サレンダー

ツイッターのタイムラインに流れてきた日永田 (ひえいだ) 先生のツイートにあった慶応義塾大学経済学部の出題がちょっと気になったので、こちらで取り上げる次第。
元ツイはこちら。

途中で若干の浮き沈み、ブレ玉こそあれ、確か2012年位から、今のような長文の読解問題でissuesを提示し、それを引用し、持論と異なる視点・観点を踏まえて論じるお題作文、という形式が続いていると思います。

拙ブログで最初に取り上げたのは、9シーズン前ですね。

tmrowing.hatenablog.com

近年で一番大きかった変化は、昨年度の、日本語の文章に英語で設問がつく、というもの。
某媒体では、この出題に関してショーモない分析を開陳している若者がいましたが、ことの本質が分っていませんでしたね。

そのような大きな流れの中で注目すべきは、読解素材の英文には逐一、著者と出典が記されているものの、その実在が確認できないものばかり、という点。
いや、英文そのものはissuesを提示するため、それなりにきちんと書かれたものが使われているのですが、その著者の固有名詞や出典の媒体などは、駄洒落?皮肉?茶化してる?というようなものが多く見られる印象でした(この点をまじめに分析し、考察を深めたレポートって、もう誰かがどこかで発表してるんですかね?)。

今年の大問のIIIの著者名として先ツイで指摘されていた

  • Frank D. Bayt = frank debate = 率直な議論

というのは、この学部の出題/解答に求められる要素を的確に表していると言えるでしょう。

私が気になったのは、 大問のIV。日本語の文章の著者と出典とされる雑誌名でした。

こちらの「研究者」の名前と「雑誌」も気になりました。ここまでがセットの壮大な「偽情報」だったら凄いなと。
似た名前の関連領域の研究者も実在して、似た名前のジャーナルも実在するんですよね。
International Journal of Media & Cultural Politics (Journal)
https://www.intellectbooks.com/international-journal-of-media-cultural-politics

https://twitter.com/tmrowing/status/1758944204208976062


雑誌に投稿した研究者名は漢字表記で「伊藤陽子」。英語からの翻訳でどうして漢字が分かった?

こちらの「慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所」にいる実在の研究者名が「伊藤陽一」。


https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AA1121824X-20220300-0133.pdf?file_id=162903

名前の漢字を見るなら、「一」は「始め;始まり」で、「了」は「終わり」。それを足すと「子」になります。
いや、だから何なんだ?ってことなんですけど。お遊びが過ぎるなと。
そして、今回のテーマが disinformation (偽情報)ですから、私のツイートにあったように、英文素材文と雑誌への反対意見投稿を模した日本語の文章と、合わせてdisinformationだったら凄いな、という感想を持ったのでした。


因に、disinformationとmisinformationに関しては、今月初旬にオンラインで個別対応をした

  • 「受験生D講座」

での東京外国語大学対策で、私とChatGPTとのコラボによるミニレクチャーを作成し、音声もAI生成で自然なものを提供していました。
こちらが、そのときのメモ取り用ワークシートになります。 ご参考までに。


さて、慶応の問題の話しに戻りましょう。
例年、架空の著者と出典情報を示しているわけですが、これがissuesと全く無関係とは言えないところが面白くもあり、それが解答に当たって何らかのヒントになるかと言えば、どうもそうとは言えないところがモヤモヤするわけです。

今年の大問I であれば、 “Remote Work Revolution” by Noah Fice で、これは単純に No Officeの捩りだと分かりますが、だからどうした、ということなのですね。

昨年度から始まった、第3問の英文の内容に対応した第4問日本語の文章というセットの出題でも、英文の著者名はSeymour Zimmer、日本文の著者名はカタカナでフクシ・セイタというものでした。これがちょっと不思議なので、呟いていました。

昨年も出た日本語の文章は、「論評」からの抜粋、というだけで、英語からの翻訳という縛りも何も示されていないのに、その著者名がカタカナ表記という不思議なもの。
介護関連ネタなのでキーワードは「福祉」
→音と字面からの連想で福士蒼汰
→捩ってフクシ・セイタ

「セイタ」に込められた意味は?

分かりそうで分からない、隔靴掻痒なんですよね。

これに関しての私のつぶやきがこちら。

昨年は「フクシ・セイタ」とカタカナで、「福祉」にかけて、福士蒼汰の捩り程度に思っていましたが、Say more とZimmer (歩行補助具)がうまく繋がらないんですよね。
来年も英文とセットでの創作で分析する重要性が増す?

因みに、Zimmerは商標名が一般名詞化した例の一つ。

Zimmer frame

www.youressentialshop.co.uk


少子化対策がテーマの論文の著者が

  • Cole Schauer

で、何の捩りとかアナグラムなのかな、と考えていたのですが、

  • take a cold shower

が「頭を冷やす」以外に「性欲を鎮める(必要がある)」という意味で使われることがあるので、その辺り?


https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/take-need-a-cold-shower

このようなお遊びは恐らく、初期の段階からずっと組み込まれていたのだと思います。過去ログで取り上げた2015年の出題でも、

大問II “Immigration: Fulfilling Our Global Obligations" by Lemmy Inne (2013) は

  • Let me in. 入れておくれよ。

の捩り。


大問III “Global Charity Begins at Home" by Bette Steyput (2013) は

  • (You’d) better stay put. その場を動くな;そのままじっとしていろ。

の捩りではないかという気もします。

とはいえ、大問のIの”Modern Girls Revisited” by Eve N. Flappers (2014) のEve N. は”even” としても、flapperの語義を

  • 口語⦅特に 1920 年代の⦆現代娘,フラッパー⦅しきたりにとらわれない奔放な生活態度・服装などでおとなたちのひんしゅくをかい,不道徳を非難された⦆.(リーダーズ英和)

とするのは、芸がないと思うのですよね。

振り出しに戻って、2012年の出題から下ってみますか。

大問II “Privacy at school: Choices Ahead” by S.M.A. Foane (2010) はsmartphoneでいいとしても、
大問I “Making Sense of Secrecy” by S. Kaane (2007) は何なんだろうか? scannerの英音?


2013年

大問I “Against Zoos” by Anne E. Malls (2010) は (名詞to) end them all (最低最悪の名詞)の縮約で’em ということか。
大問II “In Defense of Zoos” by N. Viro and D. Velle (2009) は environment とdevelopment の頭だけ採った?


2014年

大問I “Inequality and Growth” by Anne Faerrar (2012) は unfairer でしょうね。
大問II “Youth Unemployment: Whose Responsibility?” by Ivan O’Werke (2012) は、意味から考えれば I’ve been out of work. (ずっと失業中)だろうけど、O’は通例、ofの縮約なのでね。


2016年

大問I  “In Defense of Traditional Marriage” by Noah Reinbos (2014) は、同性婚反対派ですから、 No Rainbows にかけているのでしょう。
大問II “Following Ireland, for Better or for Worse” by Roy G. Biv (2015) は、「虹の七色」の頭文字そのまんまで、Red, Orange, Yellow, Green, Blue, Indigo, Violet から成る造語ですね。
大問III “Should People be Required to Vote?” by Fran Chizeforall (2014) は franchise が選挙権/公民権で、franchise for allそのまま。


2017年

大問I “Unnecessary and Inefficient: the National Minimum Wage” by Marc Etfoasses (2013) はmarket forces
大問II “The National Minimum Wage: an idea whose time has come?” by D. Saint-Paix (2015) はフランス語のコミューンのhttps://en.wikipedia.org/wiki/Saint-Prix,_Val-d%27Oise の捩り?paix は平和とか治安、平穏という意味。よく分かりません。
大問III “Taxed to Death? The Estate Tax Reconsidered?” by Lou Sitall (2015) お手上げ、降参です。分解組み合わせを自由にして、 lousy tall (酷く法外な) というような意味にできなくはないですけど…。

疲れました。
読み解く方がこんな調子ですから、作問チームは毎年、練りに練っているのでしょうね。
私も、日を改めて、残りの著者名と格闘してみます。
本日はこの辺で。

本日のBGM:
サンクトペテルブルグ ー ダジャレ男の悲しきひとり旅 (2010年リマスター)/KAN

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