別冊と別格

tmrowing2016-09-17

9月に入って、学校行事と台風でなかなか授業は進まないと悩んでいたら、更なる台風が迫ってきているというので、ムリせず安全運転を心掛けています。
来週は田地野先生も授業視察に来られるので、全英連に向けて、成果(らしきもの)と課題を少し明確にできればと思っています。

高3は、ここまで受験対策の演習らしいことをしてこなかったのですが、今週は「語法」を取り上げています。

もともとは高2の、所謂「準動詞」の指導で作っていた資料に、今春の卒業生が最後まで克服できなかった項目を加味して、高3用に作り直したものをベースに授業しています。

『グラセン和英』の巻末にある「基本文型表」を、丁寧に切り離して、持ち運びできるようにする作業から。
「別冊」付録にしてしまうわけですね。
紙が上質になったためか、薄くなり、以前よりも多くのページ数を束で綴じられるようになったのでしょうか。旧版と、切り取れる頁がちょっと変わったように思います。現行の第3版では、「ろ」の最初から切り離しになりますね。

「基本文型表」から動詞を中心とした項目を取り上げて、意味と例文の確認。異なる形合わせとその背景を解説。
並行して、綿貫陽『英語語法の征服(改訂版)』(旺文社、1996年)から、該当する項目を抜きだし、例文と解説を照らし合わせています。

suggest
admit
insist (on)
recommend

などがテストで問われる際には、<主節の動詞が過去形で、従節の主語が三人称単数形>というお膳立てが多く見られます。そして、従節の述部・動詞句にあたる選択肢に should原形 や直説法で現在時制の動詞句がなく、原形のみが正解となるように作られていたりします。泣きたくなりますよね。

あなたが insist する時、「主張する」ならどんな場面で誰に何を言う時で、「強要」するとしたら、どんな場面で誰に何を言う時?

というようなリアリティを感じる余裕もなく、上述の情報を処理して瞬殺で正答を得る生徒が「偏差値の高い」生徒と見做される英語教室は、そろそろ無くなって欲しいものです。

私のiPadのアプリ辞書には「物書堂」のものが入っているので、用例検索。

主張 insist

を入れると、6例ヒットします。そのうち1つは、insistence なので、除外して5例の日本語訳を。

私たちはメリーが指導者に選ばれるべきだと主張した。
その権威者はこれはある王の墓であると熱っぽく主張した。
ジョンは自分の無罪を主張している。
自己の権利を主張する
彼は無実を主張した。

5例しかヒットせず、そのうち2つはほぼ同じ。insistで「主張する」って、あんまり活躍できそうにないことばなのでしょうか?
もう一方の「強要する」「強く要求する」はどうでしょうか?
「強要」とinsistで検索しても、一例もヒットしません。「強」だけで検索すると、

insistence
insistent
insistently

の例が5例のみ。

insist のみの検索で現れる例を丁寧に篩にかけていくと、

そのレンタルビデオ屋は彼に紛失したビデオを弁償するよう要求した。
彼女は私にもう少し長くいてとせがんだ。
そこへ行くことにアンはこだわった。
私はメリーが一人でそこに行くべきではないと言い張った。
彼は私と一緒に行くと言ってきかなかった。
彼はもう1割まけてと頑張った。

という現実味が少し増したような例が見つかります。困ったことに、例文の訳語が全部異なります。これらを全て統合して insist の語義を掴み、語法を整理するには結構センスがいるのではないかと思います。

「物書堂」には『コウビルド英英和』の米語版もあります。そちらで「主張する」とinsistの二語で検索してみました。

なんと、28例のヒット。「主張」の内容も様々です。これだけ多いと、そのことばの「生息域」も感じられるかも知れません。いくつかかいつまんで見てみます。

停戦の条件がそろわない限り、その紛争は止まないと彼は主張した。
政府は景気回復には信頼感が前提条件であると主張した。
労働者たちは新しい制度には柔軟性がなさ過ぎると主張した。
大統領は、彼は同情の念から行動しているのであって、政治的なご都合主義からではないと主張した。
彼はこれらの写真は芸術ではなくわいせつ物だと主張しました。
私たちは最終的に彼は精神科の助けを求めるべきだと主張した。
ショーン・コネリーは新作映画のスタントを危険をかけて自分で演じると主張した。

「主張」という訳語がつく例文であれば、『グラセン和英』で「強く要求する」に該当する例も、この検索で一緒に出てき(てしまい)ます。
実際の英文で「語法」を分けても、「日本語訳」をつけてしまうと同じになるのでは、使い分けは難しいですよね。
コウビルドの定義だと、
「強く要求する」が先で、

If you insist that something should be done, you say so very firmly and refuse to give in about it. If you insist on something, you say firmly that it must be done or provided.

とあり、「主張する」には、

If you insist that something is the case, you say so very firmly and refuse to say otherwise, even though other people do not believe you.

という定義があります。

「○○はありますぅっ!」という場合は、きっと、この後者の定義に当て嵌まるでしょうね。



今回の「語法」の吟味は、問題を解くのではなく、例文の比較で意味を実感することが狙いです。

昨日は、さらに、基本語の「イメージ」「フィーリング」という切り口で、『エースクラウン』(三省堂)のフォーカス頁にある図解を確認しました。

所謂「基本動詞」や、前置詞・不変化詞は『エースクラウン』のフォーカス頁はかなり良くできていると思うのですが、

avoid
escape
escape from

などでは、図解はありません。
では、どう実感するか?

学級文庫にある『政村本』の図解と比較をしてみました。
いや、これらの語句にも図解や解説があるのですよ、『政村本』には。
生徒も、改めて『政村本』の凄さを感じたことと思います。
「別格」ですね。
語義を実感するための、他の語句と識別・区別するための、現時点での補助輪・補助線としても機能するし、これからの英語学習に役立つ、転ばぬ先の杖にもなるかもしれません。

そんな『政村本』ですが、出版社の事情で、現在絶版です。

図解 英語基本語義辞典

図解 英語基本語義辞典

なるべくしてなる絶版も確かにありますが、今目の前にある、流通している良書をちゃんと見つけて、見極めることのできる人が少ないうちは、トンデモ本を掴まされ、躍らされ、英語力は頭打ち、という物語りがいろんなところで展開されているのではないかと思います。残念なことです。

先日、「呟き」の方で、アンケートをとってみました。
全て私が持っていて、高く評価している絶版本です。(1冊、オンデマンドで製本依頼が可能なものを含みます)

英文解釈・英文読解

[file:tmrowing:解釈読解復刊希望.jpg]

英文法

[file:tmrowing:英文法復刊希望.jpg]

英作文

[file:tmrowing:英作文復刊希望.jpg]

それぞれでの絶版書で復刊を希望するもの、の投票結果です。
懐古に耽るためにアンケートをとったわけではありません。
英語本、英語教材を見る「目利き」に求められる資質を、絶版本の評価で伺い知ろうと言う目論みです。

この「呟き」のアンケートでは、「高3英語力調査」に関連したものもほぼ同じ時期に行っています。
そちらの結果は、また日を改めて。

本日はこの辺りで。

本日のBGM: Open Book (Stephen Duffy and Lilac Time)