※注記:この記事で取り上げている『コウビルド英英辞典』に関わる記述は2020年4月段階の事実に基づくものです。
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現時点で最新版であるCOBUILDの第9版では、特に「動詞の用法」、「文型」と呼ばれることの多い「動詞型」に関して、どのような記号を用いて、どのように意味と形・構造を整理して扱っているのか、というCOBUILDならではの「芸風」を知っておく、慣れておくことが重要だ。
という趣旨で第1回、第2回と書いてきました。
この第3回で締めくくりの予定です。
辞書の機能、特色の全てを扱うわけには行かないので、「動詞型」に焦点を当てています。
第1回、第2回のおさらいは、ここから過去ログを見て下さい。
第9版は2018年刊行で、物書堂のアプリ辞書のリリース(update)が2020年ですが、それでも誤植はあります。
例えば、基本語中の基本語である動詞 give。
語義の2番目。
give
[2] VERB
You use give to say that a person does something for another person. For example, if you give someone a lift, you take them somewhere in your car.
英系語法ですから、具体例では、liftという名詞が使われていますね。
これに続く、一例目、二例目の用例とその前の動詞型表示をよく見て下さい。
[be V-ed n] I gave her a lift back out to her house.
[V n n] He was given mouth-to-mouth resuscitation.
逆になってますよね?
COBUILDの記述では、 giveのとる動詞型も語義によって注意が必要というか、有益な指摘をしてくれているので、こういう誤植は非常に痛いものです。
[V n n] 表記があれば、いわゆる「二重目的語」を取る、ということは分かるでしょう。でも、その同じ語義に、[V n + to] がない場合は、to を用いての書き換えができない、または頻度が極めて少ないことを示唆します。
先程の [be V-ed n ] は二重目的語を取る動詞型の、いわゆる「間接目的語」を主語にした受け身が可能、ということですが、この表記がない語義の場合は「ない」のか、「少ない」のか、など、それなりの注意を払って読むことが望ましいと思います。
では、語義の9番目を見て下さい。
[9] VERB
If you give something thought or attention, you think about it, concentrate on it, or deal with it.
主節側で、ちょっと欲張った三択を束ねていますが、この語義に対応する用例が、
[V n n] I’ve been giving it some thought.
[be V-ed + to] Priority will be given to those who apply early.
となっています。 二例目の受け身の例文では、[be V-ed n] ではなく、 [ be V-ed + to] となっていることがわかるでしょうか?
能動態では、[V n n] が普通だが、受け身では、[be V-ed + to]が普通なのか?疑問が浮かびます。
新情報の焦点が、語義の[2]で見た、
- [be V-ed n] I gave her a lift back out to her house.
とは異なることは分かりますが、それは語義によって義務的なのか、任意なのか、に関する情報は与えてくれません。動詞型の表記が正しいとしても、その処理、理解は悩ましいところなのですから、冒頭で示した「誤植」は本当に痛いのです。
COBUILDの動詞型の表記で気をつけるべき項目で、まだ扱い切れていなかったものに、「句動詞」での表記があります。
どういうわけか、この句動詞のパターンというのは、「試験での頻出項目」のようになっていて、個人的には、「それがスラスラ解けるなら、他の英語の語順も相当容易くできるんだろうな」と思うくらい、随所で問題を目にするような印象です。
- The crowd gathered at the airport to see the President off. 群衆が大統領を見送りに空港に群がった。
- I’ll pick you up at your house at 7:00. 7時にお宅に車でお迎えにあがります。
などというときの、目的語の名詞と、副詞(不変化詞)の語順の扱いがポイントになるのでしょう。
まずは、see off から。
see off
[2] PHRASAL VERB
When you see someone off, you go with them to the station, airport, or port that they are leaving from, and say goodbye to them there.
この定義に対応する用例が、
[V n P] Dad had planned a steak dinner for himself after seeing Mum off on her plane.
[Also V P n (not pron)]
です。
- 動詞+目的語+off
の語順になりますね。
Vは当該の、ターゲットとなる動詞 (ここではseeのこと)、Pは (adverbial) particle いわゆる「副詞(不変化詞)」を表します。
最後の補足は、[Also...] は「用例は示さないが、こういう場合も可」という意味でした。pronはpronoun 「代名詞」ですから、「この [V P n] という環境になるのは、n が代名詞以外のときですよ」という但し書きです。
先程の用例を見てみましょう。目的語に来ている名詞は Mumでした。大文字ですから、自分の母親です。
第9版では、Mum という語を引くと Nという品詞ラベルが貼られていて、一般名詞扱いであって、代名詞扱いではありません。
ではなぜ、[V P n] にならないのでしょう?悩ましいですね。
COBUILDでもかつての版や米語版では、N-FAMILY という特別なラベルを貼っていました。
家族の呼称で所有格や限定詞なしで、固有名詞のようにも使う、という注記がなされていた語群です。
先程、第9版以外から、例として引いた、
- The crowd gathered at the airport to see the President off.
という文に動詞型表記をするなら、 [V n P]となります。でも、この the President は代名詞ではないのに、なぜ?悩みますね。
第9版でも、この president には「肩書き」を示す N-TITLE というラベルを貼っていますので、特別扱いでしょうか?
では、第9版には、初学者でも分かる代名詞以外の目的語が来て [V P n] になるような日常的で、平易な用例はないのでしょうか?
アプリ辞書での用例検索の出番、とばかりに検索してみました。
なんと、…。ないのです。
困りましたか?
いや、代名詞以外の場合は、[V P n] にもなるといいつつ、用例の豊富さを誇るCOBUILDのデータに、典型例がないのであれば、「見送る」という場合には、 see 目的語 off がデフォルトで押し通してOKということでは?という気もします。
というように、「句動詞」では、この目的語の名詞をどこに置くか、という語順にかなり悩まされるのですね。
辞書活用マニュアル、といえば皆さんお馴染み、私も随分お世話になっている、
- 磐崎広貞 『英語辞書をフル活用する7つの鉄則』(大修館書店、2011年)
でも、句動詞のとる語順を類型化して注意を喚起しています。
磐崎は4類型で、自動詞扱いか他動詞扱いか、目的語の入るべき位置(=スロット)はあるか、あるならどこかで整理をしています。
また、今は、紙版を廃し、オンライン辞書に特化しているマクミランが出していた英語辞典では、5類型を文法コードで示していました。
では、COBUILD第9版は?
先程のもの以上の記号、コードによる識別はしていません。
slow down を見てみます。自動詞としても他動詞としても使われそうな句動詞です。
slow down
[1] PHRASAL VERB
If something slows down or is(ママ) if something slows it down, it starts to move or happen more slowly.
[V P] The car slowed down as they passed Customs.
{V P n} There is no cure for the disease, although drugs can slow down its rate of development.
[V n P] Damage to the turbine slowed the work down.
この動詞型表記には代名詞の注記がありませんから、目的語は動詞の直後でも、副詞の直後でも構わない、という読みでいいのでしょう。
続いて tell apart
tell apart
PHRASAL VERB
If you can tell people or things apart, you are bale to recognize the difference between them and can therefore identify each of them.
[V n P] The almost universal use of favourings makes it hard to tell the product apart.
これ以外のパターンを示していないということは、 tell+名詞+apartの形でしか使われないということを示しています。ただ、用例が使役動詞 make の形式目的語 it を受ける不定詞ですので、初学者には分かりにくいでしょう。
allow for はどう扱われているでしょうか?
allow for
PHRASAL VERB
If you allow for certain problems or expenses, you include some extra time or money in your planning so that you can deal with them if they occur.
[V P n] You have to allow for a certain amount of error.
ここでも、これ以外のパターンは示していませんから、常にallow for+名詞 の形で使うことが分かります。
気になりますよね?
「え、何が?」って、allow はCOBUILD以外の多くの辞書では、他動詞扱いの動詞です。そのallow を用いた句動詞も、次の、自動詞扱いの動詞を用いた句動詞 come byも、動詞型表記では見分けがつかないことになります。
come by
PHRASAL VERB
To come by something means to obtain it or find it.
[V P n] How did you come by that cheque?
COBUILDの句動詞の動詞型表記では、
自動詞由来か他動詞由来かは不問(もともと自他の区別をしていないから)。
本来、不変化詞[小辞] (= particle) ではなく、前置詞 (= preposition) であるものも、記号はPで表す。
ということに注意が必要です。
やはり、丁寧に「文定義」の部分を読み、主語や目的語の意味の関係と制約を踏まえた上で、用例と記号とを照合することが重要だと思います。時間がかかりますよ。
ということで、あらためて文定義を眺めて「COBUILDの芸風に慣れよう」(その3)、そして、このシリーズも締めくくりたいと思います。
ポイントは、
- 文定義では、いつwhenを用い、どんな条件で if を用いるのか?
です。
ここは逐一解説せず、アプリ辞書の定義をひたすら引きますので、面倒でも読み比べた上で、それぞれの「生息域」を感じて下さい。(リストは長いですよ。)
日常生活系
知覚系
喜怒哀楽系
伝達系
「ちゃんとちゃんと」系
『コウビルド英語辞典』の文定義との折り合いが、「ちゃんとちゃんと」つけられることを願ってやみません。
本日のBGM: ラストダンス (綿内克幸)