なんと、もう5月。今年の3分の1が終わってしまった…。
今日は「気になる語法シリーズ」で新たな記事を。
高校生の英作文で時々見られる文法・語法上の誤りの中で、余り指摘されていない印象があるのが、次の出だしの一文のようなもの。
I was in a hurry to oversleep in the morning and the train I got on was delayed significantly due to signal failure. When I finally arrived at school late, I realized that I had left my assignment at home.
私のライティングのシラバスでは、「ナラティブ」が基本で、そこから「描写説明」を経て、「論証文」へと進みます。ここで例に採った英文は、「日本語の諺や慣用句を英語で説明する課題」でのドラフト。
「泣きっ面に…」とか「踏んだり…」の場面描写の類いですね。
気になるのは、勿論
- (?) I was in a hurry to oversleep
の部分です。
これを書いた本人は、恐らく、「理由や根拠を表すのに不定詞(to+原形)が使える」と覚えていて、
- 「朝寝坊をして急いでいて…」のような内容を書こうとしたのだと思われます。
でも、上記の書き方だと、(?)「急いで寝過ごした」という、現実味の感じ難い意味で解釈されかねません。
教科書、辞書をはじめ、巷の教材でも、不定詞(to 原形)が理由や根拠を表す例は見聞きしているはずなのですが、適切・的確には捉えられていなかったのでしょう。
時系列に沿って書けば何でもないことで、次のような英文をDeepLが容易く書いてくれます。
朝寝坊をして、慌てて家を飛び出し、電車に乗ったら信号故障で大幅に遅延。ようやく遅刻して学校についたと思ったら、課題を家に忘れてきたことに気がついた。
I overslept in the morning, rushed out of the house, and when I got on the train, it was delayed significantly due to signal failure. When I finally arrived at school late, I realized that I had left my assignment at home.
高校生レベルの殆どの教材では、「感情の理由・原因」というように明確な「生息域」を示して用例が提示されていると思うのですが、to + 原因の部分だけにマーカーで色を塗って、赤いフィルターをかざすような作業が英語の文法語法学習であるかのような習慣が身についていると、手当ても大変です。
今、手元にある教材からちょっと用例を引いてみましょう。
「感情の原因を表す」
My parents will be delighted to see you.
We were all surprised to hear that he was successful.
I am glad to hear that you got back home safely.
『コーパス・クラウン総合英語』(三省堂、2022年)
「感情の原因を表す」
I’m glad to see you.
I’m sorry to hear that.
Emily was surprised to see the photograph.
I was disappointed to find that Ann was out.
I would be thankful to receive your reply by Monday.
『アルティメット総合英語』(第2版、啓林館、2022年)
私自身が、この項目・表現形式を教える時は、形容詞のhappyとsorryは後回しにして、to原形で示される動作・行為と感情が生じる時系列が誤解なく一意に決まるものを優先しています。
どういうことかというと、
あなたに会えて幸せだった I was happy to meet you. (Genius 和英)
I'm sorry they objected. 彼らが反対したのが残念だ (O-LEX英和)
のように、不定詞が「感情の原因を表す」happyやsorryの場合もあれば、
I’ll be happy to answer questions if there are any. 質問があれば喜んでお答えします. (COBUILD米語英英和)
I'll be more than happy to show you around (the) town. 喜んで町をご案内しましょう(Wisdom英和)
のように、今後の行為・行動での申し出に当たっての心的態度の表明や、
I'm sorry to say that I can't accept your offer. 残念ですが,お申し出は受けられません(O-LEX英和)
残念ながら採用を見送らせていただくことをお知らせいたします
I'm sorry to inform you that you have been unsuccessful in your application.(Wisdom 和英)
のように、相手への配慮を伴うアナウンスのイントロで用いられる、日常的なやりとりで使われる場合もあるから。
(?) 不定詞は未来志向
(?) 不定詞の to は→
などといった過度の単純化、過度の一般化によって、却って理解が妨げられないような配慮をしておきたいところです。
ということで、まずは「感情の原因」の用法の整理から。
この「パターン」で用いられる主な形容詞は、上記学参でも示されています。
上記2冊の情報を合わせると次のようなリストになります。このリストはリストで便利かもしれません。
delighted/excited/glad/happy/pleased/proud/relieved/satisfied/thankful
amazed/angry/sad/shocked/sorrysurprised//upset/disappointed/frightened
ところが、これらの形容詞に続いて「感情の原因」を表す表現形式には「不定詞(to 原形)」以外にどのようなものがあるのか、また、不定詞が続く場合にはその動詞の意味内容に制約や特徴があるのか、は限られた用例から推測するしかありません。
(be) surprised の続きにはどのような形があるのか、辞書の用例検索をすると、
I was surprised that the meeting ended so quickly. 会議があっという間に終わってしまったのには驚いた.(G6)
You'll be surprised how kind he is. 君は彼がとても親切なのに驚くだろう (G6)
I was surprised at how many people came. あまりにも多くの人が来たので驚いた (W)
I was surprised to learn that he was only 23. 彼がまだ23歳と知って驚いた (Oxfordコロケーション)
You'll be surprised to see how much a ceiling fan can cut down (on) your energy costs.
天井のファンによってどれだけ燃費が節約できるかお知りになればびっくりなさいますよ (W和英)
- that SV
- 直接のhow SV
- at + how SV
- to 原形 that SV
- to 原形 how SV
のパターンが観察されました。
では、このそれぞれの使用頻度や、習熟度のレベルはどうなっているのでしょうか?
COCAで概況を。
直接that SV
thatの省略との単純な比較はできませんが、per milで見てみると、それなりの使用頻度であることはわかります。
次にhowが続く場合。前置詞の有無と頻度はどうなっているか?
直接 how
ヒット数としては、beが638, 過去形が143、現在形が22で、突出して、beが多いことが分かります。この前には助動詞が来るだろうと予測はできます。
SPOK/WEBでコンコーダンスラインを見てみます。
’d = would と ’ll = will だということがわかります。
続いて、前置詞がhowの前に来る場合。
前置詞 at/by how だとatが優勢。ヒット数としては、過去形が500, beが352、現在形が91です。
過去形では前置詞なしが優勢、助動詞+beの場合には前置詞ありが優勢、というような印象ですが、過度の一般化、過度の単純化は慎みましょう。
to 原形 that の場合。to原形はlearn/see/hear/findで比べています。
1059ヒットのうち、learn が427、find が313、seeが171、hearが148でした。
to 原形 how
ヒット数は激減ですが、実際に2010年代でも使われていて、過去形の例も、be の例もあります。
これ以外の型はCOCAではヒットしませんでした。
やはり、時制や助動詞、人称代名詞も含めて、形容詞の後に何が続くのか、まで実感を持てるような学習/指導が望ましいように思います。
その部分が手薄なのに、
I wouldn't be surprised if he knows [knew] the fact.
彼がその事実を知っているとしても私は驚かないだろう
(!if節中の仮定法はその内容が事実の可能性が低いと話者が考えていることを暗示).(W英和)
I wouldn't be surprised if she won three gold medals.
彼女が3つ金メダルをとっても私は驚かないよ. (G6)
のような英文を、入試での出題例があるからといって、既習事項との関連のないまま教材化してもご利益は薄いのではないか、とずっと思っています。
上記リストにはない、形容詞として用いられるimpressedの実例も見てみましょう。
甥がもう大学生だと聞き感慨深い
I was deeply impressed that my nephew had grown up to be a college student. (O-LEX和英)
He was impressed at how well she could read.
彼は彼女があまり上手に読めるので感心した (G6)
We were impressed to see how well they’d done already.
The dancers were impressed to learn that Hughes was staying at their hotel.
ダンサーたちはヒューズが彼らのホテルに宿泊していると知って感動していた(G6)
上記用例が辞書の用例検索でヒットします。
この二つだけ取り上げてみても、「形容詞」のリストで整理するだけでは不十分だということがわかってもらえるのではないでしょうか?
次のツイートに見られる形容詞などは、日本の教材では殆ど出てこないという印象ですが、ソーシャルメディアで日々、世界各地から届けられる訃報に接し、英文ライティングのシラバスではobituaryを書かせている私にとっては、基本語中の基本です。
- saddened
の扱いを最新のコウビルド(第10版)と中級(第5版)で対照してみましょう。
先ほどのツイートの言葉のような例が全くありませんね。
OALDでは3例ヒットします。Oxford系の類語、連語でも恐らくあるかと。
和英だとO-LEXは「御愁傷」の項に、ジーニアスは「哀惜」の項に用例があり、英和だとG6(G5)も、saddenのデジタルプラスにのみ用例が見つかります。最新のG6だけでなく、G5から既に紙の辞書のジーニアスにはsaddenに用例が一つもないのですが、他の英和にはこのお悔やみや哀悼のことばがないので、大修館さん、G7では紙面にも復活させませんか?
- saddened to 原形
ってそれだけの使用頻度はいまだにあると思うんですよ。
NOW
COCA
ということで、「感情の原因」にまつわる、感情のもやもやを書き連ねてきました。
私がnoteで公開している「診断テスト」(100題+語義8題)のうち、レギュラーの100題の78番に次のような問題を配しているのを、多くの方はご存知ないでしょうね。
- 78. 私が合格したと聞いて父はうれし泣きした。
この問題の肝は、「嬉しいと思う」という感情と「泣く」という行動の因果関係と、「合格の知らせを聞く」という行動と「嬉しく思う」という感情の因果関係の二段階をどう表現するか。
という狙いがあり、ここまで説明してきたように、感情の原因を不定詞(to+原形)で表すことができる人も、それをもう一つの行動・行為と感情の因果関係との二段階で整理できているか、を診断したいという教師側の目論見が潜んでいるわけです。
詳しくは、「診断テスト・中級編」の解説でお楽しみ下さい。
本日はこの辺で。
本日のBGM:涙がこぼれそう (The Birthday)