サレンダー

ツイッターのタイムラインに流れてきた日永田 (ひえいだ) 先生のツイートにあった慶応義塾大学経済学部の出題がちょっと気になったので、こちらで取り上げる次第。
元ツイはこちら。

途中で若干の浮き沈み、ブレ玉こそあれ、確か2012年位から、今のような長文の読解問題でissuesを提示し、それを引用し、持論と異なる視点・観点を踏まえて論じるお題作文、という形式が続いていると思います。

拙ブログで最初に取り上げたのは、9シーズン前ですね。

tmrowing.hatenablog.com

近年で一番大きかった変化は、昨年度の、日本語の文章に英語で設問がつく、というもの。
某媒体では、この出題に関してショーモない分析を開陳している若者がいましたが、ことの本質が分っていませんでしたね。

そのような大きな流れの中で注目すべきは、読解素材の英文には逐一、著者と出典が記されているものの、その実在が確認できないものばかり、という点。
いや、英文そのものはissuesを提示するため、それなりにきちんと書かれたものが使われているのですが、その著者の固有名詞や出典の媒体などは、駄洒落?皮肉?茶化してる?というようなものが多く見られる印象でした(この点をまじめに分析し、考察を深めたレポートって、もう誰かがどこかで発表してるんですかね?)。

今年の大問のIIIの著者名として先ツイで指摘されていた

  • Frank D. Bayt = frank debate = 率直な議論

というのは、この学部の出題/解答に求められる要素を的確に表していると言えるでしょう。

私が気になったのは、 大問のIV。日本語の文章の著者と出典とされる雑誌名でした。

こちらの「研究者」の名前と「雑誌」も気になりました。ここまでがセットの壮大な「偽情報」だったら凄いなと。
似た名前の関連領域の研究者も実在して、似た名前のジャーナルも実在するんですよね。
International Journal of Media & Cultural Politics (Journal)
https://www.intellectbooks.com/international-journal-of-media-cultural-politics

https://twitter.com/tmrowing/status/1758944204208976062


雑誌に投稿した研究者名は漢字表記で「伊藤陽子」。英語からの翻訳でどうして漢字が分かった?

こちらの「慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所」にいる実在の研究者名が「伊藤陽一」。


https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AA1121824X-20220300-0133.pdf?file_id=162903

名前の漢字を見るなら、「一」は「始め;始まり」で、「了」は「終わり」。それを足すと「子」になります。
いや、だから何なんだ?ってことなんですけど。お遊びが過ぎるなと。
そして、今回のテーマが disinformation (偽情報)ですから、私のツイートにあったように、英文素材文と雑誌への反対意見投稿を模した日本語の文章と、合わせてdisinformationだったら凄いな、という感想を持ったのでした。


因に、disinformationとmisinformationに関しては、今月初旬にオンラインで個別対応をした

  • 「受験生D講座」

での東京外国語大学対策で、私とChatGPTとのコラボによるミニレクチャーを作成し、音声もAI生成で自然なものを提供していました。
こちらが、そのときのメモ取り用ワークシートになります。 ご参考までに。


さて、慶応の問題の話しに戻りましょう。
例年、架空の著者と出典情報を示しているわけですが、これがissuesと全く無関係とは言えないところが面白くもあり、それが解答に当たって何らかのヒントになるかと言えば、どうもそうとは言えないところがモヤモヤするわけです。

今年の大問I であれば、 “Remote Work Revolution” by Noah Fice で、これは単純に No Officeの捩りだと分かりますが、だからどうした、ということなのですね。

昨年度から始まった、第3問の英文の内容に対応した第4問日本語の文章というセットの出題でも、英文の著者名はSeymour Zimmer、日本文の著者名はカタカナでフクシ・セイタというものでした。これがちょっと不思議なので、呟いていました。

昨年も出た日本語の文章は、「論評」からの抜粋、というだけで、英語からの翻訳という縛りも何も示されていないのに、その著者名がカタカナ表記という不思議なもの。
介護関連ネタなのでキーワードは「福祉」
→音と字面からの連想で福士蒼汰
→捩ってフクシ・セイタ

「セイタ」に込められた意味は?

分かりそうで分からない、隔靴掻痒なんですよね。

これに関しての私のつぶやきがこちら。

昨年は「フクシ・セイタ」とカタカナで、「福祉」にかけて、福士蒼汰の捩り程度に思っていましたが、Say more とZimmer (歩行補助具)がうまく繋がらないんですよね。
来年も英文とセットでの創作で分析する重要性が増す?

因みに、Zimmerは商標名が一般名詞化した例の一つ。

Zimmer frame

www.youressentialshop.co.uk


少子化対策がテーマの論文の著者が

  • Cole Schauer

で、何の捩りとかアナグラムなのかな、と考えていたのですが、

  • take a cold shower

が「頭を冷やす」以外に「性欲を鎮める(必要がある)」という意味で使われることがあるので、その辺り?


https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/take-need-a-cold-shower

このようなお遊びは恐らく、初期の段階からずっと組み込まれていたのだと思います。過去ログで取り上げた2015年の出題でも、

大問II “Immigration: Fulfilling Our Global Obligations" by Lemmy Inne (2013) は

  • Let me in. 入れておくれよ。

の捩り。


大問III “Global Charity Begins at Home" by Bette Steyput (2013) は

  • (You’d) better stay put. その場を動くな;そのままじっとしていろ。

の捩りではないかという気もします。

とはいえ、大問のIの”Modern Girls Revisited” by Eve N. Flappers (2014) のEve N. は”even” としても、flapperの語義を

  • 口語⦅特に 1920 年代の⦆現代娘,フラッパー⦅しきたりにとらわれない奔放な生活態度・服装などでおとなたちのひんしゅくをかい,不道徳を非難された⦆.(リーダーズ英和)

とするのは、芸がないと思うのですよね。

振り出しに戻って、2012年の出題から下ってみますか。

大問II “Privacy at school: Choices Ahead” by S.M.A. Foane (2010) はsmartphoneでいいとしても、
大問I “Making Sense of Secrecy” by S. Kaane (2007) は何なんだろうか? scannerの英音?


2013年

大問I “Against Zoos” by Anne E. Malls (2010) は (名詞to) end them all (最低最悪の名詞)の縮約で’em ということか。
大問II “In Defense of Zoos” by N. Viro and D. Velle (2009) は environment とdevelopment の頭だけ採った?


2014年

大問I “Inequality and Growth” by Anne Faerrar (2012) は unfairer でしょうね。
大問II “Youth Unemployment: Whose Responsibility?” by Ivan O’Werke (2012) は、意味から考えれば I’ve been out of work. (ずっと失業中)だろうけど、O’は通例、ofの縮約なのでね。


2016年

大問I  “In Defense of Traditional Marriage” by Noah Reinbos (2014) は、同性婚反対派ですから、 No Rainbows にかけているのでしょう。
大問II “Following Ireland, for Better or for Worse” by Roy G. Biv (2015) は、「虹の七色」の頭文字そのまんまで、Red, Orange, Yellow, Green, Blue, Indigo, Violet から成る造語ですね。
大問III “Should People be Required to Vote?” by Fran Chizeforall (2014) は franchise が選挙権/公民権で、franchise for allそのまま。


2017年

大問I “Unnecessary and Inefficient: the National Minimum Wage” by Marc Etfoasses (2013) はmarket forces
大問II “The National Minimum Wage: an idea whose time has come?” by D. Saint-Paix (2015) はフランス語のコミューンのhttps://en.wikipedia.org/wiki/Saint-Prix,_Val-d%27Oise の捩り?paix は平和とか治安、平穏という意味。よく分かりません。
大問III “Taxed to Death? The Estate Tax Reconsidered?” by Lou Sitall (2015) お手上げ、降参です。分解組み合わせを自由にして、 lousy tall (酷く法外な) というような意味にできなくはないですけど…。

疲れました。
読み解く方がこんな調子ですから、作問チームは毎年、練りに練っているのでしょうね。
私も、日を改めて、残りの著者名と格闘してみます。
本日はこの辺で。

本日のBGM:
サンクトペテルブルグ ー ダジャレ男の悲しきひとり旅 (2010年リマスター)/KAN

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upgrade your skills and knowledge

以前、授業でも使ったことがある頻出問題集の四訂版の第二刷が出たことを知り、第二刷なら、誤植等もきっと直っているだろうなぁと期待して購入。
ツイッターでも書影つきで、投稿していました。

この手の「頻出もの」は、普段の学習で出てきた英語表現、模試で出題された英語表現が、本当に「頻出」なのかを確認できることに結構大きな意味があると思っています。
「安心毛布」的な何か以上の存在。

あるとうれしいのが、

  • 索引

先のツイートでも強調していました。

索引は知識のネットワーク化には本当に重要なんだけど、今時の「わかりやすさ」を謳う学参や問題集にはないことが多いので、多くの生徒は索引の活用法を知らずに卒業していくんだよね…。
索引があるなら活用しましょうね。

以下、ツイートを再編成したもの。

先ツイの本の前書きに

  • 悪しき「受験英語」を排し、「実用英語」にターゲット!

とあるのですが、そもそものデータが過去28年の入試問題なので、あくまでも「入試英語の中での人気者」を収録、と見るのがいいと思いますよ。

  • Aという形での出題が多い/狙われる
  • 日常では通例Bという形で用いられる

は大違いですから。

例えば、

  • 「AしてすぐにBする」「Cしたかしないかの内にDする」

界隈は多様な表現形式が大学入試で出題されてきました。先の本では、出題頻度から directlyの接続詞用法を収録しないという判断。では、日常の使用頻度は?類例を子どもが覚えていく順序は?などということは不問。学習や指導で大事なのはそこでしょ。
ということで、検索して精査。
Google BooksのNgram Viewerは5語までしか入れられないので、文頭の範囲での比較。
特に as soon as SVで5語に収まりしかも接続詞用法、という縛りがかけられるものはノイズはほぼないけれど、それ以外では、必ずしも接続詞用法だけを拾っているわけではないので、差し引いて、目安程度に捉えて下さい。たとえノイズがなくても、地域差・文化差はそれなりにありますので、その辺りもよろしく。

全体

ノイズを含めても、As soon as he sawとThe moment he sawでダブルスコア近い差。
Directly he saw やNo sooner had he seen はドングリの背比べ状態ですね。

AmE

BrE

ざっくりした検索でも少し解像度は上がってきたのでは?
続いてベンチマークとなる関連表現を入れての比較。ノイズも含まれるけれど、 no sooner は倒置の方が高頻度 scarcely は通常の語順の方が高頻度 scarcelyとhardlyでは前者がやや優勢なのは意外。

全体

AmE

BrE


倒置と基本形とのマッチアップを考えて比べ直し。
時系列で推移を辿ると、乱高下とも言える変化をしています。
こうして見ると、何が「最も普通か?」を言うのは難しく、「…なんて言わないよ絶対」なんて言えないことが分かるでしょう。

全体

AmE

BrE


文頭の倒置と基本形との比較。
COCAをベンチマークに GLOWBEで地域差概観。
ここでも、 no sooner は倒置の方が高頻度 という印象。

no sooner が倒置で文頭にくる107例のうちで、thanを従えるものが、69例。

個別に見てみると小説が多いが、他のジャンルもチラホラ。

GLOWBEで見ると、倒置の方はそこそこ散らばっているけれど、基本形の方はアジア、アフリカが疎ら。


入試では倒置が狙われるからそちらを収録、ではなく、倒置の方が日常では高頻度で、入試でも出ているから収録、ということじゃないと、全然実用的じゃなくない?

次は hardlyの類語での共起具合で比較。scarcelyやbarelyが現れます。
ただし、倒置と基本形とでは、no sooner とは異なり、基本形の方が優勢。
では何故、倒置形ばかりを問う?何故、基本形が定着するように学ばない?
全然、実用的じゃないじゃない。

倒置でこの後にwhenやbeforeの続かないノイズ成分を含んでこのヒット数です。

因に、倒置でwhenを従えるのが13例。beforeは2例でした。

基本形はヒット数が激増。

基本形だと、whenを従えるのは70例。beforeは15例でした。

以下、GLOWBEでの地域比較。
基本形でも、アジア、アフリカが少ない印象。



入試での出題が稀、というdirectlyとimmediatelyも入れての文頭比較。
immediatelyの圧勝!に見えますが、文頭大文字 SVだけでは縛りが十分ではないためノイズは含まれますので注意が必要。
これらの副詞の接続詞転用は「英系語法」「主に英」といわれることがあります。ここでのAmEでの概況とGlobalな概況での Directlyの頻度急上昇の背景が気になります。

全体

AmE

BrE

私が高1の授業で、絶対使いこなせるようになること、と説いているのは as soon as。
表現の幅ということで言えば、 the momentの接続詞用法 (ここでは The moment が主語となり補語を取るものもノイズとして排除できていないので注意)。
堅い、レアな表現からこちらへ書き換えるなら許容範囲かな。
実例で言えば、駒沢大学の一昔前の過去問にあったものですが、

I had hardly left the building when I was asked some questions by a police officer.
The (moment) I left the building, I was asked some questions by a police officer.

ならOKでしょう。

全体

AmE

BrE


今回取り上げた本は、入試問題の分析資料としては大変良くできていると思っています。
ただ、私がこうして精査するのは、生徒のため、というよりも、不合理だったり、理不尽だったりするようなテストを課して、その人は英語が出来るだの出来ないだの、と言うのが自分で許せない、という要因の方が大きいですね。

以下、私が高校生に授業で示した整理整頓のおおまかな再現。

まず、表現形式のうちでも日本語で、

  • 家を出るとすぐに、雨が降ってきた。
  • 家を出た途端に、雨が降り出した。
  • 家を出るやいなや、雨が降り出した。
  • 家を出たか出ないかのうちに、雨が降り出した。

の差異を感じない段階の学習者には、対応する英語表現の細かな差異を説明してもご利益は薄いでしょう。さらに、混乱を生んだり、記憶を強化できなかったりという可能性があります。
ただし、上述の日本語表現が使いこなせているなら、以下の英語表現も、ひとつひとつ精査・吟味する価値はあるでしょう。

a. As soon as I left home, it started to rain.
※基本形。まずこれを押さえる。主節からでも書き始められることは大事な力。ただし、この表現では時間差にはかなりの幅があることを踏まえておく。


b. On leaving home, it started to rain. 
※ くだけた会話では低頻度なので、この意味内容を表すには少し堅い印象を与える。改まった会話や書き言葉では一般的表現。-ing形の場合には、意味上の主語をつけずに使うのが基本。「on は接触」と説明されることが多いが、時間差がないことをそれほど強調しないことに注意。単純に when -ingと同意とみなす人も多い。
cf. pay the bill on leaving 帰る時に勘定を払う (G6)
※注意が必要なのは、次のような例。(   )での補足情報が適切な文脈を示している。
The victim was pronounced dead on arrival (at the hospital).
その犠牲者は(病院)到着時に(すでに)死亡と宣告された (研究社英和活用大辞典)


c. The moment [instant / minute] I left home, it started to rain.
※momentはもともと名詞で「瞬間」という意味。a,bに比べて、二つの行為や出来事の連続性を強調して、時間のギャップのないことを表せる「生々しさ」を持つ。その分、よりインフォーマルな表現となる。


d. When I left home, it started to rain at once [immediately].
※公式でもなんでもない、ごく普通の言い回し。主節、従節を入れ替え、It started to rain immediately after I left home. とパラフレーズは可能だが、情報の提示順が異なると、臨場感は薄れ、表現効果も減るので、あくまでも説明の表現と捉えるのが吉。


e. No sooner had I left home than it started to rain.
※このno sooner /than は通例倒置で使われる。日本の教材では、基本形を学んでから倒置形を学ぶ、というのが伝統的な流れなので、この表現形式も、いちいち基本形に直して説明されることが多い。時制は過去でも、現在、これからでも可能。この例文のように過去文脈のときの時制で、時の上流に当たる過去完了のhad left の部分に単純過去形の leftを使う人は英語ネイティブにも結構たくさんいる。さらには、soon 本来の副詞の語義が no soonerになって薄れたのか、No sooner than I left と倒置はどこに行った?と文句のひとつも言いたくなるような表現形式を用いる英語ネイティブもいる。テストを作る人は、四択の選択肢の中に、一見倒置形や、基本形に見えるが英語ではあり得ない語順を入れたつもりで、実はそれも使われている語順、とならないよう注意して欲しい。


f. Immediately [Directly] I left home, it started to rain.
※英和辞典の語法注記でも、英系語法とまとめられることが多い、副詞の接続詞転用。英米ともに、directlyという語を単独で接続詞として使うことが低頻度という印象。immediatelyは、英では今でも一般的な表現。頻度としては、eよりも高いだろうと思われるが、入試では殆ど出題されない。英系の辞書で、COBUILDでは、directlyの接続詞用法を項目に入れておらず、LDOCEでは、directlyに「古風」とラベルを貼っているが、Cambridgeでは、immediately afterの語義とas soon as の語義を分け、それぞれ例文を載せている。


g. I had scarcely left home before it started to rain.
h. I had hardly left home when it started to rain.
※hardlyもscarcelyも、倒置よりも、この基本形の方が使用頻度が高い。scarcelyはbeforeと、hardlyはwhenと結びつくことが多い(COCAだとhardly + when : hardly + before = 70 : 15位の比率) が、逆の組み合わせもある。NgramViewerのデータを見る限りでは、scarcelyの方がhardlyよりも高頻度。 e.の no sooner /than との混交で、このhardlyやscarcelyとthanを一緒に使う英語ネイティブもいるが、日本の辞書では「避けた方がよい」という助言を与えているものが多いだろう。e.と違い、過去文脈でも主節を過去形で使うことは少ない。
※英語ネイティブによっては、従属節の内容、時系列の時の下流の内容は、出来事、現象などの他、自分以外の人が主語となる例が多く、自らが積極的に選択して行う、controllableな内容は続き難いという人もいる。COCAの2015-19の例から。

そういう人にとっては、次のような英文は不自然に感じるでしょう。

? He had hardly left the hospital before he went back to work.

beforeに続く内容を、自らの選択や行動ではなく、例えば、

He had hardly left the hospital before he had to go back to work.
彼は退院後すぐに仕事に戻らなければならなかった。

などとすれば少し良くなるでしょうか。


i. Hardly had I left home when it started to rain.
j. Scarcely had I left home before it started to rain.
※倒置。入試頻出といわれるが、日常ではほぼほぼ小説で使用される表現形式。日常の相対的使用頻度はアカデミックな領域でも極めて低いことに注意。改まり度が高い表現形式なので、この文意程度ではちょっと不自然。上述のwhen以下の制約を気にする人は、次のような英文(入試問題です)は不自然に感じるかもしれません。

Hardly had he left the room when he burst into laughter.
彼が部屋を出るやいなや、どっと笑い出した。

許容できるとすれば、主語が三人称での描写文であること、burst into は「自分で押さえていたものが堰を切って出る」ようなときにも使うので、自らの選択による積極的な行動ではないこと、またburst into laughter はburst out laughingよりも少し堅い印象を与えること、という合わせ技によるものでしょうか。
例えば、次のような文で使われるのなら自然に響くでしょう。

Hardly had I climbed the second hill when I heard sounds coming after me. Faster and faster I ran with my load for my father, but the sounds were gaining upon me.
"The Soft-Hearted Sioux." by Zitkala-Sa [aka Gertrude Simmons Bonnin]
2つ目の丘を登り切ったとき、背後から音が聞こえてきた。もっと速く、もっと速くと、私は父のための荷物を抱えたまま走ったが、その音はどんどん私に迫ってきた。

臨場感を出す工夫がされている物語ですが、この出典は、

American Indian Stories by Zitkala-Sa. Washington: Hayworth Publishing House, 1921. pp. 109-125.
http://www.digital.library.upenn.edu/women/zitkala-sa/stories/soft.html

で、今から100年前の英語であることに注意が必要です。


k. (?) I had no sooner left home than it started to rain.
※倒置ではない、この基本形での使用頻度は低い。にもかかわらず、近年の入試でも出題例があるのです。

Cathy had no sooner sat down on the sofa on the living room (than) the doorbell rang.
キャシーがリビングルームのソファに腰を下ろすやいなや、ドアベルが鳴った。

Meg had no sooner uttered the words (than) she regretted them.
メグはその言葉を口にするやいなや、後悔した。

どちらの出題も錯乱肢に beforeとwhenを入れているところが本当に哀しい。

実際の使用例が少ない原因は、個人的には、この語順での<否定+sooner>の比較級の語義の実感が弱いので、この形式を支え切れない人が多いからではないかと思っています。

ということで、「より良い英語でより良い授業」の参考にしてもらえれば本望です。

本日はこの辺で。

本日のBGM:ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ 第3番 ト短調 BWV1029 ~第1楽章:ヴィヴァーチェ
ヨーヨー・マ(チェロ)
クリス・シーリー(マンドリン)
エドガー・メイヤー(コントラバス)

open.spotify.com

while knowing it helps better than anything ...

先日、次のような物言いで「描写文」の指導に苦言を呈していました。

この時期に私のところに過去問を持ってくる受験生は予備校や塾、または参考書などで何らかの対策をしてきたとは思うのですが、こと「描写」となると、課題が多いと思わざるを得ません。
過去問を解いて添削するだけで、肝心な学びや気づきがないからでしょうか?

tmrowing.hatenablog.com

Picture Descriptionとか、Describing Picturesなどと呼ばれる活動は、本当に昔から英語のライティングの教材やテストでは使われてきたので、いくら日本でも、その指導手順が適切に理解され、広く共有されていて然るべきだとは思うのですが、なぜ2024年にもなって、この為体なのか?というのが、偽らざる感想です。

ツイッターでは随分昔から、書影つきで、教材や指導者用の概説書などを詳解してきましたし、ブログでもナラティブから始まるライティングのシラバスの話しは頻繁に取り上げ、しかも克明な記録となる授業日誌まで残してきました。直近でも、このツイートを見れば、経験の浅い指導者でも、その気さえあれば誰でも次のステージへと進めると思っています。

このツイートで貼り付けた写真にある、J.B. Heaton3部作+1に関しては、さらに5年ほど前にもツイートしています。

このツイートまでの流れを読むことを強くお奨めしておきます。

  • 絶版書を奨められても困るんだよ!

という方は、私も以前見て、よくできているな、と思った教材がWeb上にありますので、次のリンクが生きているうちに指導手順に目を通してくれれば、的外れな過去問対策とは一線を画す指導ができるのではないかと思います。
私はこのサイトとは全く関係のない部外者です。あくまでも、リンク先の指導手順を見た(読んだ)ご自身の判断で教室等での指導に役立てて下さい。

www.oxfordonlineenglish.com

対応する動画はこちらで。
youtu.be

もっとも、このような指導手順をマネするだけでなく、そこで問われる描写文の原理原則を、普段のシラバスの中で教えているか、学ばせているか、が重要です。

  • 情報の流れでのgeneralからspecificへ
  • 名詞句の限定表現: 前置詞による後置修飾、分詞句や不定詞句による後置修飾と関係詞節との使い分け
  • イントロどどいつと分詞構文
  • 名詞のないところに名詞のチャンクを作るwhatの活用
  • 主題以外に極力、山谷をつくらない一文の記述

などが、描写文を的確に書く上で重要な役割を果たすので、私の授業シラバスでは、初期の段階から、チャンクで出し入れできるように「四角化ドリル」をやっているわけです。

今日はその中から、「極力山谷をつくらない」工夫として、

  • while -ing形

をざーっと眺めておこうと思います。
英語学習や指導で大事なことの殆どは、ブログやツイッターに書いてきましたが、「はてなブログ」にはpdfなどの資料ファイルが直接貼れないので、私の過去ツイートを並べて、while -ingで気をつけるべきところを確認します。

whileでの対照。-ingは進行形由来のことが多いですが、実際に進行形かどうかは動詞の素性と文脈で決まるので、何でもかんでも主語とbe動詞を補うのは筋が悪いです。hold off…「…を先送りする」。closing timesにハイフンでpubがついているのは実際の「閉店」ではなく「アルコール提供の最終時刻」。

British Prime Minister Boris Johnson announced a series of new restrictions for England, including earlier pub-closing times and tougher enforcement of social-distancing rules, while holding off stay-at-home order to avoid damaging the economy.

https://www.wsj.com/articles/boris-johnson-introduces-new-covid-19-restrictions-to-curb-second-wave-in-the-u-k-11600780834

こちらのwhile -ingは「進行形」でのパラフレーズとなる例。asの前景後景であれば、このwhileがas節に対応し、後景・背景となる状況説明で、「延焼抑制剤」の投下が前景で焦点。
a sign urging A to B(=原形)「AにBするよう促す掲示」でのurgingは後置修飾の現在分詞で進行形には対応しないので注意。

An air tanker drops retardant while battling the #GlassFire in unincorporated Napa County, south of Middletown on Saturday. Below is a sign urging residents to maintain defensible space around their homes in preparation for wildfires.

https://twitter.com/sfchronicle/status/1312596327646269440

今取り上げた二例の違いを感じられる嗅覚、生き物センサーを養うことが肝心。

この例のようにwhile + -ing の多くは「進行形」に対応するものだけれど、その都度、動詞の意味素性を確認するのが吉。詳細はわからないが、運転中の心臓発作って…。走行中だとしたらアクション映画以上。やっぱり「魔女」ですね。「心肺蘇生をする」の「する」に当たる動詞はperform、前置詞はon。

Alyssa Milano’s Uncle Mitch had a heart attack while driving her to an appointment, but she performed CPR on him.
He's doing better now

https://nydailynews.com/snyde/ny-alyssa-milano-update-uncle-mitch-carp-heart-attack-car-crash-20210902-ak2yxtanzbez7lmgofmnqwwdue-story.html

一文凝縮。後置修飾オンパレード、というよりは節を句にする工夫。
関係代名詞whoは主格。attendは現在形。
メインのare gettingは進行形で時の副詞句つき=見込み。 thanks toは前置詞。
過去分詞dedicated 現在分詞taking 時制と主語が共通の場合に圧縮できるwhile raising
まあ、デイリーですから。

Parents who attend CUNY are getting some financial relief this summer, thanks to a new $3 million fund dedicated exclusively to supporting New Yorkers taking college classes while raising kids.

https://www.nydailynews.com/2022/07/17/cuny-distributes-3-million-to-help-student-parents-take-summer-courses/

#無冠詞複数現在形一般論 #主題の設定と節での山谷
experts 「専門家;有識者」。adviseは動詞。密接なテーマはon。そこがヤマなので、how to 原形のstay safeに対する従属節で山谷を作らずwhile -ingでスッとつなげるところをマネしたいところ。 open water「(プールではない)海、湖、河川(の水域)」


Experts advise on how to stay safe while swimming in open water

Experts advise on how to stay safe while swimming in open water after recent Bournemouth and Merseyside tragedies | The Independent

文頭のイントロでも、文末のアウトロでも、挿入句でも使われる while -ingは、主節と主語/時制が揃っているときに、主題以外の山谷を極力減らし、情報と意味だけを「スッと」つなげるもの。
そして、-ingの部分にくる動詞は常に進行形の圧縮とは限らないので注意。本当に注意。いやホントだってば。

このツイートの元になったのが、こちらの恋路、じゃなかった記事。

Hollywood star #BenAffleck recently melted the hearts of internet users when he turned a photographer for his wife and actor-singer #JenniferLopez at her film's recent premiere. The celebrity couple attended the movie premiere of This is Me Now: A Love Story, which Jennifer stars in and has co-written. At the event, Affleck was seen sporting the biggest smile while taking photos of his wife. Jennifer looked stylish in a black, sheer dress. Later, the actors were seen hugging and kissing each other at the red carpet.

https://twitter.com/IndiaToday/status/1757684357656154587

英語ニュース紹介記事での簡単なコメントは次のようなもの。

描写文の練習。
過去形基準からの、非制限的関係詞の補足では現在(完了)形。
所謂知覚動詞の受け身で... was/were seen に続く(残る?)目的格補語に相当する-ing形が2回出てきますが、日本の教材が出なさ過ぎなので確実に。
他動詞のsportは通例進行形で使い
wear + proudly
の語感を捉まえるのが吉。

ここから連ツイを再録。気になった記事はリンク先へ!

オンラインコーパスなどの検索結果も写真を貼って呟いていました。

Ngram viewer での推移
while ensuring とwhile making sure COCAをベンチマークにGLOWBEで地域差を推測。

特に、通例進行形をとることのない ensureやmake sure がこの while + -ingのパターンで使われている頻度はバカにできないと思いますので、一日も早く、日本の辞書にも適切な用例と解説が載ることを期待しています。


このくらい一気に類例を眺め、読んでみれば生息域の実感をかなりの程度「リアル」に感じられるのではないかと。
本日はこの辺で。

本日のBGM: You make it all worthwhile (The Kinks)

youtu.be

#ギャップ橋渡しのeven

2010年代の後半くらいから、授業の中で明示的に指導している項目に、

  • ギャップ橋渡しのeven

と私が名付けているevenの用法があります。
Web上を探しても、私くらいしかそれらしい名称で呼んでいないので、なかなか私の教室の外の方に分ってもらうのが、難しいのですが、ツイッター(今ではX)の「英語ニュース引用RT140字紹介&詳解」を続ける中で、結構な数の記事を取り上げてきたので、こちらで並べてみようと思います。

投稿の時期によって、または、その投稿時の状況によって、ハッシュタグがあったりなかったりするのですが、これなどが比較的初期のもので、まだ「ギャップ橋渡しのeven」というキーワード化の前の段階。2020年4月下旬です。

見出し英語は次のようなもの。

Coffee could be good for you, as long as you brew it correctly. It may even lengthen your life — if you prepare it with a filter, according to a new long-term study.
The healthiest way to brew your coffee – and possibly lengthen your life | CNN

解説で、「ギャップを埋めるeven」「evenのスロープ」という萌芽が見て取れます。

「現実味のcould」はas long as での条件設定で但し書き。「主観的可能性のmay」は本来may=may not。ここでは、書き手の意図と読み手の予想や思惑、予備知識との間のギャップを埋めるevenと一緒に使われているので要注意。まあ、読み手は、書き手の掛けたevenのスロープに乗るしかないんですよね。

書き手(話し手)と読み手(聞き手)との間に、共有できていない知識や情報のギャップがある時に、その溝にスロープを渡して行き来ができるようにするデバイス、小道具としてevenが働くわけですが、水が高いところから低いところに流れて行くのとはちょっと違って、書き手のいる高いところに、読み手はスロープ上を低いところから上がってくる、というイメージです。「橋は架けるけれど、こっち側まで上って来てね。そうすれば、私と同じ地平が見渡せるでしょ!」という書き手主導の捉え方です。

そこから約1年後のツイートがこちら。ここでは既にハッシュタグもでき上がっています。

見出しの英語はごくごく短いもの。

'Not clean, not green, not even healthy': Author slams salmon farming
www.abc.net.au

解説では、形容詞evenの語義を援用して、evenの働きを説明しています。

#ギャップ橋渡しのeven
#具体例は3が吉

豪州の方のABCニュースから「鮭養殖」の話題。
話し手・書き手にとっては主題への貢献度が高い情報だが、受け手との間に温度差が予想される場合に、そのギャップにかけるスロープのような役割を果たすのがeven。
まあ 、「平ら」になったと思ってくださいな。

以下、時系列で、時の上流に近い方から取り上げて行きます。

Italy is so far having greater success than many other European countries in limiting a second wave. New precautions like mask-wearing have become a widespread part of everyday life, even when it isn’t obligatory.
https://www.wsj.com/articles/as-covid-fatigue-fuels-infections-in-europe-italy-resists-the-second-wave-11600772400

These gifts will even please those people who have everything, and people who are picky.
https://slate.com/human-interest/2020/11/best-universal-all-purpose-gifts.html?via=rss_socialflow_twitter

Around the world, girls are doing better than ever. But the covid-19 pandemic could hobble progress for girls in poor countries, or even reverse it
https://www.economist.com/leaders/2020/12/19/covid-19-threatens-girls-gigantic-global-gains?

Ordering restaurant food for delivery only has surged in popularity since the outbreak of the pandemic. Now Applebee’s, Denny’s and other big chains are getting in the game. Will the trend carry on even after dining rooms reopen?
https://apnews.com/article/coronavirus-pandemic-restaurants-79f4410c93bbee8ef681c217d7b60f97?


New York Governor Andrew Cuomo said baseball fans can not only get vaccinated at a Yankees or Mets game, they can even get a free ticket courtesy of the teams. ‘If you get a vaccination, they will give you a free ticket to the game,’ Cuomo said
https://www.reuters.com/world/us/new-york-governor-says-yankees-mets-give-tickets-fans-who-get-vaccinated-their-2021-05-05/


The pandemic, fueled by the highly contagious Delta variant, is worse than ever in some parts of the world, even as wealthy countries let down their guard
https://www.nytimes.com/2021/06/30/world/asia/virus-delta-variant-global.html?


Data shows people are listening to Mariah Carey's smash Christmas tune "All I Want for Christmas Is You," more and more, even into October:
https://www.nbcnews.com/pop-culture/music/these-charts-show-spread-mariah-careys-classic-christmas-song-n1283619

Wayne Thiebaud, who painted shadows better than anyone, was such a gifted still-life painter that even avant-gardists eventually fell in love with his undisguisedly sweet subjects. He died yesterday, at age 101. RIP
https://twitter.com/deborahsolo/status/1475185304072040455

The upside is that hospitalizations and deaths remain far below last winter’s levels, or even the peak of the summer surge.
https://www.sfchronicle.com/health/article/Bay-Area-and-California-mark-record-high-spike-in-16749080.php


You can see it in the masks, in the seating charts and even in the distribution of water glasses. President Biden's staff is making extraordinary efforts to keep him from getting COVID-19, even as he strives to take the nation "from today to more normal.”
https://apnews.com/article/coronavirus-pandemic-joe-biden-health-pandemics-kamala-harris-648f64eafd0b4f58e05f75e236b65e00?utm_source

Stonehenge has been studied for centuries, but new technologies are transforming our understanding of ancient landscapes—even places we thought we knew well.
https://www.nationalgeographic.com/magazine/graphics/stonehenge-was-one-triumph-amid-a-prehistoric-building-boom-feature?


Even as world leaders gathered in Tokyo for the funeral of assassinated former Japanese PM Abe, there were protests against the lavish proceedings.
https://www.nbcnews.com/news/world/shinzo-abe-japan-state-funeral-protests-unification-church-rcna49544?


The term atmospheric river is thrown around a lot. But what even is an atmospheric river?
How do these systems cultivate intense storms in California? In a warming world will we get less or more ARs?
We explain, without the hype for the @sfchronicle:
https://www.sfchronicle.com/projects/2022/atmospheric-river-california/


BREAKING: Tesco says its profit had nearly halved before tax in the last financial year, even as sales jumped
https://twitter.com/SkyNews/status/1646401945748267009

Even a small amount of alcohol can make sleep worse. Here’s what drinking before bedtime does to your body, and how it could affect your overall health.
https://www.nationalgeographic.com/premium/article/eating-drinking-night-disrupt-sleep?


Even as El Niño fades, it doesn’t mean that California’s storms are going away.
https://twitter.com/sfchronicle/status/1758215370689712242


生息域が明確なものもあれば、やや漠然としたものもありますが、このくらい「現地」に近づくと、

  • ギャップ橋渡しのeven

の解像度も上がるのではないでしょうか?
ここでは、英語ニュースでの表現のみを取り上げていますが、英語ニュースに限らず、インフォーマルな会話であれ、アカデミックな言説であれ、このevenを使わずに済ませることがそもそも難しいので、「次に出会った時に、あ、あれだ、と気づく眼」を手に入れれば、インプットの精度も高くなり、アウトプットの質の向上にもつながるでしょう。

本日は、この辺で。

本日のBGM: Water (Tyla)

open.spotify.com

連休に

連休の中日の日曜日、こちらのワークショップに参加してきました。

明日からの授業が楽(らくに、たのしく)になる!
英語ライティング・ワークショップ
『評価とフィードバック』

山岡憲史先生が講演されるということなので、お会いしたかったのですが、流石にRITZは遠いので、オンラインでの参加。
内容は盛り沢山で、半日に及ぶ学びの機会を与えてもらい、TransableというAI の活用事例では、ライティング指導/学習の新たな可能性を感じました。
最後の英コミュの素材に基づくライティング活動の設定のワークショップでは、途中、山岡先生から振られて、コメントをすることになったのですが、難しい素材だと実感。
生徒作品へのフィードバックのワークショップの前に、実践者からタスクを設計するにあたっての背景を熱く語ってもらったことで、「ああ、そういうことだったのか」という気づきがあり、生徒作品と、それを書いた生徒の思考過程などにも思いを馳せることが出来て、非常にthought-provokingなものになりました。
ありがとうございます。

連休最終日の今日は、WFH。
合間にYou-Tubeでこんなものを見つけました。
Have AI Break, Have A KitKat

youtu.be

ここでもAI。
やり過ぎでは?と思わなくもないです。
このCMで気になったのが、名詞のbreak。

breakって名詞、結構、厄介なんですよ。
以下、Wisdom英和(三省堂)から引用。

1a C (仕事などの)休憩, 中休み, 息抜き

  • without a break 休まず(働く)
  • Let’s take [have] a 15-minute [quick, short] break.15分の[ちょっと]休憩をとりましょう.

1b C 短い休暇

  • go home for Christmas break クリスマス休暇で実家に帰る
  • a two-night break in Paris 2泊3日のパリの旅(!旅行会社の広告文).

1c U (英)(授業間の)休み時間((英)break time, (米)recess)

  • at break休み時間に.

Cとあるのはcountableで可算扱い、Uとあるのはuncountableで不可算扱い、ということです。
キットカットのCMでのコピーの have a break は、きっと、1a の「休憩;息抜き」の意味で用いられているのでしょう。可算扱いで、不定冠詞つきです。
注意が必要なのは、1cの「授業間の休み時間」の意味で用いられるbreakで、こちらは不可算扱い。
米用法では、通例、recessという名詞が使われるのですが、それも不可算扱いが多いでしょう。

以下、Ngram Viewerで

全体概況

AmE

BrE

授業間の休み時間の意味で breakやrecessが使われる際に、不可算扱いとなるのですから、当然

  • 「授業」とか「授業時間」という場合にも不可算扱いになるの?

という疑問を持つのも無理からぬことです。

こちらもツイッターで少し呟いておきましたが、例によって殆ど皆無と言っていいくらい、反応はありません。
皆さん、英語ツヨツヨなんですね。

こちらの名詞classを調べたきっかけは、スカートの澤部渡さんの別アカでのツイートでした。

そこで疑義を呈されていた <have class on 曜日 at 時刻>という無冠詞の用法が、辞書でどう扱われているのかが気になったのでした。

スカートの澤部さんのツイートで気になって、辞書のclassの扱いを概観。
ある講座の授業(時間)・学習活動
授業日
という場合があって、後者はschoolで置き換えられるけれど、前者はclassかlessonが使われるでしょう。
go to classの無冠詞は「出席する」語感で、go to school「通学する」の語感に通じるもの。
https://twitter.com/tmrowing/status/1756790507706122412

に始まる連ツイへと繋がりました。貼り付けた辞書の例文をこちらにも。

物書堂のアプリ辞書のブックマークから

こちらの写真も再録しておきます。

「授業がある」 全体概況

AmE

BrE

さらにCOCA系の検索結果から追いツイ。


ここでは「授業の終わりに;授業の最後に」の意味となるような名詞の類義語と冠詞の結びつきを見ています。

COCA 無冠詞 と定冠詞

Glowbe 無冠詞と定冠詞

この程度の、ごくごく日常的な話題で出てくる名詞ひとつ取ってみても、とっても面倒くさいのが外国語/第2言語なんですよね。
英語の先生って、正誤問題とか大好きな人が多いみたいですけど、冠詞とか可算不可算を出題する人は、ホントに英語ツヨツヨなんだろうなぁ、と思います。

私も、あちこちで、散々「高校生に難しいことやらせ過ぎ」などと言われてきましたけど、正誤問題って横並びの共通問題で一律に課される定期テストを除いて、自分の作成する小テストでも定期テストでも、教壇に立ってから、この三十数年間、一度も出題したことないと思いますよ。

語句整序による文完成の問題と、正誤問題は、初学者はもちろん、中級の壁を越えるくらいまでの学習者には必要ないと思っています。
まあ、そもそも「テスト」がなければないにこしたことはないんですけどね。

大学入試対策をしなければならないので仕方なく出題している、という人は、進学しない生徒にはどのような英語力をつけさせているのでしょうか?
私も、この時期はオンラインにしろ、オフラインにしろ、生徒/受験生が提出する「英作文」や「ライティング」の過去問の解答にフィードバックを与えていますけど、ただ添削するのではなく、作文力、ライティング力の養成と、その養成した実力発揮、パフォーマンスの向上のための指導と思ってやっています。

先日、某大学対策指導でフィードバックを返す際に、私の作成した英文解答例をつけましたので、こちらで紹介しておきます。
どんな「お題」だったか、当ててみてください。

まずは、解答英文の和訳から

私は、日本人にはより長い、連続した休暇が必要だと考えている。日頃の努力をより客観的に評価する機会にもなるし、自分の時間をより多く作ることで新たな趣味に取り組んだり、スキルアップに取り組んだりすることもできる。一般的に仕事によるストレスは想像以上に大きく、心身の健康を損なう可能性を専門家が指摘している現状では、長期休暇は手遅れになる前に健康を回復する期間となるだろう。日本人全員が一度に休暇を取ったりしたら経済へ悪影響が出る、などと心配する人もいる。しかし、それはまず今より長い休暇を実現した上での話しで、休暇取得時期の調整などで現実に対応できることだ。まさに「バカも休み休み言え」だ。

以下英文。

I believe that Japanese people need longer, continuous vacations. It provides an opportunity to evaluate their daily efforts more objectively, and by creating more time for themselves, they can take on new hobbies or engage in reskilling. The stress from work is generally greater than imagined, and in a situation where experts point out that it can damage physical and mental health, an extended vacation would be a period to restore their health before it is too late. Some people worry about the negative economic impact of all Japanese taking vacations at a time. That could be addressed, however, by timing adjustments and other measures after first achieving a prolonged vacation. Indeed, even a fool would say, “Give me a break.” (121 words)

おあとがよろしいようで。

本日のBGM: 迷子の言葉 (比屋定篤子) 

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culculating, manipulative or whatever you want to call it

前回のエントリーは、boyfriend cardiganに端を発して、レクチャーもどきに仕立てるという、足掛け20年になろうかというこのブログでも、これまでやったことのない内容となっていました。

まだ、レクチャーを聴いていない方は、先にそちらを試してみてから、今日のこの続きを読むことをお奨めします。ネタバレになりますので。

tmrowing.hatenablog.com

前回のエントリーは、タイトルから、内容、本日のBGMの選曲まで、久々に自分では満足の行くものでした。
タイトルだけ見れば Mari WilsonやTot TaylorでBGMが来そうなものですが、そこはレクチャーもどきのきっかけとなった「カーディガン」つながり、ということで。

ということで、まずは、レクチャーもどきの「メモ取り用ワークシート」の原形をお見せします。

この表は、要約文を元にして、ChatGPT4 に拵えてもらったものですので、このようなメモが完成するのであれば、もう要約は出来たも同然です。

要約文そのものは、私からいくつか、必須のキーワードをリクエストして、約200語でまとめてもらっています。

英語の勉強、ということであれば、この要約を確認した段階で、もう一度レクチャーを聴いてみるのも良いでしょう。

さあ、スクリプト全文です。長いので、2枚に分けて。

約600語です。何回かやり取りを重ねてこの長さになりました。
途中で講演者が、「gender issuesの専門家として、一言…」と素性を明かして潮目を変えようとしているのですが、アカデミックなライティングではそれほどなくても、講演では、用意した内容を忘れたり、飛ばしたり、などということはザラですので、

  • 「おっといけない、あそこに戻らないと…」

などというカヌーのスラローム競技のような話しの展開にも柔軟に対応できることが、本来は望ましいのですね。
この辺りの柔軟性を養成できる教材としては、もう一昔前に作ったもので、既に閉講となった、『東大特講リスニング』(ベネッセ)が出色の出来だったと思います。



5分を越える長さなので、東外大対策にはちょっと…という感じですけど。

今回の「もどき」も、スクリプトを読みながらレクチャーを聴くもよし、音声に重ねて音読をするもよし、シャドウイングするもよし、それぞれ個人でお楽しみください。

レクチャーの内容に関しては、ある程度事実関係を調べた上で書いていますが、信憑性での疑義をコメント欄に書き込んだりするのはご遠慮下さい。

テーマや取り上げられた事例の「解釈」「意味付け」「評価」ということでは、東京外国語大学のレクチャー問題では「設問2」で問われることがあります。
そちらへの対応ということでは、200語くらいの英文で、持論を展開できれば理想的ではないでしょうか。

  • パートナーとの親密で良好な関係性から生まれる着こなしのスタイルを、商品化しようとした「あざとさ」についてあなたはどう思うか?

などといった切り口でまで出題されることはないでしょうけれど。

本日はこの辺で。


本日のBGM:Turn me loose (Sly & The Family Stone)

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Beware Boyfriend

今朝はいつものように英語ニュースザッピングをしていたのですが、その合間に見たある広告が気になり色々と回り道。
きっかけはこの

  • boyfriend cardigan

という語でした。

その経過はツイッターに投稿していました。

Ngram viewerで何時頃から広まっているのか、当たりをつけてみましたが、あまりよく分かりません。

jeansを入れると、他とのギャップが大き過ぎて、比較にならないのが悩ましい。

ツイッターで一番古い "boyfriend cardigan" を含む投稿は、

そのリンクを辿ると、まだ記事が読めました。

youlookfab.com

ただ、これだけでは、どのようにpopularityを得たのか、など詳細は分かりません。

NOWコーパスでboyfriend cardigan(s) をざっくりと。

2012-2013のデータを反映しているGLOWBEだと、意外にもGBに複数形 cardigansの例がひとつ。

英国の書き言葉ではヒットしないものが多く、他にも色々と検索して情報を集めていたのですが、「もうChatGPTとコラボしよう!」ということで、検索結果を元に3分43秒ほどのレクチャーに仕立ててみました。
語数は約600語。200語で要約するとすれば約1/3ですね。

ちょうど東外大のレクチャーの長さに近いので、情報の信憑性(credibility)には一部「?」が残りますが、レクチャーのメモ取りに慣れるというくらいの効果はあるでしょうから、こちらで音声が聞けるようにしました。

私がこのレクチャーの内容に賛同しているとか、それを聴く人に押し付ける意図は全くありません。
あくまでも個人で楽しむものとして公開します。

www.dropbox.com

一応、メモ取り用のワークシートもどきもこちらに。

繰り返しますが、情報の信憑性やこの内容の支持不支持に関しての苦情はご遠慮下さい。
英語そのもののミスは、コメント欄などに書かずに、こっそりと教えてください。

レクチャーのスクリプトと200語程度のサマリーは、また日を改めて。

※2024年2月7日追記:
要約とスクリプトはこちらのエントリーで示しています。
culculating, manipulative or whatever you want to call it - 英語教育の明日はどっちだ! tmrowing at second best

本日のBGM: Lovefool (The Cardigans)

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From the start

一般対象の「チャンクセミナー」に続いて、受験生対象のセミナーも無事終了しました。
受講者の皆様、ご受講ありがとうございます。お疲れさまでした。

特に、受験生講座の方は、少人数で、志望校に特化した内容と水準で、かなり濃い取り組みができたのではないでしょうか。
とはいえ、私も魔法使いではないので、この僅か3時間の講座とメールでのフィードバックで、ライティング力が劇的に向上するということはそうそうないとは思いますが、確かな視座は得られたのではないかと。

一橋大学は絵画やイラスト、写真に基づく描写/説明の英文ライティングが度々出題されています。
この時期に私のところに過去問を持ってくる受験生は予備校や塾、または参考書などで何らかの対策をしてきたとは思うのですが、こと「描写」となると、課題が多いと思わざるを得ません。

過去問を解いて添削するだけで、肝心な学びや気づきがないからでしょうか?
では、限られた残り時間で何をどう学び、身につけるか?

やはり英文ライティングの基礎基本がよく分かっている指導者から学ぶ、ということなのだと思うんですよね。
早稲田のイラスト問題への対応でも、高校生はほぼ同じ克服すべき課題を持っていると感じます。
そして、市販教材では、その部分への手当てが十分に出来ていない。


ツイッターでも注意喚起はしてきました。

場面描写・人物描写はそれなりに練習をしないと全ての文が同じパターンで単調になったり、メインとサブ、背景と焦点がボケたりします。適宜、登場人物間の「やりとり」で表現すればリズムやダイナミズムも生まれてきます。
でも、それってちゃんと書かれている小説(や戯曲)を読めば分かりますよね。
https://twitter.com/tmrowing/status/1752919896458158224

結構、有益なヒントも提供。

老婆心ながら補足。
この観光関連のアカウントのツイートでなされている記述・描写の英文はタワーの側から、その展望台から見る眺望に関わるものなので、それをこっちから見ている描写・記述で練習する、っていうことですからね。
https://twitter.com/tmrowing/status/1753535186778869861/quotes


こういった、入試対策も一方では、大変に、また一方では便利な時代になりました。
大変な一例としては、最近は、著作権の問題から、所謂「赤本」を買い求めても、問題が公開されていないことが多くなりました。
例えば、今回の講座で対応した東京外国語大学。

前期試験の英語の最後の問題が

  • レクチャーのリスニングに基づく要約とお題作文(意見文・論証文が比較的多い)

となっています。

他大学では余り見られない内容と水準になっているのは、要約もお題作文も200語程度の分量で答えさせるものだからです。
良くも悪くも中途半端で、この分量に納めるのは慣れが必要です。
また、レクチャーの方も、2013年くらいにこの形式が始まったと思うのですが、初期では結構長めのものもありましたが、今はスピーキングテストが入った分、試験全体の時間が短くなったこともあり、それほど長いものを課すことが難しくなったのではないかと推測します。


先月の受験生B講座では、外語大志望者がいなかったのですが、今回のD講座では外語大志望者に合わせて、赤本では公開されていない2022年のレクチャー問題をAIとのコラボで作ってセミナーで使っています。
音声もtakeondo先生に教えていただいた、

elevenlabs.io

を活用して、かなり自然な音声を狙いました。
いやー、本当に便利な時代になったものです。
有料ですが、ここまでのクオリティで音声合成ができれば、いまのところは充分。
レクチャー用音声は、入試本番とは異なり、男性と女性、英音と米音の両方を作成してリスニングそのものへの対応も図っています。


実際の試験で使われたスクリプトは、出典で示されているTED Talk そのものとは違う独自編集でしたが、そのスクリプト以外に、試験の設問で明らかにされているレジュメにある情報のキーワードをもとにして、テーマ、トピックなどから情報を補って、AIと何回かやり取りをして4分半程のレクチャーを仕立てています。

同じ情報に基づいて作られた、表現や語彙、構文が少々異なるレクチャーを聴いても、同じようにメモが取れ、要約ができるか?
と考えれば、充分取り組む価値があると言えるでしょう。

他にも、キーワードが二つあるけれども、一方をダシにして持論を展開するのではなく、両論の対比のまま進み、類似点相違点を詳述するという構成のレクチャーなどは、今、どっちのキーワードの具体例を話しているのか?という部分なども、2回聴けるという、大学入試ならではの利点を最大限に活かすという意味でも、一度は体験しておくと良いと思います。

ということで、描写問題と、レクチャー融合問題に関しては、せっかく直前対策の「群を抜く」ための素材を作成しましたので、一橋大志望者、東京外国語大志望者で、最後のもうひと伸びを目指す人は、メールやツイッターのDMなどを通じて、ご相談下さい。
有料ですが、日程や条件が合えば、対応いたします。

まだ国公立前期まで20日ありますから。
心身の健康が第一です。
本日はこの辺で。

本日のBGM: Bewitched (Laufey)
※祝、Grammy受賞!

open.spotify.com

…にもかかわらずである。

前回の共通テストもどきの「お話」は殆ど反響がなく、ちょっと凹みましたが、先日の満月を見たら、こちらの気も満ちてきたので、プラマイプラスです。

tmrowing.hatenablog.com


今日は英語の語法の話し。

接続詞のthough/although と前置詞のdespite/in spite of の区別は、生徒の定着度はさておき、高校段階の英語授業では、明示的にはきちんと指導されているように思います。
テスト、特に大学入試を想定すると、

( Although ) Tokyo has a relatively small land area, it has a huge population. 
東京は比較的小さな面積しかないが,非常に多くの人口を抱えている。

という意味になるような空所補充の四択完成問題で、錯乱肢に despiteやin spite ofが配置される、または、

He came to the party ( despite ) his illness.
彼は病気にもかかわらずパーティーにやって来た。

という意味になるように英文を完成させる問題で、錯乱肢に thoughやalthough が配置されるというのがお決まりのパターン。
でも、その辺りで止めておけばいいものを、次のような出題をして、受験生を篩にかけようという、大人の思惑は醜い。

( ) being the last to have finished the exam, the student got the highest score.
① Despite ② Despite the fact that
③ However ④ In spite of the fact that

私は、このようなことをして英語力を測ろうという人とは仲良くなりたくない。
②が正解なら④も正解になるはずだから、正答の選択肢としても、錯乱肢としても機能していない。

正答となるように補充して完成するであろう英文、つまり、出題者が求めている英文は、

Despite being the last to have finished the exam, the student got the highest score.
一番最後に試験を終えたにもかかわらず、その生徒は最高得点を獲得した。

のようです。
確かに、文法語法的にもどこにも間違いはありません。意味で読み手、聞き手に誤解させる余地もない。にもかかわらず、この副詞句のイントロはいただけません。
前置詞+動名詞+名詞の後置修飾となる完了不定詞の知識が試されている?
この程度の内容を言うなら、

The student was the last to finish the exam, but (he [she]) got the highest score.
その生徒は一番最後に試験を終えたが、最高得点を獲得した。

で充分でしょ?
さらには、先程の錯乱肢にあったように、前置詞despite にthe factなど同格節を従える名詞が続くものの習熟を問う問題も見られる。

  • 特に、読解問題には出るのだから教える必要がある。

という人もいます。
例えばこんな文。

We may think of all art as highbrow or elitist despite the fact that we like certain movies (film is an art) enough to see them over and over.
私たちは、ある映画(映画も芸術だ)が好きで何度も見ているにもかかわらず、すべての芸術を高尚なもの、エリート主義的なものと考えているかもしれない。

このdespite the fact (that) SVが所謂英英辞典の用例でどの程度扱われているか見てみましょう。

COBUILDの第9版 (2019年)には一例もありません。
米語版(2014年)では2例。
factの項で、

Despite the fact that the disease is so prevalent, treatment is still far from satisfactory.
その病気があれほど流行しているという事実にもかかわらず,満足できる治療法はまだない.

mirrorの項で

Despite the fact that I have tried to be objective, the book inevitably mirrors my own interests and experiences.
客観的になろうとしたにもかかわらず,その本は必然的に自分の関心や経験を反映している.

OALDでは、
despiteの項で

She was good at physics despite the fact that she found it boring.

factの項で

She’s taking her children on holiday, despite the fact that school starts tomorrow.

LDOCEでは、
despiteの項で、

She went to Spain despite the fact that her doctor had told her to rest.

文法ノートの中で

She seemed no happier, despite the fact that her physical condition had improved.

Cambridgeは、オンラインの英和にのみ

The company has been forced to reduce its price, despite the fact that the offer has been very popular.

というような用例を収録しています。

語法辞典での扱いで注目すべきは、Garnerでしょう。
Garnerの旧版では扱いも小さく、頻度も

  • despite the fact that : in spite of the fact that = 4:1

でした。

現行5版(GoogleBooksのNgram viewerでの2019年データを使っているとのこと)では扱いも大きくなり、頻度の比率は5:1となっているだけでなく、 “Remember the useful word although” との助言があります。

ざっくりとした検索ですが、私が学生の頃の1980年代からdespite優勢ですよ。 次のNgram Viwerでの差を見てください。

COCA系でもざっくり。


despiteの生息域推測。

でもね、事実なら though < even though で節を使えば簡単なんです。 では、何故despiteで同格節を?というところに踏み込まないと、何も言ってないのと同じですから。

私が初任校にいた頃に買って、日々教材研究で引いていたCGSAE (1993年) も既に30年前。 in spite of the fact that は事実を伝える表現ではなく、意見を述べるもの、というのは的確。

古いスタイルガイドだけではなく、現代でも、カナダのTranslation Bureau が提供しているWriting Tips ではin spite of the fact thatはwordy なので避けるように、と代替案を示しています。


入試対応とはいえ、習熟すべきなのはdespite the fact (that) SV であって、もし、「長文読解ではin spite of the fact that SV が多用されるので、そちらに重点を置く」、という英語指導者がいたら、ちょっとねぇ…。

そして、このdespiteに続く同格節、ことがらを取る名詞句の語法は近年変化が見られるので要注意です。

twitter (今ではX)の私の投稿から。

記事本文からthatのない同格節と「実現形」make sureの例。
Despite the fact she had to spend more than she planned, Lydia says she does not want compensation.
She added: “I want to make sure the whole world knows what they have done.
despite+名詞句
make sure の節中の現在形
を確認。

この同格のthatが現れずに、直接SVの節が続くものを「直節」のSVと名付けたのですが、普及までには至らず。

fears直節SV
despiteに続く名詞fears同格節でのthatの省略

「直節SV」の「直節」って「直接」の変換ミスだったわけですが、この同格節を導くthat省略の現象を説明するのに都合がいいような気がするので、ハッシュタグとして使うことにしました。
Among them is Oklahoma, where President Donald Trump is pushing ahead with plans to hold a large election rally with tens of thousands of people next weekend, despite fears it could help spread the virus.

この「直節SV」のパターンは英語ニュースではもう、factに限らず、一般的な表現となっています。
同格のthat節を取り得る名詞がdespiteに続く場合に、thatが省略されることが多い。ここではconcernsに直節SVが続いていることを確認。ハイフン形容詞としてのbetter-than-expected「期待 [予想] 以上の」は近年よく見る印象。比較のthanに続くSVの省略も丁寧に。

Despite concerns the delta variant would keep moviegoers at home, Ryan Reynolds' sci-fi action comedy "Free Guy" had a better-than-expected start at the domestic box office.

この同格の名詞節を導くthatが現れないということは、既に、2006年の時点で、書籍でも論じられています。

  • 「同格名詞節を導くthatの省略」(滝沢直宏 『コーパスで一目瞭然 品詞別 本物の英語はこう使う!』小学館、pp.155-157)

滝沢氏によれば、despiteに同格の名詞節を持つ名詞が続く用例中約10%がthatなしで使われている、とのこと。そこから既に、17年が経過していますので、その浸透度がどうなったかは気になるところです。

twitterの英語ニュース紹介から、類例を追加します。

#直節の同格名詞節
前置詞+ことがら系名詞+「直節」のSVの例
amid speculation SV 「SVという憶測が流れる中;憶測の最中に」は同格名詞節を導くはずのthatが消えているもの。 接続詞thatを使わずに直接、節が続くので「直節」と呼んでいます。
despite the fact での「直節」はお馴染みでしょう。

#肯定平叙文のfew
#同格の名詞句でthatを使わない直節のSV
基準時は現在。fewは「(ゼロとは言わないけれど)殆どない」。書き言葉だと誤解の余地なく「低評価」を伝えられます。話し言葉では、only a fewやvery fewなどで。名詞signは同格のthat節が可だけれど、接続詞thatのない「直節」のSVを確認。

ここまでが長いイントロで、ここからが本題。本日のタイトルに該当する英語表現。
このような、同格の名詞節を導くthatが現れないものとは、ちょっと違うdespiteの用法で、私が気になっているものがあります。
基本となる形は、次のように、先行文脈を受けるthis やthatに続いて譲歩となる内容を述べるものです。
このような例は、学習用の英和辞典にも載っていません。実際基本的な使い方であるにも関わらずです。

Prices of many Fukushima products, which crashed following the disaster, have not recovered to 2011 levels. This is despite the fact that such Fukushima products are shipped only after they clear tough screening against radioactive contamination.
震災後に暴落した多くの福島産品の価格は、2011年の水準まで回復していない。こうした福島産の製品は、放射能汚染に対する厳しい審査をクリアして初めて出荷されるにもかかわらず、である。

類例を追加しておきます。

Therefore, while some areas in the northern regions produce so much solar electricity that it is totally free during some months, the most highly populated areas, which are in the central and southern regions, are not seeing the same benefits. This is despite the fact that solar power generation capacity from the country’s central and southern regions has increased 300 percent to 770 megawatts in the last two and a half years.
そのため、北部の一部の地域では太陽光発電による電力が非常に多く、月によってはまったく無料で利用できる一方で、人口の多い中部や南部の地域では同じような恩恵が得られていない。この2年半で、中南部地域の太陽光発電容量は300%増の770メガワットに達しているにもかかわらず、である。

Recycling rates in the U.S. are low and getting lower. The U.S., by far the world’s biggest consumer of aluminum cans, lags behind other industrialized nations in the percentage of these cans that we recycle. This is despite the fact that the number of cans sold is fairly constant.
米国のリサイクル率は低いのだが、さらに低下中である。世界最大のアルミ缶消費国である米国は、(5)アルミ缶のリサイクル率で他の先進国に遅れをとっている。アルミ缶の販売数はほぼ一定であるにもかかわらず、である。

数多ある学参とは異なり、

  • 田上芳彦 『読解のための上級英文法』(研究社、2023)

では、上述の、this is/that is で先行文脈を受けて、despiteに「同格のthat節」が続く例と、その先行文脈の受け方でisが脱落し、破格に見える “This despite …” や “This, despite …” の実例で注意喚起をしていました。流石です。

田上氏は用例を大学入試の問題から引いていましたが、文体としては、論文でも用いられているものです。

SciELO - Brasil - Corpus linguistics and second/foreign language learning: exploring multiple paths Corpus linguistics and second/foreign language learning: exploring multiple paths
As for the intentional negation of the benefits of corpus research in L2L, it may be caused by the often-cited ‘ivory tower effect’, i.e. the perception by teachers that linguists work in their offices at university and have no idea of what teaching is about - and this despite the fact that some of those linguists are also teachers.
(L2Lにおけるコーパス研究の利点が意図的に否定されていることについては、よく言われる「象牙の塔効果」、つまり、言語学者は大学のオフィスで仕事をするものであって、授業をする重要性をわかっていない、という教師側の認識が原因かもしれない、その言語学者のうち、実際に教師もしている者がいるにもかかわらずである。)

この例は、ケンブリッジのコーパス中にも見つかります(和訳は松井による)。

https://www.cambridge.org/gb/cambridgeenglish/better-learning-insights/corpus
This, despite the fact that it arose from the discipline of dialectology, whose prime focus was geographical space.
(それが地理的空間に主眼を置いていた方言学という学問分野から生まれたものであるにもかかわらず、である。)

確かに、見た目は破格ですが、上述の基本形が身についていれば、それほど混乱はしないでしょう。やはり、基本形とどれだけよい出会いを重ねているか、が重要なので、スペースは取りますが、学習用の辞書には一例くらいは収録しておいて欲しいものです。

このdespiteの用法の類例として、先行文脈を受けた主語を立て、補語の位置にことがらを表す譲歩の節がくるものも見かけます。
even though SVが続く例。

twitter.com
Turkey is the cheapest place to retire. This is even though Portugal and the Netherlands are among the most affordable places in Europe.
トルコはリタイアして過ごすのに一番安い国である。ポルトガルとオランダがヨーロッパで最も物価の安い国のひとつであるにもかかわらず、である。

metro.co.uk

He never appears to have wondered what we might lose about ourselves, if we used Neuralink to upload our brains to the ether. This is even though Isaac Asimov, an author whose work Musk claims inspired him to start his company SpaceX, felt very differently about this very subject.
彼(マスク)は、もし私たちがニューラルリンクを使って自分の脳をエーテルにアップロードしたら、私たちは自分自身について何を失うのだろうかと考えたことはないようだ。
アイザック・アシモフという作家は、マスクがスペースX社を立ち上げるきっかけとなった作家だというが、このテーマについてはまったく異なる考えを持っていたというのに。

同じ譲歩の接続詞でも、althoughの例は少ない模様。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aba9652

These results demonstrate that at a regional level, oyster fisheries were resilient and experienced multiple stable states over the last 5000 years before the 1900s. This is although the population grew exponentially from the Late Archaic to the Mississippian period and experienced shifts in political organization (e.g., from egalitarian to ranked systems) and changing economies (e.g., from foraging to a mixed economy that included some maize agriculture).
これらの結果は、地域レベルでは、1900年代以前の過去5000年間、カキ漁業は弾力性があり、複数の安定した状態を経験していたことを示している。後期アルカイック期からミシシッピ期にかけて人口が飛躍的に増加し、政治組織の変化(例えば平等主義からランク制へ)や経済の変化(例えば採食からトウモロコシ農業を一部含む混合経済へ)を経験したにもかかわらず、である。

even if の例も参考までにあげておきます。

Vows and Oaths - IslamQA
A person took an oath that he will not enter your house. He then landed onto your roof by jumping from the upper storey of the house next door. By him standing on your roof, his oath will break. This is even if he does not come down into your house.
ある人が、あなたの家には入らないと誓った。彼は隣の家の上階から飛び降り、あなたの家の屋根に降り立った。彼があなたの屋根の上に立つことによって、彼の立てた誓いは破られることになる。たとえ彼があなたの家に降りてこなくても、である。

  • This is true even though SV.
  • This is so although SV.

であればそれほど違和感はないだろうと思いますが、実際に、この譲歩の接続詞が補語の位置を占めていて、しかも意味が整合している、というところに、ちょっとしたハードルがありますね。

このような表現を踏まえて、私が今気になっているのは、上述のdespiteに続く無冠詞の名詞の後ろにもthatが現れないだけではなく、同格のthat節がとれない名詞に見られる、伝達動詞の -ing形でthat SVをとるものが増えてきているのではないか、ということです。

少し前に、twitterの英語ニュース紹介で取り上げていました。

いまのところはまだニュースなどの英語で見るだけかもしれないけれど、確実に使われ始めている
that [this] is despite data showing SV
dataは無冠詞で使われているのが殆どだけれど、そこは大丈夫。
this [that] is despite evidence SVも見聞きするので、despiteの地殻変動の方が気になります。
Most Americans think there’s more crime in the U.S. than there was a year ago, according to a Gallup poll. That’s despite data showing violent crime has dropped in 2023.

Why the misperception?
@paulsolman looks into one type of crime that may be getting outsized attention.

https://twitter.com/tmrowing/status/1740886015508992300

DeepLでのデフォルトの和訳は、

  • ギャラップ社の世論調査によれば、アメリカ人のほとんどが、アメリカでは1年前よりも犯罪が増加していると考えている。2023年に凶悪犯罪が減少したというデータがあるにもかかわらず、である。

となるのですが、肝心なThat’s despite以下はむしろ、

  • 2023年に凶悪犯罪が減少したと、データが示しているにも関わらず、である。

と「ことがら」で読んだ方が良いと考えています。

despite the fact that SVではthatのないことが多いので、thatが省略されているというよりは、もう無くても気にしないのが吉、となるくらいthis [that] is despite で先行文脈とのギャップを補語的に示す、叙述の用法そのものに馴染むのが良いでしょう。

次のような例はよく見聞きします。

metro.co.uk

Chocolate company Mars has been found to be using cocoa beans harvested by children in Ghana, a report has been found. Children as young as five were revealed to be working on farms which supply the confectionary giant. This is despite the company’s pledge to protect children in its supply chain.
チョコレート会社のマースが、ガーナの子どもたちによって収穫されたカカオ豆を使用していることがわかった。同社にカカオ豆を供給している農園では、わずか5歳の子どもたちが働いていることが明らかになった。これは、同社がサプライチェーンの子どもたちを保護することを誓約しているにもかかわらず、である。

関係詞的に使われるthatと同格の名詞節を導くthatとの見極めに、完全文が続くか、不完全文が続くか、などとやっている間に、肝心の英語表現の方がどんどん姿を変えていっている、という危機感を一人でも多くの英語教育関係者と共有したいと思っています。

本日のBGM: アポロ (ポルノグラフィティ)

youtu.be

2024年3月14日追記:
このエントリーで取り上げたThis is despiteに関連する表現は、後日新たな記事で取り上げています。

tmrowing.hatenablog.com

先行文脈を受ける This is despite と、その省略版のThis despite界隈のオンラインコーパスの検索結果を参考までに。

Ngram Viewerで関連表現と推移を。



この省略表現で気をつけるべきなのは、A. This despite B. という情報の流れで、Thisは先行文脈のAを受けるということだけに囚われて、
(X) それ (= A) にもかかわらず Bである。
という読みをしてしまうことです。
適切な処理は、
(○)そう(= A) であるのは、Bにもかかわらずなのです。
ですから、やはり、一度、基本形・原型ともいえる、"This is true [so] despite ...." を通過しておくのが吉。
是非、このエントリーの最初から再読されたし。

“What's in a name?”

先日、今年の共通テストのリーディング第5問について批判的な記事を書きましたが、私はセンター試験の問題に戻せなどとは全く考えていないので、共通テストを批判する人を十把一絡げにしてラベルを貼るのは勘弁してくださいね。

ムダに長い物語文や説明文も、語彙や構文をコントロールしなければならない制約を考えると仕方がないとは思いますが、

  • 長かったけど、まあ、面白かった。
  • 今まで、知らなかったことが知れて良かった。

くらいのお土産がないと、辛抱してお付き合いする甲斐がない気がします。

ということで、ChatGPTとコラボで、ムダに長い「お話」を作りましたので、精神衛生の良い状態のときに読むことをお奨めします。

  • 怒り心頭

という事態は避けたいので。よろしくお願いします。

設問はつけていませんが、センター試験や共通テストの長文化を意識して、それらのテストでこれまでに出題されていないくらいムダに長くしています。

  • 約1300語!

ChatGPTさんとは、何度もやりとりしてこの形に落ち着きました。

CambridgeのTextInspectorでのスコアカードでは、リーディングの文章としては、全体でCEFRのB1レベルとのことです。

いまは無きセンター試験の2019年本試験の第5問はこんなスコアでした。

リーダビリティの指標などはこちら。

EVPでの語彙レベルをCEFRのランクで。 我ながらというかChatGPTながらというか、良いバランスに納めたと思いますよ。

参考までに2019本試験第5問は…

メタディスコース。語彙レベルを抑えると、語彙的結束性に頼り難くなる分、過剰使用を余儀なくされるつなぎ語が出てきます。


という先入観をしっかりと持ってもらった上で、以下の「お話」をお読みください。
2024年1月26日の Ver.1です。今後進化するChatGPTとの共同作業で改訂版としてよりよい「お話」に育てていければと思っています。

本日のBGM: Tonya Harding (Sufjan Stevens)

Different countries and regions have different ways of speaking English, but the way they write English is mostly the same. However, there are some important differences in spelling between British and American English. For example, the British word “vapour” is spelled as “vapor” in American English. This is also true for other words like “favour” and “favor,” “flavour” and “flavor,” “endeavour” and “endeavor,” and “rumour” and “rumor.”


Because of these spelling differences, it makes sense to think that VapoRub is a product of an American company. Despite its current ownership by the American company P&G, the story of how VapoRub was made is more complicated than that.


VapoRub, first launched in 1905, was the product of Richardson-Vicks, Inc., a family-owned business based in North Carolina. In 1985, the company was bought by Procter & Gamble, a multinational corporation whose founders, William Procter and James Gamble, emigrated from England and Ireland respectively.


Today, the name Richardson no longer remains even in the product name. One would have to look at the background and accomplishments of Richardson to see how an American company came up with the naming of the VapoRub.


In Selma, North Carolina, there was a young man who worked as a pharmacist. His name was Lunsford Richardson, and he loved to make new medicines for common problems. He had learned from his teacher, Jules Bengué, a French pharmacist who had made Ben-Gay, a popular cream for pain relief. Lunsford admired Jules' skill and creativity, and wanted to follow in his footsteps.


One day, Lunsford got a letter from his brother-in-law, Joshua Vick, a physician who worked in a nearby town. Joshua wrote that he had heard of a new invention that could change medicine: a machine that could make electric sparks and heat. Joshua invited Lunsford to come and see the machine for himself.


Lunsford was curious about the invitation, and decided to go to Joshua's laboratory. Joshua's workshop was full of machines and noise. There, he saw a big metal coil. Joshua called him to come closer.


Joshua: Lunsford, my friend, look at this amazing thing - the Tesla coil. It was made by Nikola Tesla, an incredibly smart Serbian-American scientist.

Lunsford: (curious) Tesla coil?

Joshua: Yes. It makes electricity that changes very fast, and it can be used for many things in medicine and science.


Lunsford was very interested, and he wanted to know more.


Lunsford: Joshua, this is wonderful. Can I use it for my experiments?

Joshua: (smiling) Sure, Lunsford. My lab is yours.


Lunsford started to explore with excitement. He thought about what the Tesla coil could show him about his own things. Ben-Gay, for example.

In the quiet lab, Lunsford put some cream on a cloth, and put it near the Tesla coil.


Lunsford: Let's find out the secrets.


The machine started to work, and the air smelled like menthol. Lunsford, with big eyes, felt a nice warmth in his senses.


Lunsford: (astonished) Joshua, it's changing the menthol into gas!
Joshua: (proudly) Exactly! The Tesla coil has turned the menthol into vapor, making a calming effect on your breathing system.


Lunsford took a deep breath, and understood the Tesla coil's magic - a relaxing mist, a beautiful mix of invention, medicine and science.


Lunsford was amazed by what he found, and wondered if he could use it to make a new medicine for colds and coughs. He decided to mix some menthol with petroleum jelly, a thing that he had used to make candles. He hoped that the petroleum jelly would help the menthol get into the skin or the air. He called his new product Richardson's Croup and Pneumonia Cure Salve, and started to sell it in his pharmacy.


The salve was very popular among his customers, who said it worked well and was easy to use. Lunsford got many messages from people who had used his salve to help their symptoms, and said that it had made them better. Lunsford was very happy with the good feedback, and decided to make his business bigger.


Lunsford turned to Joshua for help. He held a small tin in his hand, containing his homemade cream.


Lunsford: Joshua, I need your help. I have a great product here, but I don't know how to sell it. It's a salve that can help with colds and coughs. It has menthol and other natural ingredients.

Joshua: Let me see. (He takes the tin and opens it. He smells the cream and nods.) It smells good. What do you call it?

Lunsford: Well, I don't have a good name for it yet. I just call it Lunsford's Salve.

Joshua: (shakes his head) No, no, no. That won't do. You need a catchy name, something that people will remember and trust. Something that sounds American.

Lunsford: American? Why?

Joshua: Because we are in America, my friend. And Americans love things that are made in America. They are proud of their country and their culture. They want to buy things that reflect that.

Lunsford: I see. But what kind of name should I use?

Joshua: Well, how about using my last name, Vick? It's short and simple, and it sounds good. It's easy to say and spell. And it has a nice ring to it.

Lunsford: Vick? Hmm, I like it. But what about the salve part?

Joshua: Oh, that's another thing. You should change that word too. Salve sounds old-fashioned and boring. You should use something more modern and exciting. Something that shows how to use it and what it does.

Lunsford: Like what?

Joshua: Like rub. Rub is a good word. It's a verb, so it shows action and movement. It's also a noun, so it describes the product. And it implies relief and comfort. When you rub something, you make it feel better.

Lunsford: Rub. I see. That does sound better.

Joshua: So, let's put them together. Vick's Rub. How does that sound?

Lunsford: (thinks for a moment) It sounds good, but it's missing something. It needs a little more flair.

Joshua: Flair? What do you mean?

Lunsford: Well, you know how the cream has menthol in it, right? And how it makes a vapor when you heat it up?

Joshua: Yes.

Lunsford: Well, how about adding that word to the name? Vapor. It sounds cool and mysterious. And it shows the effect of the product. It makes you breathe easier and feel refreshed.

Joshua: Vapor. I like it. It adds some spice to the name. So, let's see. Vick's Vapor Rub. How does that sound?

Lunsford: (smiles) It sounds perfect. It's catchy, easy to remember, and American. It's the best name for the best product.

Joshua: (smiles back) I'm glad you like it. Now, let's go and sell it. I'm sure people will love it.

Lunsford: Thank you, Joshua. You're a genius.

Joshua: No, thank you, Lunsford. You're a friend.


Then, Lunsford made the name official, and started to make Vicks VapoRub in large quantities. He also made a special blue jar with a red lid, which became the famous look of the product. He sent Vicks VapoRub to pharmacies and shops across the country, and soon, it became a name that everyone knew.


Vicks VapoRub was a success story that spanned decades and continents. It was a product that was born from a combination of curiosity, innovation, and collaboration. It was a product that was inspired by a French pharmacist, a Serbian-American engineer, and a North Carolina physician. It was a product that was made by an American pharmacist, who had a dream to make a medicine that could help millions of people. It was a product that was named after a family, who had a legacy of excellence and generosity. It was a product that was Vicks VapoRub.