確信と核心

前回の記事

「…を活かす」を活かすには?
tmrowing.hatenablog.com

の補足で、「…を活かす」の裏返しで「活かせない」または「活かさない」という文脈で使われる表現の整理をしておきましょう。

ツイッターなどのソーシャルメディアでもよく見る言い回しで、辞書でも典型例が収録されているものがあります。

The opportunity was too good to pass up.
絶好の機会だったので見逃せなかった(『動詞を使いこなすための英和活用辞典』、朝日出版社、2006年)
※全く同じ用例は、『英和イディオム完全対訳辞典』(朝日出版社、2003年)にも見られる。

他の辞書でもこの典型例を載せているものは結構見つかります。

The offer is too good to pass up.
その申し出は断るにはもったいない. (Wisdom)

This chance is too good to pass up.
この機会を逃す手はない (O-LEX)

It’s too good a chance to pass up. (Collins)

Her offer was too good to pass up. (MW’s Learner’s)

辞書での、この言い回しの収録の有無を見ていてで、ちょっと気になったのが、英国系出版社のもの。
句動詞としてはこの項目や用例を収録している、OALDやCOBUILDやLDOCE、Cambridgeも上述のような例を載せていないのですね。
OALD

pass something ⇔ up
(informal) to choose not to make use of a chance, an opportunity, etc.
Imagine passing up an offer like that!

COBUILD米語英英和

pass up PHRASAL VERB
If you pass up a chance or an opportunity, you do not take advantage of it. 機会を 逃す、見送る
The official urged the government not to pass up the opportunity that has now presented itself.
その役人は政府に今そこに現れた機会を逃さないように強く要請した.

LDOCE

pass something ⇔ up
to not make use of a chance to do something
pass up a chance/opportunity/offer
I don’t think you should pass up the opportunity to go to university.

Cambridge

pass sth up
to fail to take advantage of an opportunity:
I can’t believe she passed up the chance to go to South America.

この背景のヒントとなりそうなのが、『研究社英和活用大』に見られる次の用例。

It's too good a bargain to pass up [(英) miss].
見逃す手はないよい買い物だ
※この用例は pass やpass up の項ではなく、名詞のbargainのところにある。

英語法では、pass upの代わりに missを用いる、と読める書き方です。

その辺りを頭に入れて、次の検索結果を眺めてみると、まあ、納得は行くかな、と。

類義表現で、

  • pass up / turn down
  • miss / refuse / lose / ignore

の6つを比較しています。

Ngram viewerで。
英の状況が示唆的ですね。

高値安定とも言える、英でのmissに、pass upが2000年代以降猛追している状況がわかりますね。

COCA系
ベンチマークとして COCAとCOHAから

地域差を推測するべく、NOWとGLOWBEの照らし合わせ
missに関わる情報は見逃せませんね。

TVコーパスで6大メジャーの実態推測と、古いけれどBNCも振り返り

ということで、調べて切り貼りしただけですが、折角まとめたので、前回の記事同様「活かして」下さるようお願いします。

因に、ですけれど、この<too good to 原形>の定型表現では、何といっても

  • too good to be true

の頻度が高く、クリシェと言ってもいいくらいで、バーナード・ショウが、作品のタイトルで捩ったほどです。

en.wikipedia.org

(とはいえ、私の書いた教材『チャンクで積み上げ英作文』のスタンダード編では、「四角化ドリル」の10で、

  • 5. 話がうま過ぎる申し出 an offer too good to be true

を入れてはいるんですけどね…)

Ngram Viewerのグラフを参考までに。

今日取り上げる、もう一つの「気になる語法」は、「間違いなく;疑いなく」という「裏返しでの確信・断言」の表現。
きっかけは、しけんや英語塾の、四軒家忍先生のこのツイートでした。

可能性の査定を%で示すことへの警鐘は、もう大昔の2005年に、このブログでも書いています。

tmrowing.hatenablog.com

その過去ログで引いているのが、CGSAE (1993年)

『ジーニアス英和』のスタッフも参考にしていたという、The Columbia Guide to Standard American English (1993), Columbia University Pressでは、
doubtless(ly) < no doubt < undoubtedly = without doubt < unquestionably
という関係を示してはいたが、%のスケールは用いていない。パラフレーズでも、probably, certainly, absolutelyという大きな枠の中でのものを示しているのみ。

私が気になるのは、CGSAEでは “undoubtedly = without doubt” と示されている副詞句の "without doubt" の方。
without doubtよりもwithout a doubtを見聞きする機会が増えたな、というのが個人的な感触でした。

without doubtの例

without a doubtの例

ツイッターのタイムラインで検索。
without doubt

https://twitter.com/search?q=%22without%20doubt%22&src=typed_query&f=live

without a doubt

https://twitter.com/search?q=%22without%20a%20doubt%22&src=recent_search_click&f=live

実際、どちらも目にするわけですが、印象としては without a doubtが多いかな、と。


既に、『ランダムハウス英和』で次のような提示をしていますので、「どちらもアリ」、というのは分っていました。

without (a) doubt 疑いもなく,確かに

英系の専門的な辞書でも、

She is without a doubt the best player I know.
疑いもなく,私の知る限り彼女がベストプレーヤーだ (Oxfordコロケーション)

とaのある用例を載せているものもあれば、

She is, without doubt, the most beautiful woman I have ever seen. (Longman Collocations dictionary and Thesaurus)

のように、無冠詞の without doubtのみを項目立てしているものもあります。

次のような誇張した表現だと、a のある方が普通、というのも「不思議だな」とは思っていましたが、そんなもの、という認識でした。

It was without a shadow of a doubt the best we’ve played.
間違いなく今までで最高のプレーだった. (COBUILD米語英英和)

ということで、この機会を活かすべく検索して、実感!

全体

withoutに続くdoubtのaの有無は2015年以降でほぼ拮抗、と見ていいでしょうか。グラフを見る限りでは、やはり、a の隆盛は2000年代以降、という感じ。beyondでは逆に、aの無い方が優勢です。


米では顕著ですね。


英でも、aが猛烈な勢いに見えますね。

小説

小説で、こんなに早くから a が優勢だったとは思いもしませんでした。ただ、比較的低頻度のbeyondの方で、aの有無にそれほど大きな差がないのは意外でした。

COCA系でGLOWBEで10年前の地勢図を。

無冠詞

不定冠詞

これを見る限りでは、10年前の時点で、英でもwithoutに関しては拮抗していた様子が窺えます。

NOWで最近の情勢も。

無冠詞


不定冠詞

ベンチマークとしてCOCAを。

無冠詞


不定冠詞

without に関しては4倍くらいの頻度の差で不定冠詞が優位で、beyondに関しては無冠詞が優勢。

COHAで経年変化をもっと大きなスパンで。

無冠詞


不定冠詞

グラデーションがよく分かるのでは?

TV

無冠詞


不定冠詞

UK/IEでは、withoutに関しては、拮抗。beyondに関しては無冠詞が優勢という結果。

ここで、更に気になったので、文頭でのイントロどどいつとしての表現で、類義のNo doubtも調べてみました。

COCAで No doubt

COCAで無冠詞

COCAで不定冠詞

もう、ケタ違いで No doubtじゃないですか。さっきまで調べていた冠詞の有無とか、ドングリのなんとやら状態!


Ngram Viewerで経年変化も。



やはり、ケタ違いです。
オンラインコーパスでの比較は簡便だけれど、その先の「目的」は何なのか?その比較にどれほどの意味があるのか?を見失ってはいけませんね。
ただ、これだけ使用頻度が違う表現を扱って、テストで同義の言い換えを求めたりとか、「確信度」を%で比較するっていうのは、ちょっと考えた方がいい、ということもわかります。

自分の語感や認識を修正、微調整することの重要性をあらためて感じた次第。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Don't speak (No Doubt)

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