picking up the pieces

年末の指導者対象セミナー受講者からのフィードバックも、過去2回で紹介してきました。

tmrowing.hatenablog.com

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前回の水本篤先生以外にも、今回参加してくれた大学の先生がいますので、匿名でご紹介。
文字指導など、私のセミナー、ワークショップにも参加してくれた方です。ご所属を詳らかにはできませんが、内容を読んでいただければ大体お分かりになるかと。

セミナー受講させて頂きありがとうございました。今回のセミナーも文字指導、四角化ドリル同様に大変勉強になりました。
ライティング指導で教員が考えるべきこと、教えるべきことはもちろん、生徒に考えさせるべきこと、身につけさせるべきことを先生のこれまでの経験と実践例から教えて頂けたことは大変貴重でした。
私の場合は教員を志望する学生を指導することに活かすだけではなく、学生自身が先生のような視点を持って指導できるようになって貰いたい、ということも考えながら先生のセミナーを受講しました。生徒からの総括票のコメントにある通り、フィードバックのプリントでのポイントの示し方、補足資料の提示については指導する上での多くの気付きがありました。
また、そもそもの「問題文」へのアプローチは日英語の比較に対する意識・感覚を持つこと、もっと言えば「ことば」そのものへの意識・感覚を持つことの重要性を改めて痛感しました。この「ことば」そのものへの意識・感覚については、大津由紀雄先生の講演を聞いた際にも思ったことです。
話題の生成系AIについても教員がどう活かすかは今後重要になってくることを痛感しました。この点に関しては水本先生のコメントも大変参考になりましたし、色々な方が参加するセミナー形式の良いところだなと実感致しました。
今後も都合が合えば参加したいと思っています。この度は本当にありがとうございました。

ありがとうございます。
大学で学生に英語を教える方、そして将来英語を教えることになる(であろう)学生にに教える方にも響くようなセミナーを今後とも開催していきます。

さて、
来週末には「共通テスト」で本格的な大学入試シーズンのスタートという空気です。
「ライティング」の指導とその研究に長く関わってきて、高校の教員対象のセミナーや研修なども随分やってきましたが、

  • 現役生は、国公立の個別試験の2月末までにまだまだ伸びる!

という声をよく耳にしました。そして、それを「ライティング」に関しても仰る方が多かった印象です。

身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、私からすると、

  • この1月の共通テスト(その前身のセンター試験)が終わるまで、ライティングそのものの指導って何をどうしてきましたか?
  • 高3の4月から、継続的にライティング指導をしてきていたら、もっと伸ばせるとは思いませんか?

という「??」が浮かんできてしまいます。

大井恭子先生もよく仰っていました。

  • もっと、もっとライティングを!

私も痛感します。

大学入試とパラレル、とはなかなか言えないのが高校入試。
進学率は大学とは全く違うものの、大都市圏では、公立も中高一貫校が増えてきたことや、自治体によっては、民間試験の学力試験換算など、高校入試の問題が、どの程度中学卒業段階での英語力の到達指標の代わりとなるか、玄人にもわかり難い状況です。

今日は、その公立高校入試のリスニングを、そしてライティングとの関わりを取り上げたいと思います。
現行の学習指導要領で「やりとり」が強調されているせいか、公立高校入試のリスニングの素材として、アナウンスなどのモノローグタイプが減った印象を持っています。出題数の減少だけならまだいいのですが、テクストとしてのつながりとまとまりなど、質の低下があっては困るなぁ、と思うのです。
英文の質には注文をつけるが、リスニングテストとしての作問の是非、適否には触れない、という見方もあるかもしれませんが、やはり設定が杜撰だと、テクストは生きない、テクストが活かされないと思っていますので、適宜突っ込みを入れます。

群馬県2022年後期の出題。

東京新聞のサイトから
https://www.tokyo-np.co.jp/article/159021

中学生のShotaは、アメリカのABC Parkに来ています。これから、ABC Parkの案内が流れます。案内を聞いて、No.1と、No.2の問いに対する答えとして適切なものを、それぞれの選択肢の中から選びなさい。また、No.3の質問に1文の英語で答えなさい。
[Map]

[スクリプト]
Good morning! Welcome to ABC Park. We have many places you can enjoy. You are now in the North Area. There is a tall tower in this area, and you can see it from all the areas of the park. In the East Area, there is an art museum, and you can enjoy beautiful pictures there. In the South Area, there is a big garden. You can see a lot of beautiful flowers there. But please be careful. Now, we are making a new road from the West Area to the South Area. So you can go to the South Area only through the East Area. If you like animals, please visit our zoo in the West Area. You can see a lot of animals there, and pandas are the most popular animal in the zoo. But if you see pandas in the morning, they are just sleeping. So afternoon is the best time to see them. We hope you enjoy your time at ABC Park. Thank you!
(168 words)

No.1 次の①、②の施設がある場所を、[Map]中の ア〜エの中からそれぞれ選びなさい。
① The art museum
② The big garden
No.2 現在通ることができない道を、[Map]中のA〜Dの中から選びなさい。
No.3 Why is afternoon the best time to see pandas in this park?

問題は以上です。

では、スクリプトで示されている英文を精査していきます。

  • Good morning! Welcome to ABC Park. We have many places you can enjoy.

※ガイドがいて話してくれるのか、自動応答のメッセージなのか、は定かではない。恐らくは後者と思われる。「manyと書いたら、その後に具体化」がライティングの鉄則。この辺りは中学段階の教材や、テストではかなり緩いのが気になりますが、恐らく、この次に具体例が展開されるものと期待して進む。

  • You are now in the North Area. There is a tall tower in this area, and you can see it from all the areas of the park.

※まず、Shotaは何を目的にこの公園に来ているのかが分からないので、結構大変なリスニングとなる。
普通は、正門などのゲートに地図があるか、リーフレットのようなものが入手でき、手元で地図が確認できるだろうもの。ゲートに設置の地図なら、You are here.(現在地)表示があるのが普通。見学や研修に車で訪れているなら、駐車場とゲートの位置関係とかは重要。
このどこからでも見えるa tall towerの何をenjoyするのかが不明。出口が正門しかないとしたら、必ずここに戻ってこないとダメなので、このtowerを目印にして、より近づいて行けばいい、とか役立つ情報が欲しいところ。

  • In the East Area, there is an art museum, and you can enjoy beautiful pictures there.

※ここはan art museumに注目。美術に限定して楽しむことになる。pictures(絵画)に特化するなら、世界的に著名な画家の名前や、エリアや時代区分の情報がないと見に行こうとは思わないのでは?地元ゆかりの著名な画家がいる?もっとも絵画以外にも彫刻などの美術作品はあるものだとは思います。

  • In the South Area, there is a big garden. You can see a lot of beautiful flowers there. But please be careful. Now, we are making a new road from the West Area to the South Area. So you can go to the South Area only through the East Area.

※このa big garden も悩ましい。bigというが、そもそもの花壇/花畑はHow big? なのか。面積でいえば野球場やサッカー場と比べてどのくらいなのか、とかいう情報があってしかるべき。そうでなければ、a lot of beautiful flowersという部分をもっと具体化しないとダメでしょう。そして設問にも絡む、道路工事。これも通例は地図に書いてあるはず。

  • If you like animals, please visit our zoo in the West Area. You can see a lot of animals there, and pandas are the most popular animal in the zoo. But if you see pandas in the morning, they are just sleeping. So afternoon is the best time to see them.

※「動物好き」に有益な情報提供がなされるけれど、ここでもa lot of animalsで終わり。パンダが一番人気、というけれども、他にどんな動物がどのくらいいるのかは不明。その情報ナシで一番人気といわれてもねぇ…。「パンダは午前中は寝ているよ」情報よりも前に、もっと説明すべきことがあるでしょうに。

※因に、お題の設定にある「アメリカ」が、「アメリカ合衆国」ということであるならば、2024年1月6日現在で、パンダがいる動物園はアトランタだけです。サンディエゴ (2019年5月)とスミソニアン(2023年11月)は既に中国に返還済み。メンフィスは一頭が死亡(2023年2月)でその遺体と生存していたもう一頭を中国に返還済み(2023年4月)ですから、2022年度入試作成の段階では、スミソニアンに3頭、メンフィスに2頭いたであろう、ということになります。どちらの動物園を想定していたのでしょうか?

  • We hope you enjoy your time at ABC Park. Thank you!

※hopeのthat節中の動詞の時制はenjoy で現在形ですね。

ということで、注をつけることが難しい公立高校入試のリスニングスクリプトと作問にいかに制約があるかを感じ取ってもらえたのではないかと思います。
これでは語彙や構文をコントロールできる卓越したライターをもってしても、自然なつながりやまとまりに欠けた英文になりかねません。そして、受験生はそのつながり感、まとまり感の薄い、弱い英文を聴いて解答を余儀なくされます。断片的に、しかも偶然に情報をキャッチできた場合でも正答が得られてしまうことがあるのですが、英文全体を適切、的確に理解できている保証はありません。そもそもつながり、まとまりを担保するために必要な、場面設定/人物設定が甘く、スカスカなので、細かいところまできちんと聞こうとすると、上述の私の指摘のように、突っ込みどころが満載で「?」が次々と浮かんできて、思考停止となってしまうこともあるわけです。

このブログでかつて紹介していた私の実践、「全国公立高校リスニングテスト制覇の旅」を覚えているでしょうか?
その過去ログの中に、今回の群馬県のスクリプトに関連して、是非、読み返して欲しいエントリーがあります。

“Cradle to the grave”
tmrowing.hatenablog.com
で紹介した岩手県の2013年出題。
次に
tmrowing.hatenablog.com
で紹介した都立国際高校の出題。

岩手県の2013年のスクリプトの英文は、短く、つながりとまとまりに欠けるものでしたので、高1の授業でこの素材を扱う際に、私が高校1年生レベルに書き直したものを使っていました。manyの扱いなど、確認して欲しいところが沢山あります。
https://tmrowing.hatenablog.com/entry/20161125 のエントリーに上記3本をまとめてはいますが、こちらにも再録しておきます。

岩手県 2013年オリジナル

Welcome to the Forest Bus Trip. My name is Mike. I'm very happy we have many people on the bus. Today we will go into the forest, so you will see such animals as birds, monkeys, deer, and foxes. There are over 50 animals. The trip takes about 30 minutes. Before we start, I’m going to tell you some important rules. First, this is a long trip, so you can eat and drink in the bus. Second, some animals will come near the bus, but please don’t give any food to them and please don’t put your hands out of the windows. Of course, you cannot get off the bus. Third, don’t stand up while the bus is moving because the bus may stop suddenly. Any questions? Now, let’s go!
(130 words)

高1用松井加筆修正版

Welcome to the Forest Bus Trip. My name is Mike, your guide today. I’m very happy we have so many people on the bus who are interested in wildlife.
Today we will go into the forest, where you can see a variety of animals: birds, monkeys, deer, and foxes. Sorry for you, but we do not have any lions or tigers. No elephants or giraffes. There are over 50 kinds of animals, though. The forest is so large that the trip takes about 90 minutes.
Before we start, I’m going to tell you some rules here. If you don’t follow these rules, you may risk your life. So listen very closely.
First, do not get off the bus until we get back. Animals, even small birds, may attack you if they feel threatened. Second, some animals will come near the bus, but please don’t open the windows. You may not put your hands out of the windows or give any food to them. Third, this is a long trip but we do not have a bathroom on board. There is no public bathroom along the course. Please make sure you go to the bathroom before departure. Fourth, remain seated while the bus is moving. We drive safe but the bus may stop suddenly.
Any questions? Now, let’s go and enjoy the forest!
(221 words)

都立国際2016年オリジナル

Welcome to the Animal Tour Bus. Hi, my name is Kelly and I will be your guide today.
Our tour is one of the most popular tours in the world. More than ten thousand people from all over the world visit our park every month. There are about five hundred different kinds of animals in the park. Our park is the second largest natural park in the country.
Before we begin, I'd like to tell you some rules we would like you to keep during the tour today.
First, please do not eat anything on the bus. Before the tour starts, please put any food you have in this box, animals will come near you if they see that you have food.
Next, please keep children under six away from the windows because it is very dangerous. The bus sometimes shakes very much. Please keep your arms and legs inside the bus at all times, and don't stand up while it is moving.
Also, please turn off any sounds from your phone because animals will be surprised at the phone sounds.
However, you can use your phone to take pictures and movies. And please wear the caps that we are passing out now, especially when you get off the bus to rest. If you need any help during the tour, please raise your hand. The tour is going to start soon. We hope you enjoy it.
(236 words)

当時の授業で強調したポイントを再録します。

主として「リアリティの欠如」を補っています。なぜ、欠如するのか?それは言うべきことを言わないから、さらには言うべきことが言えないような、語彙や構文の制約を課してしまうからではないでしょうか。
このリライト版では、分量も90語ほど増えています。ある程度の分量がないと、内容が伝えられない、ということを考えてみる必要があります。短ければそれだけやさしい、という思い込みを揺すぶって下さい。200語くらいになると、かなりのことが描写・説明でき、ナラティブからの足場が少し広がり、景色もより見えてくるようになると思っています。

英語教育の研究者が、中高接続の改善点などということを説いてくれることがありますが、この高校入試のリスニングテストのスクリプト一つを取ってみても、

  • 「あの英文は、細かいところを気にせずとも大体分かれば解答可能なんですよ」

と入学者に言うだけで、高校の学習内容に移っていて、どんどん難しいことを求めている割りには、その高校レベルの難しい素材も

  • 「この英文も、細かいことを気にせずとも大体分かればいいんですよ」

としか言っていないことが多いのではないでしょうか?

  • 「では、あの時は、おおまかな理解で良かった英文を、細かいところまできちんとわかるためにはどのくらいの英語力が求められるのか?」

という部分は一向に示してこなかったことこそが問題なのでは、と四半世紀近くずっと思っていますし、その改善のために試行錯誤しながら実践を続けてきました。

ということで、

  • 高校レベルの、語彙や構文の難易度が高い英文を、親鳥がかみ砕いてヒナに与えるが如く、易しく書き直して導入する

というのとは全く逆のベクトルで、

  • 中学段階で通り過ぎてきた、つながりとまとまりの薄かった、弱かった英文を精査し、必要に応じて切り取り、取り換え、補強して再提示し、学習素材とする

というのが「全国縦断公立高校リスニングテスト制覇の旅」という企画だったのですね。上述のリンク先も含め、過去ログでは、他にもいくつもの都道府県のリスニングスクリプトと、私のリライト版とが残されていますので、発掘してみてください。
進学校じゃないところ、毎週、範囲を決めて小テストとかがないところの方が、すぐにでも取り入れることが可能なのではないか、と思います。
お試しあれ。

本日はこの辺で。

本日のBGM: 回奏パズル (スキマスイッチ produced by KAN)