You can demand a recount.

教科書会社が提供する指導者用資料も今では色々。
出講先で採用している教材の指導者用資料には、著者自ら指導上の留意点などを解説する動画まであることに、つい最近気づきました。
ちょうど、学年末試験期間で、自分のテストが出てくるまでは採点祭りも始まらないので、暇つぶし、というと失礼に聞こえますが、見てみたわけです。
そこで、

(生徒に)a lot of 複数名詞主語の動詞の呼応で複数に合わせることが本来間違いであることをちゃんと教えないと、the number of 複数名詞主語で動詞を単数に合わせることを難しいと(生徒は)感じるかもしれない。このこと(=上記a lot of の呼応)も追加で教えてもらいたい。

と説くのを見て愕然としました。

最近は、中高、特に高校段階(より上)の英語教育で「英語史」研究の知見や「語源」の知識を取り入れるような助言が、有識者からなされるのを見聞きする機会が増えたのですが、少なくとも、日本の高校の教室でごく普通に英語を学んでいる生徒が、次のような

  • a lot of 複数形名詞を動詞の is が受ける

語法 (1678年という記録がなされています) がかつては正用法であったことを学ぶ必要があるでしょうか?私は、むしろ、有害でさえあると思っています。

確かに、SVの数の呼応は、日本のテストで、とりわけ「誤文訂正問題」での出題比率が異常に(「非常に」、どころではなく)高いと思っています。

少し遡って、昨年、オンラインセミナーで示したスライドから抜粋して並べてみます。

the number of 複数形名詞が「主語」のときに、動詞は単数に合わせる、という知識が求められていると言えるでしょう。
事程左様に入試で人気のある出題なのですが、学校教育の外の「巷の方々が大好きな」英語ネイティブのフィーリングや使用実態と照らせば、最早、そのSVのVの形合わせ、単複の識別はテストで問うべき項目ではないのではないか?という自問さえ必要なところにいる気がしています。
近年の英語の使用実態を見ると、この辺りの語法に揺れというか幅というか、深さ、高さ、奥行きに変化が現れている用な印象です。
たとえば、そもそもの名詞 numberは単数形だけなのか?という問題です。

as節の主語は、the numbers of people でnumbersも複数形、peopleも複数扱いする名詞の筈。
しかしながら、動詞の呼応は risesと三単現の -sとなっています。
英語の辞書でも、numberが複数形の例は見られるのですが、その場合でも、現時点では、動詞は複数呼応です。

私がこういう指摘をすると、時々「口語で文法的に崩れた表現形式ががが…」とか「英語ネイティブでも、教養のない人が使う表現ががが…」などというご批判をよく受けるのですね。

  • お前はいつも、日本の受験指導に難癖つけてばかりで、何がしたいんだ!

などといわれることすらあるのですが、実際、受験指導が大好きな方たちが扱う入試問題でも眼にしているはずなのですよ。

  • そんな20年近く前の例を出されても…。

という方もいらっしゃるかも知れないので、もう少し今に近い例を。

<the numbers of 複数形名詞>という名詞チャンク自体は、合算や分配の場合には理解しやすいし、納得感が大きいでしょう。
例えば、次のようなもの。

We know that there is a gap between the numbers of women and men regularly participating in sport.
私たちは、定期的にスポーツをする女性と男性の数に差があることを知っています。

The researchers found no significant difference in the numbers of arm or hip fractures between those who drank one glass of milk a week or less and those who drank two or more.
研究者らは、週にコップ1杯以下の牛乳を飲む人と2杯以上飲む人の間で、腕や股関節の骨折数に有意差はないことを発見した。

問題は、SVでの数の呼応なんですよね?

Where the numbers of women and men present were about the same, men asked almost two-thirds of the questions during the discussion.
男女の人数がほぼ同じ場面で、ディスカッションでは男性がほぼ3分の2の質問をした。

ここでは、男女合算の分配で名詞 the numbers は複数形、be動詞 wereは複数呼応、というのは納得しやすいでしょう。
SVの数の呼応をもう少し見てみましょう。

ここでは、前者が the numbers of … students の複数形主語を受けて、have grownと複数呼応。
後者が、the numbers of these cells という複数形主語を受けて、staysと単数呼応です。

オンラインコーパスでも拾えるものは拾って、ざっくりとは見ています。

実際に使われている、ということが分かりますね。

「教養ある人」が、どちらかといえば「公的/フォーマルな場面」で用いている文章でも、複数形名詞の the numbers of people (+後置修飾) を受けて、be動詞が isと単数呼応している例は見て取れます。

もし、上記英文を書いた人が、次の誤文訂正問題に当たったら、どこをどう直すでしょうか?

2. イ. A number of people who face cyber-bullying ロ. while connecting with friends ハ. has been increasing ニ. year by year.

最初の下線部を直すとしても、

  • The numbers of people who face cyber-bullying while connecting with friends has been increasing year by year.

とする可能性が大きいのではないでしょうか?

授業で高校生に英語を教えている先生方、入試を採点する大学の先生方、この英文はどう扱いますか?

名詞number(s)のとらえ方そのものを再考する良い機会でしょう。

鉄道ファンの婦女子が増えている
Girls [Women] interested in railroads are increasing in number. (ジーニアス和英)

では、「数という単位において」というような意味合いで、numberは単数形というのが規範的な立場でしょう。私もそう教わって来ましたし、普段はそこを基盤に教えています。

ただし、つぎのような例が実際に使われていることを知らない人が(英語教師やテストの出題者にも?)いるかもしれません。

定評ある辞書で、現代英語のコーパスに基づいて作られているものから引いています。

Guests are returning in increasing numbers---a sure sign that we are on the right track.
常連客が増えているということは、私たちが正しい方向に向かっているという確かな証拠だ。
(COBUILD 米語英英和)

There was a rapid growth in the numbers of private cars.
自家用車数が急速に伸びた (Oxfordコロケーション)

They are concerned about the reduction in numbers of people eligible for legal aid.
彼らは法的扶助の有資格者数の減少に関心がある (Oxfordコロケーション)

振り出しに戻って、SVの呼応の話し。
過度の単純化に陥るのでもなく、誤文訂正問題対策に躍起になるのでもなく、私は、普段から、例えば、次のような例が実際に使われている、ということを授業で伝えていますし、その英文を読む、となれば、丁寧に意味を整合させられるような英語の基礎基本を、高校卒業までに身につけてもらいたいと思って授業をしています。

Tory MP Sir Roger Gale tells Sky News the numbers of people at Manston migrant processing centre in Kent is "wholly unacceptable".
https://twitter.com/SkyNews/status/1586991394312589312

One area in which we can see the insecurity is that while the numbers of people unemployed has fallen, the numbers of people on jobSeeker or the youth allowance is now higher than it was before the pandemic
www.theguardian.com

number(s) の見え方が変わってきたでしょうか?
既に、1月のエントリーで、名詞 case(s) と増減の表現での語法の変化は取り上げていました。
この機会に、併せてお読み下さい。

tmrowing.hatenablog.com

本日はこの辺で。

本日のBGM: sad number (Laura Day Romance)

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