You are what you don’t write about.

週末には更新しようと思っていたのですが、先週の木曜日、金曜日と大雨の影響で二日続けて休校となり、授業が欠けた分の埋め合わせや、試験問題の作り直し等々、思うようにはならないものです。土曜日課外で、なんとか授業の方は軌道修正したものの、今度は月曜日から体調を崩し授業と期末試験の準備で手一杯でした。

現任校のカリキュラムでは、高3の学校設定科目「クリエイティブ英語」で、1学期はナラティブパッセージを書かせています。四半世紀使い回したネタも多いので、昔のファイルを眺めていたら、面白いものに再会。

前任校時代だから、10年ほど前でしょうか。科目「ライティング」での実践に基づく進学校教員を対象とした研修の質疑応答が出てきたのでご紹介しておきます。(先日、「呟き」で連投していたものと基本的に同じものですが、一部コメントを補足しています。)

Q1: 大変素晴らしい実践だと思いますが最小限の負担で最大限の効果を引き出す工夫について何かヒントがあれば教えてください。
A1: 何事も新たな取り組みをするときは、無駄があるものです。私は「最小努力、最大効果」ということを考えたことがないので、とにかく、生徒の能力と自分の実践を信じて、結果に隷属しない気概が大切なのではないでしょうか?

これは、質問者が望んだ回答にはなっていないのですが、私をよく知らない人には分かってもらえないところかもしれません。でも、まあ、普段の授業でも、クラス担任としての対応としても、基本はこんな感じです。

Q2: 普段の授業と実際の大学入試における採点基準について差は感じられるでしょうか?
A2: 東北大や阪大のように、大学が出題意図を公表しているところは稀ですので、大学でどのように採点されるかはあまり気にしておりません。あくまでも、自分のシラバスの中で、高校生がどこまで英語らしく書くことが出来るか、という点で評価しています。

ここでは「稀」と言っていますが、大学側の変化はこの10年で著しい進歩を見せていると思います。今は無き『英語青年』の特集 (2006年4月号) での私の主張の方向に少しずつ近づいているといえるでしょうか。
九州大学の「標準解答例」の配布。金沢大学の「正答例」の公開など、大学の公式見解が表明されているのは歓迎すべきことです。

「大学入試の自由英作文は減点法」等と言っている人が受験指導の界隈には未だにいるようなのですが、受験生や高校生が大学に情報を公開するよう求めればいいのに、といつも思います。

因みに、私の母校でもある東京外国語大学は、昨年度から、詳細な採点基準を公開しています。
問題の難易度や採点基準の中身はともかく、「公開する」という姿勢は良心的です。
(http://www.tufs.ac.jp/common/is/nyushi/kakomon/1-1zen-e.pdf)

Q3:添削の効果的なやり方は?あまり労力をかけずに大量のペーパーを処理するにはどうすればいいのか…。
A3: たくさん書かせなければ、添削の労力は減りますから、introductionの段落とconclusion段落の英語は既に与えdevelopmentの部分だけを英語で書かせるというように、量をコントロールすることと、idea generationの手法を工夫して、アイデアを出すときに語彙指導をしてしまうことだと思います。添削など、書かせた後に待っているであろう労力を、事前のステップに振り分けておく、と考えてみては?

現行の『英語表現』の教科書を見ていて痛感しますが、短く書かせるのは大変なんです。50語程度で、「つながり」と「まとまり」がある英文を書くのは至難の業。そのことをまず指導者が体感、体現しないとダメでしょう。のり代とか踊り場とか、ある程度のムダを許容する「分量」が必要だからこそ、『パラグラフ・ライティング指導入門』では、テクストタイプごとに段階的な指導手順を示していた訳です。

  • 全体を通してみると80語とか、150語とか、300語といった分量になる「英文」だけれども、書かなきゃいけないのは、この部分の50語とか、80語でいいですよ。

という課題設定と、ネタをテクストタイプごとに用意しておくのが「ライティングの教師」の仕事だと思います。

Q4: 要約させる時に指導すると良い点があったら教えていただけるでしょうか?
A4: 類義語での語句レベルのパラフレーズの指導を通して「語義」の正しい理解を常に意識させることが大切かと思います。日本語を活用しても良いので、上位語・下位語の概念や、反意語を援用した語義の理解(例えば、innocent = 無垢な、という訳語は既に「汚れていない」という否定を利用した語義の記述となっていますから、wicked = 邪悪なという語義も、その反対概念のpure を想起すれば「汚れていない」の否定はimpure「汚れている」というように、その語が持っている個性を際立たせる効果があります。

この「反意語を援用した語義の理解」は、私の授業の基本線でもあるので、過去ログでたびたび出てきていることでしょう。

Q5: 高3でリーディングの授業と連携したりすることはありますか?(理社へかける時間を増やすべきではという考えもあるが、英語の授業数がたくさんあり、その使い方で意見が分かれているもので…)。
A5: 現任校では担当教師裁量に任されているので、互いに何をやっているかは情報交換します。リーディング教科書の英文のテキストファイルはコピーしておき、コンコーダンスソフトにかけて、特定の表現を検索できるようには準備します。リーディング教科書のテクストタイプだけでも1年間分は必ず確認して欲しいものです。次には、トピックを共有することが考えられます。さらには、和訳先渡しやTM先渡しで、なぜ筆者はここでこの表現を用いたのか、など、とことん「ことば」にこだわった授業展開も可能です。私のクラスでは、ライティングの授業でトピックや主題に関連した英文資料を相当な量読ませますので、現在は直接的な「リーディング」の科目との連携はありません。

今は、「コミュニケーション英語」っていう科目があるから、技能統合とか連関などと騒がなくてもよい時代なんですよね? え? 次期指導要領の改訂で「英語コミュニケーション」になるの? なんで?

Q6: 私も教科書の各レッスンの要約を生徒にさせていますが、いきなり何の手がかりも無いと厳しいようです。そこで、私は要約をある程度教員が作って、生徒は空所をうめるというスタイルにしています。先生は高1から生徒に要約をすべて教員の補助なしで書かせていらっしゃるのですか?
A6(前半): 高2の授業では1学期中間までに私の作った内容理解のQを利用した要約作りから始めます。1学期期末は今度は生徒がグループで質問の方を作り、クラスで答えを考えます。2学期中間までは語句や文レベルでのパラフレーズ、語義のきちんとした理解、類義語と上位語の概念を学び、最終的に要約を各自で作る前段として、2学期はグループで要約作り、という進め方です。題材やテクストタイプが変われば難易度も変わるので、既習の手法を常に確認できるようにしています。2学期期末では、設定したキーワードからだけでreproduceできることを「理想的」な目標としています。

要約の段階的指導も、過去ログで触れているはずですし、これまでに声がかかった「お座敷」で、何度も披露していると思います。


ということで、10年以上前の実践に基づく発表の質疑応答とその補足でした。

  • では、今はどうしているのか?

ということで、高3の学校設定科目の期末試験問題をこちらに。基本的にやっていることは同じなんです。

16CR_ENG3_1TE.pdf 直

今回の1問目の「帽子売りと猿」はサービス問題。
この「お題」で既に平常の授業で各自に書かせています。そのドラフトを元にして、時系列で書くための「肝」へのFBは与えているのです。

帽子売りと猿のフィードバック.pdf 直

ここで分類整理した上で提示した全ての例文が、生徒のドラフトを私が修正して、このお話に基づくように再構成した表現集となっているわけです。
それでも、自分でイチから書くのは大変なんですよね。
ナラティブって難しいんですよ。
上記資料のダウンロードは自由ですが、二次使用はご遠慮願います。

本日は、この辺で。

本日のBGM: That’s where you’re wrong (Arctic Monkeys)