと日英比較をすることが肝要だと思います。
少なくとも、指導者である英語教師は、ある程度の「見通し」を持っていないとまずいでしょう。
「英作文指導」に不慣れな方は、まず、柳瀬和明先生の一連の著作、

  • 『日本語から考える英語表現の技術』 (講談社ブルーバックス、2005年)
  • 『日本語から考える英会話 目のつけどころを変えてみる!』 (ユニコム、2013年)

をお読みになることをお薦めします。
柳瀬和明氏は、山口県英語教育フォーラムでも、2010年の第3回の講師としてお招きしました。

  • J1→J2→E2 (→E1)

というアプローチを「形」にしたところが卓見だと思います。当時の講演を聞いて、その時に得た「気づき」を、これまでの時間・期間をかけて育てている方たちは、すでに「英作文指導」の改善がなされていることでしょう。「聞きっぱなし」とか、「そんなことはもう知っている」という姿勢が一番問題だと思います。
日英比較という視点では、ちょっとボリュームはありますが、

  • 猪野真理枝 『英作文なんかこわくない』 (東京外国語大学出版会、2011年)

で、日本語の分析に基づいた、日→英での頭の働かせを考えて欲しいと思います。
著者の猪野真理枝氏は「中学レベルの英語を身につけた人を対象」と言っていますが、実際には中級以上の英語力を備えていないと、消化吸収は難しいでしょう。
ただ、既に、このような「良書」が出版されているのですから、新たに本を出そうという方たちは、できれば、それらを消化吸収して、「昇華」してほしいと思うのです。あ、でも、「パクリ」はダメですよ、老婆心ながら。
「和文和訳」というバナーの危うさに関しては、過去ログの

も合わせてお読み下さい。

本日のBGM: 狼なんか怖くない (石野真子)