「調子に乗っていた時期もあると思います」

全英連・山口大会も日一日と迫ってきました。

授業は上手くいかない日もあれば、順調に進まない日もありですが、「それぞれ・それなり」です。ただ、発表の日時は決まっていますから、「そのうち」ではなく、「ここまでうち」とでもいうものをお見せすることになると思います。

11月11日(金)、12日(土)に山口市で開催される、全英連・山口大会。
11日は中嶋洋一先生の記念講演と、山口県の小中高の授業発表が山口市民会館で行われます。
懇親会は11日の18:30よりセントコア山口にて行われます。

私、松井は12日の第19分科会を担当します。

  • 書くことによる英語の運動性能の養成 〜「語」や「句」のかたまりと、「文」と「文」のつながり、そして談話としての「まとまり」の観点から 〜

会場は山口学芸大学。
分科会の参加は事前登録が必要です。
参加希望・検討されている方はwebの申込みページで概要をご確認の上お申し込み下さい。
https://conv.toptour.co.jp/2016/yamaguchienglish2016/bunka.html

私の分科会は、諸般の事情で、「体育館」での開催となる模様です。実行委員会事務局によればイス席のみで、机やテーブルがないとのことですので、会場移動も含めて、参加される皆さんにはご不便をお掛けするやもしれませんが、発表形態・資料様式を検討し、できるだけ実りのあるものにしたいと思います。


さて、
私自身の全英連への参加は、私がまだ東京で働いていた頃の、2006年、工藤洋路先生の分科会発表の記録者としてサポートをしていた東京大会が最後でした。この時の指導助言者は根岸雅史先生。

私自身の発表となると、その更に前、2003年東京大会で分科会を担当しました。この時の指導助言者(モデレータ)は大井恭子先生、記録者は長沼君主先生でした。
既に13年前のことです。

今回の山口大会で私が発表する、というのも奇妙な巡り合わせですが、私の発表では、この13年前の発表で示したようなことは殆ど喋らないだろうと思います。この延長線上にあるような内容を期待されていた方には申し訳ありませんが、干支も一回り前、小学校に入学した児童が高校を卒業してしまう位の時間が過ぎていますから。

その間に、いろいろなことがありました。

今回の私の発表は、言ってみれば、
『学習英文法を見直したい』

学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

  • 作者: 大津由紀雄,亘理陽一,安井稔,江利川春雄,斎藤兆史,松井孝志,鳥飼玖美子,日向清人,久保野雅史,末岡敏明,岡田伸夫,柳瀬陽介,田地野彰,山岡大基,高見健一,真野泰,福地肇,馬場彰,大名力
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2012/07/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 2人 クリック: 17回
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拙稿、第7章での自らの問いに対する回答で、『意味順』というOSをどのように取り入れ、そのプラットフォームからどのように乗り降りして来たか、というようなものになろうかと思います。
『学習英文法を見直したい』で、私は次のように問いかけていました。

私の考える「新しい学習英文法」に求められる条件をあらためて考えます。
「一文主義からの脱却」で、「抜け出してどこへ?」という出口は2つあると思います。


・語・句など文を構成する際に「要素」とみなされているものを「主体」と捉えて考え直し、ヨコ糸 (= 個々の表現形式) 紡ぎのために適切に扱うこと。


・一文に過度の情報を詰め込まずに、文と文の繋がり、文と文のまとまりといった「談話レベル」の視点を押さえ、タテ糸 (= 談話・論理) 紡ぎの必要性を感じさせるよう配慮すること。


「コンテクスト」とか「文脈」とは言い古された言葉ですが、「文」が処理できない者には、文脈の把握は難しく、その前後の文の意味や状況設定、人物設定、その文の連なりでの発話の意図などを「日本語」や「理解の極めて容易な英語」で与えられることでかろうじて「脈」を採ることが可能になります。その意味で、初学者から言語運用を求めることによって、否応なく「談話」の「文脈」の中に身を置き、「文」を作るための「ヨコ糸」である形式にフォーカスを当てるという取り組みは、可能性を感じさせてくれますが、指導に当たっては周到な配慮が必要となるでしょう。
次の「局地戦」へと進む場合も、「森という完成された体系」を俯瞰する「鳥の目」からではなく、森の中の木々を一つひとつ学ぶ中で、より見通しの利く「虫の目」を育てていくことで森の中での行動範囲が広がり、自分の足場が均され、安心感や自信が増す、というのが学校現場での指導での落としどころではないかと感じています。

私ならでは、私の生徒たちならではの「落としどころ」と言ってもいいかもしれません。

今回のタイトルは、

書くことによる英語の運動性能の養成
〜「語」や「句」のかたまりと、「文」と「文」のつながり、そして談話としての「まとまり」の観点から〜

というものです。敢えて、「パラグラフライティング」ということばは使っていません。

いまだに、「和文英訳とパラグラフライティンの二者択一で悩む」とか「大学入試対策としての英作文指導ではパラグラフ・ライティングは必要ない」とか口にする人は、殆どいないとは思うのですが、そう言う人たちは、13年前に時を遡って、当時の発表資料を読んでから、拙著でもある『パラグラフ・ライティング指導入門』(大修館書店、2008年)をお読みになることをオススメします。でも、この『…入門』でさえ、既に刊行から7年以上が経っていますから。

今回、2003年当時の資料の公開に当たって、フォントを改めた他、最後の連絡先を新しいものと差し替えましたが、それ以外は全て2003年当時のままです。当然のことながら、参考文献などはその当時入手できるものしか書いていませんので、期せずして(?)絶版ということもあろうかと思いますが、ご了承願います。

2003年 全英連東京大会発表資料
Evaluating Teaching Writing (2003)
2003年 全英連東京大会 第15分科会資料(松井).pdf 直

無料でダウンロードできますし、パスワードもかけませんので、ご自由にお読み下さい。

「グローバル化」の急速に進む日本の英語教育現場において、この13年前の実践知はもう、過去のものとなっているのだろうと思います。

ただ、引用の場合には、「アレンジした」とか「カスタマイズした」とか言わずにきちんと「出典」を示して下さい。また、二次使用に際しては、商用の如何を問わず節度あるメールでご相談いただければと思います。


それでは、山口でお会いしましょう。

本日のBGM: 道 (宇多田ヒカル)

「パブリックコメント」提出!

「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめへの意見」を提出しました。
以下、提出内容です。

「小学校」に関わることと、「外国語」に関わることで、2件提出しました。

個人情報は割愛。

氏名: 松井孝志 
職業: 高等学校英語科教諭


分類番号 3 小学校

要旨
1. 小学校で英語を2020年度に教科化するという拙速な計画は止め、全教科科目の中での授業時数の調整、教員養成も含めた十分な議論を引き続き行うこと。

2. 小学校3年生からの外国語活動導入に伴い、小学校5年から「書く」ことの指導を行う場合には、一斉実施(完全実施)ではなく、「学年進行」で、小学校3年から外国語活動を実施してきた学年が5年生になった時に初めて行うよう、計画を変更すること。


小学校英語活動の教科化に関連して

• 小学校英語を教科化できる下準備が整っていることを示す具体的な材料には何があるのか?
• 全国に約2万校ある小学校全てで教えられる教員は確保できているのか?養成は間に合うのか?
• 小学生にモジュールで教えて身につくのなら、中学校の英語もモジュールでいいのでは?
• 教員がいないからといって「DVD」で大丈夫なのか?もし大丈夫なのであれば、中学校の英語もDVDでいいのではないのか?
• 授業は細切れの「モジュール」をつなぎ合わせて何とかなるかも知れないが、評価はいつ、どのように行うのか?
• 45分連続の一回の授業と、モジュールで短時間の帯で実施する授業では活動が異なるはずだけれども、その到達度の指標となるCan-doは別物として作るのか?もしその二つの物差しが別物だとすると、身についた「英語力」も異なることになるのか?
• 教科化が取り沙汰されてから、民間の教育産業が地方自治体と提携して、「教材」を一括採用するケースが続出しているが、教科書検定制度の守備範囲外の小学校の英語に関して、教材の質や採択に当たっての公平性、客観性は担保されているのか?
• 文字指導に関連して、現在の外国語活動の指導では「音韻意識」の育成にも中途半端で、「手書き文字」の指導の体系が全く示されていない状態で、高学年で「書くこと」を取り入れることは、あまりに拙速で混乱や被害が大きくなることが懸念される。英国の National Handwriting Association で提唱している一連の指導手順、体系、左利きの児童やディスレクシアの児童への配慮など、発達段階を考慮した「文字」の扱いと、視認性が高く、手書き文字とのギャップの少ないフォントの採用や四線の間隔で、baselineとx-heightの間隔が、他の間隔よりも広くなった書式で練習するなど、英語が母語の国の初等教育で効果をあげている指導方法を積極的に取り入れるべきである。
• 仮に、小学校5年で「文字指導」を行うとしても、それ以前の学年、例えば小学校3年から現行の「外国語活動」のような指導を行い、その指導を踏まえた上で、児童が学年進行で、小学校5年生に進級してきてから行うこと。


分類番号 19 外国語

要旨

1. 「これまでの審議のまとめ」で述べられた有識者の意見の中で、「高3英語力フィージビリティ調査」の結果に基づいているものが多々見られたが、それらの意見の前提となる「フィージビリティ調査」には問題点が多く、調査そのもののフィージビリティが担保されていない。

2. 高等学校の科目再編で、とりわけ「書くこと」に関連した「論理・表現」の指導内容・目標の設計で、「高3英語力フィージビリティ調査」の結果に基づいた考察がなされているとすれば、それを一旦白紙に戻して、書くこと、話すことの「専門家」である大学の研究者の知見を取り入れると共に、高校現場での実践者たる優秀な教員の助言のもとに、「書くこと」に関するきちんとしたテストを設計・実施し、再検討すべきである。

3. 2020年に新指導要領を実施するという「改訂時期ありき」の議論ではなく、教育内容と方法の「改善」のための議論を進めることを求める。


高等学校の科目再編に関して

・ 現行の「コミュニケーション英語」と新課程の「英語コミュニケーション」の対応に大きなギャップがある。現行の「コミュニケーション英語基礎」では、習熟度の低い生徒が「学び直し」で履修する科目として設けられたにも関わらず、検定教科書が複数存在しないために、授業シラバスなどが絵に描いた餅で終わった学校があったように聞いている。今回、そのような習熟度の低い生徒を想定した「学び直し」の科目を設定しないのは、「英語コミュニケーション I」の中で吸収せよということなのか?その場合、「英語コミュニケーション I」を、学び直し想定で履修しする生徒用に、難易度や達成度を低く設定した教科書が検定を通る、という認識でいいか?さらには、その生徒たちが上級学年で履修できる「英語コミュニケーション II」の教科書も同様に検定を通る、という理解でいいか?
・ 現行の「英語表現」の「 I 」の教科書が、ことごとく「文法シラバス」の教科書となったのは、指導要領の趣旨を教科書検定で反映させられなかった、検定での失策・失政だと思われるのだが、その反省や改善なしに、「論理・表現」といったお題目だけを掲げて「発信力強化」を謳っても、絵に描いた餅に終わるのではないか?
・ 26年度、27年度と数万人規模で「高3英語力フィージビリティ調査」を行っていたが、一民間企業に丸投げしたと思しき設問で、とりわけ「書くこと」においては、テスト問題そのものに問題が多い。
・ 26年度は第1問「聞き取り要約」、第2問「課題作文」。
・ 27年度は第1問「課題作文」、第2問「聞き取り要約」。
・ 受験者の心理的、認知的な取り組みやすさを考えると、27年度の順番に解答した方が、力を発揮できるのではないかと思われるが、この2つのテストの結果を「同じ物差し」で評価分析してもいいのだろうか?
・ 26年度当初の計画では、テストの対象はCEFRで、A2-B2の英語運用力を測定すると明示していながら、ライティングで0点が大半を占めたテストの結果が速報で出てから、正式な報告書が出されるまでの間に、A1-B2へと何の断りもなしに下方修正されていた。この経緯を見るに、そもそもテストの対象の設定、問題の設計、テストデザインに大きな欠陥があったと思わざるを得ない。その部分の反省が、27年度のライティングのテストで設問の順序が変わっている部分に活かされたのだろうか?だとしたら、同じ試験として評価・分析するのに無理があるだろう。
・ そして、その二年分の「フィージビリティ調査」の結果に基づいて、新課程の科目再編の叩き台が作られているとしたら、少なくとも、「書くこと」においては、現行指導要領下での教育成果の評価分析が適切になされていないわけであるから、その不適切な根底・前提に基づいた全ての議論は、新課程の立案に活かされるべきではない。
・ 以上の観点から、現在の「叩き台」で示されている、2020年という合理的整合性のないタイムリミットに基づく計画は一旦白紙に戻して、書くこと、話すことの「専門家」である大学の研究者の知見を取り入れると共に、高校現場での実践者たる優秀な教員の助言のもとに、「書くこと」に関するきちんとしたテストを設計・実施し、再検討すべきである。

以上です。

パブリックコメントの受付は今月7日まで。お急ぎ下さい。

「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」に関するパブリックコメント(意見公募手続)の実施について

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000847&Mode=0

「意見提出フォーム」を開くと、ブラウザによっては「証明書が信頼できません」といってエラーメッセージが出る場合があります。私の場合、火狐ではエラー、クロームではOKでした。

フォームでの入力の際は、「機種依存文字」がエラー扱いになります。分類番号は丸数字で示されていますが、丸数字ははねられてしまうので、お気をつけ下さい。

ことばの器、ひとの器

tmrowing2016-09-26

またまた久々の更新となりました。
この間のエポックといえば、何といっても、全英連で指導助言をお願いしている京都大学の田地野彰先生に授業を見ていただいたことでしょう。
これまでにも、あれこれ行ってきた「活動」をDVDで見ていただいてはいましたが、実際に教室でどのような「学び」が生じているのか、あるいは生じていないのかを見てもらうことの意味は大きいですね。
今回は、意味順のプロジェクトを田地野先生と一緒に進めている、豊橋技術科学大学の笹尾洋介先生も遥々山口まで来ていただきました。
文化祭の準備など、時間割の都合で、高1と高3の授業と土曜日課外を見ていただき、高1の(再)入門期にあたる、単文での「意味順」導入直後から、高校の出口に近づいたとはいえ、まだまだ中級の壁の厚い、高3での「つながりとまとまり」のある英文産出での、「あんなこと」「こんなこと」「そんなこと」まで。

今回の全英連で扱うメインは、高3の「つながりとまとまり」ということですが、そこに至る様々なアプローチ、ベースとなるものが高1の授業の中で種として撒かれていたり、畑の土として耕され続けたりしていますので、高1も見ていただいて本当に良かったと思っています。

詳しいことは、11月に山口に来ていただくとして、高1の授業日誌から。
「キング牧師」の話を読んだり、「チャンク切り出し可変」での対面リピートをしたりした後で、「意味順」のテキストと連動して、既習事項との対比を主として、所謂「不定詞」による名詞句の限定表現と、動詞want, tell, askの用法を整理している時に出た、生徒の疑問から二つ。

ひとつは、「こっちでは be なのに、どうしてここでは become なのか?」
もう一つは、「同じ『何か』なのに、こっちではsomething で、どうしてここではanythingなのか?」

どんな文(文章)での疑問か、分かりますか?
教師であれば、また教師でなくとも、既に一定の英語力を身につけた人には、「なぜそんな疑問を?」と思うような質問ですが、本人、当人はいたって真面目です。

何を見て、何に意識が注力され、何を見ていないか、何を見逃しているか。

野球での見逃し三振とは違って、学びにおける「見逃し」は、自分ではなかなか気づかないものです。

  • いや、だって、ここに気づきさえすれば簡単じゃない!

と言っても、そういったポイントをことごとく見逃し続けて、気づき損なって来て、今に至るわけですから。

見えていなかったその「何か」に気づかせる、可視化する仕組み、として「意味順」は可能性を秘めていると思いますよ。


一つ目の疑問に対して私が答えたのは、

be動詞は「です」以外にも、「ある・いる」という存在や、「なる」という変化を表わすこともできる。この変化での「なる」の仲間には、become, get, turn などがある。
I want to のあととか My dream is to のあとに続ける動詞(の原形)には、個人的には、becomeよりも beを使っている。

こんなグラフを見せなくても、まあ、分かってもらえたと思います。


be vs. become.png 直

補足したのは、次の例文。これは次回以降への伏線を張る目論み、欲目です。

Don’t forget to be here at 8:30 tomorrow. という文は、「いまここ」にいる人に向かっての指示。一旦解散し、帰宅してから、明日「再び」ここへ集合する、ということだから、ここでのbeは単なる「存在」ではなく、「移動」とか「到着」という意味を表わしている。

二つ目の疑問に対しては、まず、「助動詞の番付表」で「平幕」と読んでいる助動詞の do の働きを説明。そこから、

some は「思惑」で「枠」を設定するのに対して、anyは「ゼロでなければ何でもアリ」。この文の場合、not がanyを否定するから、「ゼロ以外は何でもアリ」を否定したら、「ゼロ以外は何もなし」つまり「ゼロ」ということ。

という展開。折角、生徒から疑問が出たのに、クラスに投げ返して皆で考えたりしないで、教師の一方的な解説です。全然、「アクティブラーニング」的なことはやりませんでした。だって、ここはメインのターゲットじゃないですから。「何に気づき損なっていたのか」に気づくために「何を見えるようにしてやるのか」ということです。

クラスに投げ返すのはそこから、

砂漠で遭難したことがある人?

お小遣いの値上げ額が1円で喜べる?

という質問を浴びせて、異なる場面で、自分の理解を試す機会を設けました。それでも、骨折り損のくたびれ儲け、で終わる生徒がいない保証はありません。そういうものですよ、授業って。

『意味順テキスト』のトレーニング問題の音読を経て、小学校での「英語」に関するアンケートをとって、次回への伏線を張り終了。


高3は、シラバス上はa descriptive paragraph [passage] ということで、定番の「福袋」課題と、そのためのアイデアジェネレーションの手法である、cubingへの習熟、が狙いです。
この前には DCT (discourse completion task) もいろいろやっていますが、今回は、グループ課題、ペア課題で和文英訳。

参考資料として、所謂「アニメオタク」が世界から買いに来る福袋のニュースとか、オンラインストアでの福袋の説明など、英文の記事を与え、そこから、使えそうな表現を拾い集めることを求めています。
とはいえ、直ぐにまとまった英文が完成するほど習熟度は高くありませんから、辞書の用例などをまとめてプリントアウトしています。

アプリ辞書で「物書堂」の辞書は、用例検索で、英文と和文のキーワードを同時に入れて絞り込めるので、ヒットした用例をスクリーンショットに撮ってプリントアウト。良い時代です。

当然の如く、私が授業を立案する際に想定した「英文」はあるわけですが、その想定のナナメ上に行く生徒(ペア)も出てきますから、頑張り甲斐はありますよね。

今回は、

  • Consumers choose and buy fukubukuro before they know what is in it.
  • They can tell their fortune for the year when they open it.

なんていう英文も出てきました。主語や人称代名詞は、前後のつながりとまとまりを眺めて修正していく必要がありますが、それもまた「意味順スロット」に入れることで「見えて」来ますから、四角化が身についていると、意味順が更に活きますよね。

田地野先生、笹尾先生と楽しく「反省会」も開いて、緊張と充実の授業参観の週末も終了。
今まで知らなかったあれやこれやの話もお聞きしましたが、何を聞いたかは「ナイショなのさ」。

田地野先生、笹尾先生、本当にありがとうございました。

今回、久しぶりに自分の授業を「生」で見てもらって、「良い授業」「良い実作」を積み重ねていくしかないな、という思いを強くしました。

生徒が自分の英語を創り育てる場が授業であり、そういう授業が成立するには、教師の「言語観」が重要な意味を持つと思います。「意味順」を授業に活かすには、まず教師の頭と心を柔軟にすることから。

笹尾先生には語彙研究の専門家の立場から、生徒にも学習上のアドバイスを頂いただけではなく、私の質問にも答えて頂けて本当に感謝しています。

田地野先生の「笹尾先生は覚え方の専門家、私は忘れ方の専門家」というジョークに皆笑っていましたが、「でも、人間の脳は、覚えた以上に忘れることはできない。うまくできてますよね。」という言葉には、癒しというか、赦しがあるなあ、と実感しました。

田地野先生は学問の探求には厳しいが、生徒の学びを見る目は優しい人なのだな、という思いもあらたに。人としての器に余裕があるからこそ、とも。

全英連まで、残りひと月半。私が一番楽しみにしていますかね。
縁がありましたら、山口でお会いしましょう。

本日のBGM: Can't Give You Anything (But My Love) / ムジカ・ピッコリーノ『Mr. グレープフルーツのブートラジオ』より

別冊と別格

tmrowing2016-09-17

9月に入って、学校行事と台風でなかなか授業は進まないと悩んでいたら、更なる台風が迫ってきているというので、ムリせず安全運転を心掛けています。
来週は田地野先生も授業視察に来られるので、全英連に向けて、成果(らしきもの)と課題を少し明確にできればと思っています。

高3は、ここまで受験対策の演習らしいことをしてこなかったのですが、今週は「語法」を取り上げています。

もともとは高2の、所謂「準動詞」の指導で作っていた資料に、今春の卒業生が最後まで克服できなかった項目を加味して、高3用に作り直したものをベースに授業しています。

『グラセン和英』の巻末にある「基本文型表」を、丁寧に切り離して、持ち運びできるようにする作業から。
「別冊」付録にしてしまうわけですね。
紙が上質になったためか、薄くなり、以前よりも多くのページ数を束で綴じられるようになったのでしょうか。旧版と、切り取れる頁がちょっと変わったように思います。現行の第3版では、「ろ」の最初から切り離しになりますね。

「基本文型表」から動詞を中心とした項目を取り上げて、意味と例文の確認。異なる形合わせとその背景を解説。
並行して、綿貫陽『英語語法の征服(改訂版)』(旺文社、1996年)から、該当する項目を抜きだし、例文と解説を照らし合わせています。

suggest
admit
insist (on)
recommend

などがテストで問われる際には、<主節の動詞が過去形で、従節の主語が三人称単数形>というお膳立てが多く見られます。そして、従節の述部・動詞句にあたる選択肢に should原形 や直説法で現在時制の動詞句がなく、原形のみが正解となるように作られていたりします。泣きたくなりますよね。

あなたが insist する時、「主張する」ならどんな場面で誰に何を言う時で、「強要」するとしたら、どんな場面で誰に何を言う時?

というようなリアリティを感じる余裕もなく、上述の情報を処理して瞬殺で正答を得る生徒が「偏差値の高い」生徒と見做される英語教室は、そろそろ無くなって欲しいものです。

私のiPadのアプリ辞書には「物書堂」のものが入っているので、用例検索。

主張 insist

を入れると、6例ヒットします。そのうち1つは、insistence なので、除外して5例の日本語訳を。

私たちはメリーが指導者に選ばれるべきだと主張した。
その権威者はこれはある王の墓であると熱っぽく主張した。
ジョンは自分の無罪を主張している。
自己の権利を主張する
彼は無実を主張した。

5例しかヒットせず、そのうち2つはほぼ同じ。insistで「主張する」って、あんまり活躍できそうにないことばなのでしょうか?
もう一方の「強要する」「強く要求する」はどうでしょうか?
「強要」とinsistで検索しても、一例もヒットしません。「強」だけで検索すると、

insistence
insistent
insistently

の例が5例のみ。

insist のみの検索で現れる例を丁寧に篩にかけていくと、

そのレンタルビデオ屋は彼に紛失したビデオを弁償するよう要求した。
彼女は私にもう少し長くいてとせがんだ。
そこへ行くことにアンはこだわった。
私はメリーが一人でそこに行くべきではないと言い張った。
彼は私と一緒に行くと言ってきかなかった。
彼はもう1割まけてと頑張った。

という現実味が少し増したような例が見つかります。困ったことに、例文の訳語が全部異なります。これらを全て統合して insist の語義を掴み、語法を整理するには結構センスがいるのではないかと思います。

「物書堂」には『コウビルド英英和』の米語版もあります。そちらで「主張する」とinsistの二語で検索してみました。

なんと、28例のヒット。「主張」の内容も様々です。これだけ多いと、そのことばの「生息域」も感じられるかも知れません。いくつかかいつまんで見てみます。

停戦の条件がそろわない限り、その紛争は止まないと彼は主張した。
政府は景気回復には信頼感が前提条件であると主張した。
労働者たちは新しい制度には柔軟性がなさ過ぎると主張した。
大統領は、彼は同情の念から行動しているのであって、政治的なご都合主義からではないと主張した。
彼はこれらの写真は芸術ではなくわいせつ物だと主張しました。
私たちは最終的に彼は精神科の助けを求めるべきだと主張した。
ショーン・コネリーは新作映画のスタントを危険をかけて自分で演じると主張した。

「主張」という訳語がつく例文であれば、『グラセン和英』で「強く要求する」に該当する例も、この検索で一緒に出てき(てしまい)ます。
実際の英文で「語法」を分けても、「日本語訳」をつけてしまうと同じになるのでは、使い分けは難しいですよね。
コウビルドの定義だと、
「強く要求する」が先で、

If you insist that something should be done, you say so very firmly and refuse to give in about it. If you insist on something, you say firmly that it must be done or provided.

とあり、「主張する」には、

If you insist that something is the case, you say so very firmly and refuse to say otherwise, even though other people do not believe you.

という定義があります。

「○○はありますぅっ!」という場合は、きっと、この後者の定義に当て嵌まるでしょうね。



今回の「語法」の吟味は、問題を解くのではなく、例文の比較で意味を実感することが狙いです。

昨日は、さらに、基本語の「イメージ」「フィーリング」という切り口で、『エースクラウン』(三省堂)のフォーカス頁にある図解を確認しました。

所謂「基本動詞」や、前置詞・不変化詞は『エースクラウン』のフォーカス頁はかなり良くできていると思うのですが、

avoid
escape
escape from

などでは、図解はありません。
では、どう実感するか?

学級文庫にある『政村本』の図解と比較をしてみました。
いや、これらの語句にも図解や解説があるのですよ、『政村本』には。
生徒も、改めて『政村本』の凄さを感じたことと思います。
「別格」ですね。
語義を実感するための、他の語句と識別・区別するための、現時点での補助輪・補助線としても機能するし、これからの英語学習に役立つ、転ばぬ先の杖にもなるかもしれません。

そんな『政村本』ですが、出版社の事情で、現在絶版です。

図解 英語基本語義辞典

図解 英語基本語義辞典

なるべくしてなる絶版も確かにありますが、今目の前にある、流通している良書をちゃんと見つけて、見極めることのできる人が少ないうちは、トンデモ本を掴まされ、躍らされ、英語力は頭打ち、という物語りがいろんなところで展開されているのではないかと思います。残念なことです。

先日、「呟き」の方で、アンケートをとってみました。
全て私が持っていて、高く評価している絶版本です。(1冊、オンデマンドで製本依頼が可能なものを含みます)

英文解釈・英文読解

[file:tmrowing:解釈読解復刊希望.jpg]

英文法

[file:tmrowing:英文法復刊希望.jpg]

英作文

[file:tmrowing:英作文復刊希望.jpg]

それぞれでの絶版書で復刊を希望するもの、の投票結果です。
懐古に耽るためにアンケートをとったわけではありません。
英語本、英語教材を見る「目利き」に求められる資質を、絶版本の評価で伺い知ろうと言う目論みです。

この「呟き」のアンケートでは、「高3英語力調査」に関連したものもほぼ同じ時期に行っています。
そちらの結果は、また日を改めて。

本日はこの辺りで。

本日のBGM: Open Book (Stephen Duffy and Lilac Time)

晩成者

以前にも、嬉しい便りが舞い込み、紹介したことがありました(http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110615)が、先日、こんな便りが届いたので、ご本人の了解を得てご紹介。個人情報に深く関わる部分は非明示的に、あるいは部分的に修正しています。

松井先生

こんばんは。突然のご連絡失礼いたします。

ある日、FBで偶然、松井先生がKECの投稿にlikeされていたのを目にして、もしかしたら、あの松井先生では?と思い、えみさんにご連絡をしてみたら、本当に松井先生ご本人だった、ということでその後、松井先生ブログを拝見しております◯◯高校◯期生、元軽音部のXXXと申します。

NYの神谷えみさんとは、以前私がフリーランスの△△△をしておりました20XX年に、□□□をご依頼いただいたことがきっかけでお世話になっております。

私は英語が好きで学びたいと思い、◯◯高を志願したのですが入学早々に英語に躓いてしまいまして、松井先生がご担当されていらした上級向け、かつ、とても充実した英語クラスを受講できるまでのレベルに至らず、当時軽音部の顧問だった英語科のK先生を訪ねた際に、英語だけでなく、音楽とドリカム (母校が一緒、でしたよね?) と紺野美沙子さんLOVEな松井先生のまた違った一面を拝見して、毎回ほっこりした気持ちになりつつ、職員室を後にしたのを今でも覚えております。

ちなみに高校卒業後、とあるバンドに影響を受けて私自身8年ほど音楽活動をしておりましたが、そのバンド、benzoの平泉光司さんが松井先生と繋がりがあられることをひょんなことから知りまして、これまた人の繋がりや出会いってすごいなぁなんて勝手に感動しておりました。

話が脱線しすぎてすみません…。

n 歳になった私は、結局思うように英語が伸びなかったのですが、それでもまた、英語を改めて学びたいと思い、高校の頃に使っていたテキストなどを引っ張り出しつつ、松井先生がブログに掲載されているオリジナル教材を使わせていただきながら、コツコツと英語に向き合っております。

先生がご異動された後も、先生の授業を受けてみたかったと思っていたのですが、実際の授業とはいかなくとも、こうして松井先生の教材に触れて学べたり、先生の英語に対する思いが拝見出来るブログに出会えたこと、とても嬉しく感じております。

いま、台湾で仕事をしておりまして、英語も中国語も中途半端な私ですが、もっと自由に母国語以外の言語というツールを使って、よりスムーズにコミュニケーションが取れ、様々な情報を得て視野を広く持てるような人間になれたらと思っています。

いつも充実した内容を発信してくださってありがとうございます。
これからも先生のブログ、楽しみにしております。

長文失礼いたしました。

XXX

ありがたいことばです。
私は彼女のクラスは受け持っていなかったと思うのですが、その後のメールのやりとりで、担当はしていなかったことを確認。ただ、一度だけ、教科担当者の出張か何かで、彼女のクラスに「代講」に行ったことがあり、授業をしたことがあったとのこと。しかも、その時の授業の様子を覚えていてくれたこともまた嬉しかったことのひとつですね。

私から彼女へのメールには、こんなことを書いていました。

語学は、ある程度人生経験を積んでから取り組んでみると、意外にスッとハードルをクリアできたりもするので、ネット上に良質の素材が転がっている今の時代は、学校に縛られない学び、運用の可能性が開けていると思います。

以前から感じていたことではありますが、最近は結構本気でこう思っています。
とかく「テスト依存」で、せっかく目の前に学ぶべき「師」、同じ時空を共有している「学び手」としての同輩がいるのに、その環境を活かせないのというのは、中高生の年代ではもうしかたないことなのかもしれません。

でも、「おとな」になってからも、テストに縛られる必要は全くないと思うのです。
ただ、やり直し、仕切り直し、学び直しをしようという時に、「何が英語ということばの肝なのか?」「英語ということばの生態、運動性能、生息域とは?」で、やはり悩むことが多々あろうと思うのです。生徒には「悩み処では悩み、躓き所では躓いておきなさい」とは言っていますが、そんな時に、悩みからの一歩、立ち上がってからの一歩を踏み出す拠り所として、私のブログで紹介している「教材・学習材」や、授業での取り組み、解説などが役に立つことがあるのなら、本当に幸せます。
今後ともよろしくお願いいたします。

そうそう、
benzoにインスパイアされたというのも素晴らしいです。
因に、私が世界で2番目に好きなベーシストが伊賀航さんです。


さて、
台風の影響と体育祭の準備で、授業のコマ数が減った今週ですが、「いまここ」の実作も紹介して本日は終了。

毎年高2あたりで整理している項目だけれど、今年は高2の2学期早々の授業で扱いました。

準動詞の肝2016.pdf 直

同じものを「呟き」の方でも紹介していて、結構な反応があり驚いています。まあ、私の授業では「書き換え」とかやりませんからね。所謂「分詞構文」の扱いも、書き換えばかりやっていたら、ことばのセンスがどんどん劣化していくと思いますよ。


高3の「クリエイティブ英語」は、descriptive passage の概論。
Discourse Completion Tasks と「イカソーメン&シャトルラン」を経て(というか、シャトルランよろしく、行ったり来たりして)、ライティングと向き合う時間です。

descriptive passage とcubing.pdf 直

そういえば、私のライティングのシラバスが、今のような「テクストタイプ別の指導&テクストタイプに応じたそれぞれのアイデアジェネレーションからプロセスアプローチ」という形におちついたのが、XXXさんの高校で教えていた頃でした。

さりとて回顧に耽らず、暖かいとろろ蕎麦を食べて、いつものように就寝。
明日はリハーサルだけど、天気が心配。

本日のBGM: 雨は手のひらにいっぱい(2015 Remix) / Sugar Babe

”because you turned me upside down”

リオ五輪も終了。夏期課外講座も、夏期休業中の担当分は終了。
五輪については、競技スポーツのコーチとしてイロイロと感じることがありますので、また日を改めて書こうと思います。

今日は、生業の課外の振り返り。

高2の学級文庫活用がどの程度だったかは二学期の授業での生徒諸君の取り組みが教えてくれることでしょう。

私の場合は「名詞句の限定表現」から「助動詞と時制・相・態」に進みつつ、「意味順」を文法指導の中心に据えてシラバスを組んでいるわけですが、意味順のそれぞれの「スロット」に、どの語(句)を入れるのか、での悩み処というのは当然出て来るわけです。

高1の時の「虫の目」で、「そういうものなのかなぁ…」と渋々扱ってきた言語材料も、高2になって、同じ虫でも森の高台に立って見晴らしを得た段階や、鳥までは行かずとも、羽を持ち少し高く飛べるようになった虫なら「見える」ものがいろいろ出て来ます。

例えば、

慣用表現で覚えていて使いこなしているであろう、

  • Where are you from?

という表現も、「文」の構造として、意味順のスロットに入れる時に、ちょっと「ムムっ」となります。「どどいつ」の「どこ」にあたる <前置詞+名詞>のうちの、名詞だけが疑問詞として文頭の「玉手箱」へと移動するわけですから。
意味も分かっていて、使えるけれども、「しくみ」を問われると、ちょっとドマドマする例でしょう。
一方、「しくみ」としては、いたって簡単な次の例はどうでしょうか?

  • Where are you?
  • Where are we?

「どどいつ」としての<副詞>の扱いですから、あまり悩まずにスロットに投入可能でしょう。でも、このそれぞれの文の生息域は実感できているでしょうか?誰が、誰に対して、どこで、いつ、どんな風に、どうして言っている文なのか?

答えになるかどうかわかりませんが、私の授業での定番教材は『オズの魔法使い』なんですよ、とだけ言っておきます。


単純な「しくみ」としては、「受け身」「受動態」の文での、前置詞の扱いも「悩み処」でしょう。

  • People all over the world were surprised at the news.

で、述部の「する・です」の動詞句のスロットに何を入れるか?です。
生徒には、

a. were surprised at を「する・です」スロットに入れて、その次の「だれ・なに」スロットに the news を入れる。
b. 「する・です」スロットには were surprisedだけを入れて、その次の「だれ・なに」スロットはとばして「どどいつ」のスロットに at the newsを入れる。

という二つの「案」を示して考えさせています。
私の授業では「どどいつ」と読んでいる「副詞(句・節)」の中には、「どうして?」に相当する語句も入りますので、

  • I’m so glad to meet you.

という英文での、 to meet you は「うれしい」のは「どうして?」の合いの手を入れて、「どどいつ」のスロットに入れていますから、ある程度英語の姿が見えてきた高2(あくまでも私が今教えているクラスの話ですよ)だと、上述の受け身も、プランbの方が「頷くことの多い」考え方となります。
当然、when やbecause などの接続詞に導かれる「副詞節」も、この延長線上で扱うことになります。

接続詞で文が長くなると、「意味順」では、「二階建て」や「三階建て」にするわけですが、住宅建築とは違って、下に階を重ねていくことになります。これは、私も慣れるのにちょっと苦労しました。副詞節の場合は、並び順で最後のスロットである「どどいつ」のスロットに接続詞だけが入り、その下の階に、SVが並ぶことになるので、建て増し増し…していくことになります。ここが悩み処です。

  • On July 20, 1969, as the whole world was watching, Neil Armstrong left his spaceship and walked on the moon.

文としては、頭にある「イントロ」や「スポットライト」の「どどいつ」を扱う際、一番右のスロットに入れるのに抵抗があったりします。「玉手箱」としてのスロットを使う場合に、副詞節を導く接続詞を入れるか入れないか、も悩みます。
この文の場合に

  • on July 20m 1969 と as SV は同じ「どどいつ」のスロットに入れるのか?
  • 等位接続詞のand を玉手箱に入れるとしたら、 as SV も 玉手箱でいいのではないか?

ということを考えた上で、 最小限の建て増しで済むように、as SVのas は玉手箱を使っています。

その場合に、as と and の機能の差を、どのスロットに入るかのみで識別することが困難になるので、私の授業では、接続詞は○で囲む、という補助的な記号付けをすることと、並列やペアはナンバリングをすることで対処しています。

文頭の接続詞が if やbecause の場合には、「どどいつ」での「どうして」や「どのように」「どんなふうに」「どれくらい」という日本語の「意味」がうまくあてはまらないので、「玉手箱」を用意して、スムーズに文をスタートしておくことの方が大事かな、というのが現状認識です。

こんな手順で進んでいくと、ある程度進んで、振り返り、見渡し、見晴らして「それまでのルール」を修正していくことを余儀無くされるのですが、多くの学習者にとって、(さらには、少なからぬ指導者にとっても)これはなかなか「キツイ」のだろうな、とは思っています。ただ、言葉の学び、ってそうやって、アップデートしていくものなのでね。「デジタルネイティブ世代」で、アプリが頻繁に更新されるのに慣れている生徒には理解可能な比喩かな、とも思います。


今年度の高3は、DCTを一度経験してから、「イカソーメン」と「副詞節シリーズ、マッチングでの対面リピート」をやっています。

イカソーメンは、「つなぎ語」が多用されていなくても、「この順番で並べないとダメだよね」ということが分かる「素材文」を用意することが大事です。
今回イカソーメン導入に使ったのは、こちら。

Title: The enemy, man
0. Man is an enemy to many animals.
1. Baby seals are caught and killed for their skins.
2. Crocodiles are also caught and their skins are used for handbags and shoes.
3. Elephants are destroyed for their ivory that is used for jewelry.
4. Whales are hunted for their oil.
5. Whole species are being endangered for fashion or human desire.
(Ruth Wajnryb (1990). Grammar Dictationより一部改編)

0を提示して、1から5までを整序させるか、0から6までを整序させるかは、グループの人数にあわせて微調整します。

Generalな情報提供 からspecificな具体例での「列挙」の部分の処理をした上で、「まとまり」を作る最後の文へと繋げることができるか、を見ています。
このパラグラフだと、動物の例は、大きさを基準として、小から大へ、という順序となっています。

次の例では、締めくくりへと向かう最後の3文の並べ方が大事です。
(Ruth Wajnryb (1990). Grammar Dictation より一部改編)

Title: Yuri Gagarin

0. It is nearly fifty-five years since man’s first flight into space.

1. This was performed by the Russian, Yuri Gagarin, a farmer’s son and father of two.

2. Gagarin became a hero not only to the Russians but also all over the world.

3. His life was cut short in a tragic plane crash in 1968.

4. However, his name is kept alive in the many streets and parks.

5. They were named to show great respect for him.

オリジナルでは、最後の2文は関係代名詞を使った簡潔な一文で示されていましたので、整序完成したあとで比較検討です。howeverでの対比での焦点を考えると、関係代名詞を使うことで、メインの動詞の時制が遡らずに締めくくることの出来るオリジナルの方が優れていると思います。

  • However, his name is kept alive in the many streets and parks that were named in his honor.

とまあ、こんな具合に「つながりとまとまり」を行きつ戻りつですね。

副詞節のマッチングに関しては、過去ログの、

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151028

や、有嶋宏一先生のブログなどをご覧下さい。

http://arishima.hatenadiary.jp/entry/2015/01/18/072726

本日はこの辺で。

本日のBGM: Yesterday, when I was drunk (Gangway)

「素晴らしき世界」のために

リオデジャネイロ五輪も佳境。

日本代表のメダルの数に一喜一憂するのはメディアにまかせて、スポーツ人たる者、どの国の選手であれ、良いパフォーマンスに拍手を送り、勝利を祝い、健闘を讃えたいものです。
ネットでの記録動画配信やアプリで放送と同時に配信というこれまでの五輪では経験できなかった「見方」ができた大会でもありました。国に拘らず、全競技全試合オンデマンド視聴とかができる日も近いでしょうか。巨額の放映権料を考えれば、CMの広告収入に頼るより確実ではないかとも思います。
私の本業でもあるボート競技は、男女とも軽量級ダブルスカルという種目に出漕。女子が12位、男子が15位という結果に終わっています。日本で最も速いクルーが五輪に臨んでの結果ですから、真摯に受け止めつつ、選手、コーチングスタッフ、バックヤードのスタッフにお疲れさまでした、と言いたい気持ちです。
今大会で個人的に一番注目していたのは陸上の男子100mに出場した山縣亮太選手でした。前回のロンドン五輪から4年越しで自己ベスト更新。決勝進出はなりませんでしたが、インタビューでの受け答えも、自己分析・自己評価が的確で爽やか。「大人だな」という印象で、人間としての成長がパフォーマンスの安定を生む好例だと思いました。東京五輪(がもし予定通り開催されればの話ですが)まで続けてくれると嬉しいですね。


さて、
英語教育関連分野で、「小学校英語教育」とでもいうカテゴリーがあります。「児童英語」とか「早期英語」ではなく、「小学校英語」。そうです、公教育の中に正式に位置づけられた「英語教育」に関する一連の理論、実践と議論です。
このブログで私が主として発言しているのは、「小学校英語教育」の中でも「文字指導」、とりわけ「手書き文字の指導」に関してでしたが、最近のメディアを賑わす文科省、教育界の動きを見ていると、危惧が募ります。

絵に描いた餅はそれなりに美味しそうに見えるかも知れません。

小学校部会におけるこれまでの議論のとりまとめ(案)(2016年3月)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/074/siryo/attach/1368818.htm

2016年5月27日 教育課程部会小学校部会参考資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/074/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/13/1371955_14_3_1.pdf

小学校5年、6年の2学年分は「教科」化を目論んでいます(「教科化」は、ワーキンググループの叩き台がまとまって、ユーシキシャ会議からの提言、モンカ大臣に諮問とか答申するとかの途中であって、まだ何も正式には決まっていないというのが私の認識なんですけれど…)。しかも、それぞれ、週2時間に増やして年間70時間にする、というのです。当然、新たに35時間分を確保する必要があります。教えることは増えたのに、入れ物の容量を増やさなければ「中身は入らない」のが道理でしょう。
「外国語活動」を前倒しで入れることを目論んでいる3年生、4年生では、週1時間、年間35時間相当を新たに確保することになります。
ところが、「週28時間」という時間割の中に、増えた分が収まらないのです。
公教育での英語教育に関わって、英語力フィージビリティ調査、高大接続での外部試験など、大きなマーケットを見越している(というか現時点でかなり大きなマーケットとなっている)B社のサイトにこんな記事が載っていました。2016年4月13日にアップされています。(リンク切れの際はご容赦を)

2020年度からの小学校英語 増加分は朝や土曜日、夏・冬休みに!?
http://benesse.jp/kyouiku/201604/20160413-1.html

入れ物の容量は増えないので、すき間に入れられるように「モジュール化」を図るのだそうです。それって図るじゃなくて「諮る」じゃないの?と思いますよ。
その後、中学年での「読み聞かせ」教材案が文科省サイトで公開されるタイミングで、昨年の段階で既に出ていた高学年での「文字指導」教材も、新たに公開されたかのように揃ってアップされていました。

中学年
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1370103.htm
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2016/05/02/1370109_1_1.pdf

高学年
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1355637.htm

このような「センモンカ」による、度重なる審議のまとめが、8月1日にリリースされました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/1375316.htm

そのまとめの発表を受け手、文科省の担当責任者はこんなことを言っています。(8月12日付、『教育新聞』電子版より)

次期学習指導要領審議まとめ案 合田教育課程課長に聞く(2)
https://www.kyobun.co.jp/news/20160812_01/

そういった背景を踏まえ、「小学校英語の教科化」「新指導要領での時間割」に関連して、私の呟いたこのツイートが2日間で、200RT、150いいね、を超えました。

これまで小学校の先生が教科として教えてきたことで、新たになくなるものってどれ位あるの?下世話な話ですが、もし減らないのなら、英語を増やした分、給料が上がって当然だと思うんですよね。 人と予算と時間を考慮していない「教育課程」の改革や「指導要領」の改訂は、いつも現場にしわ寄せです。
https://twitter.com/tmrowing/status/764742781038305280

普段の英語教育関連の情報発信では届かないところへのリーチがあったということでしょう。
朝や帰りのHR前後、昼休みの前後とかのすき間、ニッチに「モジュール」を入れようにも、にっちもさっちもいかない現場が多いことを伺わせる反応・反響です。
新聞、TVなどの大(手)メディアでは、「平日5日間、1限から6限まで、といった物理的な時間を無視した暴論」という論調には全くなっていません。

  • 人・金・時間

の工面・調達は現場に丸投げでは上手くいくわけがありません。

物的・金銭的支援や人的加配のある研究指定校や地域の拠点校、特区にてとっくに専科教員対応をしているような学校ではない、一般の現場の声をもっと広く知らしめることが大事でしょう。
先日も、私の地元で「国際交流」というキーワードのつく催し物があったとローカルニュースが報じていたのですが、キーワードが「国際交流」なのに、中国の教育事情を視察してきた人の報告で「中国は小学校の1年生から英語を…」などということばが出て、それをフロアで聞いていた人がインタビューで、「やっぱり日本も小学校から英語を…」などと答えているところだけが切り取られているのを見るにつけ、「国際交流」が上手くいかない責任を「英語教育」に転嫁するなよ、「国際交流そのもの」を語れよ、と思います。
いったい、いつまで、「中国がががが…」、「韓国がががが…」、「フィンランドがががが…」、「ロシアがががが…」と国内の事情や実態を踏まえない、先進諸国のレポートをし続けるつもりなんだろうか、と思います。
中国に限って考えるとしても、彼の国の人口を日本の10倍と仮定してみましょう。学齢期の児童1学年であの広い国土の中に約1000万人いるわけです。仮に日本と同様に小学校が1年から6年まであるとすれば、小学生の総数は6000万人です。その6000万人に対して、どのように教科書や辞書を遍く行きわたらせているのか?教科書検定は?印刷製本はどうしているのか?ましてやICTや反転授業で使うタブレットなどはどのように調達・配布しているのか?教師養成は?全国的な英語力テストは?
私がぱっと思いつくだけでも、たくさんの「?」をクリアーしなければ、日本の土壌に移植などできません。
英語教育の文脈に引き寄せるにしても、東アジアでの比較とか「競争」をキレイさっぱりと忘れて、

・10年前はTOEFLのスコアでそれほど差のなかったイタリアと、この10年でなぜ、差がついたのか?
・中東のイランや、南米のチリなど、ELTやTESOLさらにはSLAの研究成果が、どのように国内の教育政策に活かされているのか?

みたいな目の付け所で調査した方が、現状を改善するヒントが得られるような気がしています。

「にっちもさっちも…」の話に戻ると、大阪では、モジュール用に作られたフォニクスのDVD教材を1年〜6年まで使う計画らしいですが、教えられる先生がいないので代わりにDVDを流せば解決する問題ではないでしょう。
開発に着手、というニュースリリースは2014年でした。

mpi松香フォニックス/大阪府と共同で英語学習パッケージの共同開発
http://ict-enews.net/2014/09/18mpi-j/

大阪府の公表が2016年4月。

大阪府公立小学校英語学習6カ年プログラム(Dream)
http://www.pref.osaka.lg.jp/shochugakko/dream/

この教材の開発にあたったMPIは教材として同じものを市販するそうです。大阪で上手くいけば、他の自治体でも採用を検討するだろうという「皮算用」ですね。このニュースは6月です。

内田洋行、小学校英語の「短時間学習」に対応したコンテンツ「小学校英語 SWITCH ON!」を提供開始〜教育のICT化に対応して教育用コンテンツ配信サービス「EduMall」で提供〜
http://www.uchida.co.jp/company/news/press/160617.html

いやー、この「内田洋行」っていうのが気になります。
学校買い取りのパッケージ版の単価が、1学年分で6万円。現在計画中の「教科化」で、3年生から使い始めるとしても、4学年分で1校当たり24万円。全国に公立の小学校は約2万校ありますから、その5%のシェアを取れば1000校。2億4千万の売り上げになる商品ですよ。そりゃ、盛り上がりますよね。将来、小学校1年生からになったら?シェアが増えたら?公教育で何か新しいことをやる時の「特需」があるのは分かるんですけどね。

直山木綿子 英語教育改革を語る。 〜3年間の外国語活動、その成果と課題を踏まえた改革です。
https://www.manabinoba.com/index.cfm/6,20218,12,html

直山木綿子さんって、文科省で「小学校英語教育」の中心にいる人ですから。その人の思いを熱く語っている、このサイト、どこがやっていると思いますか?
名前こそ、「学びの場.com」ですけれど、母体は「内田洋行 教育総合研究所」ですから。
ホントにこういうことで進めて、大丈夫なんですかね?

その一方で、「にっちもさっちも…」な現場は困惑し、対応に追われ、教員が疲弊していく、というマイナスのシナリオは誰も言わないんですよ。

英語教育に携わっているわけでもなく、小学校教育に携わっている訳でもない方のTwitterでの反応で、「(そんなに大変なら)とりあえず、まずは教員の抱えている事務仕事の負担を減らしては?」というようなものがありましたが、それは「教科化」とは独立並行して解決すべき問題で、おそらく具体的な施策が最後まで出てこないところではないかと思います。問題は中高でも同じですから。

そう言う部分で、教員の負担を軽減しようとは思わないのが日本の教育に関する世論なのでしょう。本当に学校教育に成果をあげて欲しいと思っているのだろうか、という気さえします。

まずは、きちんとした、正確な情報(一次資料の出典も含めて)を市民に届ける必要があります。知ってもらわないと始まりません。しかし、主要なメディアには、それが殆ど期待できない状況です。文科省筋から出てきた情報を垂れ流すだけですから。大手新聞の報道記者や論説委員などが、SNSで「今度の『記事・社説・コラム』は教育問題の核心に踏み込みました、皆さん考えて下さい」、というようなことをいうことがありますが、これも「ニュースになる」ネタしか扱いませんから。「高3英語力調査」とその結果の独り歩きに関して、何回新聞社にメールしたことか。

今回の私のツイートへの反応を見て、このような個人ブログでも、情報を出し続けることに意味があるとの思いを強くしました。

  • 小学校英語を教科化できる下準備は整っているのか?
  • 教えられる教員は確保できているのか?
  • 小学生にモジュールで教えて身につくのなら、中学校の英語もモジュールでいいのでは?
  • 教員がいないからといって「DVD」で大丈夫なのか?もし大丈夫なのであれば、中学校の英語もDVDでいいのではないのか?
  • 授業は細切れの「モジュール」をつなぎ合わせて何とかなるかも知れないが、評価はいつ、どのように行うのか?
  • 45分連続の一回の授業と、モジュールで短時間の帯で実施する授業では活動が異なるはずだけれども、その到達度の指標となるCan-doは別物として作るのか?もしその二つの物差しが別物だとすると、身についた「英語力」も異なることになるのか?

などなど、考えておくべきことは山ほどあります。しかも、もう何年も山のままです。

英語に限っての対応を考えても、専科で教える教員の資格で、英語という教科に関する「公的」と思えるものは「中学・高校の教員免許(英語)」しかないわけです。その他、民間でも何やら資格を作っていたりしますし、海外でのTEFL/TESOL系の学位が認められる自治体があるかもしれません。でも、上述のように、全国で公立小は約2万校あるんですよ。中高の英語の免許を持つ教員が専科で教える、となっても先生が足りないのは自明でしょう。

で、こういう状況や背景を、一般市民は本当に分かっていますかね?
例えば、

  • 中学校の先生は小学生を教えられるのか?しかも上手に?
  • もし専科で採用するとして、「専任」で採用できるだけの財源は各自治体にあるのか?

本当に、まずは知ること、知らしめることが大切です。

今年になって、こんなニュースを目にしました。

小学校教員のための中学校英語免許取得講習(京都外国語大学)
http://www.kufs.ac.jp/faculties/license/license2.html

小学校英語教科化に向けた専門性向上のための講習の開発・実施事業(大阪教育大学)
http://osaka-kyoiku.ac.jp/foreducator/renkei/menkyo_english28.html

事業に関する詳しいpdfはこちら。
http://osaka-kyoiku.ac.jp/_file/renkei/chiiki/menkyohou/eigo/leaf_eigo.pdf

その事業へのtrailerともいえるワークショップが近々行われます。

http://osaka-kyoiku.ac.jp/kaikakukyouka/psews.html
特別ワークショップの告知リーフレットpdfはこちら。
「教科化を前に こうして教える 小学校英語」
http://osaka-kyoiku.ac.jp/_file/kaikakukyouka/koudoka_center/psews.pdf

この大阪教育大学の告知では、次の文言が気になります。

2020(平成32)年より、小学校高学年において「外国語活動」が教科となります。大阪教育大学では、教科化を前に、「会話表現」「文字指導」「デジタル教材活用」などをテーマとした、指導に役立つテクニックを紹介するワークショップを開催します。
 「外国語活動」の指導に意欲のある方、不安のある方、また、小学校教員、中学校教員等の校種は問いません。さらに、大学生、大学院生の方もどなたでも参加可能です。

「『外国語活動』が教科となります」という部分、誰も突っ込まないんですかね?


「付け焼き刃」?
「腹に代える背」?
という印象です。なぜ、今、こんなことに躍起になっているのか?
現在の教員免許で「小学校」の「英語」というカテゴリーそのものが存在しないからです。小学校で、「総合的な学習の時間」をつかって、「英語」が取り扱われ始めたのが、2002年ですから、その頃から免許に関わる「法的制度」の整備の必要性は言われていました。必修として「外国語活動」が始まったのが2011年。そこから既に5年経っています。免許制度を改め「小学校」「英語」の教員を作ることは、英語の「教科化」と表裏一体ですから、なかなか上手くいかないことは分かっています。

そして、「小学生に英語を教えられる免許」に関わる教員免許制度の整備も新聞やTVでは、全く情報として出てこないわけですが、その一方で、過日の「フィージビリ ティテスト」の結果だけを見て、「高校3年生の英語力が『中3レベルも怪しい』のは、日本の英語教師が旧態然とした指導法や既得権に安住してダメダメだか ら」といった批判・非難も多数出て来ているわけです。「中学校の英語の教員免許をもった先生が3年間で中学生に英語力を身につけさせられず、そのまま上がった高校で、高校の英語の教員免許を持った先生が3年間さらに教えても、中学卒業段階の英語力を身につけさせられていない」のが本当だとすれば、「免許制度」そのものの見直し、ということに早晩なるでしょう。

でもそうなった時に「じゃあ、私は小中高で英語教師になろう」と思う人が(若者に限らず)どのくらいいるのか、とっても気掛かりです。

本日のBGM: What A Wonderful World (LIVE 1970, Reelin' In The Years Archives) / Louis Armstrong

広島と長崎の間で

山口県に移り住んで10年目になる。
このブログを書き始めたのが2004年の秋。故あって、非常勤講師として東京の私学で働いていた頃に書き始めて約3年で山口行きを決め一端ブログを閉じた。3ヶ月ほど全く書かない時期を経て、この地でブログを再開して、9年余り。既に東京勤めだった頃の3倍近い期間、ブログを続けていることになる。更新頻度で言えば、昔の方が高かったのだろうと思うが、今は自分の身体と頭と声とことばができるだけ齟齬を来さないような頻度で書いているので、「今んとこは、まあこんな感じなんだ」 (inspired by 曽我部恵一)。

夏の広島の話は山口に来た最初の夏に振り返りこちらに書いていた。1995年。私にとっても忘れられない夏の一日であった。

「傘を差さなくてもいい日」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20070815

そして、ハラトモ様の故郷でもある長崎での思い出は2年前。
「国体」とはいえ、「国民体育大会」の方だけれども。

「舟に乗る準備を」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20141023

「山口って、この二つの街の間に位置しているのだな」と改めて実感したのが、この一週間、いや四日間。
自分自身のことばが身にしみる機会でもあった。

  • 目の前にある「ことば」を生き直しなさい。

とは、授業で私がよく口にすることばであるが、奇しくも、その自分のことばが試されることとなった。自分が聞き手として選ばれ、語り掛けられた、と思える、意味の乗った、受け止める重さのある「ことば」と、飾られてはいるものの空疎な容器だけが運ばれ、自分を通り過ぎていくことば、との間の超えることの出来ない隔たりを痛切に感じた四日間であった。生き直すには、まずはそのことばが命を持って生まれてこなければ…。


さて、
前回のエントリーで、夏期課外前半までの振り返りで高1の分をあげていた。
今日は高3から少し。

読解の基本的な取り組み方に関しては、過去ログでもファイルを公開していたので、そちらを見てもらうとして、「つながり」と「まとまり」をどのように自分で咀嚼し、理解から表現への橋渡しを図る(諮る?)のか、という部分では、高2の時点での長い長い目で見た「仕込み」が重要であり、そのために、過去ログで示したような「図解」「百科事典」「Q&As」といった英語ネイティブの子供用の書籍類を学級文庫に入れている。
その「仕込み」を経て、明示的に指導・学習しているのが、DCT。Discourse Completion Tasks(談話を整合・完成させる課題)である。

私の授業の中ではナラティブの指導で、物語りを途中まで読み、その続きを書いて締めくくったり、中盤から終わりまでを示して、その書き出しを書かせたり、という「小説前後」のような活動をさせることが多いのだが、説明文(定義文)でも、談話を整合させるような活動を設定している。

長沼君主先生や工藤洋路先生を中心として、ELEC同友会英語教育学会のライティング研究部会が、数年前にこの基礎研究に取り組み、2010年の年次大会と紀要で発表しているので、詳しくは学会か部会にお問い合わせを。

http://elecfriends.com/

私自身の授業では、「中抜き」と称する、談話・段落の途中に空所を設ける課題を主として扱っている。
前後のつながりと、全体のまとまりを考えて「そこにいるべき、あるべき」情報の「核」「肝」は何か、をまずは日本語で考えてもらい、そこを足場として、その日本語の「意味の核・肝」を「意味順」に当て嵌めて英語に移していく、という流れである。

旧課程の「ライティング」、現行課程の「英語表現」の検定教科書以外に、ESL/EFL用の教材や指導の概説書、上述の「事典」「図解」などからも、典型例となる「パラグラフ」を引用している。
集中的、明示的に扱うために、段落の中から3文を抜きだしたり、3文に加工したりしているものもある。

授業で使うワークシートはこちらからダウンロード可。
DCT2016
DCT2016.pdf 直

「つながり」と「まとまり」については、これまでにも、折りに触れ指摘し、とりわけ読解の際には、しつこく確認してきたし、高1、高2段階でも、「イカソーメン」と私が名付けたdiscourse completion の活動が定番となっている。

このところ高1で扱っている『ぜったい音読』(講談社)の旧版の英文で、つながりまとまりを考える格好の素材文に関しては、高2、高3でも必ず振り返っている。(過去ログ参照 http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090617)

それでも、この「中抜き」になると、生徒はなかなかに苦労するのである。
alsoやtoo, as well といった高校入試レベルでの「つなぎ語」であっても、市販の「大学」入試対策読解教材では「何に何が添加されているのか」「Aという情報とBという情報がどのような観点で同じレベルとして並んでいるのか」という部分に関しては極めてお粗末な解説が目立つので、膝突き合わせの授業の中で、明示的にきちんと扱う必要性を痛感して、今日に至っている。

このDCTの指導手順や生徒の取り組みに関しては、11月の全英連にて詳しく扱う予定。おいでませ、山口へ。

本日はこの辺りで。

本日のBGM: gone ---live 2006--- 『道はつづく---特別篇----』ボーナストラック / ハンバート ハンバート

何度でも…。

連日の猛暑。
流石に「何℃でも」という勇気はありません。

夏期課外講座の前半が終了。
ついうっかりすると、こんなところにも「前半戦」などと「戦いの比喩」を持ち出しそうになる自分に気づきます。自分がそのことばを使う使わない、というだけでなく、自覚があるかが大事。

戦いの比喩といえば、「受験は団体戦」などという紋切り型のことばが受験雑誌やwebで使われていたりします。初耳ですか?某予備校のキャッチコピーなのか、校是なのか、「日々是決戦」なんていうのもありましたよね?
これって、自分たちの団体が勝者になることを想定するのは結構なのですが、いったい敗者として誰を想定しているのでしょう?まさか、志望校群とか入試制度ではないだろうと思うのです。せいぜいが「他の団体」、殆どの場合は「他校」でしょう?ときに「同じ学校の他のクラス」だったりすると緊張しますね。では、「勝者」は何を勝ち取って、「敗者」の手には何が残るのでしょう?
勝者は「第一志望校への合格と入学の喜び」で、敗者は「第二志望以下の学校への合格と不本意入学」?敗者は、「悔しさと捲土重来」?

「学び」はどこに行ったのでしょう?

そういう「学びを語る戦いの比喩」からできるだけ距離を置いて教師をやりたいと思って今日に至ります。個人的にはまだ「連帯」の方が希望を感じます。日本の風土ではとかく「連帯責任」などという形容に使われるので、好感度が低いことばになっているようで可愛そうな気もしますけど。

私の座右の銘は、

  • 群れるな、連なれ

です。今の季節なら「夏なれど蒸れるな」でしょうか。

そんな夏期課外講座の振り返りをば。

高1は、中学校の復習に相当する、入門期からの学び直しの一区切り。
所謂「後置修飾」の全体像を見渡せる丘、のようなところに連れて行きました。
こちらのファイルなどをご覧下さい。

名詞句の限定表現 得手不得手 再々修正版.pdf 直

虫の目から鳥の目、ですね。
当然、中学2年くらいまでの教科書の「素材文」では、モノローグが少なく、テクストタイプもナラティブが多いので、「コト」の説明が少なく、「モノ」も「人」も単純な修飾構造での名詞句が殆どですから、この素材文を活用して、「既に読んでいて意味のわかる、構造のわかる『文』から、名詞句の限定表現を括りだす」という活動もしています。

  • I like the musician (the) best.

という「文」から、

  • the musician I like (the) best

という「名詞句」を括りだす、という類いです。

名詞句の中に、<主述関係>、<主語と自動詞><他動詞と目的語>の関係が潜んでいるものも、ある程度の数の実例に触れた頃を見計らって、まず日本語の例から確認・整理しています。

過去ログだと、

Beware of English teachers
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140510

「もどき」と「ごっこ」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20140516

で詳しく書いていますし、今年度でも、高1の1学期の授業で扱った言語材料で言えば、

「目的語感覚を養う」
2016「目的語」感覚を養う.pdf 直

で取り上げています。
ということで、今回の例で言えば、「山火事」と forest fire、「火消し」とfire fighterなどをそう言う目で眺めることが求められていますし、それを踏まえた上で、-ingや-ed/enの所謂「分詞」としての形容詞的用法を見比べて行くことが求められています。

  • (?)モノなら-ing形、人なら-ed/en形

とか、

  • (?)生き生きとしていれば –ing形

などという過度の単純化はしていません。

生徒には、

この 1 -11の分類だと、名詞と名詞の意味と私たちの世界の見方に依存した「力技」の2、多様な意味の関係を表わす前置詞で、3〜5に入らないものを集めたゴミ箱のような6が難しい。そして中でも、所謂「不定詞」の11が一番難しいと思うので、実感が持てる例を中心に丁寧に仲間をつくっていくこと。

と言っています。裏返せば、それ以外は「高1のこの時点なら、わかっていないとダメ」ということなのですが、そういうことを言うと、「みちこさん」にダメ出しされちゃうのでね。

所謂「不定詞」も、前置詞 to の原義を引き合いに出して、「未来志向」とか「前望的」などと言われることが多いのですが、それも「判断するひとつの物差し」に過ぎません。
ということを弁えておくために、

  • the first man to walk on the moon

  • the first man to walk on Mars

という例とをわざわざ入れてあります。

もっとも、「目的地」は未来志向で、「到着点」は結果志向、という説明で前置詞 to の原義を説明したつもりの人とは距離を置いておこうと思っていますけど。

英語を教えている人であれば、過去ログの、

不定詞と動名詞
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20050213

分詞は難しい
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20060111

the day to remember him by
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130616

あたりも併せて読んでおくといいのではないかと思います。釈迦に何とやらで、申し訳なく思う一方で、本当にこの辺りの理解が覚束ない人が教壇に立っているのも現実なので。

もう少し詳しく考えるのなら、

Limiting vs. Restrictive
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111009

英文法指導で心がけていること
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20111006

さらには、

大津由紀雄編著
学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

  • 作者: 大津由紀雄,亘理陽一,安井稔,江利川春雄,斎藤兆史,松井孝志,鳥飼玖美子,日向清人,久保野雅史,末岡敏明,岡田伸夫,柳瀬陽介,田地野彰,山岡大基,高見健一,真野泰,福地肇,馬場彰,大名力
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2012/07/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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の「第7章」と表紙のカバーをよくお読み下さいますよう、重ねてお願いしておきます。


というわけで、高1の夏に中2の検定教科書の素材文を扱っているわけですが、「意味が乗るように音読する」というのは難しいことを実感しています。さらには、「英語を英語のまま理解する」というのも大変なことなんです。

素材文を理解する段階では、チャンク毎に意味を処理していきます。
まずは、

緑本12.pdf 直

の「チャンク改行」のハンドアウトで、解説も聞いて、書き込みをして、わかったつもりになっている素材文も、「A4版段落ベタ打ち」で何の書き込みもないまっさらな英文でも自力で読めるのか、ということを確認してもらっています。

自力で read and look up → うまくできないところの音源を確認(精聴) → 英文を見ながら口パクで音源に重ね読み → 英文を見ながらのなんちゃってシャドウイング → 英文を見ずにシャドウイング → うまくできないところの音源を確認 (精聴)

と再び(三度?)「音源の確認」に戻ってきた時に、「自分が上手く音読やシャドウイングができない原因は、本当に音声化にあるのか?」というところを明らかにしないとダメでしょう。(そのために、ひと昔、ふた昔前の中1&中2の検定教科書から素材文を採っている『緑本』を使っているのですけどね。)

これも、繰り返しているうちに、スラスラできるようになるわけですが、その一方で、チャンク毎の処理をただ先へ先へと進むだけではなく、意味を中心として構造を跨いでつなぎ直せるか、という部分にも取り組んでいます。

チャンク切り出しrobert.pdf 直

で、意味のつなぎ直しでチャンク切り出しが変えられるか、そして、それに音声だけで対応できるか、という「対面リピート」もやっています。やることはいたって単純。

ペアで対面し、片方が紙を相手に向けて持つ。
相手は英語を読み上げて、もう片方はそれを耳で聞いて、聞き終わったら、リピートする。
Aの文で、1→1 のリピートがスラスラできれば、Bの文へ。
Aの文の1が上手くいかなければ、2,3,4をそれぞれやってから、再度1へ戻って、できたらBへ。

これだけです。私の仕事は、チャンクの切り出しを変えたこのワークシートを作ること。これは高3の生徒でもちょっと難しい作業です。
この素材文は、旧旧課程の中2の検定教科書ですが、この対面リピートはなかなかにchallengingです。生徒の習熟度の差が顕になりますので、高校生を教えていらっしゃる方で、指導力以上に生徒との信頼関係に自信のある方はお試しあれ。

名詞句の限定表現がある程度自信を持って扱えるようになると、「意味順」が一層生きてきます。そのために、高校入学時に、「名詞は四角化で視覚化」を唱えながら、来る日も来る日も来る日も…「四角化ドリル」をしているわけです。その肝心要の「四角化ドリル」が分からないと、今日のエントリーの内容や、ファイルの内容もよく分からないかも知れませんが、そもそも授業って、その授業を受けていない人にはよく分からないものですからね。

「四角化ドリル」の昨年度のバージョンはこちらにあります。ファイルは全てダウンロード可、パスワードなしです。二次使用は注意書きにあることを守っていただければ、あとはご自由に。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20150503

それ以前のバージョンの方に、それぞれのドリル設計の意図や背景などを記しています。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130428

今年度のバージョンは、11月の全英連でまとめて発表(&解説)の予定です。

本日はこの辺で。

本日のBGM: Yesterday Once More (Aimee Mann)

辞書を使いこなすには?

tmrowing2016-08-01

8月になりました。
前回のエントリーで「学級文庫」から書籍等を一部紹介したのですが、辞書の写真についてのお尋ねが幾つかありましたので、その部分を補足しておきます。

スマホやタブレットなどで見ている方は、画像ファイルが開けるPCモードで見る方が操作がしやすいのですが、タッチスクリーンで拡大しやすいようにダウンロード可能なリンクもつけていますので、そちらをご利用下さい。

[file:tmrowing:辞書.jpg]
f:id:tmrowing:20200310194738j:plain

上段左から、
1. Cambridge Academic Content Dictionary (2008年)
これは、定義が秀逸な一冊です。アプリ辞書も販売されていますので、説明は不要かとも思いますが、幾つか例をあげておきます。それぞれ何の定義か考えてみて下さい。

  • (of a person) truthful or able to be trusted; not likely to steal, cheat, or lie, or (of actions, speech, or appearance) showing these qualities
  • a person in an aircraft whose job is to serve passengers and to make sure they obey safety rules
  • an African wild animal that looks like a horse but has black and white or brown and white lines on its body
  • a building, room, or organization that has a collection especially of books, music, and information that can be accessed by computer for people to read, use, or borrow
  • an accepted principle or instruction that states the way things are or should be done, and tells you what you are allowed or are not allowed to do

2. Longman Wordwise Dictionary (2001年)
Longmanの学習用英英辞典のエッセンシャル版と言えるものです。表紙にはNEWとありますが、2001年の版。収録語数を35000語まで絞り込んでいるところが初級者向け英英ならでは。でも、それでも、学習者が自分で調べたいと思うお目当ての語、一つに対して、当面不要な語が34999語あるということは指導者も弁えておいた方がいい。


3. 田崎清忠編著 『アメリカ日常語辞典』(講談社、1994年)
もともとは自分が使っていたもの。「講談社版」とありますが、このタイトルでの他社版はあるのかしら?
『英語会話―アメリカの生活とことば (日本放送出版協会、1967年)』との対比なのかな?

※20161011追記
恐らく、研究社版の『田崎のアメリカンライフ辞典』(1983年) が元版だと思います。表紙の写真はこちら。
[file:tmrowing:田崎1983 & 1967.jpg]
f:id:tmrowing:20200310194806j:plain

4. 『英語基本語彙辞事典 3000語の背景』(中教出版、1983年)
語研の主要メンバーによる編著ですかね。「基本の2000語、3000語くらい、一つ一つ丁寧に教えてあげなさい」とは、恩師の若林先生のことば。今読むと、物足りない、食い足りない部分が多々ありますが、中高生で、ことばに興味関心が強い人にはこういうものもありかと。昔は、小川芳男・前田健三『英単語物語  その誕生と生いたち』(有精堂、1980年) などの「読み物」でも良いものがあったんですけどね…。


5. 『ヴィスタ英和辞典』(三省堂、1997年)
若林俊輔門下による、初学者への配慮のなされた英和辞典。改訂はされていません。でも、訳語そのものの吟味、用例での日本語訳表示の工夫など、これにとって代わるものがないので、依然としてこれを置いています。数年前の生徒の一人は、再帰代名詞を調べた際に気に入って、自分で買っていました。


その、『ヴィスタ』から少し離れた右にある小さな判型のものは、

6. Webster's Essential Mini Dictionary (2011年)
これこそ、アプリ版が望まれる優れた辞書。中身は、概ねCambridge Essential と同じですが、一部定義や用例が異なっています。米語対応ということなのでしょう。CEFRに準じた表記も、語義ごとになされています。これは、Cambridge English Profileという巨大なプロジェクトを手がけているケンブリッジ系ならでは。老眼の私の目にはこのminiの判型・サイズは厳しいので、学級文庫に置いています。


中段左から、
7. BBC English Dictionary (1990)
COBUILDとのコラボ。BBCの放送で使われた言語資料から、(当時としては)巨大なコーパスを構築して、定義や用例に活かした、画期的、意欲的な辞書。百科事典的項目は国が変わっていたりするので、今の時代に合わないものも出てきているけれども、やはりあると便利。個人的には、検定教科書のTM執筆で20代の終わりから約10年、最も使った辞書の一冊。


8. 『ワードパワー英英和辞典』(Z会出版、2002年)
オリジナルの Wordpowerの初版に対応しています。
英語のエントリーに対して、英語による定義文と用例があるのが一般的な英英辞典ですが、その定義文の和訳と訳語、用例の和訳を載せているので『英英和』です。定義文の和訳があるのがウリ。というか、定義文の和訳がないとこの辞書は存在価値がない。かつては『ウエブスター英英和』が左右対称二段組で定義文も含めた英英和を出していましたが、それを「学習用辞典」でやったところがエポック。ただし、当時の編集部に、辞書作りのノウハウがなかったのか、レイアウトやフォント、色使い、文字とスペースのバランスなど最低最悪の見た目で、引くたびにストレスがたまる。数年前までは、クラスで一人にこれを1年間渡して、「ミス or ミスター・ワードパワー」の称号を与え、授業中に折りに触れ読み上げてもらっていました。ここを足場にして、他の英英辞典の定義との読み比べに入るわけです。


9. Cambridge Learner's Dictionary (小学館、2004年)
こちらも英英和。でも、英語の定義のあと、ちょこっと訳語が載っているだけ。「学習用英英辞典」でそれをやっている、というところが持ち味。活用ハンドブックを投野先生が書いていたように記憶しています。


10. 『ショーター英英辞典』(旺文社、1982年)
流石は菅沼先生の編んだ辞書、『元祖学習用英英和』という評価は『令文社学習英語辞典』に譲るとしても、基本の1万5千語に簡潔な定義と、要所要所で、ローマ字による訳語を当てているところが類書との違い。表紙の鮮やかさも好みです。
ハンディな判型と薄さなので、個人的に、未だに普段使いしています。

11. 『新英英大辞典』(開拓社、1941年)

『ホーンビーの英英』とか、『ISED』の略称で御馴染でしょう。世界のESL/EFL用の学習用英英辞書の先駆。曙。これがなければ、OALDはないのだから。古いけど、随所に上手い定義があるので手放せません。

12. Oxford Elementary Learner's Dictionary (1994年)
見ての通り、旧版です。基本語の扱いを確認するために置いています。その語の、その語義はこの初学者用辞書に載っているか?というチェックの仕方ですね。今は、オンラインで使えるEVPがあり、text inspectorがあるので、この辞書の出番は減り、14. に軍配があがりますかね。

13. MacMillan Essential Dictionary (2003年)
今では紙辞書からの撤退を表明しているマクミランからの極めて優れた学習用英英辞典。この親版にあたる『マクミラン英英』は私が密林のレビューで絶賛していますので参考にして下さい。2004年には日本独自の『ワークブック』(小室夕里著)まで出ていたんですよ。こちらも教室では今でも使っていますけど…。


14. COBUILD Primary Learner's Dictionary (2014年)
初学者用英英辞典のお手本のような辞書。CEFRで対応すると、A1からB1までを念頭に置いています。日本の中高生の大多数はこれ(と、6. の "mini") で十分でしょ。用例も簡にして要、生き生きしていて、COBUILDの親版よりもいいのではないかと思うほど。これがでたばかりの頃、他教科の同僚に見せたら、ご自分のお子さんのために速攻で買われていました。


そして、下段左へ、
15. Chambers Universal Learners' Dictionary (1980年)
学習用英英辞典の先駆的存在。OALDが合わない、LDOCEでは物足りない、という人に人気だったのかな?定義・用例とも随分とお世話になりました。そう言えば、かつて薬袋義郎先生が研究社から出していた『薬袋式英単語暗記法』(2004年) の例文は全て、このChambers Universal Learners' から採っていましたよね。

※20161011追記:薬袋 (2004) の表紙画像はこちら。
[file:tmrowing:薬袋2004.jpg]
f:id:tmrowing:20200310194840j:plain

16. Chambers Student Learners' Dictionary (2009年)
そして、現代のChambersの学習用英英辞典。「CLILに最適!」と言う謳い文句に唆されて。世界各地の「英語で」いろいろな教科を学ぶ授業を受けている中高生向きなんでしょうね。ひょっとすると既に絶版かも。


17. COBUILD School Dictionary (2008年)
こちらも英語圏の学校や、「英語で」いろいろな教科を学ぶ中高生向け。過去ログにも記したけれど、spelling beeの競技方法が載っていたりします。http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20110113


18. コウビルド米語版英英和辞典 (2008年)
advanced版の英英和。定義文の和訳はありません。紙辞書は既に絶版だろうけれど、kindle版と、物書堂のアプリ辞書があります。(物書堂のアプリ辞書なら、『ウイズダム英和和英』『ランダムハウス』で相互にジャンプで乗り入れ可能です。)


19. Merriam-Webster's Essential Learner's English Dictionary (2010年)
米語版の学習用英英では出色。定義文が簡潔で的確なものが多い。B1より上の中級を目指す学習者ならマストバイでしょう。難点は、fontのサイズが小さくて、老眼の目にはつらいことと、判型のせいでPBで分厚いので、背割れしやすいこと。アプリ辞書も出ていますので、そちらをオススメします。


20. Longman Essential Activator (2006年)
第2版のPB。背割れにご用心。先に背表紙にテープを貼っておくのもいいかも。ライティングで重宝する類語辞典。学習用頁も有益。至れり尽くせりだと思います。Activatorにはポケット版もあり、収録語彙が絞り込まれているので、若い方にオススメします。


21. Longman Lexicon of Contemporary English (1982年)
LDOCEからの流れで出てきた「シソーラス」+「Duden」的学習辞書。古いというのは簡単だけれど、代替するものがないのでね。家にも、もう1冊あります。当然絶版ですが、現役で活躍中です。


以上、辞書解説でした。
ここで、前回のエントリーを再読すると、面白いのでは?

電子辞書だと、簡便なものが1冊、類語辞典的なものが1冊入っていれば良い方ですが、その定義や用例で腑に落ちる、実感が持てることは稀なのです。こちらの教室には英英辞典だけで複数冊、しかもレベルの異なるものが用意されていますので、その定義や用例を読み比べることで語義の理解も深まり、定義文に用いられるお定まりの表現形式にも慣れることで、一定の文法力も養うことが可能となります。
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160730

本日のBGM: I may know the word (from the album "Paradise is there") / Natalie Merchant