Limiting vs. Restrictive

学習英文法関連の続きといえば続き。
前回の記事で幾らか検索ワードにあがったので、安井稔 編注 『リップ・ヴァン・ウインクル』 (開拓社) の注釈の中で、私が気になった部分をいくつか引いておきたいと思う。今風のサイドリーダーものとどのように違うか、考える材料にしてもらえれば幸いである。
まず、修飾とか形容詞の限定用法といった、見過ごされがちな部分への眼差しとこだわりの現れている部分から。

  • 7.3. a long, lazy summer’s day

lazyは「人をものうくさせる; 人がものうく感ずる」の意。不定冠詞は a women’s college (女子大) や a children’s book (子供用の本) のような場合と同様に、「属格+名詞」全体にかかるので、属格の形をとっている名詞 (summer, women) にかかるのではないことに注意。このような属格を文法では記述属格 (Descriptive genitive) という。the boy’s book やmy father’s house のようなとき、定冠詞や所有代名詞は、それぞれ、boyおよび fatherにかかるのであって、bookやhouseにかかるのではないのと比較。

  • 12.4. small piggish eyes

そのまま日本語になおすと、「小さな豚のような目」となる。しかし、「小さい」のは「豚」ではなくて、「目」であり「豚の目のような小さな目」の意味であることに注意。

  • 12.7. a little red cock’s tail

そのまま日本語になおすと「小さな赤いおんどりの尾羽」となる。この場合、小さくて赤いのは尾羽であって、おんどりではない。cock’s tailというのは一種の複合語のようなもので、red cock’s tail は red + (cock’s tail) という修飾関係にあり、little red cock’s tail は little + (red cock’s tail) という修飾関係にあり、この語群全体に不定冠詞がついて、a little red cock’s tail となったものである。the fine young gentleman’s hat のような構文と一見似ているが、修飾関係はまったく異なる。この場合の修飾関係は (the fine young gentleman’s) hat であることに注意。この場合のアポストロフィーはthe fine young gentlemanという語群全体を一つのかたまりとする単位についているのであって、gentlemanについているのではない。(my father) ’s house などの場合も同様で、属格の用法としては、これらの場合の方が普通のもので、本文のような例や、既出 (p. 7, l. 3の注) の a (children’s book) のような用法のほうが、むしろ例外的なものであると考えてよい。

  • 8.8. the unlucky Rip

この場合に見られる unluckyのような形容詞は、対象であるもの (この場合Rip) に帰せられるべき規定ではなく、筆者が対象に対してもつ価値判断を表すものである。つまり、Rip deserves pity. というような価値判断の反省された結果が、unluckyとかmy poor little girl におけるpoorのような形容詞で表されているのである。

  • 14.1. that wicked flagon

「あの悪い酒びんだ; あのいけない酒びんだ」 flagonがwickedであるということは論理的には、ありえないのであり、実際は話者 (Rip) のflagonに対する判断の結果をwickedという形容詞で示しているにすぎない。ここのthatは、文法書では、感情を表すthatと言われるもので、多くの場合、不快軽蔑の情を表わす。cf. I hate that Johnson. (ぼくはあのジョンソンという男が大きらいだ) / that old idiot McComber (あのまぬけじじいのマッコーマー)

これだけ、緻密に「修飾」や「限定」を扱った「サイドリーダー」というのはこれから新たに出版されることはないのではと思わせてくれる。このテキストの初版は1973年。安井氏の『英語学研究』 (研究社) で、「Limiting vs. Restrictive---制限形容詞について---」、「名詞修飾語群における属格」がまとめられたのが、1960年。勉強はしっかりしておくものだと痛感。
同様の修飾語群へのこだわりは、次のような –ing形の扱いにも現れている。

  • 7.23. smoked his pipe incessantly

smoke: inhale and exhale smoke of cigar, tobacco, pipe &c. (POD). smokeというのは面白い語で、He is smoking.は通例、「たばこをすっている」の意で、The volcano is smoking. は「その火山は煙を出している」の意である。が、現在分詞形を名詞の前に位置させると、「たばこをすう」の意味に用いることはできない。すなわち、the smoking volcanoは「煙を出している火山」で、the smoking manも「(体に火がついたりなどして) 煙を出している人」の意味であって、「たばこをすっている人」の意味にはならない。「煙を出す」という意味のsmokeは本来的な自動詞で、「たばこをすう」という意味のsmokeは本来他動詞であったものが、目的語の消失によって疑似自動詞 (Pseudo-intransitive) となったものであり、一般に、その現在分詞形を形容詞的に、名詞の前に用いることができるのは、本来的自動詞の場合に限られる、と一般化することができる。eat, drinkなどの自動詞用法は、疑似自動詞用法である。an eating manは「食べている人」ではなく、「食用の人間」の意で、-ing形は動名詞。incessant (=ceaseless) のin-はnot の意で、-cessant の部分はceaseと同じ語源にさかのぼるもの。

この-ingの用法に関しては、安井氏は近年でも『英語学の見える風景』 (開拓社、2008年) の、pp.142-145で、疑似自動詞や能格動詞との関連で述べている。テキスト中からは、次の2例をわざわざ示すことで、理解を深める材料を与えているのが秀逸。

  • 17. 19. gaping windows

「大きく開いた窓」 gape: (of mouth or thing compared to it) open or be open wide (POD). これだと外から中がまる見えになる。むかしの latticed window (既出) と対照的。

  • 26. 12. a quieting draught

「心を静めるひと飲み」1口飲んで心のうさをはらしたり、眠ったりすること。

先に、言及した『英語学研究』 (研究社、1960年) では、興味深い指摘が既になされている。

従来、名詞の形容詞的用法とか、代名詞、副詞、句等の形容詞用法---名称の適否は別問題として---とか呼ばれ、それぞれの品詞の項で扱われやすかった事柄や、あるいは形容詞相当語 (句) という項目で扱われる場合にも、個別的に扱われてきた事柄なども、要するに近代英語において確立されるにいたった「語順による修飾の方向」という観点から、総括的に観察することによって、いっそうよく説明され、また理解されることになるであろうと思われる。 (「いわゆる形容詞的名詞について」、pp.150-157)

某氏の「前から限定」「後ろから説明」という過度の単純化 (過去ログ参照 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110822) に比べては失礼かもしれないが、安井氏のこの論考はことばというものに対して、極めて敬虔であるように感じる。「語順」繋がりといえるのだろうか、『仕事場の英語学』 (開拓社、2004年、pp.321-322) に収められた「毛利さんのこと」 (初出『英語青年』 2001年、8月号) では、この『英語学研究』の書評にも言及されている。私にとっては素通りすることの出来ないものである。

土曜日は昼から、娘の気分転換を兼ねて車で遠い方の湖まで。
決勝・順位決定のある最終日が生憎の雨だったため、娘は国体会場を見ずに競技は終了してしまったので、天気のよくなったこの日の昼に連れ出すことにしました。到着してみると、この水域の地元の高校は既に新チームで練習をスタート。私も、規格艇を確保し、簡単なリギングまで終えてから、娘にコースを見せてやりました。レースがわかるようになるにはもう少しかかるかな…。寒くならないうちに撤収して、帰宅。夕飯は、あっさりと我が家定番の「隠元パスタ」。O農園さんの隠元なので、しっかりとした歯ごたえと旨み。手際よく炒めた玉葱の甘みもマッチ。この時期の冷やおろしで合わせてみました。

明けて、今日は朝から本業。
他県から、いつものチームが遠征に。
ピン出しで手こずっていたのですが、N先生に手伝ってもらって解決。有り難うございました。自チームの1年生は、膝の故障から復帰し、乗艇自体は5ヵ月ぶり位になるものの、非常に上手に艇を運んでいました。2週間後に選抜の県予選がありますが、今回は無理せず、着実に体力と勘を取り戻して下さい。来シーズンのインターハイ予選、菊池のジュニアに向けて、冬場にはしっかりと漕いでもらいますから。今日のフォーカスは、「ミスしても良いから大きく」「前スペースを伊勢エビのようにゴージャスに」「腹でぶら下がれ」というもの。低レートで約1時間半漕いで午前モーションで終了。
明日も午前のみ、少し強度を上げたUTでDPSを主眼としたメニューの予定。
帰宅後は、選抜予選の前にしっかりと待っている中間テストに備えて、作問天国の気配。

本日のBGM: ここにいる (中村一義)