用例を惜しまず積み重ねるということ-

英和辞典の最大の制約は『日本語訳』を入れざるを得ないため、英英辞典に比して倍のスペースを取られるということだ、ということはすでに指摘した。今回は、もう少し具体的に話をすすめよう。
chief という語が形容詞で用いられるとき、その用例は辞書ではどうなっているだろうか?
the chief points 主要点
my chief worry 私の最大の心配事
My chief concern now is the entrance exam.僕の現在の最大の関心事は入試だ
以上『グランドセンチュリー英和』(三省堂)
the chief priest [cook] 祭司[コック]長
the chief engineer 機関技師長
the chief cause of disease 病気の主原因
the chief thing to remember まず記憶すべき重要な事
以上『ジーニアス英和』(大修館)
the chief reason 最たる理由
his chief concern 彼の最大の関心事
a chief engineer (船の)機関長;技師長
the chief priest 祭司長
the chief magistrate行政長官
the chief justice 裁判長
the Chief Executive 最高行政官
以上『ロイヤル英和』(旺文社)
どの辞書の用例を見れば、chiefという形容詞は『最上級に等しいのだな』という実感がもてるだろうか?機能の表記方法にだけ目を奪われていては語義の肌触りが逃げてしまうことがある。このchiefのように限定用法の形容詞はなおさらである。収録語数を2万語くらいに減らせば、どの辞書も chiefの扱いを改善するくらいの余地が生まれるだろう。main / major / leading / primaryなど手持ちの辞書で確認してみて欲しい。語義が用例を通じて浮かび上がってきたり、すとんと腑に落ちるような用例になっているだろうか?一件無駄と思えるような用例の積み重ねの中にこそ、日本人を対象とする英和辞典に求められることばの真実がある。