本当に久々に英語の話を。
定期試験の共通問題を作問する際には、同じコマを持っている他の先生方に事前に見てもらうわけですが、今回は、次の項目に対して質問が寄せられました。結果的には、その部分は試験では問わないことにしたのですが、そこに至る過程で調べたことを記録として残しておきたいと思います。
検定教科書(『ジーニアス I 論理・表現』v大修館書店) に次のような表現が出てくるのです。
- some current students gave a presentation focusing on their classes and other school activities
私の当初の目論見では、この focusingの形合わせを問う設問にしていたのですが、
- focusing on の部分はfocused onになることはないのか?
という疑義がよせられたのでした。
私の語感では、-ing形一択だったのですが、オンラインコーパス等を調べてみた結果、近年の英語では名詞の後置修飾としてのfocused onの使用例が見られる、ということがわかりました。
ということで、担当の先生方にも、私が調べた結果を共有して
テストで動詞+a (形容詞) presentation + focused on …を不正解にするのは問題があるということは言えそうですので、出題では -ing形は文中に出して、別の箇所に ( ) を作れるか、検討してみたいと思います。
という落とし所としたのでした。
以下、調べたことをざっくりと。
まず使用の実例でSKELLから。ただしどちらも使用頻度は百万語で1以下の割合です。
後置修飾の -ing形(=現在分詞)で focusing on
後置修飾の -en形 (=過去分詞)で focused on
※過去形(= -ed形)と過去分詞(= -en形)が同じものは、検索では、その前とのつながりを見る必要がある。この場合は直前がmade なので、目的語の名詞チャンクのなかでのfocusedは-en形(=過去分詞)の読みしか出来ない。
ニュース英語コーパス (2023年10月12日のデータまで反映されています)での、-ing形の後置修飾
※focussingの綴り字のミス、本来他動詞のstressにonをつける誤用も含まれるので、それ以外では7例。
- en形での後置修飾 ※3例がヒット。
その3例の内訳。
私(松井)の認識・理解では、名詞の内容を詳述する後置修飾では、主として伝達動詞の -ing形が基本。
- en形の後置修飾
私が gave a presentation focused on … に違和感を持ったのは、-ing形がデフォルトだという自分の理解・知識が前提です。この-ing形はtimelessな=時制を持たない-ingで、能動の関係性を表すもの、と考えていたからです。ですから、関係詞節にパラフレーズをしても、a presentation that is [was] focusing onにはならずに、a presentation that focuses [focused] on になる、という理解に基づき、判断をしていました。
関係詞節での後置修飾で能動態 vs. 受動態
次は、その中の実例で前後のつながりを。
次は同じ能動の関係詞節での後置修飾の例ですが、2例目と3例目は同じソースですので、実質2例です。
関係詞節での受動態の例。
presentationに形容詞など前置の修飾語がつく場合の関係詞節能動だと少しヒット数が増える模様。
この前置の修飾語つきの関係詞節での受動態はヒットせず。
振り出しに戻って、presentationが動詞の目的語に来ていて、presentationに前置の修飾語がついていて、後置修飾が分詞の場合を調べてみました。
ing形
- en形 実例が6件ヒット
- en形の実例6件の内訳を見ておきます。
最初の例は、動詞がmake。ヒット数は2ですが、実際は同じソースですので実質1例です。
receive
prepare
include
have
以上、実態調査の報告でした。○○先生、重要な指摘をしていただきありがとうございました。
今回の争点では、focus on という表現の特殊性が大きく影響をしているのだと思います。
重点・焦点化の文脈でも、emphasizeとかstressや、highlight; underline; underscore; weight などの他動詞や、 put stress onなどのような動詞表現の場合は、後置修飾の分詞では -ingがデフォルトで、-enと両方が可能とはならないのではないかと思います。
その翌日に、さらに追加で調べた結果がこちら。この情報も担当者間で共有しました。
昨日から追加で調べてみて, focus onと似た振る舞いをする語句としてはrelate toくらいしか見つかりませんでした。
今回は、定期試験の作問での後日談でしたが、私の場合は、普段からこのように、英語に慣れ親しんでいる、英語の運用能力が十分にある、という者が、英語の授業で遭遇する英語表現で理解に困る事態とか、テストを受けた時に、解答に困るような問いが生じるのを極力避けるべく、日々準備をしています。
先日の「英語コーパス学会」での私のスライドでも示しましたが、オンラインコーパス等は概ね次のような使い方をしています。
授業で提示するひとつの用例の背景にも、このくらいの下準備や裏付けがあるということを、世間で学校教育の英語を批判されるような方たちにも知っておいていただきたいものです。
そして、つい先日、ツイッターの「英語ニュース引用RT140字紹介&詳解」で取り上げた、
- debate が主語で自動詞相当のplay out「…が繰り広げられる;決着を見る」
の用法などは、上述のfocus onやrelate to のような <V 名詞 on 名詞>の動詞型とは異なる、<play+out +名詞>の他動詞として、人主語で用いられるところまで語法が拡がっていることは、大変興味深いと思っています。
詳しくは、ここからのスレッドをご覧下さい
jeopardizeの例追加。
— Takashi Matsui (@tmrowing) 2023年11月1日
現在完了形の生息域は、時の上流から「イマココ」に寄せる波 & そこからの新展開・新局面をfearingの分詞構文で。#現実味のcould は今後の見通し。
debate が主語で自動詞相当のplay out「…が繰り広げられる;決着を見る」は比較的新しいもの。 これも能格的な用法と言えるか? https://t.co/TZMmkXEZFP
Ngram Viewerでざっくり
NOWコーパスで
COCAで
debateが主語でplay outが受け身となる例
本日はこの辺で。
本日のBGM: From the start (Laufey)