『ふり返る勇気』

今日の表題が今年の読書納め。
なだいなだ著(筑摩書房、2006年)。発表されたものが新しいものから古いものへという順に収録されている。看板に偽りなし。真っ当である。
いつまでたっても実際の試合が始まらない某局の格闘技番組に業を煮やしブログ書き納め。
さて、
The Good Grammar Bookという文法の問題集がOxfordから出ていることは以前にも書いた。編著は Michael Swan & Catherine Walter(Amazonでレビューを書いているのでそちらを参照されたし。)
この日本語翻訳版(旺文社)を読んでみた。例文にそれぞれ和訳が必要なので2巻に別れている、というだけならまだしも、新たな項目がページの途中から始まるので、それぞれの大項目には通し番号が付いた。見開き2ページで必ず大項目は新しいページの最初から始まるように構成されていた原著の良さが台無し。
また原著ではエクササイズの最初に、必ず一題手書き文字風のフォント(Bradley Handwritingか?)で解答例が書かれていたのだが、その原著のフォントを無視してただ青字で例示してあるのみ。学習者への配慮などどこ吹く風で、ただ評判の教材を輸入して翻訳しただけある。芸がなさ過ぎる。NASAスペースシャトル級!! 原著が良い本であることは確かである。ただ、解答だけでなく日本版独自の解説をつけるなどというアイデアはなかったのだろうか。日本の学習者を想定した自前の考察はどこへ?
かつては、欧米の良書を輸入・翻訳するだけでなく、自前の考察を学習者に提供する学者がいた。安井稔氏しかり、江川泰一郎氏しかり、安藤貞雄氏しかり、吉田正治氏しかり。学習参考書のレベルでも、吉川美夫著『考える英文法』(文建書房、昭和41年)などの先達の姿勢を見習ってはどうなのだろう。
先日句動詞の話題に触れたが、『新英語教育講座 第三巻』(研究社、昭和23年)に収録されている、
桝井迪夫「構造から見た語彙と慣用句」
に興味深い記述があった。

  • 簡単な ‘out’ をとってみても ‘I was out when you called.’ では ’out of the house’ の意だし、’The fire is out.’ では ‘has gone out’の意味である。このContextがなければ ’out’ の意味はきまらない。’word in motion’となってはじめて意味がある。そこでわれわれは語の用いられる文脈をめんどうでもいちいち覚えていくことだ。’Usage’はこのように個々の用例を理解していくことによってつかまえられる。それには文法はよい助けとなる。文法は単なる規則の集積であってはならない。たえず生きた用例に裏うちされていることが大切である。この意味でUsageやIdiomはひろく文法を根抵においている。ことに語と語の結びつきは文法でも大切な問題でこれをわれわれは’Syntax’とよんでいる。(II. 語の文脈とUsage, pp.70-71)

最近の英語教育界にあって、「イメージ」「コアミーニング」というものは旧来型の「文法」「統語論」からの脱却を図る意図で市民権を得ている印象を受けるが、戦後間もないこの時期の、語彙と文法に関するこのような姿勢は、正反対とも言えるものである。実際に用いられている語彙の様相を考察するのに有益な指針として文法をとらえている。それでいて、英語ということばの本質をしっかりととらえているように感じられる。
桝井は、次のような「語の結びつき」の類型を示している。(p.74)

  • 形容詞+名詞
  • 名詞+動詞
  • 動詞+前置詞(副詞)
  • 形容詞+前置詞
  • 名詞+前置詞
  • Be, have, Get, Make, Takeなど
  • 否定の文脈 (negation)
  • 比喩 (simile)

この後、それぞれの項で珠玉の用例が続くのである。まさに、今はやりの「コロケーション」と「コアミーニング」を地で行っているようなものである。インターネットの利用やコーパスから得られたデータなどのない時代にこれだけのものが頭の中にあるということが驚きである。
勤務している英語科、学んでいる大学の先生の研究室にもしこのシリーズがあれば、古いといわず、繙いてみるのも有意義だと思われる。
松平健を少し覗いてから格闘技へ。須藤元気の三角締めの入り方にも驚いたが、引退表明にはもっと驚いた。
いよいよ2006年も残すところ数十分。今年は8月下旬にカウンターを設置したのですが、おかげさまで早25000ヒット。ブログランキングなどにはもう参加していないので、コメントでも残して戴ければ幸いです。
新年もよろしくお願いいたします。
本年最後のBGM: 幸せであるように(The Flying Kids)