辞書を使いこなすには?

tmrowing2016-08-01

8月になりました。
前回のエントリーで「学級文庫」から書籍等を一部紹介したのですが、辞書の写真についてのお尋ねが幾つかありましたので、その部分を補足しておきます。

スマホやタブレットなどで見ている方は、画像ファイルが開けるPCモードで見る方が操作がしやすいのですが、タッチスクリーンで拡大しやすいようにダウンロード可能なリンクもつけていますので、そちらをご利用下さい。

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上段左から、
1. Cambridge Academic Content Dictionary (2008年)
これは、定義が秀逸な一冊です。アプリ辞書も販売されていますので、説明は不要かとも思いますが、幾つか例をあげておきます。それぞれ何の定義か考えてみて下さい。

  • (of a person) truthful or able to be trusted; not likely to steal, cheat, or lie, or (of actions, speech, or appearance) showing these qualities
  • a person in an aircraft whose job is to serve passengers and to make sure they obey safety rules
  • an African wild animal that looks like a horse but has black and white or brown and white lines on its body
  • a building, room, or organization that has a collection especially of books, music, and information that can be accessed by computer for people to read, use, or borrow
  • an accepted principle or instruction that states the way things are or should be done, and tells you what you are allowed or are not allowed to do

2. Longman Wordwise Dictionary (2001年)
Longmanの学習用英英辞典のエッセンシャル版と言えるものです。表紙にはNEWとありますが、2001年の版。収録語数を35000語まで絞り込んでいるところが初級者向け英英ならでは。でも、それでも、学習者が自分で調べたいと思うお目当ての語、一つに対して、当面不要な語が34999語あるということは指導者も弁えておいた方がいい。


3. 田崎清忠編著 『アメリカ日常語辞典』(講談社、1994年)
もともとは自分が使っていたもの。「講談社版」とありますが、このタイトルでの他社版はあるのかしら?
『英語会話―アメリカの生活とことば (日本放送出版協会、1967年)』との対比なのかな?

※20161011追記
恐らく、研究社版の『田崎のアメリカンライフ辞典』(1983年) が元版だと思います。表紙の写真はこちら。
[file:tmrowing:田崎1983 & 1967.jpg]
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4. 『英語基本語彙辞事典 3000語の背景』(中教出版、1983年)
語研の主要メンバーによる編著ですかね。「基本の2000語、3000語くらい、一つ一つ丁寧に教えてあげなさい」とは、恩師の若林先生のことば。今読むと、物足りない、食い足りない部分が多々ありますが、中高生で、ことばに興味関心が強い人にはこういうものもありかと。昔は、小川芳男・前田健三『英単語物語  その誕生と生いたち』(有精堂、1980年) などの「読み物」でも良いものがあったんですけどね…。


5. 『ヴィスタ英和辞典』(三省堂、1997年)
若林俊輔門下による、初学者への配慮のなされた英和辞典。改訂はされていません。でも、訳語そのものの吟味、用例での日本語訳表示の工夫など、これにとって代わるものがないので、依然としてこれを置いています。数年前の生徒の一人は、再帰代名詞を調べた際に気に入って、自分で買っていました。


その、『ヴィスタ』から少し離れた右にある小さな判型のものは、

6. Webster's Essential Mini Dictionary (2011年)
これこそ、アプリ版が望まれる優れた辞書。中身は、概ねCambridge Essential と同じですが、一部定義や用例が異なっています。米語対応ということなのでしょう。CEFRに準じた表記も、語義ごとになされています。これは、Cambridge English Profileという巨大なプロジェクトを手がけているケンブリッジ系ならでは。老眼の私の目にはこのminiの判型・サイズは厳しいので、学級文庫に置いています。


中段左から、
7. BBC English Dictionary (1990)
COBUILDとのコラボ。BBCの放送で使われた言語資料から、(当時としては)巨大なコーパスを構築して、定義や用例に活かした、画期的、意欲的な辞書。百科事典的項目は国が変わっていたりするので、今の時代に合わないものも出てきているけれども、やはりあると便利。個人的には、検定教科書のTM執筆で20代の終わりから約10年、最も使った辞書の一冊。


8. 『ワードパワー英英和辞典』(Z会出版、2002年)
オリジナルの Wordpowerの初版に対応しています。
英語のエントリーに対して、英語による定義文と用例があるのが一般的な英英辞典ですが、その定義文の和訳と訳語、用例の和訳を載せているので『英英和』です。定義文の和訳があるのがウリ。というか、定義文の和訳がないとこの辞書は存在価値がない。かつては『ウエブスター英英和』が左右対称二段組で定義文も含めた英英和を出していましたが、それを「学習用辞典」でやったところがエポック。ただし、当時の編集部に、辞書作りのノウハウがなかったのか、レイアウトやフォント、色使い、文字とスペースのバランスなど最低最悪の見た目で、引くたびにストレスがたまる。数年前までは、クラスで一人にこれを1年間渡して、「ミス or ミスター・ワードパワー」の称号を与え、授業中に折りに触れ読み上げてもらっていました。ここを足場にして、他の英英辞典の定義との読み比べに入るわけです。


9. Cambridge Learner's Dictionary (小学館、2004年)
こちらも英英和。でも、英語の定義のあと、ちょこっと訳語が載っているだけ。「学習用英英辞典」でそれをやっている、というところが持ち味。活用ハンドブックを投野先生が書いていたように記憶しています。


10. 『ショーター英英辞典』(旺文社、1982年)
流石は菅沼先生の編んだ辞書、『元祖学習用英英和』という評価は『令文社学習英語辞典』に譲るとしても、基本の1万5千語に簡潔な定義と、要所要所で、ローマ字による訳語を当てているところが類書との違い。表紙の鮮やかさも好みです。
ハンディな判型と薄さなので、個人的に、未だに普段使いしています。

11. 『新英英大辞典』(開拓社、1941年)

『ホーンビーの英英』とか、『ISED』の略称で御馴染でしょう。世界のESL/EFL用の学習用英英辞書の先駆。曙。これがなければ、OALDはないのだから。古いけど、随所に上手い定義があるので手放せません。

12. Oxford Elementary Learner's Dictionary (1994年)
見ての通り、旧版です。基本語の扱いを確認するために置いています。その語の、その語義はこの初学者用辞書に載っているか?というチェックの仕方ですね。今は、オンラインで使えるEVPがあり、text inspectorがあるので、この辞書の出番は減り、14. に軍配があがりますかね。

13. MacMillan Essential Dictionary (2003年)
今では紙辞書からの撤退を表明しているマクミランからの極めて優れた学習用英英辞典。この親版にあたる『マクミラン英英』は私が密林のレビューで絶賛していますので参考にして下さい。2004年には日本独自の『ワークブック』(小室夕里著)まで出ていたんですよ。こちらも教室では今でも使っていますけど…。


14. COBUILD Primary Learner's Dictionary (2014年)
初学者用英英辞典のお手本のような辞書。CEFRで対応すると、A1からB1までを念頭に置いています。日本の中高生の大多数はこれ(と、6. の "mini") で十分でしょ。用例も簡にして要、生き生きしていて、COBUILDの親版よりもいいのではないかと思うほど。これがでたばかりの頃、他教科の同僚に見せたら、ご自分のお子さんのために速攻で買われていました。


そして、下段左へ、
15. Chambers Universal Learners' Dictionary (1980年)
学習用英英辞典の先駆的存在。OALDが合わない、LDOCEでは物足りない、という人に人気だったのかな?定義・用例とも随分とお世話になりました。そう言えば、かつて薬袋義郎先生が研究社から出していた『薬袋式英単語暗記法』(2004年) の例文は全て、このChambers Universal Learners' から採っていましたよね。

※20161011追記:薬袋 (2004) の表紙画像はこちら。
[file:tmrowing:薬袋2004.jpg]
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16. Chambers Student Learners' Dictionary (2009年)
そして、現代のChambersの学習用英英辞典。「CLILに最適!」と言う謳い文句に唆されて。世界各地の「英語で」いろいろな教科を学ぶ授業を受けている中高生向きなんでしょうね。ひょっとすると既に絶版かも。


17. COBUILD School Dictionary (2008年)
こちらも英語圏の学校や、「英語で」いろいろな教科を学ぶ中高生向け。過去ログにも記したけれど、spelling beeの競技方法が載っていたりします。http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110113


18. コウビルド米語版英英和辞典 (2008年)
advanced版の英英和。定義文の和訳はありません。紙辞書は既に絶版だろうけれど、kindle版と、物書堂のアプリ辞書があります。(物書堂のアプリ辞書なら、『ウイズダム英和和英』『ランダムハウス』で相互にジャンプで乗り入れ可能です。)


19. Merriam-Webster's Essential Learner's English Dictionary (2010年)
米語版の学習用英英では出色。定義文が簡潔で的確なものが多い。B1より上の中級を目指す学習者ならマストバイでしょう。難点は、fontのサイズが小さくて、老眼の目にはつらいことと、判型のせいでPBで分厚いので、背割れしやすいこと。アプリ辞書も出ていますので、そちらをオススメします。


20. Longman Essential Activator (2006年)
第2版のPB。背割れにご用心。先に背表紙にテープを貼っておくのもいいかも。ライティングで重宝する類語辞典。学習用頁も有益。至れり尽くせりだと思います。Activatorにはポケット版もあり、収録語彙が絞り込まれているので、若い方にオススメします。


21. Longman Lexicon of Contemporary English (1982年)
LDOCEからの流れで出てきた「シソーラス」+「Duden」的学習辞書。古いというのは簡単だけれど、代替するものがないのでね。家にも、もう1冊あります。当然絶版ですが、現役で活躍中です。


以上、辞書解説でした。
ここで、前回のエントリーを再読すると、面白いのでは?

電子辞書だと、簡便なものが1冊、類語辞典的なものが1冊入っていれば良い方ですが、その定義や用例で腑に落ちる、実感が持てることは稀なのです。こちらの教室には英英辞典だけで複数冊、しかもレベルの異なるものが用意されていますので、その定義や用例を読み比べることで語義の理解も深まり、定義文に用いられるお定まりの表現形式にも慣れることで、一定の文法力も養うことが可能となります。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160730

本日のBGM: I may know the word (from the album "Paradise is there") / Natalie Merchant