🎵どんなものでも君にかないやしない🎵

元日にtwitterで新年の呟きをしていました。

本当に辛く悲しい2023年でした。新年を生きて迎えられたことに感謝。私の残り時間も少ないので、見たいものを見る、聴きたい音を聴く、読みたい本を読む、話したいことを話す、書きたいことばを書く、会いたい人に会うのを厭わない、邪魔されない、そんな2024年に。
https://twitter.com/tmrowing/status/1741560022243676326

例によって、早朝の5時くらいに書いていたので、まさかそれから半日足らずで大震災になろうとは予想だにしませんでした。会いたい人に会えないまま、失われてしまった命を思うとやり切れないです。

生業の英語教育関連で記事を連投してきましたが、今日もその続き。
和文英訳・英文ライティング指導法セミナーでは、英文として自然なつながりとまとまりを求めるという私の基本的な視座を示しています。
そして、このつながりとまとまりというのは、

  • 6大メジャー・ノーム

を当然視するものでも、それを強要するものでもありません。
※「6大メジャー」と私が呼んでいるのは、オンラインコーパスのCOCAでの枠組みで、米国・カナダ・英国・アイルランド・オーストラリア・ニュージーランドの6カ国(6エリア)のことです。

セミナーでも授業で配布するハンドアウトの実例をお見せしましたし、オンラインコーパス等を利用する上での考え方もお知らせしました。

オンラインコーパスでCOCA系を使う場合でも、6大メジャー以外でも広く英語が使われている実情に照らして

  • NOWコーパス
  • GLOWBE コーパス

で検索することが最も多いのです。
そこから均衡コーパスである

  • COCA (時にCOHA)

を調べてベンチマークに見立てて、

  • TVコーパス 

を見ていき、ある程度視界が開けてきたら

  • Google Books Ngram Viewer

で経年変化を眺めて

  • SKELL

で相対的な頻度を比べてみる
ということをやっています。
殊更globalであることを志向しているわけではないのですが、英文ライティング、英語表現においては、

  • “reputable, national, and in present use”

ということを常に意識しています。中尾清秋氏の著作から私が学んだことでもあります。
(過去ログだと
tmrowing.hatenablog.com
に詳しいです。)

前回のエントリーでは高校入試問題を取り上げました。
公立高校入試も様変わり、ということも書きましたが、私が今一番危惧しているのは、私立高校の入試問題の中身です。大学入試の出題で問題視されていた部分が、前倒しではないのでしょうが、私立高校入試で見られる印象があります。難易度を上げ、他校との差異化を図りたいのかもしれませんが、やはり入試の設問で使われる、受験生との間でやり取りされる「英語」の中身・質には細心の注意を払って欲しいと思っています。

たとえば、既にtwitterでも指摘していた比較の表現から。
同意文に書き換えよ、という設問で

  • Time is the most precious thing.

という最上級の表現を示して

  • (Nothing) is so precious (as) time.

を解答に求めるものがあります。
否定主語での比較文で実質最上級相当の意味を表そうとするなら、原級の as/asよりも比較級のNothing is more precious than time. が優位に高頻度であることに注意が必要です。

preciousでの原級 vs 比較級

  • (Nothing is as refreshing as taking a walk) early in the morning.

これは、「朝早く散歩することほどさわやかなことはない」を整序完成させる設問。しかもnothingが不足しているので補えというもの。最上級でダイレクトに言えばいいものを裏返して否定主語で実質最上級にしたい、という。だったら比較級がまだマシ!

refreshingでの原級 vs 比較級

この比較の表現は大人気のようで、和文つきで全文の整序完成でこんなものもあります。

地球温暖化ほど、議論するのに重要な問題はありません。
Nothing is as important to discuss as the problem of global warming.

これはまだ、一語欠落とか一語余剰の問題でないだけマシですよ。
でもね、とかくテストになると不足とか余剰でつくりたがるのは何故?それで難易度が上がる?弁別度が高まる?次が典型例。いや、私立高校入試の出題ですよ。

子どものころによい友人を持つことほど大事なことはない。
[Nothing is as important as having good friends in ] childhood.

で anythingが余剰語という出題なんですね。面倒くさがってないで全文書かせろって!

出題されているものには対応できるようにさせるのがプロだろ、という方と議論する気は全くありません。

  • この意味で英文の産出を求める価値があるのは最上級か比較級。

ですから。
importantの比較界隈でのCOCA系とSKELLの検索結果を貼っておきますので、そちらをじっくり観察して自問されたし。

おなじことは大学入試問題にも言えるので、そこからのスピンオフで作られた頻出問題集などを使った指導では気をつける必要があります。
大学入試の出題の悪いところが見逃されて、高校入試に降りていくことのないように、有識者には警鐘を鳴らして欲しいのですが、まあ、無い物ねだりなのでしょう。


入試に限らず、テストでの連立完成などといわれる、同意での書き換えを要求する問題で気をつけたい項目に、受け身があります。
動作主を表す by +名詞ではない、前置詞+名詞が続く表現がよく出題されていますが、これを単純に書き換えさせるのは考えものです。
例えば、

  • Wine is made (from) grapes. 「ワインはぶどうからつくられる;ワインはぶどうを加工してできる」

で前置詞のfromを答えさせるのは良いでしょう。しかしながら、これを裏返して

  • (?) Grapes are made into wine.

とするのは感心しません。ぶどうは食用では生でも食べるし、加工して干しぶどうにもなり、飲用として、ジュースにもなるからです。

私が授業で提示するのはだいたいが

  • Grapes grown around here are made into wine. (この辺りで栽培されるぶどうはワインになります。)

のように、主語に限定があるものですね。

この A make B into C の受け身の表現で大学入試に出題されたことがあるものでは、

  • This milk is going to be made ( into ) cheese. (この牛乳はチーズになります。)

があります。intoを答えとして求めるものですが、主語のmilkに限定があることが重要です。
大昔の英検の4級で実際に出題されたものでは、

  • Milk can be made into butter. (牛乳はバターにすることもある。)

という助動詞canを使うことで断定を弱めていました。
敢えてパラフレーズすれば<現在形+some [sometimes]>で、

  • Some milk is made into butter. (牛乳のうちにはバターに加工されるものもある)

とでも言えるものです。

この辺りは、学参や問題集だけでなく、辞書の用例も一通り調べておくのが吉。
G6 (G5& G大)は、

These grapes are made into wine.
これらのブドウからワインが作られる.

と主語のgrapesにthese限定つきで適切な例。

OALDとOxford英語類語はコーパスを共有しているので、

The grapes are made into wine.
その葡萄はワインになる

と限定つきの同じ用例を収録。G6と似てますね。
 
Wisdom和英 は、「加工」の項には、

ミルクは加工されてバターやチーズになる
Milk is made into butter and cheese.

という用例があります。これはandのペアで用途のバリエーションを示して自然さを増しているので許容範囲だろうと思います。それに対して、

  • 「できる」

の項目では、

ワインはブドウからできる
Wine is made from grapes. / (ブドウを主語にして) Grapes are made into wine.

という例を載せていて、intoの方の用例は要再考ではないでしょうか。
テスト依存からの脱却は、言うほど容易くはありませんが、私も今しばらくは「がんばってみるよ」とだけ言っておきます。

本日はこの辺で。

本日のBGM: カルアミルク (クラムボン Live@福岡 博多百年蔵2日目)