今日の気になる語法は、独立不定詞じゃなかった筈なのに、いつのまにか独立不定詞のような働きをしたことになっている(そのつもりで解釈している or 解釈してもらえると思っている)というもの。
まずは実例、ということで、次の英文を読んでみて下さい。
The next point to mention is the talks I have been giving alongside Robert Smedley (Dean of Faculty of Education) or Carol Calcutt (Associate Dean) and Louise May (Head of Partnerships) to as many education students as possible. With this role never existing before I'm keen to ensure all students in my faculty know who I am and what I'm here for. These talks hopefully go some way to doing that as will the drop-in sessions I'll be carrying out in the FoE foyer hopefully on a weekly basis, where students can come to me with any issues, praises or questions they have about their course. To give you an idea of my commitment to this I travelled down to Shropshire on the Monday of Freshers Week to talk to the new Primary Part Time QTS students we have training there.
この最後の一文に注目して下さい。
この不定詞は所謂「目的を表す副詞的用法」ですから、一般的な話の流れであれば、
To give you an idea of my commitment to this, all you have to do is learn that I travelled down to Shropshire on the Monday of Freshers Week to talk to the new Primary Part Time QTS students we have training there.
この企画への私の本気さを(皆さんに)わかってもらうには、私が(年度初めの)新入生ウィークの月曜日に、シュロップシャーまでわざわざ出かけていって、そこで研修を受けているプライマリー・パートタイムQTSの新入生に話をしたことを知ってもらうだけでいいでしょう。
とでもなるところです。
- 「その目的を果たすには、ただ○○してください/○○するだけでいい;充分です」
- 「その目的を果たせるように、XXを用意してあります」
などの「読み手・聞き手への働きかけ」のことばが主文へとスムーズに移るには重要です。
例えば、次のような「働きかけ」の文言があるのが望ましいでしょう。
- just look at … / take a look at …
- consider that SV
- you only need to think of …
- I’ll tell you about …
- here’s what …
先ほど取り上げた英文のように、
- (X)「皆さんに…を知ってもらえるように、年度当初に私はわざわざ…まで行って話をしてきたのです」
では、全く意味が整合しないと思うのです。
ところが、実際には、その「働きかけ」を端折って、「背景説明となるであろう言動や出来事を単に記述する・語る」だけの使い方をする人が年々増えているように思います。
不定詞部分までの和訳をDeepLの出力を補正して示しておきます。
次に挙げるのは、ロバート・スメドレー(教育学部長)、キャロル・カルカット(副学部長)、ルイーズ・メイ(パートナーシップ部長)とともに、できるだけ多くの教育学部の学生に向けて行っている講演です。これまでこのような役割はありませんでしたから、私が何者で、何のためにここにいるのか、学部の学生全員に知ってもらいたいと思っています。FoEのホワイエで毎週開催されるドロップイン・セッションのように、学生がコースに関する問題や賞賛、質問などを私のところに持ってくることができるように、これらの講演がその一助となれば幸いです。
「読み手・聞き手への働きかけを端折る」類例を示します。
To give you an idea of some of the downward pressure that these companies are feeling right now, you've got EBay stock down 30 percent since the first of the year.
https://www.npr.org/2006/05/24/5427915/marketplace-report-major-web-merger-rumorsこれらの企業が今感じている下降圧力について説明すると、イーベイ社の株価は年初来で30%下落している。
ここでも 主文で “you only have to know that …” などの働きかけの文言はなく、単に「株価が下落している」という事実を述べています。
更に「端折り」の類例。
To give you an idea of my devotion level, I disassembled the interpreter on the 99/4A (discovering in the process that the coding of the Z-code interpreter looked like the 99/4A port was a port of VAX assembler code), fixed some bugs (one of which would render games with larger vocabulary tables unplayable due to an overflow bug), and ported all the other existing Z-code version 3 games to the 99/4A.
Milliways: Infocom's Unreleased Sequel to Hitchhiker's Guide to the Galaxy - Waxy.org
私の精進の程度を知ってもらうために、99/4Aのインタプリタを分解し(その過程で、Zコードインタプリタのコーディングが99/4A移植版がVAXアセンブラコードの移植版であるように見えたことを発見した)、いくつかのバグを修正し(そのうちの1つは、オーバーフローバグのために語彙テーブルが大きいゲームがプレイできなくなる)、他の既存のZコードバージョン3のゲームをすべて99/4Aに移植した。
ここでも「読み手・聞き手への働きかけ」の文言はなく、「こんなに面倒な作業をしたんですよ」という具体例を挙げているだけ。本来であれば、
「ねえ、聞いて下さいよ、こんなに大変だったんですから。このdevotionのレベルすごくないですか?」のような気持ちを適切に言語化すべきところです。
もう一つ。
But in this house, the kitchen/dining area in the center of the house is flooded with daylight from three huge windows and an unusually large pair of sliding glass doors that open onto an adjoining deck. To give you an idea of why this space makes such a strong impression, nearly half of the walls with the big windows and sliding glass doors are glass. This is about twice as much glass as you would have if typically sized windows and sliding glass doors had been used, said Washington architect Randy Creaser of Creaser/O'Brien, who designed the house.
The living room is dead - The Washington Post
しかしこの家では、家の中心にあるキッチン/ダイニング・エリアに、3つの大きな窓と、隣接するデッキに面した異常に大きな1対のスライド・ガラス・ドアから日差しが降り注いでいる。なぜこの空間がこれほど強い印象を与えるかを理解してもらうために、大きな窓とガラスの引き戸のある壁の半分近くがガラスだ。これは、一般的なサイズの窓や引き戸を使った場合の約2倍のガラス量だと、この家を設計したワシントンの建築家、Creaser/O'Brienのランディ・クリーザーは言う。
この例の不定詞からの一文、
To give you an idea of why this space makes such a strong impression, nearly half of the walls with the big windows and sliding glass doors are glass.
は、次のような意味を表したかった筈です。
なぜこの空間がこれほど強い印象を与えるかというと、大きな窓とガラスの引き戸のある壁の半分近くがガラスだからだ。
次の英文では、ideaの代わりにsenseという名詞が使われていますが、これまでの例と同様に、「働きかけ」は端折られています。
To give you a sense of how much paid language-learning programs typically cost, a 12-month online Rosetta Stone membership has a list price of $299. Living Language offers a Platinum subscription for $179, which gives you one year of access to the online course for the language of your choice, plus 12 e-tutoring sessions and access to iOS apps. Transparent Language charges $29.95 per month, or $359 a year if you pay monthly for its online courses, but there are discounts if you buy six months at $299, or a year up front at $199.
この英文をDeepLに入れると、次のような訳文を出してきますが、不定詞で始まる一文は、文構造とのズレがあり、この「働きかけ端折り」系の使われ方に慣れていない学習者は、この訳文と英文のあまりの差に戸惑うことでしょう。
有料語学学習プログラムの一般的な料金の目安として、ロゼッタストーンの12ヶ月のオンラインメンバーシップの定価は299ドルです。リビング・ランゲージのプラチナ会員は179ドルで、1年間好きな言語のオンラインコースにアクセスできるほか、12回のeチューターセッションとiOSアプリへのアクセスが含まれる。トランスペアレント・ランゲージのオンライン・コースは、月額29.95ドル、月払いの場合は年間359ドルだが、6ヶ月分を299ドル、1年分を199ドルで前払いすると割引がある。 (DeepL和訳)
ここで、読み手・聞き手への働きかけを端折らない、本来の用法を確認しておきましょう。
As linguists Nicholas Evans and Stephen Levinson observe, “it’s a jungle out there: languages differ in fundamental ways ― in their sound systems (even if they have one), in their grammar, and in their semantics.”
To give you a sense of this diversity, consider this: the sound systems deployed by the world’s languages range from 11 to 144 distinctive sounds. And, of course, sign languages don’t use sounds at all.
これは、
- Vyvyan Evans (2014) The Language Myth: Why Language Is Not an Instinct, Cambridge University Press
の一節で、東京外国語大学で出題されたことがあります。
ここでは、consider this 「次のことを考えて見てください」として、働きかけを行い、コロンの後で背景説明の詳述を展開しています。
To give you an idea [a sense] of …と類似のイントロどどいつ表現には、giveではなくgetやhaveを使った、
- To get [have] an idea of ... / To get a 形容詞 picture of …
などがあります。
To get an idea of just how powerful the array is, think of a parabolic antenna with a radius of 4,500 km.
このアレイ(=電波望遠鏡群)の威力を知るには、半径4,500kmのパラボラアンテナを思い浮かべてほしい。
To get an idea of how far 15 billion light-years is, consider that light from the sun, 150 million kilometers away, takes just eight minutes to arrive at the Earth.
150億光年がどれほど遠いかを知るには、1億5000万キロメートル離れた太陽からの光が地球に到達するのに8分しかかからないことを考えればいい。
文脈長めで追加。ちょっと古い英文ですので、現在の世界の貨幣経済や金融の物差しで測るのは慎重に。
If the euro truly replaces the German mark, French franc, and British pound, the dollar may find a true rival. But for the moment, the dollar seems unstoppable. To get an idea of its global reach, one need only visit one of the big commercial banks that trade in U.S. currency. The hundreds of thousands of bills handled every day at the Union Bank of Switzerland in Zurich come from all over the world. The U.S. dollar is legal currency in Panama and Liberia, and countries from Zimbabwe to Turkey demand payment for entry visas in American cash.
ユーロが本当にドイツ・マルク、フランス・フラン、イギリス・ポンドに取って代われば、ドルは真のライバルを見つけるかもしれない。しかし、今のところドルは止められないようだ。その世界的な広がりを知るには、アメリカの通貨を扱う大手商業銀行を訪れればいい。チューリッヒにあるユニオンバンク・オブ・スイスでは、毎日何十万枚もの紙幣が世界中から集まってくる。パナマやリベリアでは米ドルは法定通貨であり、ジンバブエからトルコに至る国々は入国ビザの支払いをアメリカの現金で要求する。
ここに挙げた To get an idea of … の例は、全て「働きかけ」のあるものでした。
個人的には、やはりこのように、「働きかけ」があって然るべきだと思うのです。
私がこの「端折り」系を意識し始めたのは、2000年代前半。某『お宝』の初版に関わっていた頃です。
過去ログだと、この辺でちょっとだけ書いています。
この時は、編集部を通じて、オリジナルの英文ライターに書き直しの要求を出したことは出したんですよね。
その後、私の方がこの仕事自体から手を引くことになったわけですけど。
ここからもうすぐ20年。
ソーシャルメディアでも、時々呟いていました。
主節は所謂「命令文」。「Aするためには(Aするつもりなら)、Bをしてね」という論理。この手のイントロどどいつが「目的・意図」の不定詞の場合の主節は、かれこれ十数年不揃いというか美しくない例に悩まされてきたので、こういう例はホッとする。 https://t.co/nx30rffN7p
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2020年5月26日
目的・意図を表す不定詞のイントロで文を始めたら、メインのSVの中では、この例のように、
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2020年6月19日
そのためには、そうするつもりなら、何をする「べき」なのか、どうする「必要がある」のか
などといったある程度強い働きかけの表現があって然るべきだと思います。 https://t.co/6Iqy3Lcw9w
こんな振り返りもしていました。
講演で扱われた命令文界隈も面白かった。
— Takashi “即時停戦” Matsui (@tmrowing) 2022年3月21日
関連して思い出したのが、不定詞のイントロ副詞句に続く主節の機能と意味。
To get an idea …, でSVが続くところに、命令文や you +mustなどの助動詞ではなく、叙事文というかプレーンな文が来るケースがあります。
例えばこんな例。 pic.twitter.com/j4THpSC0Ck
この時に貼った写真も再掲。
この例だと、
- 「どれくらい大きいかを分かってもらうには、…を見てもらうのがいい」
みたいな流れになるところを
- 「どれくらい大きいかというと…」という文修飾の独立不定詞のように使って、主文には「働きかけ」のないプレーンな文が続くみたいな感じになっていますね。
比較的最近の「端折り」系の実例。
Just took care of this diamondback rattlesnake in my front yard. A little over 5’ long. To give you an idea of how close it was to the house, the dog you hear was inside the house. The guy just cut the grass yesterday, otherwise idk if I would’ve seen it in the taller grass pic.twitter.com/59NtK2BARs
— Austin McAlpin (@AustinMcAlpin) 2024年5月16日
To give you an idea of how old the art of collaging is, these were made by a woman named Mary Delany (1700-1788). She didn't produce her first work of art until she was 72 years old!
— The Nocturnal Writer (@ErwinsCatHerder) 2024年6月8日
Look at how timeless these are. #art #artwork pic.twitter.com/Dsp1dyTejB
4) As the thawing continues, more and more methane will be released. To give you an idea of the scale, there are 1,700 gigatons of methane in these deposits, spread over 120,000 square kilometers.
— Akilah35 (@Akilah3583) 2024年7月19日
この「端折り系」の表現は、市民権を得たと言っていいのでしょうか?
本日はこの辺で。
本日のBGM: Meticulous (Rainbow Kitten Surprise)