対句

朝から本業。今日はチームの練習を見た後、日本代表選考合宿の測定のお手伝い。比較的暖かくてよかった。今回の合宿全体のパフォーマンスでは、チーム所属選手と、そのトレーニングパートナーの二人がアテネ五輪代表の二人を押さえて上位2名を占め選考通過が決定。1月合宿は明日でひとまず区切りだが、次回合宿での更なる飛躍を期待したい。
昼はいったん帰宅し原稿書きを、と思ったのだが学校に電子辞書を忘れてきたので、仕事は捗らず。吉右衛門を見て、本を読むうちに寝てしまった。ちなみに読んでいた本は『新版 聞きかじり見かじり読みかじり』八世 坂東三津五郎(三月書房、2000年)。
午後は再度本業でチームの練習へ。トライアルだったので終了時間は早くてよかった。
昨日のブログで、名詞の対句が副詞に転用される例を授業で扱っている話を書いた。(副詞的目的格については過去ログ参照→ http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050223)文を書かせる前段階の文法指導をどうしたものかという思案の中から出て来た道草である。
名詞に限らず、<A and B> と and で結ばれた成句を地道に研究しているのが、黒川泰男氏である。『教育英文法の基礎:語彙・品詞論の見直し』(三友社出版、1983年)では、「形容詞に関する基礎研究ノート」と題して、リストと考察が示されている。英文法研究というと、ともすると生成文法、語用論など近年の学術的知見を踏まえた学校文法・記述文法の見直しといった大きな理論的枠組みの構築や、個々の文法事項をいかに「論理的」に説明するのか、というところに意識が置かれがちであるが、黒川氏のアプローチはかなり異なる印象を与える。黒川氏の場合、学習者が学習の過程で出会う、個々の英語表現・語彙を忘れていないとでもいおうか、予め完成された体系があってそれを学習者に与えることによって学習者が救われる、という見方をしていないのではないかと思うのである。黒川氏があげている例を抜粋する。
<名詞 and 名詞>の例

  • bread and butter/ milk and honey/ day and night/ ease and humor/ power and wealth/ honesty and innocence/ dash and sprint/ beauty and youth/ force and vitality/ worship and praise

<副詞 and 副詞>の例

  • back and forth/ to and fro/ here and there/ now and then/ up and down/ right and left/ slowly and quietly/ loudly and clearly/ emotionally and physically/ insistently and coherently

このような意味の対比を持つ対句は<形容詞 and 形容詞>ではほとんど生じない、として、黒川氏は次のような語句を示している。
<形容詞 and 形容詞>の例

  • amiable → easy and pleasant/ bleak → cold and cheerless/ cozy → warm and comfortable/ courteous → polite and kind/ radical → thorough and complete/ sociable → cheerful and friendly/ trim → neat and tidy

これらは全て辞書の定義からの引用。形容詞のパラフレーズということである。このあと、文学作品からの引用が続く。

  • pleasant and friendly/ peaceful and friendly/ informal and friendly/ helpful and friendly/ mischievous and friendly

これは <A and friendly>のA の部分にはどのような形容詞が来るかを示したもの。
英語を英語でパラフレーズすることを授業で要求する英語教師のうちどのくらいの人がこのような対句、さらには、その対句の目の付け所を指導しているだろうか。
語彙指導に有益な基礎研究の見直しとはまさにこういうことを言うのだと思う。先日『英語教育』2月号の特集に対して苦言を呈したが、あの特集で不満に思うのは、みな完成された体系や、分析されたデータを背景に「乾いた喉に水を与える」指導法を示している点なのである。丸暗記よりも語源の分析が有効だという人もいるのだが、「一緒に井戸を掘る」時に、「語源」とりわけ「語根」の分析は無理だと思うのだ。コーパスによって得られた普遍的なコロケーションなどの「定型」を指摘するにも、黒川氏のような学習者の目線、腰の低さを忘れないことが肝要であろう。
『英文法の基礎研究―日・英語の比較的考察を中心に』(三友社出版、2004年)は品詞論も含めた黒川氏の基礎研究の集大成的な単行本である。「チャンク」と「コーパス」がbuzzwordの今だからこそ、中学高校全ての英語教師に一読を勧めたい。
明日は本業。朝8時on。ちょっと長めに寝られます。
本日のBGM: Over and Done (American Music Club)