実食

2024年、元日に、能登を中心とした大地震。
翌、2日には羽田空港での航空機事故。
心が安まらないようなときは、映像を流すメディアから離れるのも大事。

年末のエントリーで、「和文英訳・英文ライティング」の指導法セミナー受講者からのフィードバックから抜粋でご紹介しました。
指導者対象の有料のセミナーですが、「明日の授業ですぐに使える技のリスト」といったものはありません。いや、技は結構紹介しているし、手の内はほぼほぼオープンにしています。ただ、処方箋やレシピ集とは対極にあるような何かをずっと志向してきましたので、「まどろっこしいこと言ってないで、手っ取り早く効果的、効率的な指導法を教えて」と請われても、というのが正直なところです。これはかつてのELEC協議会の夏期研修の後日談でも書いていたことですね。

tmrowing.hatenablog.com

ということで、今回のセミナーを受講された方からのフィードバックの続きを。
高校生を指導する先生です。

先日はセミナーを受講させていただき、誠にありがとうございました。
私の学校でも『○○英作文』を採用しています。生徒たちは意欲的に取り組んでいましたが、いわゆる和文英訳に慣れ親しんだだけで、その後のライティング指導に十分繋げられていなかったことを大いに反省しました。
general → specific の流れは言うは易しなのですが、まさに教師の『目利き』が重要で、書き手の視点で英語を読む力を持っていなければ、生徒にそれを指導することができないのだと、叱咤していただいた気持ちです。
生徒の能力の高さに甘えていた部分が少なくとも私にはあったかと思います。今回のセミナーは、英文を上手に書けない生徒がどうすれば書けるようになるかを暗黙知から形式知にまとめあげた実践を知ることができる非常に濃密な3時間でした。

続いては、関西大学の水本篤先生。文字指導関連以外で、私のセミナーに大学の先生が参加してくれるのはそれほど多くないのでありがたいことです。
申込者のリストで「ミズモトアツシ」という文字列を目にした時に、相当ドキッとしたことを記しておきます。

昨日のセミナー、大変勉強になりました。いろいろ立て込んでいたのですが、参加してよかったと心から思いました。
松井先生がお話されていたことはAIには到底できないことであり、目から鱗でした。改めて、松井先生のライティング指導の極意が伝わってくるセミナーでした。3時間があっという間に過ぎていき、あれが3千円というのは安すぎると感じるほどでした。
「ライティングのフィードバックでは誤りの訂正だけではないフィードバックを」というのは全教員が意識すべきことだと思います。その他にも、L1<-> L2 の違いに注意を向ける授業での仕組みや、先生がおっしゃっていた「英文モデルのクオリティーが低くて良いということにはならない」、「誤文訂正問題が修正できるレベルに達するまで、誤文にさらされ続けるのはよくない」といったコメントをはじめ、たくさんメモを取りましたので、いただいた資料を見直して、復習したいと思います。
改めて、あのような準備に莫大な時間と労力がかかるセミナーを安価で提供していただいて、どうもありがとうございました。また機会があれば、セミナーに参加して勉強させていただきたいと思います。

水本先生には、セミナーの途中で、ChatGPTの活用法に関して有益な助言をしていただき誠にありがとうございました。


今回のセミナーでは詳しくお話できませんでしたが、和文英訳と英文ライティングとを地続きにして指導評価するための下準備、基礎工事としての『チャンクで積み上げ英作文』の役割、理解の徹底やレファレンスとしての英文法・語法・語義を解説する資料の充実、というのは物凄く大きいものである、というということを繰り返し訴えておきます。
チャンクに関して、ドリルはしますが、基本的に私がシラバスを作る実践では小テストというものがありません。「問題演習やテストをアウトプットに」ということは想定していない、というか、私はそもそも授業内での小テストというシステムで学力が養成されるとは信じていないのです。これは、学校の教室現場で、1限から6限、7限などの時間割の中で過ごしていれば実感できると思うのですが、あまり賛同は得られません。

  • 自分の授業中の週に1回、小テストを行い、その結果を記録して平常点に加味して、成績に含める。

などというやり方をしているところは多いと思います。これは、もう、私としては本当に大嫌いなんですね。
「毎回の積み重ねが基礎の定着を促すのだ」、などという人がいますが、私の英語の授業の次の時間に、他教科の小テストが入っている時間割になっていたりすると、私のその時の授業を聞かずに内職して、次の時間の他教科の小テストで高得点を取るための準備に労力を割いている生徒がいたりしますから。
そうであるなら、英語の小テストが行われる時間の前の時間に当たる他教科の授業はきちんと成立しているか?ということを考えてみることが大事。前の時間にはその教科の学習はせずに内職して、英語の小テストの準備をして高得点を取り続けることにどれほどの価値があるか?
それでは結局、教室で何も「学び」が発動・成立していないわけです。

今回のセミナーでも一部をそのまま紹介しましたが、私が授業で配布しているハンドアウトには用例だけではなく、その和訳も文法・語法・語義やディスコースに関わる解説も含め予め全て書いています(ディクテーションの場合は、英文のところは空所ですけど)。

  • 文法の説明を読んだり、聞いたりしただけで文法が身につくわけではないし、十分な理解ができたりはしない。
  • 教師が喋り過ぎずたり、教え過ぎたりせずに、生徒に考えさせ、使わせる中で気づかせることが大事。

などということを、私も若い頃からこれまでにさんざん言われてきました。
私が今、目指しているのはそういった批判に対する再反論とでもいう、「読むことで理解できる」「読めば読むほど英語のセンスが増す」「その理解の上に立つと、今まで見えなかった英語の地平を見渡せる」ハンドアウトです。

「もの」を沢山集めてなくさないようにするのではなく、その「もの」の積み重ねから「そういうことなんだな」という「コト」に変換する、集約する回路を整備する、とでも言いましょうか。一度見えるようになったら、次に出会ったときに、ああ、あれだな、と分かる目を作る、という言い方も授業ではよくしています。

生徒もそれぞれですから、

  • ハンドアウトに全部書いてあるなら、後で読めばいいじゃない。

とばかりに授業中に内職をしている生徒もチラホラいますけれど、最近では怒ったりしません。
自分が美味しいとか美味しそうと思っている情報や知識だけをつまみ食いしても、その血肉化は難しいものなので、そのうち気がつきます。まあ、「そのうち」の訪れが早い方が良いとは言えるかもしれませんけど。
過去ログと一部重複しますが、生徒もこのくらいのことを言うまでには成長しますので。

  • 世に溢れている問題集の解答解説よりも、確実に先生のプリントが1番いい教材だと思います。
  • 授業中に「補足」として提示される例文や、使用頻度を表すグラフが最も重要。辞書にもなかなか載っていない用例を採取でき、ぐっとイメージが掴めるようになる。
  • 解答例の英文も大事だけれど、その下っかわにある解説が秀逸なプリントなので、下っかわを熟読した方が、きっと良いと思います。
  • プリントの「補足」は大事。プリントはテストが終わっても捨てないで取っておこう。
  • 高校2年生から先生に英語を教わり始めて、一読して理解できる英文の書き方、generalからspecificの流れや焦点化など、英文の構造を意識したライティングの書き方を学べました。コーパスの活用や自然なコロケーションも知ることができ、現代英語の実態にも触れることができました。
  • 「求められている答えはどのような要素を含む必要があるか?」「論理関係は破綻していないか?」「どのような文脈の問いなのか?」ということをしっかりと理解した上で書くということを学ぶことができた。

最後に「下っかわ」や「補足」に何を書いているのかという実例も少しだけ紹介しておきましょう。所謂「文法語法」の頻出問題集の扱いです。
当該の問題そのものをカットしているものもありますが、そういうものでも、「下っかわ」に「補足」されたものから、何がターゲットだったのか推測してみてください。

本日はこの辺で。
本日のBGM:Recipe (Michael Kaneko feat. ハナレグミ)