もう合わないかもしれない?

今年度の授業で取り上げた「表現」のうち、

  • 合う・合わない、似合う・似合わない

の意味を表すものをまとめておきたいと思います。
昭和の頃の入試問題から、つい最近の出題まで、次のような英文が取り上げられています。
空所補充完成だったり、同義語選択だったり、読解素材文中に含まれていたり、とさまざまです。

他動詞のsuit
I like your dress. I think that blue suits you. 
あなたの服はすてきですね。そのブルーがあなたに似合っています。
How do I like you in that uniform? You look great. It really suits you.
その制服を着たあなたをどう思うかですか?カッコいいです。とってもお似合いですよ。
The word “politician” does not suit Mahatma Gandhi.
マハトマガンジーに「政治屋さん」ということばは似つかわしくない。

他動詞のfit
This coat fits me beautifully. この上着は私に(サイズが)ぴったりと合う。
I had to send back the jacket because it did not fit me. 
     そのジャケットは(サイズが)私に合わなかったので,送り返さなければならなかった。
This glove is too big and the other too small. Neither fits me, so they can’t be mine
     このグローブは大き過ぎて、もう一つは小さ過ぎる。どちらも私(の手)には合わないから、私のではない。
Your reaction didn’t fit that situation. あなたの対応はあの状況に相応しくなかった。

go with とmatch
She wanted to buy a new sweater to go with (= match) her favorite skirt. 
彼女はお気に入りのスカートに合う新しいセーターを買いたかった。
Which dressing goes with (= match) this kind of salad?
この種類のサラダにはどのドレッシングが合いますか?
Her dress matches her age. 彼女のドレスは年相応である。
Japan could not match American style housing.
日本にはアメリカ式の住宅は合わないだろう。
名詞としてのmatchは可算扱い。
Your shirt and trousers are a good match. あなたの(着ている)シャツとパンツはよく似合っている
That scarf is a good match for your blouse. そのスカーフはあなたのブラウスにとてもよく似合っている。
Your coat is a good match for your gray trousers. 君の上着はグレーのズボンとよく似合っている。

ただし、「合う/合わない」「似合う/似合わない」は、単に語義(=訳語)をリストとして示したり、まとめたりしても、殆どご利益がないと言えるでしょう。やはり、語義に加えて、主語と目的語の選択制限を確認する必要があります。

以下、Wisdomより引用。

似合う=[服装などが] suit, (書) become*;
(色・柄が調和する) match, go* (well) with …. (!いずれも人を目的語にとらない)
その青いドレスはあなたにとてもよく似合っている
That blue dress suits [(書) becomes, ×matches] you very well.
(!日本語の「…ている」にひかれて進行形にしないこと. 次の2文の方が口語的)
That blue dress looks very good [nice] on you. / You look very good [nice] in that blue dress.
彼女には長い髪がいちばん似合う
She looks best with long hair. / Long hair suits her best.
このセーターに似合うスカーフを探しているのです
I’m looking for a scarf to go (well) with [match] this sweater.
彼女の短いドレスが長い脚によく似合っていた
Her short dress looked good over long legs.

以下、動詞 fitの例。

The key fits the lock. その鍵は錠に合う. (W)
この服を私に合うよう(仕立て)直してくれませんか
Can you alter this dress [make this dress over] to fit me? (W)
このドレスが気に入ったんだけど, サイズが合うかしら
I like this dress, but I wonder if it will fit me. (G6)
Try these shoes for size ― they should fit you.
この靴のサイズが合うかどうか履いてみて―ぴったりのはずですよ (Oxford類語)
This dress fits me very well [perfectly]. このドレスは私にぴったりです
⦅[注意] fit は大きさや型が合うこと; suit は人に 「似合う」 こと⦆ (コンパスローズ)
The sash, kimono, and other garments were made to fit a child.
帯,着物,その他の衣類は子供に合うように作られた. (COBUILD米語英英和)

fit / suit / matchの使い分けに関する、COBUILDの注記を引いておきます。

このうち、特に注意が必要なのは、動詞matchでしょう。
語義として、「調和する;つり合う」という意味成分と「対となる;揃う」という意味成分が含まれているからです。
この「意味成分」のうち、どちらが前面に出るかで、次のような表現が一読了解できるかを左右します。

I must find a new pair of gloves which match a gray coat.
グレーのコートに似合う新しい手袋を探さなくては. (W)

彼女は青いサテン地の服を着て, それとお揃いのハンドバッグを持っていた
She was dressed in blue satin and had a matching purse in her hand. (W和英)

現在分詞由来の形容詞 matching の語義にも注意が必要です。裏を返せば、英語の指導で動詞matchを扱う時に、ここまでの見通しを、少なくとも指導者は持っておくべきだろう、と思っています。

A business suit usually consists of matching pants, coat, and vest.
ビジネススーツはふつう揃いのパンツと上着とベストからなっている (G6)

あの双子の姉妹はいつもおそろいの服を着ている
Those twin sisters are always (dressed) in matching clothes. (O-LEX)

前者は、色・柄とか生地が揃っていることを表すのだろうし、後者では、上着なら上着が同じ製品/デザインということを表すことになるでしょう。後者で、もし、姉の上着と妹のスカートの柄が同じ、というような場合には、いくら「揃って」いても、当然、上述の英語表現では表し切れません。
辞書には <matching +衣類>の用例は多いと思われるので、ブックマークを作って整理するのが吉。

日本語では同じ、「合う/合わない」という語を使いますが、「体質などに合う/合わない」の場合は、英語では全く異なる表現をしています。
そちらについては過去ログの

tmrowing.hatenablog.com

をお読みください。


さて、上述のWisdomの例で示されている他動詞としてのbecomeに関して、現代英語の使用頻度はそれほど高くないように思うのですが、高校上級用の教材や大学入試対策教材などでは、いまだに語義が示されていることが多い印象を持っています。
そこで、ソーシャルメディアのtwitter (今ではXと呼ぶらしい)で、簡単な調査をしてみました。

ここでの質問の背景には、私の更なる「?」がありました。

現代英語での使用頻度が教える/教えないに影響しているのか?
自分では使うけれど、教えないのはなぜなのか?
教えているのに、自分では使わないのはなぜなのか?

164アカウントから回答をいただきました。ご協力ありがとうございます。
この結果は結構、興味深いと思います。

https://twitter.com/tmrowing/status/1740266398176411991


この問い以外にも、Q2 & Q3では助動詞としてのneedに関わる調査をしています。回答数は少ないですが、Q1で興味を示した方が答えているのではないかと、推測されるので、「英語教師あるある」みたいな解釈も、あながち無理ではないのかもしれません。

https://twitter.com/tmrowing/status/1740269712259592652

https://twitter.com/tmrowing/status/1740270579691987075

先に、noteで改訂版を公開していた、こちらの記事と併せてお読みいただけると、面白さもまた格別だろうと思います。まだ読まれていない方は是非。

note.com

本日はこの辺りで。
ごきげんよう。


本日のBGM: It suits me well (Sandy Denny)