「文字指導」を語るなら、このくらいのことを考えておいてはどうか

2月期、3月期の「文字指導/handwriting指導法セミナー」計3回が終了しました。
大まかな構成は、昨シーズンと変わりませんが、そこで扱われている内容の深みは、昨シーズンよりも増し、よりリアルになったのではないかと思っています。
告知での「講座内容」には、このような文言があります。

講座内容:小学校の英語教科化や新学習指導要領で、「文字指導」のニーズは小学校段階に移ってくる、などと言われますが、そもそも「中学校」段階で、きちんとした文字指導、handwritingの指導はどのくらい行われてきたでしょうか?また、高等学校段階で、文字を書くことにどの程度配慮がなされているでしょうか?
この講座は、実際に「手で書くこと」= handwriting の指導法をきちんと扱い、その指導体系を考えるワークショップです。
欧文書体のhandwritingの指導体系を持つ、英国などのカリキュラム、シラバス、教材を踏まえ、日本の学習者にとって、より適切な「文字指導/handwritingの指導法」を共有します。

・欧文書体・フォントの基礎知識
・「フォニクス」ではない、handwritingとしての文字指導
・四線など補助線の意義
・シラバスデザインと文字導入の順序
・筆記用具の持ち方・握り方、姿勢への配慮
・筆記補助具、ワークシートの活用法

今シーズンのセミナーには、タイトルに

  • 思い込みからの脱却  Learn, unlearn and relearn.

という文言を付け足しました。私の切実な思いの現れです。
昨シーズンは、対面でのワークショップで、少人数グループでの情報交換や、お互いの書く文字を横目で見あったり、実際に「筆記具」や「筆記補助具」を試してもらう、という環境で行っていました。今シーズンは「コロナウィルス」対応で、Google Meetによるオンラインでの開催となり、実際に「書いてもらう」ものを私が逐一確認したり、「筆記具」「補助具」を試したときにリアルな反応を受けとることができなかったことが残念ではありました。
そんな中でも、受講者の方からは概ね好評なフィードバックを得ていますので、その中から一部を紹介したいと思います。

2021年度にも、今回と同レベルの「ガイダンス」に当たるセミナーを開催する予定ですし、今回の「ガイダンス」を「初級」とすれば、「初級」レベルを受講した方向けの、「中級」とも言える、もう少し具体的で専門的な内容とレベルのセミナーも企画しています。
以下のフィードバックを参考に、受講を検討していただければと思います。
今後とも、ソーシャルメディアでの情報にご注目下さい。

率直に言って、受講して本当によかったと思います。 恥ずかしながら、学部時代でも大学院でも、文字の指導について学ぶ機会はほとんどありませんでしたし、自分から求めることもありませんでした。模擬授業などでも、「よほどミニクイ文字(フォント)」の時にはフロアから指摘がある程度で、多くの学生(私自身も含めて)は文字についてそれほど注意を払っていないのではないかと思います。このように書くと言い訳がましくなってしまいますが、それが現状なのだろうと思います。文字の指導を考えてこなかった自分がいけないのですが、もっと早い段階(教職課程のカリキュラムなど)で文字指導を学ぶ機会があったらどんなによかったことかと思います。 これまでの自分の思いの至らなさを反省するとともに、学びの機会を与えていただけたことに感謝申し上げます。フォントを選択するとき、文字を書くときに、何に注意して選ぶのか・書くのかという視点を得ることができました。それはそのまま指導の視点につながることだと思います。まずは教える側として自分自身がワークシートに取り組むなどして自分の文字を見つめ直し、指導に活かしていきたいと思います。

どのセミナーでも言っていることなのですが、「一度見えるようになると、次にそれと出会ったときに、それだとわかる」眼を手に入れたということなのですね。 次は児童生徒に還元していただければと。

今日は本当にありがとうございました。濃密で、素晴らしい時間でした。
前回申し込めなかったことは残念ですが、今回こうやって参加させていただけて感謝です。
以前お聞きした時も「目から鱗」で、そこからいろいろ改善したこともあるのですが、いやぁ、まだまだでした。
まずは私自身の文字だ!と痛感しています。自分の板書の文字の癖を自覚して、文字の練習をせねばと思いました。まずは今日やった、運筆の練習から!
板書の文字、ワークシートに書く文字。自分の文字の癖をかなり見直さねばと痛感しています。
字が苦手、とずっと目を背けてきましたが、初学者である小学生への文字指導だからこそ、指導者である私が気をつけねばなりません。
4線の間隔について、x-height 部分が大きい方が初学者にはいいとは思いながらも、実はちょっと「不均等な4線だとアンバランスな文字になってしまわないか。将来的に困らないか」という不安がありました。しかし今日、松井先生のお話をお聞きして納得できました。4線はあくまで補助線であるということ。
方眼紙の良さとしておっしゃっていたと思いますが、結局4線も写真のグリッド線と考えればいいのだなと、自分の中で納得できました。カメラをかじっている自分としては、グリッド線は美しく見えるための目安の線、というところで、非常に腑に落ちました。
私は子どもたちを「自立した学習者」に育てたいと思っています。今日何度もおっしゃった「自立した書き手」という言葉がグサグサと刺さっています。私は子どもを自立した書き手として認めていなかったのではないかと思います。英語を書く指導も、日本語を書く指導も。漢字の学習も、英語を書く指導も、自立した書き手にするような手立てを取っていなかったことに気づきました。段階を踏まず、考えずに機械的に書かせるだけの指導はやめます!
文字の中にお顔を書かせるのは、すぐにでもやってみようと思います。3年生の中で、aが極端に小さくなる子がいます。何度訂正しても同じだったのですが、お顔を書かせたらすぐ分かりそうですね。明日やります!かわいいですし。きっと大喜びしながらやると思います。
今日また松井先生のお話を聞いて、小学校での指導の重大さを改めて感じました。
まだまだ至らないところだらけですが、自分にも成長の余地ありと思って頑張ります!
ありがとうございました。

「耳が痛い」「グサグサ刺さる」「児童生徒に申し訳ない思い」というのは、私のセミナーで現場の先生方からかなり多く返ってくる反応です。unlearn する痛みとでもいいましょうか、「思い込みからの脱却」というのは、恩師でもあった若林俊輔氏からの受け売りなのですが、脱却して学び直す、というのは、言うほどやさしいことではありません。「今、握りしめているものを手放さないと、新しいものを手にすることは叶わない」というのは、教職に限らず、色々な局面で私もこれまで痛感してきたことです。

昨年のセミナー参加が体調不良で叶わず,本日のセミナーを1年越しで楽しみにしていました。大変有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。フォントのデザインと認識の関係は,聞けば聞くほど興味が湧いてくるものでした。線の流れが動きに転じるようにデザインされていること,そして,文字を書くという行為には,認知的かつ身体知が複雑に絡んでいることは,最初のワークシートの練習で実感できました。トメではなく,ハネ,払いに近いExitは,語としてのまとまりやfluencyを伸ばすのに重要ですね。 身体と言えば,先生に紹介していただいたPenpals for handwritingでも,準備体操がありましたが,日本の学校でもあのくらい身体と文字の関係を意識した教育を行うべきだと思います。この10年,小学校での取り組みをお手伝いしてきましたが,数年前に研究開発校で一足先に読み書きが入ってきたときに,自分が英語教育の研究者として入門期の大事なことにほとんど手を付けていなかったことに気付き,大いに反省しました(その頃に先生にいろいろとおたずねしました)。また,小中の教員養成も相当に変えていかないと,英語教育は根性論の再生産になってしまいます。その割に,初等教員養成課程での外国語科の指導法に割くことができる時間はごくわずかで,しかも,大人数クラスという状況なのが頭の痛いところです。教員養成は,免許法の改正,英語コアカリ,教職大学院化と良い方向には向かっていません。
また機会があれば,お話をお聞かせ下さい。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

この一連のコメントをお読みいただければ、「大学」や「大学院」で、英語教育の研究や教員養成に関わる方であることは想像に難くないと思います。小中高現場の教師だけではなく、このような「教師を指導する側」の方にも受講していただけるセミナーとなっていることがわかっていただければ幸いです。

ほとんどが今まで私が不勉強にして知らなかったhandwritingに関する歴史や指導でしたので、それをあんなに時間をかけてじっくりご教授いただく本当に贅沢な時間だと思いました。
なぜ今回先生のセミナーを受講させていただいたかというお話をすると、A4にして3ページくらいのレポートになりそうなのですが、2回目に受講して気が付いたのは、先生のセミナーは「こうして指導すればいいですよ」という巷に多くある「明日から使える〇〇指導法」ではなかったということです。セミナーの中で、実際に自分が書いてみて、体験させていただいたことはあのまま生徒にさせるのではなく、あの感覚をもって、自分の指導にどう生かすかという貴重な視点でした。小学校英語はともかく指導する時間が限られます。あれもしないと、これも教えてやらなければ、とwishing listのようなものを順番に優先順位を付けながらそのリストをつぶしていくと、結局はたくさんの英語の音声インプットとか、字形を認識させ、音から文字に結び付ける、そこを最優先に(文字指導に関しては)、その文字認識の段階でかつてはフォントすら気にもかけていなかった時代から、We Canとともに少なくともかなり前進したのは先生を始めご専門家の貢献度が高いと感じています。ひとまず、そこは言い方は変ですが、「ご専門家にお任せし、教科書の字体やワークブックが作られまっとうな方向に導いていただく」というのが今までの認識でした。2回の受講を経て、6年生最後の2クラスほどですが、子どもたちの書くアルファベットがとても気になっている自分に気が付きました。卒業を前に4回ほどbridge lessonという単元を入れ、中学校に向けての読み書き指導を入れたのですが、この時期にもっと私は先生の2回のセミナーで学ばせていただいた新しい視点を入れ、練った指導ができればよかったと今、反省しています。この感覚は、なかなかほかのセミナーでは体験できなかったと心より感謝いたしております。私自身も時々セミナー講師をさせていただく立場で、これほどgenerousに、参加者にシェアするものを十分に準備して行ってきただろうか、ということも考えさせられました。大変、失礼な言い方をしていたら申し訳ありません。
もう一度、セミナー開催されるとのこと。 
時間があればまた参加させていただきたいくらいです。
そこで、自分が何を発見し、何に気が付き、何が変わるか…知りたいです。
本当に貴重な機会をありがとうございました。

匿名でしかご紹介できませんが、「小学校英語」(とひと括りにするのはちょっと乱暴な気もしますが、そ)の牽引者のお一人とも言える方からのコメントに身が引き締まる思いです。

  • 先生のセミナーは「こうして指導すればいいですよ」という巷に多くある「明日から使える〇〇指導法」ではなかったということです。

という件の「お手軽なお土産お持ち帰りセミナーにはしない」というのは、私が普段から心がけていることですので、分かっていただけて本当に嬉しいです。

松井先生、昨日は文字指導セミナーをありがとうございました。困っている生徒のために知っておきたい事はもちろんですが、「読みやすい 書きやすい」って教室のみんなにとって嬉しいことだなと実感しながら(反省もしながら)の贅沢な4時間でした!指導者が苦行にしてしまいがちな文字指導ですが、昨日はなぞり書きさえも、楽しかったのです。「文字を書くときに注意をする点が分かると、そこに集中する。集中していると身体が自然にふさわしい動きをしようとする。」そういうことを体感しました。同時に意識しないと直らない自分の癖も発見しました。これが習得したものを手放す難しさか、と。初学時に丁寧な文字指導をする必要性をより痛感しています。
お話を聞いていると、まるで「この生徒にはお日様を」「この生徒には水を」というように、生徒一人一人をよく見て必要なものを与えて育まれてきた松井先生のお姿が目に浮かぶようでした。
先生の圧倒的な知識量や経験の引き出しから得られた多くのエッセンスをこんなにも教えていただき、本当に感謝しています。ありがとうございました。

  • 困っている生徒のために知っておきたい事はもちろんですが、「読みやすい 書きやすい」って教室のみんなにとって嬉しいこと

というのは、「ユニバーサルデザイン」の理念を上手く言い表しているのではないかと感じています。こういう感性の方が、英語教育現場を支えてくれていることに感謝します。


最後は、超(?)長文です。この方のメールを仕事帰りの電車内で開いて読み、落涙しました。
講師冥利に尽きるフィードバックをありがとうございます。

楽しいセミナーでした!ありがとうございます!
アルファベットを習う前によくある子供向けワークシート
mmmmmmmmmm
WWWWWWWWWW
の練習書き、本当の意味が解って驚くのと同時に自分の知識のなさにがっくりしました。
そしてその連続でした。

意識をするとしないでは、同じ作業をするにしてもこんなにも効果が違ってくるものなのかと実際自分で描いてみて実感。それを潜在のうちに埋め込めれたら、最高です。そういう教育を私も受けたかったです。
私は中学の時に器械体操部で、娘はバレエをしています。先日、別の用事でバレエの幼児科クラスの時間にスタジオに行きました。子供たちはシルクのような素敵なハンカチの端っこを指で持ち、頭の上にあげてスタジオを足音たてずぐるっと音楽に合わせて回ってくる、ということをしていました。
「ハンカチがしぼんじゃだめよ~、お姫様になって~、ふわふわ~」
という先生のメルヘンへのいざない言葉を浴びながら。娘がやっていた時期を思い出し、懐かしく目を細めていたのですが、まさにこれでは!
プリマのあの腕の固定された美しさは。
上でも前でもブレない両腕の微妙な輪っか感はこれではなかろうか、と。
こうやってきっと、潜在的に「できるように」指導されていたんです!
きっと。

だからといって今、娘の腕がきれいなプリマ輪っかをいつでもどこでも作れるか、といったら
そうではありません。

「どんな丁寧なカリキュラムでも、困っている子はいる」
という視点を持つ、ということもこのセミナーで学んだことの一つです。

そして
中学から器械体操をしていた私にはこういう一見「なんだろう?」と思われるような 楽しいこと(練習)が実はあの大技につながっていた、なんて記憶はありません。忘れているだけかもしれませんが。やはりこのような「愛の先見」が秘められた指導はこどもにこそ、本人が気づかぬうちにやりたい! と思いました。大人でもこれだけの感動があるんです。内緒で習得させれたら、と思うとなんだかワクワクします。

先生の当日のファッションや文字の歴史、いろんな人の困り感を考えた様々なフォントの話に文字への「愛」を感じます!文字の「入」も「出」も意識したことがありませんでした。横に流れるんですものね。ものすごく達筆な「習字」の文字への見方も変わりました。土曜日までは、ものすごく怒られそうですが「ダラダラと上から続くたぶん素晴らしい字」でしたが、あの中に「入」と「出」が芸術のごとく潜んでいる(わからないからこんな表現になりますが)と思うと自分の見る目もほんの少し成長したか、という気になります。 

子供達が
「この先生、英語の文字、好きなんやなぁ。へんな先生やなぁ。」
と思うクラスができたら英語が好きな子が増えるのではないでしょうか。
単純かもしれませんが。

私は先生のセミナーを受けて「小文字」を好きになりました。おもしろい変化です。そして、「わかる・わからない」や「できる・できない」でなく前よりもっと英語を好きになったような気がします。


週に二回、子供を送り出してから歩くか走るかわからない速度でのジョギングが日課です。
走った後、公園の鉄棒の真ん中の高さのところでゲートボールを横目に足上げをします。前、横、後ろ、40回ずつ。

器械体操部のときは毎日のウォーミングアップでした。この時も中学生ですから、ダラダラと、おしゃべりしながらただただやっていたように思います。娘のバレエをきっかけに、自分の足の上がらなさに愕然とし、過去の栄光を取り戻すべく(少しでも戻すべく)ゆっくりぼちぼちしていますが
今日、私が鉄棒で思ったこと。なんだと思いますか?自分でも笑ってしまいます。
「分岐点」です。
骨盤を分岐点とした、自分の脚のあがる軌跡です。
ただただ上げていた、意識レベルから美しくあげる、に変わったんです。これはかなりなレベルアップではないでしょうか!
だからといってもちろんすぐに脚が美しくあがるわけではありません。
ほんとうに美しくあげたいのならば正しい指導とそれを血肉にするまでの反復(根性も)が必要です。そんな境地を今更求める気はサラサラありませんが

それにしても
それにしても

すばらしい瞬間を経験しました。今日の朝、公園で。マンガによくある、「キラキラ」が頭の中にちらついた気分です。この意識で中学の体操を日々積みあげていたら・・・と思うと、ちょっとだけその当時の先生を恨みます。導いてあげること、大切ですね。これも、先生のセミナーで実感。

ほんとに私は先生のセミナーが楽しかったんだな、と思います。

この方のコメントにも出てきた「分岐点」は、フォントを考えるときに重要な着眼点です。今シーズンのセミナーのために改訂した「フォント比較の着眼点」を note で単品販売しております。セミナーの受講が出来なかった方で、フォントについての理解を深めたい方は購入をご検討下さい。

note.com

本日はこの辺で。

本日のBGM: Your Other Hand (Clare Bowditch & The Feeding Set)