もう「…しないようにする」なんて目標なんて立てないよ絶対

マッキーの歌の歌詞みたいなタイトルで始まった本日のエントリー、英語の文法・語法に関する話しではあるのですが、「気になる語法シリーズ」のための執筆ではありません。
先日、英作文関連で出講先の生徒からとある質問があったのですね。本人への回答はもう済んで、本人の疑問も解消しています。
有料記事にするほどのものではないのですが、学習者(指導者も?)には有益な情報だと思いますので、その生徒への回答に加筆してこちらでもシェアしておくのがいいかなと。

  • 否定の目的での不定詞 not to 原形が動詞表現にダイレクトに続く生息域

とでもなるでしょうか。

生徒からの質問を簡潔にまとめると次のようなものでした。

「例題XXの解答解説で、『…しないように』という意味で、… not to 原形を使ってはいけない理由を教えて。逆に言えば、どういう表現でなら否定の目的をnot to 原形で表せるの?」

その例題は、というと、

祖父は時勢に取り残されないよう、新聞を毎日読むようにしている。

というような意味内容の日本文で、完成すると次のような文になることが期待されているであろうものです。

My grandpa makes a point of reading the newspaper every day so that he won’t fall behind the times.

My grandpa makes a point of reading the newspaper every day so as not to fall behind the times.

日本の教材の多くでは、

「…しないように」と否定の目的を表す場合に、動詞表現に続けて not to原形 とするのは一般的ではない。
否定の目的の場合は, in order not to原形やso as not to 原形を使うか、句ではなく節で so that 主語+ willなどの助動詞+ not 原形 を使う。

と説かれているというのが私の印象です。
日本の辞書でウィズダムとジーニアスの和英の記述を見てみましょう。

絶対的なルールとしてではなく、「通例…とは言わない」とか「…の方がふつう」という書き方ですね。

ただ、テストではその部分の知識が問われることが多いでしょう。
次のような文は目にしたことがあるのではないかと。

I got up at five in the morning in order not to miss the first train.
私は始発電車に乗り遅れないように朝5時に起きた。
I used the knife carefully so as not to cut myself.
私は自分(の手)を切らないように注意してナイフを使った。

私の授業でも、知識として上記のことは伝えますが、それに加えて

目的の意味を肯定的に置き換えて表現することを心がける。

ということを説いています。
上述の例であれば、

My grandpa makes a point of reading the newspaper every day to keep up with the times.

I got up at five in the morning to catch the first train. 

などで対応しましょう、という趣旨です。

この置き換えが常にできるとは限りませんが、

傷口を濡らさないように、私は防水の絆創膏を膝に貼ってシャワーを浴びた。
To keep the wound dry, I put a waterproof bandage on my knee and took a shower.

家族をどれほど愛しているかを言うのを忘れないようにしなさい。
Remember to tell your family how much you love them.

網戸とは、空気は通すが、蚊は中に入れないようにするものです。
A screen door is something that lets in air but keeps mosquitoes out of the house.

などとすることで、”not to原形” を回避することが可能です。
今、私は「回避」といいましたが、まさに「回避=avoid」などの表現を使うことで、not to原形を使わずに済ませることも可能です。

渋滞に巻き込まれないように、私たちはいつもより早めに出発した。
To avoid getting stuck in traffic, we left earlier than usual.

ただ、英語では慣用的に、動詞表現にnot to 原形が続いても全く問題ない例があるので、冒頭の質問をした生徒の悩みもよく分かります。
be careful not to 原形 やtry not to 原形 は多くの辞書や教材で示されているでしょう。

A TV interviewer must be careful not to offend.
テレビのインタビュアーは不快感を与えないように注意しなければならない (Oxford類語)
I’m trying not to be sentimental about the past.
私は過ぎたことには感傷的にならないようにしている.(COBUILD米語英英和)
Take care not to burn your fingers.
指にやけどしないように気をつけなさい.(COBUILD米語英英和)

carefulやtryなどの注意や努力の動詞・形容詞表現以外でも、choose/decideなど一部の選択・決定の動詞では用いられています。

He chose not to go to university.
彼は大学に進学しないことに決めた. (Wisdom)
Susan has decided not to marry him, hasn't she?
スーザンは彼とは結婚しないことに決めたんだね.(Wisdom)

不定詞と共起するrememberの表す意味はdon’t forgetの裏返しとなります。この意味で、not to原形と否定を伴うのは実際には低頻度である、ということは知っておいていいでしょう。Don’t forget to 原形を使うか、肯定的に置き換えてRemember to原形を使えば簡潔で誤解の余地が生じませんから。

She remembered not to go out alone.
彼女はひとりで外出してはいけないことを覚えていた (G6)
Don't forget to indent your paragraphs.
段落は字下げして始めることを忘れないように(O-LEX)

ここまでに述べてきたものとは少し毛色が違いますが、tell/askの受け身は、「命令・指示」や「依頼・要請」の文脈で使われます。否定の命令・指示や依頼・要請を受け身で表現した場合に、not to原形が「過去分詞」に直接続いて「目的」の意味を表しているかのように見えるので注意が必要です。

ディスコへは行くなと言われてよけいに行きたくなった
When I was told not to go to the disco, I was all the more tempted to (go there).(Wisdom和英)
Sessions started at 9:00 a.m. and subjects were asked not to eat or smoke for at least 1 hour before.
一連の実験は午前9時に開始され、被験者は少なくとも1時間前から食事や喫煙をしないよう求められた。
(Oxfordアカデミック)

askに関連しては、次のような表現も認められています。ことがらとしての目的語を依頼・要請するので、見た目はあたかも「否定の目的」のように見えるものです。

The woman asked not to be quoted by name.
その女性は名前が出ないように求めた. (Wisdom)
The spokesman asked not to be identified.
スポークスマンはニュースの出所を漏らさないよう求めた.(研究社英和活用大)

ここまでに取り上げた表現をNgram Viewerでざっくりと見てみましょう。

全体



remember not to が低頻度、というのはこちらのデータでも感じられるでしょう。上・アメリカ英語、下・世界中のニュース英語。


NOWで見ると、askの受け身がtryに肉薄しているのが注目すべきところでしょうか。「要請」はニュース英語での頻出表現の一つと言えるでしょうね。
均衡コーパスのCOCAとCOHAで米語の状況を深堀しておきましょう。


COHAでも、carefulとtryの両横綱は健在。carefulの方が早い年代から使われているので、累計の差に現れています。tellやaskの受け身がchooseやdecideと並び、それなりの頻度となっています。
グローバルな状況での地域差ももう少し詳しく見たかったのですが、GLOWBEでは全体概況しか処理してくれませんでした。

振り出しに戻って、「祖父の新聞購読」の話し。
not to 原形は通例使われないというだけですから、so as not [in order not] to fall behind the timesなら問題はありません、その不定詞句全体を、カットアンドペーストで文頭に移動も可能です。
「時代についていく」と肯定的に置き換えれば、それを決意しての目標設定も容易ですが、「離されない;取り残されない」のは、成果達成の目標設定というよりは、結果として生じる状態、というところが考え所でしょうか。
授業では、carefulとtryを押さえておけ、と説いていますが、その背景にはこういった下調べがあってのことです。
今回の質問を寄せてくれた生徒も、他の生徒諸君も、安心して授業を消化吸収して下さい。

本日はこの辺で。

本日のBGM: To choose not to choose (Fireworks Banquet)

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