そして一夜明けた牽牛は独りで立つのでした

tmrowing2015-07-08

本業生業共に、実作は絶不調ながら、期末試験を乗り切り(やり過ごし?)平常授業に戻りました。
生徒の取り組みの雑なところには、その種として、自分の授業の雑さがあるのでしょう。

先週末は、久しぶりに上京しておりました。
当地を発つ機材の到着が悪天候により75分遅れで、ハラハラしましたが、無事に東京入り。

一般社団法人「ことばの教育」の主催の講演会・討論会
「小学校英語でどんな力を育むか---あるいは、どんな力を育もうとしてはいけないか」

講演者は

小泉清裕氏(昭和女子大学附属昭和小学校)
柳瀬陽介氏(広島大学)
大津由紀雄(明海大学、「ことばの教育」代表理事)

こちらの法人のFBで当日の写真が一部公開されています。(私もちょっとだけ写っております)

https://www.facebook.com/kotoba.no.kyouiku/posts/469363873226428

会場は階段教室で、数十名の参加という感じでしょうか。
私も事前に、今回の講演者お二人による、

  • 柳瀬・小泉『小学校からの英語教育をどうするか』(岩波ブックレット)

と、小泉氏の連載がまとめられている、月刊誌

  • 『小6 教育技術』(2014年11月号、小学館)

を買って読んでいましたが、やはり、時空を共有し、ことばを受けとるというのは大事だと思いました。
『教育技術』での特集で示された「中学につながる外国語学習 英語活動 ベストセレクション」の内容は、

  • 『英語教育』(2015年7月号、大修館書店)

の特集「小学校『外国語活動』発! 授業作りへのヒント」(pp.9-31)
と対照的です。

『英語教育』での特集の扉にはこうありました。

小学校での「外国語活動」は導入から4年を経て、内容も多様化しています。小学生への指導を通じて見えてくる英語の「学び」の姿は、中学・高校にも参考になることが少なくありません。
本特集では、3年後には前倒しで開始される教科化を視野に入れながら、2015年時点での「外国語活動」の実践例や課題をご紹介し、校種を超えて共有していきたいと思います。

ここでは「教科化」が、「既定路線」とされています。「前倒し」実施を容認し、しかも、それに対する小学校の準備を促すだけではなく、中高現場にまでそれを共有させようというのでは、「御用雑誌」といわれても仕方ないのではないでしょうか。

『教育技術』の特集は小泉氏の筆によるもの。文科省からの「提言」に対して、小泉氏はこう言っています。(p.27)

現在、五、六年生がそれぞれ週1コマ、年間で35コマの活動を行い、卒業までに70コマの英語活動を経験しています。しかし、上記の計画に基づいて英語学習が実施された場合、最大では350コマの学習が小学校で行われることになります。現状の5倍の時間が投入されるわけです。
高学年の学習については、専科教員が配置されるような案もありますが、どのような人が専科教員として配置されるかは明示されていません。もし、文科省が中学校の英語教員を小学校に配置することで解決しようとしているならば、それは決して安泰なことではありません。それについては、過去に高校、中学、大学で英語を教えた後に小学校の英語教育に携わってきた私自身が、一番よく知っていることです。中学校や高等学校の英語教員には、小学校の英語教育をそんなに甘く見てはいけないと声を大にして語りたいと思っています。

「教科化」の前に整備しておかなければならないことが多いにも関わらず、公教育の中の、制度を支える取り組みが不十分なうちに、「上」や「外」の動きが加熱し過ぎている印象です。

柳瀬氏の話は、かなりかみ砕いて「わかりやすく」なっていました。オースティンの枠組みを引用・援用しているところには、今回、この法人の理事にも就任された静岡大の亘理陽一氏からツッコミが入っていました。専門的ではあるけれども、有益なやりとりでした。

大津氏の「直感の働く『母語』による気づきの促し」の話は一貫しているので、今更感がないわけではありませんが、大事なことですので、押さえるべきところはきちんと。
やはり「英語教師」にとって、「それは英語でやる必要はありますか?」という問いかけの一つ手前と一つ先、

  • では、「母語の発達段階では、どの段階にいれば、何に気づけるのか?」
  • では、「英語の授業ではその『母語』の足場に立って『英語』の何に気づくのか?」

という「足場掛け」の整備に、言語学者としての支援をお願いしたいとも思います。
私が、『学習英文法を見直したい』で書いたことのくり返しになりますけれど、あの問いかけにはまだ充分には答えていただいておりませんから。

質疑応答の際に、「国語教育」の側から、「国語教育との連携などといって、『国語』にこれ以上背負わせるのはやめて欲しい。今でも、いっぱいいっぱい。外国語教育も国語教育も用語の統一もままならないのだから」という切実な声が上がりました。衒いのない「人の声」がしっかりと会場の皆に届いた瞬間でもありました。

今回の上京時、機内で読んでいた、

  • 斎藤喜博 『現代教育批判』(国土新書、1966年)

の第12章、「学校教育の単純化」(pp.140-151) の内容がリアリティをもって響いてくるかのようです。半世紀も前の「現代」なんですけどね。

斎藤の最後だけ引用。

いま学校教育は、学校教育のなかにはいり込んでいる、また入り込ませようとしているあらゆる雑物を排除し、また教科教材も整理し単純化して、学校教育本来の教育方法をつくりださなければならない。学校教育もまたそれぞれの学校も、画一的なものでなく、独自性を持ち、個性を持つようにしなければならない。単純化するということは、一つのもののなかに、強力な発展性のあるものをおしつめていくことだからである。独自性を持つということは、そのなかでこそそれぞれの能力を引き出すことができるからである。(p. 151)

懇親会は、新旧混交で、気づけば終電。久しぶりに東京の最終電車乗り継ぎをしました。

これで、しばらくは上京する機会がありませんが、告知を一つ。

関東支部第206回例会
7月例会の前半は,文部科学省が高校3年生を対象に初めて実施した「英語力調査」の報告(平成27年3月17日公表)についての分析です。
高校卒業時のゴール設定や,入試の外部委託等とも関連してお話しいただきます。後半は,教科書本文の理解を音読へつなげる指導について,
高校1年生の『コミュニケーション英語?』の授業を取り上げます。皆様お誘い合わせの上,ぜひご参加ください。

と き:2015年7月19日(日) 15:00〜17:40
ところ:文教大学付属中学・高等学校 (アクセス:東急池上線・大井町線「旗の台」駅徒歩5分)
内 容:総合司会: 村松 希美(稲城市立稲城第五中学校)
(1)講 演(3:00〜4:15)
「高校3年生の英語力は中学卒業レベル?〜どのような調査と分析が行われたのか〜」
     発表者: 久保野雅史(神奈川大学)
     司 会: 鈴木 千貴(横浜市立東高等学校)

(2)ビデオによる授業研究と協議 (4:25〜5:40)
   「コミュニケーション英語?:生徒がいきいきと活動し,目が輝く授業を目指して 〜難しい本文をいかに理解させ、音読へつなげるか〜」
     発表者: 今田 健蔵(神奈川県立相原高等学校)
     司 会: 津久井貴之(お茶の水女子大学附属高等学校)
http://www.eijukenweb.com/east.html

私の注目は第1部の講演。先日の「高3英語力調査」について、神奈川大の久保野先生が切り込んでくれると思います。
私は本業の国体・中国ブロック予選があるために参加できませんが、高校段階の英語教育に関わる教師だけではなく、多くの英語教育関係者に参加して欲しいと思っています。
今年度既に始まろうとしている中学生での「フィージビリティ調査」を考える上でも有益な内容になることを期待しています。

大雨の前夜に堪能した、高橋徹也&山田稔明の対バン(と共演)の話は、涙なしには語れないのでまた日を改めて。

本日のBGM: Tom's diner (Suzanne Vega)