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以前、授業でも使ったことがある頻出問題集の四訂版の第二刷が出たことを知り、第二刷なら、誤植等もきっと直っているだろうなぁと期待して購入。
ツイッターでも書影つきで、投稿していました。

この手の「頻出もの」は、普段の学習で出てきた英語表現、模試で出題された英語表現が、本当に「頻出」なのかを確認できることに結構大きな意味があると思っています。
「安心毛布」的な何か以上の存在。

あるとうれしいのが、

  • 索引

先のツイートでも強調していました。

索引は知識のネットワーク化には本当に重要なんだけど、今時の「わかりやすさ」を謳う学参や問題集にはないことが多いので、多くの生徒は索引の活用法を知らずに卒業していくんだよね…。
索引があるなら活用しましょうね。

以下、ツイートを再編成したもの。

先ツイの本の前書きに

  • 悪しき「受験英語」を排し、「実用英語」にターゲット!

とあるのですが、そもそものデータが過去28年の入試問題なので、あくまでも「入試英語の中での人気者」を収録、と見るのがいいと思いますよ。

  • Aという形での出題が多い/狙われる
  • 日常では通例Bという形で用いられる

は大違いですから。

例えば、

  • 「AしてすぐにBする」「Cしたかしないかの内にDする」

界隈は多様な表現形式が大学入試で出題されてきました。先の本では、出題頻度から directlyの接続詞用法を収録しないという判断。では、日常の使用頻度は?類例を子どもが覚えていく順序は?などということは不問。学習や指導で大事なのはそこでしょ。
ということで、検索して精査。
Google BooksのNgram Viewerは5語までしか入れられないので、文頭の範囲での比較。
特に as soon as SVで5語に収まりしかも接続詞用法、という縛りがかけられるものはノイズはほぼないけれど、それ以外では、必ずしも接続詞用法だけを拾っているわけではないので、差し引いて、目安程度に捉えて下さい。たとえノイズがなくても、地域差・文化差はそれなりにありますので、その辺りもよろしく。

全体

ノイズを含めても、As soon as he sawとThe moment he sawでダブルスコア近い差。
Directly he saw やNo sooner had he seen はドングリの背比べ状態ですね。

AmE

BrE

ざっくりした検索でも少し解像度は上がってきたのでは?
続いてベンチマークとなる関連表現を入れての比較。ノイズも含まれるけれど、 no sooner は倒置の方が高頻度 scarcely は通常の語順の方が高頻度 scarcelyとhardlyでは前者がやや優勢なのは意外。

全体

AmE

BrE


倒置と基本形とのマッチアップを考えて比べ直し。
時系列で推移を辿ると、乱高下とも言える変化をしています。
こうして見ると、何が「最も普通か?」を言うのは難しく、「…なんて言わないよ絶対」なんて言えないことが分かるでしょう。

全体

AmE

BrE


文頭の倒置と基本形との比較。
COCAをベンチマークに GLOWBEで地域差概観。
ここでも、 no sooner は倒置の方が高頻度 という印象。

no sooner が倒置で文頭にくる107例のうちで、thanを従えるものが、69例。

個別に見てみると小説が多いが、他のジャンルもチラホラ。

GLOWBEで見ると、倒置の方はそこそこ散らばっているけれど、基本形の方はアジア、アフリカが疎ら。


入試では倒置が狙われるからそちらを収録、ではなく、倒置の方が日常では高頻度で、入試でも出ているから収録、ということじゃないと、全然実用的じゃなくない?

次は hardlyの類語での共起具合で比較。scarcelyやbarelyが現れます。
ただし、倒置と基本形とでは、no sooner とは異なり、基本形の方が優勢。
では何故、倒置形ばかりを問う?何故、基本形が定着するように学ばない?
全然、実用的じゃないじゃない。

倒置でこの後にwhenやbeforeの続かないノイズ成分を含んでこのヒット数です。

因に、倒置でwhenを従えるのが13例。beforeは2例でした。

基本形はヒット数が激増。

基本形だと、whenを従えるのは70例。beforeは15例でした。

以下、GLOWBEでの地域比較。
基本形でも、アジア、アフリカが少ない印象。



入試での出題が稀、というdirectlyとimmediatelyも入れての文頭比較。
immediatelyの圧勝!に見えますが、文頭大文字 SVだけでは縛りが十分ではないためノイズは含まれますので注意が必要。
これらの副詞の接続詞転用は「英系語法」「主に英」といわれることがあります。ここでのAmEでの概況とGlobalな概況での Directlyの頻度急上昇の背景が気になります。

全体

AmE

BrE

私が高1の授業で、絶対使いこなせるようになること、と説いているのは as soon as。
表現の幅ということで言えば、 the momentの接続詞用法 (ここでは The moment が主語となり補語を取るものもノイズとして排除できていないので注意)。
堅い、レアな表現からこちらへ書き換えるなら許容範囲かな。
実例で言えば、駒沢大学の一昔前の過去問にあったものですが、

I had hardly left the building when I was asked some questions by a police officer.
The (moment) I left the building, I was asked some questions by a police officer.

ならOKでしょう。

全体

AmE

BrE


今回取り上げた本は、入試問題の分析資料としては大変良くできていると思っています。
ただ、私がこうして精査するのは、生徒のため、というよりも、不合理だったり、理不尽だったりするようなテストを課して、その人は英語が出来るだの出来ないだの、と言うのが自分で許せない、という要因の方が大きいですね。

以下、私が高校生に授業で示した整理整頓のおおまかな再現。

まず、表現形式のうちでも日本語で、

  • 家を出るとすぐに、雨が降ってきた。
  • 家を出た途端に、雨が降り出した。
  • 家を出るやいなや、雨が降り出した。
  • 家を出たか出ないかのうちに、雨が降り出した。

の差異を感じない段階の学習者には、対応する英語表現の細かな差異を説明してもご利益は薄いでしょう。さらに、混乱を生んだり、記憶を強化できなかったりという可能性があります。
ただし、上述の日本語表現が使いこなせているなら、以下の英語表現も、ひとつひとつ精査・吟味する価値はあるでしょう。

a. As soon as I left home, it started to rain.
※基本形。まずこれを押さえる。主節からでも書き始められることは大事な力。ただし、この表現では時間差にはかなりの幅があることを踏まえておく。


b. On leaving home, it started to rain. 
※ くだけた会話では低頻度なので、この意味内容を表すには少し堅い印象を与える。改まった会話や書き言葉では一般的表現。-ing形の場合には、意味上の主語をつけずに使うのが基本。「on は接触」と説明されることが多いが、時間差がないことをそれほど強調しないことに注意。単純に when -ingと同意とみなす人も多い。
cf. pay the bill on leaving 帰る時に勘定を払う (G6)
※注意が必要なのは、次のような例。(   )での補足情報が適切な文脈を示している。
The victim was pronounced dead on arrival (at the hospital).
その犠牲者は(病院)到着時に(すでに)死亡と宣告された (研究社英和活用大辞典)


c. The moment [instant / minute] I left home, it started to rain.
※momentはもともと名詞で「瞬間」という意味。a,bに比べて、二つの行為や出来事の連続性を強調して、時間のギャップのないことを表せる「生々しさ」を持つ。その分、よりインフォーマルな表現となる。


d. When I left home, it started to rain at once [immediately].
※公式でもなんでもない、ごく普通の言い回し。主節、従節を入れ替え、It started to rain immediately after I left home. とパラフレーズは可能だが、情報の提示順が異なると、臨場感は薄れ、表現効果も減るので、あくまでも説明の表現と捉えるのが吉。


e. No sooner had I left home than it started to rain.
※このno sooner /than は通例倒置で使われる。日本の教材では、基本形を学んでから倒置形を学ぶ、というのが伝統的な流れなので、この表現形式も、いちいち基本形に直して説明されることが多い。時制は過去でも、現在、これからでも可能。この例文のように過去文脈のときの時制で、時の上流に当たる過去完了のhad left の部分に単純過去形の leftを使う人は英語ネイティブにも結構たくさんいる。さらには、soon 本来の副詞の語義が no soonerになって薄れたのか、No sooner than I left と倒置はどこに行った?と文句のひとつも言いたくなるような表現形式を用いる英語ネイティブもいる。テストを作る人は、四択の選択肢の中に、一見倒置形や、基本形に見えるが英語ではあり得ない語順を入れたつもりで、実はそれも使われている語順、とならないよう注意して欲しい。


f. Immediately [Directly] I left home, it started to rain.
※英和辞典の語法注記でも、英系語法とまとめられることが多い、副詞の接続詞転用。英米ともに、directlyという語を単独で接続詞として使うことが低頻度という印象。immediatelyは、英では今でも一般的な表現。頻度としては、eよりも高いだろうと思われるが、入試では殆ど出題されない。英系の辞書で、COBUILDでは、directlyの接続詞用法を項目に入れておらず、LDOCEでは、directlyに「古風」とラベルを貼っているが、Cambridgeでは、immediately afterの語義とas soon as の語義を分け、それぞれ例文を載せている。


g. I had scarcely left home before it started to rain.
h. I had hardly left home when it started to rain.
※hardlyもscarcelyも、倒置よりも、この基本形の方が使用頻度が高い。scarcelyはbeforeと、hardlyはwhenと結びつくことが多い(COCAだとhardly + when : hardly + before = 70 : 15位の比率) が、逆の組み合わせもある。NgramViewerのデータを見る限りでは、scarcelyの方がhardlyよりも高頻度。 e.の no sooner /than との混交で、このhardlyやscarcelyとthanを一緒に使う英語ネイティブもいるが、日本の辞書では「避けた方がよい」という助言を与えているものが多いだろう。e.と違い、過去文脈でも主節を過去形で使うことは少ない。
※英語ネイティブによっては、従属節の内容、時系列の時の下流の内容は、出来事、現象などの他、自分以外の人が主語となる例が多く、自らが積極的に選択して行う、controllableな内容は続き難いという人もいる。COCAの2015-19の例から。

そういう人にとっては、次のような英文は不自然に感じるでしょう。

? He had hardly left the hospital before he went back to work.

beforeに続く内容を、自らの選択や行動ではなく、例えば、

He had hardly left the hospital before he had to go back to work.
彼は退院後すぐに仕事に戻らなければならなかった。

などとすれば少し良くなるでしょうか。


i. Hardly had I left home when it started to rain.
j. Scarcely had I left home before it started to rain.
※倒置。入試頻出といわれるが、日常ではほぼほぼ小説で使用される表現形式。日常の相対的使用頻度はアカデミックな領域でも極めて低いことに注意。改まり度が高い表現形式なので、この文意程度ではちょっと不自然。上述のwhen以下の制約を気にする人は、次のような英文(入試問題です)は不自然に感じるかもしれません。

Hardly had he left the room when he burst into laughter.
彼が部屋を出るやいなや、どっと笑い出した。

許容できるとすれば、主語が三人称での描写文であること、burst into は「自分で押さえていたものが堰を切って出る」ようなときにも使うので、自らの選択による積極的な行動ではないこと、またburst into laughter はburst out laughingよりも少し堅い印象を与えること、という合わせ技によるものでしょうか。
例えば、次のような文で使われるのなら自然に響くでしょう。

Hardly had I climbed the second hill when I heard sounds coming after me. Faster and faster I ran with my load for my father, but the sounds were gaining upon me.
"The Soft-Hearted Sioux." by Zitkala-Sa [aka Gertrude Simmons Bonnin]
2つ目の丘を登り切ったとき、背後から音が聞こえてきた。もっと速く、もっと速くと、私は父のための荷物を抱えたまま走ったが、その音はどんどん私に迫ってきた。

臨場感を出す工夫がされている物語ですが、この出典は、

American Indian Stories by Zitkala-Sa. Washington: Hayworth Publishing House, 1921. pp. 109-125.
http://www.digital.library.upenn.edu/women/zitkala-sa/stories/soft.html

で、今から100年前の英語であることに注意が必要です。


k. (?) I had no sooner left home than it started to rain.
※倒置ではない、この基本形での使用頻度は低い。にもかかわらず、近年の入試でも出題例があるのです。

Cathy had no sooner sat down on the sofa on the living room (than) the doorbell rang.
キャシーがリビングルームのソファに腰を下ろすやいなや、ドアベルが鳴った。

Meg had no sooner uttered the words (than) she regretted them.
メグはその言葉を口にするやいなや、後悔した。

どちらの出題も錯乱肢に beforeとwhenを入れているところが本当に哀しい。

実際の使用例が少ない原因は、個人的には、この語順での<否定+sooner>の比較級の語義の実感が弱いので、この形式を支え切れない人が多いからではないかと思っています。

ということで、「より良い英語でより良い授業」の参考にしてもらえれば本望です。

本日はこの辺で。

本日のBGM:ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ 第3番 ト短調 BWV1029 ~第1楽章:ヴィヴァーチェ
ヨーヨー・マ(チェロ)
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