焦点=副詞=補語?

気になる語法シリーズ、というワケでもないのですが、時々教材や入試問題の本文中に、そして日課の英語ニュースのRTの際に見かけて採取しておいたものを中心にとりあげます。

辞書でも用例検索で探さないとなかなか見つからず、巷の学参や英語本でもそれほど扱われていないような印象です。
そんな中、

山崎竜成著
『知られざる英語の「素顔」』(プレイス、2022年)
www.place-inc.net

では、入試問題を出典として丁寧に扱っていて、驚かされました。流石だと思います。

それでは、私の採取したものから。

1. Mr. Thatcher said, “Willy Grugschmid has been on the road for three years now trying to find himself. The only time he knows where he is is when he has to call collect and ask his parents for money.” “It takes some people longer to find themselves than other people,” Rolf said defensively.

サッチャー氏は、「ウィリー・グルグシュミッドは3年前から自分探しの旅に出ている。彼が自分の居場所を知っているのは、コレクトコールで両親に金をせびる時だけだ」。「自分探しをするのに時間がかかる人もいる」とロルフは弁解した。

※昔の入試問題から。
※出典はJune 10, 1972のThe Sheboygan Press from Sheboygan, Wisconsin • Page 17
www.newspapers.com

ここでの第2文の構造と意味に注意。限定の強いthe only time SVの話題化(主題化)を受ける補語の焦点の部分に、名詞(句)ではなく、 when SVが来ていることを確認。本来は副詞節を導くはずのwhen SVが「いつ…するのかということ」という「ことがら」を表す名詞節ではなく、「…する時(のこと)」という「時」の意味をあたかも名詞化するかのように、焦点となる補語として働いています。

このような用例は、現代の辞書にも収録されています。


話題化(主題化)の主語たる名詞にthe onlyや the bestなどの強い限定が使われているのが特徴。
上記引用の最後の二例では、主語は「時」そのものではなく、part / thing が使われている。「こと」「もの」と「とき」の融合とでも言えばいいでしょうか。

この本来、「時の副詞節」だったwhen SVが「時」の意味をまとめて補語にできるのであれば、「時を表す副詞句」が焦点となる補語であってもおかしくはないでしょう。

2. The first time I saw San Francisco Ballet principal Yuan Yuan Tan dance was as a 9-year-old child in the early aughts.
https://pointemagazine.com/a-tribute-to-yuan-yuan-tan/

私が、サンフランシスコ・バレエ団のプリンシパル、ユアン・ユアン・タンが踊るのを初めて見たのは、9歳の子供の時だった。
※the 序数や最上級の限定 time ... was に続く、as a 9-year-old child 「9歳児の時に」は、本来副詞句となるもの。それが、焦点化の補語として使われると、as + 名詞句での意味を整合させるためには、上記和訳例のように、「(初めてAしたのは) Bした時だった」のように、本来は副詞句だったものが、ことがらの意味を担うことになります。この用法は守備範囲を拡げているので地道に慣れていきましょう。

3. As I recall Cloth Fair was where John Betjeman lived for a time. The only time I saw him in person was as a boy at St Barnabas church Pimlico, where I was in the choir in the late 50s.
https://alondoninheritance.com/london-history/elizabeth-fry-charles-brooking-a-church-and-a-hall/
Francis Tibbles September 29, 2022 at 9:19 am

確かクロス・フェアは、ジョン・ベッチェマンが一時期住んでいた場所だった。私が彼を直接見たのは、私が子供の頃、聖バルナバ教会ピムリコで、50年代後半に聖歌隊に入っていた時だけだ。
※ここでも as + 名詞で本来は副詞句。

次の例は少し補助線が必要。

4. The only time I saw her being harassed was by a grumpy old man as we were waiting for the elevator in Firestone Library.
https://paw.princeton.edu/inbox/mild-memorable-harassment

彼女が実際に嫌がらせを受けているところを見たのは、ファイアストン図書館でエレベーターを待っているときに、(彼女が)不機嫌そうな老人に絡まれた場面だけだ。
※ここでは主語の後置修飾部分に、I saw her being harassed という知覚動詞の目的格補語に受け身進行形相当表現が来ていることを確認。動作主を示す by + 名詞(不定冠詞を確認)が、焦点となる補語として働いている。

5. The only time I saw Ginger Rogers in the flesh was by chance in a book store on New York’s Fifth Avenue. She was doing a book signing (Ginger: My Story – a good read) and was well past her dancing years, but she still had a certain allure. 
https://theartsdesk.com/theatre/top-hat-lowry-salford

私がジンジャー・ロジャースを生で見たのは、ニューヨーク五番街の書店で偶然見かけたときだけだった。彼女は本のサイン会(Ginger: My Story-読み応えのある本)をやっていて、ダンサーとしての現役の時期はとうに過ぎていたが、それでも何というか、人を引きつける力があった。
※こちらの例では、 by chance 「偶然で」という、本来は 前置詞 + 名詞=副詞句が、焦点となる補語として働いている。


続いて、本来副詞節のはずの条件の if 節が焦点の位置を占め、あたかも「ことがら」のように振る舞う例。

6. The only time G2G would have been a good deal was if we were getting the oil cheaper. But we didn't, unless we did and someone was pocketing the discounts.
https://twitter.com/Mathenge_UX/status/1748086206087213219

G2Gがお得な取引と言えるのは、オイルがもっと安く手に入る見込みのときだけだ。しかし、私たちには手に入らなかった。誰かがその差分を懐に入れていたのなら話は別だが。
※自然な成り行きではなく、条件設定のif + SV が焦点=補語として働いている。

7. We were separated, heading to a divorce. The only time I saw her [was] if we were on the same plane or the same building together.
https://www.wrestlinginc.com/1354976/kevin-sullivan-recalls-chris-benoit-wcw-storyline-preceded-divorce/

私たちは別居していて、離婚に向けて動いていた。彼女を目にするのは、同じ飛行機か同じビルに一緒にいるときだけだった。


条件設定に近い意味を表すものに、手段を表すbyと媒介のthroughがあります。

8. We want them to genuinely appreciate the thoughtfulness and generosity of others. This is not an easy job, but one of the best ways we can tackle it is by providing our children with a model of behavior that strikes a balance between kindness and frankness, honesty and diplomacy, showing them through our own actions how to negotiate these delicate but important social interactions.

私たちは子供たちに、他人の思いやりと寛大さに心から感謝するようになってほしいと願っている。これは簡単なことではないが、私たちがこの問題に取り組む最善の方法のひとつは、優しさと率直さ、正直さと外交的な態度のバランスをとる行動モデルを子供たちに提供し、私たち自身の行動を通して、こうした微妙だが重要な社会的相互作用の交渉の仕方を示すことである。
※昔の入試問題から。by + ing 「…することによって」という、本来は副詞句となる<前置詞+動名詞>が、焦点=補語として働いている。

9. Another way animals learn is through imitation. Some young birds learn to fly by imitating their parents.

動物が学習するもうひとつの方法は模倣である。若鳥の中には、親の真似をして飛ぶことを学ぶものもいる。
※ここでは、through + 名詞「…を通して;…を通じて」で本来副詞句の through imitaitonが焦点=補語の働きをしています。

これらの表現は、具体的なモノから、行為へとその用法が拡大発展していくことが辞書の用例からも分かります。

話題(主題)化の主語に当たる名詞が way ですので、道→通り道→媒介/手段という具体から抽象への展開は連想も容易でしょう。

副詞節でも、副詞句でも「ここがら」であるかのように焦点として働く補語の位置を占めることができる、ということが分かったところで、バラエティーを少し。

10. One reason for going to the street shops is because of the relationship you have with the owners.

路面店に行く理由のひとつは、あなたが持っているオーナーとの関係である。
※<the reason is because SV>での、because の節が補語に来る例はもうお馴染だと思いますが、本来副詞節だったbecause SVが補語の位置を占められるなら、副詞句の<because of + 名詞句>が補語の働きをしても、何の不思議もないでしょう。

11. When it comes to marketing surveys, the amount that can be accomplished on the manufacturers’ side is gradually increasing, even for those who lack a considerable degree of expert knowledge or experience. However, the reason that this project was a success is thanks to the cooperation that INTAGE provided in a specialized field that we didn’t understand on our own.
https://www.intage.co.jp/english/case/case_01.html

マーケティング調査に関しては、専門的な知識や経験がかなり不足していても、メーカー側で実現できることが徐々に増えてきている。しかし、今回のプロジェクトが成功したのは、自分たちだけではわからない専門的な分野で、インテージが協力してくれたおかげである。
※ここでは、焦点化された理由を示す表現が、<thanks to 名詞>となっていることを確認。10と同様に、その名詞に関係詞の後置修飾が続き、本来は「もの(や人)」の意味を持つ名詞が、あたかも「ことがら」であるかのように働く「潜伏命題」を持つ名詞句となっていることにも注意が必要です。

  • 因果関係で本来副詞句・副詞節であったものが補語の位置を占めることができるのであれば、裏返しの「譲歩」でも許されるのではないか?

と思うのが人情でしょう。

少し前のエントリーで、despite を集中的に取り上げましたね?

tmrowing.hatenablog.com

その補足です。

12. And it is Blair who today has managed to convince an evidently impatient American president to take the risky course of seeking yet another security council resolution before acting against Iraq. This is despite the possibility of a messy political failure at the UN.
https://fpc.org.uk/the-healer/
Article by Robert Kagan September 15, 2006

そして今日、明らかにしびれを切らしたアメリカ大統領を説得し、イラクに対する行動を起こす前に、さらに別の安全保障理事会決議を求めるという危険な道を選ばせたのもブレアである。国連での政治的失敗の可能性があるにもかかわらず、である。

その時に、接続詞even thoughが補語位置に来る例も参考にあげていました。類例補充です。

13. While study participants also got some information from traditional media (print and broadcast), they often accessed it on the social media channels of these mainstream media. Despite complaints about their financial challenges, they prioritised their ability to receive communication at all times through their social media accounts. This is even though networks and internet subscription plans are expensive for them.
https://theconversation.com/how-young-nigerians-distrust-of-political-leaders-fuels-covid-misinformation-176054

研究参加者は、伝統的なメディア(印刷物や放送)から情報を得ることもあったが、これらの主流メディアのソーシャルメディア・チャンネルで情報を得ることが多かった。経済的な問題に対する不満があるにもかかわらず、彼らはソーシャルメディア・アカウントを通じていつでもコミュニケーションを受けられることを優先した。ネットワークやインターネットの契約プランが彼らにとって高額であるにもかかわらず、である。
※本来は、事実を前提とした譲歩の接続詞even thoughを補語として用いていることを確認。

14. You must start making compulsory repayments against your study or training support loan when your repayment income exceeds the minimum repayment threshold. This is even if you are still studying or undertaking an apprenticeship.
https://www.ato.gov.au/individuals-and-families/study-and-training-support-loans/when-must-you-repay-your-loan

返済収入が最低返済基準額を超えた時点で、就学・訓練支援ローンに対する強制返済を開始しなければなりません。これは、まだ就学中または実習中であっても同様です。
※ここでは、同じ譲歩でも、断定・特定を避ける、反論への緩衝材、ヘッジとしても働く even if SV。

この13,14のような補語としての譲歩節は、近年、ニュース英語ではよく見かけるのですが、無理の(少)ない頭の働かせ方では、

  • 先行文脈(A). This is true [so] even though [even if] B

とでもなるであろう論理展開と情報の流れだと思うのです。

15. The issue is that higher interest rates make it more difficult for the company to approve borrowers for loans. This is true even though the company's models go beyond traditional metrics.
https://www.theglobeandmail.com/investing/markets/stocks/SOFI-Q/pressreleases/18769063/2-fintech-stocks-to-buy-now-and-1-to-avoid/

問題は、金利の上昇によって同社が借り手の融資を承認することが難しくなることだ。これは、同社のモデルが従来の指標を超えたものであるにもかかわらず、当てはまる。
※ここでは、This is true のtrue (=あてはまる)が補語として、先行文脈を引き受けていることを確認。

16. However, if a store happens to be selling both a food and a book which makes false claims about that food, and is selling the items separately, then no misbranding occurs. This is so even if the book and the food are both produced by the same company, and even if the maker of the food encourages the seller to carry the book.
https://en.wikipedia.org/wiki/Regulation_of_food_and_dietary_supplements_by_the_U.S._Food_and_Drug_Administration

しかし、ある店がたまたま食品とその食品について虚偽の主張をする書籍の両方を販売し、その商品を別々に販売している場合は、不当表示は発生しない。これは、本と食品が同じ会社によって製造されたものであっても、また、食品の製造元が本を扱うよう販売業者に奨励した場合でも同様である。
※ここでは、This is so(=そうである;その通りである)が補語として先行文脈を引き受け、even if の譲歩節が二つペアで続いていることを確認。

NOWコーパスでざっくりと。




続いてCOCA。





この検索結果だけを見れば、先行文脈を受ける true / so がある場合には、 譲歩節の頻度は even if ≧ even thoughであるように見えます。

true / so の無い譲歩節そのものが補語となるものは、そもそものヒット数が少なく、補語としてではなく、that節中での従属節を導く副詞節になっている例も含まれるために、単純な計量化は難しいです。

Glowbeから最小限のcontextを示しておきます。ノイズも含まれますので悪しからず。


ここまで見てきた実例では、本来は「副詞句」や「副詞節」として働くはずの表現形式が、その意味を抱えたまま、補語として働く、という、慣れるまでは違和感に充ち満ちた文(そして先行文脈とのつながり)となります。

高校段階の英語の授業やテストでは、とかく句と節の書き換えが問われがちですが、そんなに単純に行き来できるものではないということは感じてもらえたのではないかと。句構造、文構造に加えて、文中での意味と働き、そして、話題(主題)化・焦点化といった、文を越えたつながりとまとまりの中での意味の整合を丁寧に扱う余裕が欲しいものです。

本日はこの辺で。

本日のBGM: ボーイ風なガール (Super Butter Dog)

open.spotify.com

2024年3月14日追記:
先行文脈を受ける This is despite と、その省略版のThis despite界隈のオンラインコーパスの検索結果を参考までに。

Ngram Viewerで関連表現と推移を。



生息域の実感が少しでも増してもらえますように。

このThis despite ...の省略表現で気をつけるべきなのは、A. This despite B. という情報の流れで、Thisは先行文脈のAを受けるということだけに囚われて、
(X) それ (= A) にもかかわらず Bである。
という読みをしてしまうことです。
適切な処理は、
(○)そう(= A) であるのは、Bにもかかわらずなのです。
ですから、やはり、一度、基本形・原型ともいえる、"This is true [so] despite ...." を通過しておくのが吉。
是非過去ログの

tmrowing.hatenablog.com

を再読されたし。