言う?言わない?言えない? 

所謂「春休み」の期間となり、出講先への往復の車中がなくなりましたので、ツイッターの英語ニュース紹介&詳解も激減しました。日頃は、オンラインコーパスの検索結果なども貼りまくっているのですが、反応は殆どありませんね。
もうとっくに知っていることなのか、試験の合否やスコア以外の英語ということばそのものには興味はないのか、よくわかりません。
昨年、古いつき合いのベテラン編集者とのやり取りの中で出てきたのが、「私が何を問題視しているのかということがなかなか理解されない」問題。
いや、そのベテランの方は分ってくれていると思うのですが、巷の方々がなんとも…。

今年に入ってからの、このブログの記事は努めて「英語そのもの」を取り上げているのは、そこに対する精いっぱいの抵抗です。

ということで、今日も英語の語法の話し。
「テスト」ではすっかりお馴染ではないかと思われる

「副詞句just now は現在完了形とは使われない」
「現在完了でjust now を使うのは間違い」

という「通説」です。
ツイッターの英語クイズに限らず、WEBで英語を教えている方たちのありがたい教えや、市販の英語教材の多くが上記のように説いているような印象です。

でも、例えば、次のような説明って、本当に今でもされているんですかね?

I have written it just now. [誤]
I wrote it just now. [正]
私は今しがたそれを書きました。
I have just written it. [正]
私は今それを書いたところです。
[注意] Just nowはa minute ago (今しがた)の意味であるから、やはり過去を表す副詞句であり、現在完了形と共に使うことは避けるべきである。
大塚高信 『英語百科小事典』 (垂水書房、1958年)

解説では「避けるべきである」という書き方にはなっているけれども、その前の用例提示では明らかに「正誤」の判定を下している。

justもnowもともに「現在」を表す語で、どちらも現在完了に用いることができるが、これがいっしょになってjust nowとなると、純然たる過去の一定時を示す語句になり、現在完了には用いられない。
He has just come home from school (彼はちょうど学校から帰ってきている。)
He has come home from school now. (彼はもう[いま]学校から帰ってきている。)
He came home from school just now. (彼は少し前 [たった今さっき ー 少し前に] 学校から帰ってきた。)
(木村明 『英文法精解(改訂版)』培風館、1967年)

「用いられない」と明記。

[正] He went out just now.
[誤] He has gone out just now.
彼はたった今出かけたばかりだ
(西尾孝 『実戦英単語活用辞典』 日本英語教育協会、1981年)

justに関する補足で、この正誤が示されているが、just nowそのものの但し書きは無い。

大昔の教材ならいざ知らず、いくらなんでも、20世紀末くらいでは、もう少し柔軟な扱いになっていたかと思います。例えば副詞句の位置の制約とかで但し書きがある、とか。

now (今)は現在形に、justは現在[過去]完了と過去形とともに用いられるが、just now は普通文末において過去形とともに用いる。
(○) I have just received your letter. (ちょうどあなたの手紙を受け取ったばかりです)
(×) I have received your letter just now.
綿貫陽 『英語語法の征服(改訂版)』 (旺文社、1996年)

1996年の出版なので、時代としてはインターネット普及前夜。でも、入試問題正解の執筆時に出た私の疑問に対して、綿貫氏はご自身が作っているコーパスから用例を示してくれたくらいには、当時の「現代英語」には精通していらしたと思うのですよ。それでていて、いくら「普通」と但し書きがあるとは言え、×って、ねえ?

追記: 因みに、綿貫氏が著者の一人でもある、『ロイヤル英文法(改訂新版)』(旺文社、2000年)では、p. 421 の「<just now>と現在完了」と題したコラムで、just now が現在完了と共起する例を挙げています。この4年で何かあったのでしょうか?

いや、比較的新しいものでも次のような記述だったりするんですよ。

現在完了形は、過去のある時点の出来事の「現在との関連」を示す時制。
過去形は、現在と切り離された「明らかな過去」の出来事を表す時制。
a) I have just finished reading the book. (= already)
b) I finished reading the book just now. (= a moment ago)
宇佐美修 『新・英文法ノート』(日栄社、2009年)

位置の制約など一切言及なし。

ある程度現代英語の実態を踏まえた学参だと次のように「教育的配慮」としての記述になっています。

just now (つい先ほど、ちょうど今)は過去形あるいは現在形の文で使われ、現在完了形の文での使用は避ける。ただし(米)では使われることも多い。
野村恵造 監修 『アルティメット総合英語(2nd Edition)』(啓林館、2022年)

  • いや、入試では出るでしょ?

って言う人が必ず出てくるので、実例を。

He ( ) home just now. Didn’t you know that?
① comes ② came ③ has come ④ had come

第二文に過去形の疑問文を続けることで、無理やり過去文脈へと引きずり込もう、という企みですね。

こんな出題もあるにはあります。問題文本文ではなく、錯乱肢の中にjust nowがある、というパターン。

Have you finished your homework ( )?
① still ② until ③ just now ④ yet

She has worn the same jacket ( ).
① when I met her ② for a month ③ just now ④ one year ago

どちらも、本文で現在完了形を示して、副詞(句/節)を答えさせるもの。

次の出題などは、正解として何を想定しているのか公表するべきだとさえ思います。

次の文の下線部を日本文の意味になるように訂正し,英文を完成させなさい。
I have been seen her just now.    (つい先ほど,私は彼女と会った。)

はてなブログでは下線が見えずらいのですが、どの語句に下線が引かれているかわかりますか?
そう、“have been seen” の部分ですね。明らかに「態」の誤りがあります。では「時制・相」は?

誤文指摘・誤文訂正の出題で、現在完了形と共起しない副詞(句/節)を問うとしても、just nowを問うことは近年では稀ではないかと思っています。

次の英文の下線部(a)~(d)のうち,誤りのあるものを一つ選びなさい。

Last year, a curious nonfiction book (a)has become a Times best-seller; a dense meditation on artificial intelligence (b)by the philosopher Nick Bostrom, (c)who holds an appointment (d)at Oxford.

(a)Although I am not sure about this, (b)I think that, when my brother (c)was in Europe last year, (d)he has been to England.

どちらも同じ大学の異なる年度の出題ですがlast yearが使われている文脈で、現在完了形が使えるのか、という知識を診ているようです。

誤文に注意喚起をしたい気持ちはよくわかります。
でも、英米の出版社から出ている定評ある「コモンエラー」系の書物で、just now が取り上げられることはあまりないような印象なんですけど…、

現在完了形は過去を明示する語句と共には使うことはできない
(X) I have seen a good film yesterday.
(○) I saw a good film yesterday.
(昨日、良い映画を見た)
文を述べる時点から見て過去に完了した行為を表す場合、過去形を示す単語や句(yesterday, last night, last week, last year, then, agoなど)がある場合は、現在完了形ではなく、必ず過去形を使う。
T.J. フィチキデス著、倉谷直臣訳編 『ロングマン 英語コモンミステイク500』北星堂、1989年)

ジャンルとしては同じ「コモンエラー」系で、これよりも新しいもので、「日本人学習者向け」を謳うものには、こんな記述が…、

(×) Rebecca has returned to her office just now.
(○)Rebecca returned to her office just now.
(レベッカは今しがた会社に戻ったところです)
☞「つい今しがた、たった今」を意味するjust nowは通例過去時制と共に用いられる。なお、同じ意味でjustだけが用いられる時は、次の例のように、通例現在完了形をとる。
Rebecca has just returned to her office.
木塚晴夫、ジェームス・バーダマン 『日本人学習者のための米語正誤チェック辞典』(マクミランランゲージハウス、1997年)

「通例」とあるのに、○×で正誤を示しているところが気になります。同じ木塚氏の著書『日本人が間違えやすい 英語使い分け正誤用例辞典』(ジャパンタイムズ、2002年)でも「たった今」の項目で、同様に正誤を示していますが、そこでも「通例」という書き方です。

個人的には、20年前に出た次の書籍でもうとっくに解決済みだと思っていて、なぜ未だにこの項目が根強い人気があるのか理解に苦しみます。

14 just now 「たった今」を現在完了形で用いるか?
Q. 次の (a)〜(d)の表現を使いますか。
(a) They have just now arrived.
(b) They have arrived just now.
(c ) They arrived just now.
(d) They just now arrived.

林龍次郎・鷹家秀史 『詳説 レクシスプラネットボード』(pp.42-43; 旺文社、2004年)

ここでの解説から少しだけ引用。

just nowを現在完了形の文で用いる (a)(b)の使用率は必ずしも低くない。(中略)特に(米)の使用率が高い。(英)でも(b)の使用率は60%を超える。なお、just now という表現そのものが(堅)または(旧)という指摘もある。(p.42)

通説に反し、just nowを現在完了形で用いた(a)(b)を使用すると答えた人はかなり多い。(中略)just nowについては、一般的には(c )のように過去形で文末に置く例を覚えておくのがよいが、通説「現在完了形でjust nowは使わない」を規則のように考える必要はないと思われる。(p.43)

英語ネイティブインフォーマンツによる回答結果の集計やコメントの詳細は、上記書籍をご覧下さい。

この『プラネットボード』以前の、私の理解・認識は

柏野健次 『テンスとアスペクトの語法』(開拓社、1999年)
5.1.2. 現在完了形と過去時制の比較 (pp. 160-171)

の記述におんぶに抱っこでした。先行研究や用例を整理していて、今でも、参考になると思います。

みんな大好き(主語が大きい!)『安藤講義』ではこんな記述です。

② [過去時制または現在完了形とともに] 「ついさっき」 (a moment ago)
(11)
a. “I met him just now,” said Luke. [後位] (Christie, Murder Is Easy)
(ついさっき彼と会いましたよ」とルークが言った)
b. He has just now turned 25. (最近25歳になったばかりだ) [中位] (Google)
安藤貞雄 『現代英文法講義』(開拓社、2005年)

b.の引用例がGoogleとだけあるのはちょっと気にはなりますが、ちゃんと、現在完了形と共起するjust nowの位置の制約も書いてありますので。

「実用書」の大御所として、日本の某英語学者からはボロクソに言われていたMichael Swanの語法書では次の通り。

a. in the end-position, usually with a past tense.
I telephoned Anna just now.
b. in the mid-position with the verb, with a present perfect or past tense.
I(‘ve) just now realized what I need to do.
Practical English Usage, 4th Edition (Oxford、2016年)

比較的新しい語法書であるCOBUILD English Usage (Collins, 2019年)では、興味深い指摘があります。
まず、副詞のjustでは、米語法では、現在完了形ではなく、通例(= usually) 過去形と共起、として用例を載せています(p.280)が、just nowに関しては、nowの項目に注記があり(pp. 351-352)、just nowが過去形と共起する例のみを示しています。私が興味深いと思ったのは、最後の注記。(p. 351)

! BE CAREFUL
Don’t use ‘right now’ or ‘just now’ in formal writing.

という件の書/話やフォーマル/インフォーマルに関しては、日本の辞書や文法書ではあまり指摘されてこなかったところでは?

ということで、ツイッターでも貼っていた、オンラインコーパス等での「ざっくり」とした検索結果をこちらにも。

検索の便宜上、中位のみです。

COCAで話し言葉と、TV&Movieコーパスで検索

米語法に限らない、という検索結果

これをみる限りでは、辞書の注記にも修正が必要なのではないかと感じています。

『ウィズダム英和(第4版)』(三省堂)
『ジーニアス英和(「第6版)』(大修館書店)
『O-LEX英和(第2版)』(旺文社)
『コンパスローズ英和』(研究社)
の記述から抜粋して引用。

just nowの位置の制約に関する注記は必須。米語法と限定するのは適切とは言えないのではないかと。

SKELLでの100万語辺りの出現頻度は 0.07 と出ました。

この0.07というのは、英語の魚が棲む大海原に網を投げて、100万匹の種々の魚を捕ったときに、そこにそのお目当ての魚(=語)が何匹いるか、というような目安と捉えています。

  • 少数なんだから、低頻度。そんなものを教える必要はない。

という向きもあるでしょう。

比較の対象として、つぎのようなものの数値を確認しておきましょうね。

助動詞として用いられる<used to原形>の否定でよく見られる <did not used to 原形>が、 0.07 です。

一見破格ですが、よく見る言い回しの This despite が、0.36 です。一ケタ違いますね。

私が「知っておいた方が良い」と言って、高校生には教えている because of the way が 1.0 です。2ケタ違いますよ。

受験対策では、みんな大好き(主語がデカイ!)な nothing is more important than は、0.05 です。

この最後の例だけ、比較級という形式ではなく、more importantという語彙項目にしているところは、まあ狡いといえば狡い比較なのですが、

  • 「最上級相当の意味内容を比較級で表す」際の用例

としては、このmore importantが典型例という印象です。

最近改訂版が出た、『アップグレイド英文法・語法問題(四訂版)』(数研出版、2023年)は、過去28年の大学入試問題を徹底分析し、悪しき「受験英語」を排し、「実用英語」にターゲットを当てていることを謳っています。
そこでも、<nothing is + 比較級>で取り上げられている問題では、このimportantが使われていました。

現代の実用英語という観点からも、この表現が重要なのであれば、頻度の目安から言って、just nowが現在完了形と一緒に中位で用いられるものも同等かそれ以上に重要なのでは?

  • 「過度の一般化は慎重に!」

ということは本当にうんざりするくらい言ってきましたけれど、 「ルールではないもの」を「ルール」であるかのように扱い、それをテストして、英語が分かる分からない、英語ができるできない、の品定めをするのは下品だと思っています。


今、「意識高い系」の私立高校の入試では、かつての大学入試英語の前倒しのような語彙項目、文法事項の出題が増えてきた印象です。
その問題を「過去問」として解説する、学参や問題集の記述が心配でなりません。
そして、英語が教科として、小学校に降りて、中学の入試で英語が問われ始めました。
私が何を問題視しているか、心ある英語指導者には感じて欲しいと思います。

本日はこの辺で。

本日のBGM: POISON〜言いたい事も言えないこんな世の中は〜 (反町隆史)

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