連日の猛暑。
流石に「何℃でも」という勇気はありません。
夏期課外講座の前半が終了。
ついうっかりすると、こんなところにも「前半戦」などと「戦いの比喩」を持ち出しそうになる自分に気づきます。自分がそのことばを使う使わない、というだけでなく、自覚があるかが大事。
戦いの比喩といえば、「受験は団体戦」などという紋切り型のことばが受験雑誌やwebで使われていたりします。初耳ですか?某予備校のキャッチコピーなのか、校是なのか、「日々是決戦」なんていうのもありましたよね?
これって、自分たちの団体が勝者になることを想定するのは結構なのですが、いったい敗者として誰を想定しているのでしょう?まさか、志望校群とか入試制度ではないだろうと思うのです。せいぜいが「他の団体」、殆どの場合は「他校」でしょう?ときに「同じ学校の他のクラス」だったりすると緊張しますね。では、「勝者」は何を勝ち取って、「敗者」の手には何が残るのでしょう?
勝者は「第一志望校への合格と入学の喜び」で、敗者は「第二志望以下の学校への合格と不本意入学」?敗者は、「悔しさと捲土重来」?
「学び」はどこに行ったのでしょう?
そういう「学びを語る戦いの比喩」からできるだけ距離を置いて教師をやりたいと思って今日に至ります。個人的にはまだ「連帯」の方が希望を感じます。日本の風土ではとかく「連帯責任」などという形容に使われるので、好感度が低いことばになっているようで可愛そうな気もしますけど。
私の座右の銘は、
- 群れるな、連なれ
です。今の季節なら「夏なれど蒸れるな」でしょうか。
そんな夏期課外講座の振り返りをば。
高1は、中学校の復習に相当する、入門期からの学び直しの一区切り。
所謂「後置修飾」の全体像を見渡せる丘、のようなところに連れて行きました。
こちらのファイルなどをご覧下さい。
虫の目から鳥の目、ですね。
当然、中学2年くらいまでの教科書の「素材文」では、モノローグが少なく、テクストタイプもナラティブが多いので、「コト」の説明が少なく、「モノ」も「人」も単純な修飾構造での名詞句が殆どですから、この素材文を活用して、「既に読んでいて意味のわかる、構造のわかる『文』から、名詞句の限定表現を括りだす」という活動もしています。
- I like the musician (the) best.
という「文」から、
- the musician I like (the) best
という「名詞句」を括りだす、という類いです。
名詞句の中に、<主述関係>、<主語と自動詞><他動詞と目的語>の関係が潜んでいるものも、ある程度の数の実例に触れた頃を見計らって、まず日本語の例から確認・整理しています。
過去ログだと、
Beware of English teachers
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140510「もどき」と「ごっこ」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140516
で詳しく書いていますし、今年度でも、高1の1学期の授業で扱った言語材料で言えば、
「目的語感覚を養う」
2016「目的語」感覚を養う.pdf
で取り上げています。
ということで、今回の例で言えば、「山火事」と forest fire、「火消し」とfire fighterなどをそう言う目で眺めることが求められていますし、それを踏まえた上で、-ingや-ed/enの所謂「分詞」としての形容詞的用法を見比べて行くことが求められています。
- (?)モノなら-ing形、人なら-ed/en形
とか、
- (?)生き生きとしていれば –ing形
などという過度の単純化はしていません。
生徒には、
この 1 -11の分類だと、名詞と名詞の意味と私たちの世界の見方に依存した「力技」の2、多様な意味の関係を表わす前置詞で、3〜5に入らないものを集めたゴミ箱のような6が難しい。そして中でも、所謂「不定詞」の11が一番難しいと思うので、実感が持てる例を中心に丁寧に仲間をつくっていくこと。
と言っています。裏返せば、それ以外は「高1のこの時点なら、わかっていないとダメ」ということなのですが、そういうことを言うと、「みちこさん」にダメ出しされちゃうのでね。
所謂「不定詞」も、前置詞 to の原義を引き合いに出して、「未来志向」とか「前望的」などと言われることが多いのですが、それも「判断するひとつの物差し」に過ぎません。
ということを弁えておくために、
- the first man to walk on the moon
と
- the first man to walk on Mars
という例とをわざわざ入れてあります。
もっとも、「目的地」は未来志向で、「到着点」は結果志向、という説明で前置詞 to の原義を説明したつもりの人とは距離を置いておこうと思っていますけど。
英語を教えている人であれば、過去ログの、
不定詞と動名詞
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050213分詞は難しい
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060111the day to remember him by
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130616
あたりも併せて読んでおくといいのではないかと思います。釈迦に何とやらで、申し訳なく思う一方で、本当にこの辺りの理解が覚束ない人が教壇に立っているのも現実なので。
もう少し詳しく考えるのなら、
Limiting vs. Restrictive
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111009英文法指導で心がけていること
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111006
さらには、
大津由紀雄編著
学習英文法を見直したい
- 作者: 大津由紀雄,亘理陽一,安井稔,江利川春雄,斎藤兆史,松井孝志,鳥飼玖美子,日向清人,久保野雅史,末岡敏明,岡田伸夫,柳瀬陽介,田地野彰,山岡大基,高見健一,真野泰,福地肇,馬場彰,大名力
- 出版社/メーカー: 研究社
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の「第7章」と表紙のカバーをよくお読み下さいますよう、重ねてお願いしておきます。
というわけで、高1の夏に中2の検定教科書の素材文を扱っているわけですが、「意味が乗るように音読する」というのは難しいことを実感しています。さらには、「英語を英語のまま理解する」というのも大変なことなんです。
素材文を理解する段階では、チャンク毎に意味を処理していきます。
まずは、
の「チャンク改行」のハンドアウトで、解説も聞いて、書き込みをして、わかったつもりになっている素材文も、「A4版段落ベタ打ち」で何の書き込みもないまっさらな英文でも自力で読めるのか、ということを確認してもらっています。
自力で read and look up → うまくできないところの音源を確認(精聴) → 英文を見ながら口パクで音源に重ね読み → 英文を見ながらのなんちゃってシャドウイング → 英文を見ずにシャドウイング → うまくできないところの音源を確認 (精聴)
と再び(三度?)「音源の確認」に戻ってきた時に、「自分が上手く音読やシャドウイングができない原因は、本当に音声化にあるのか?」というところを明らかにしないとダメでしょう。(そのために、ひと昔、ふた昔前の中1&中2の検定教科書から素材文を採っている『緑本』を使っているのですけどね。)
これも、繰り返しているうちに、スラスラできるようになるわけですが、その一方で、チャンク毎の処理をただ先へ先へと進むだけではなく、意味を中心として構造を跨いでつなぎ直せるか、という部分にも取り組んでいます。
で、意味のつなぎ直しでチャンク切り出しが変えられるか、そして、それに音声だけで対応できるか、という「対面リピート」もやっています。やることはいたって単純。
ペアで対面し、片方が紙を相手に向けて持つ。
相手は英語を読み上げて、もう片方はそれを耳で聞いて、聞き終わったら、リピートする。
Aの文で、1→1 のリピートがスラスラできれば、Bの文へ。
Aの文の1が上手くいかなければ、2,3,4をそれぞれやってから、再度1へ戻って、できたらBへ。
これだけです。私の仕事は、チャンクの切り出しを変えたこのワークシートを作ること。これは高3の生徒でもちょっと難しい作業です。
この素材文は、旧旧課程の中2の検定教科書ですが、この対面リピートはなかなかにchallengingです。生徒の習熟度の差が顕になりますので、高校生を教えていらっしゃる方で、指導力以上に生徒との信頼関係に自信のある方はお試しあれ。
名詞句の限定表現がある程度自信を持って扱えるようになると、「意味順」が一層生きてきます。そのために、高校入学時に、「名詞は四角化で視覚化」を唱えながら、来る日も来る日も来る日も…「四角化ドリル」をしているわけです。その肝心要の「四角化ドリル」が分からないと、今日のエントリーの内容や、ファイルの内容もよく分からないかも知れませんが、そもそも授業って、その授業を受けていない人にはよく分からないものですからね。
「四角化ドリル」の昨年度のバージョンはこちらにあります。ファイルは全てダウンロード可、パスワードなしです。二次使用は注意書きにあることを守っていただければ、あとはご自由に。
それ以前のバージョンの方に、それぞれのドリル設計の意図や背景などを記しています。
今年度のバージョンは、11月の全英連でまとめて発表(&解説)の予定です。
本日はこの辺で。
本日のBGM: Yesterday Once More (Aimee Mann)