『誰も知らない本当の物語』

tmrowing2013-08-28

週末を使って、本業関連で上京していました。
全日本大学選手権。いわゆる「インカレ」です。
母校G大の応援もありますが、山口県の国体選手のパフォーマンス視察、さらには日本の現時点でのトップレベルの大学ロウイング選手、その指導者から学ぶという目的もあります。
FBの方で動画などもアップしてみました (URL を知っている人だけが見られるように設定していますが、それも期間限定です)。
印象に残ったクルーは、

  • 富山国際大のW4X+

女子のフラッグシップ覇権争いでは3位でしたが、基本に忠実に、きちんと練習してきたことが窺える、粘り強い強い漕ぎでした。ファンになりました。

  • 日本大学のM2-

一昨年、昨年に続きこの種目を制していますから、「お家芸」とも言えるのかもしれませんが、キャッチからの初動の水平性向の確かさ、リリース直後からリカバリーに入るフェイズでの艇の挙動など、かなり高いレベルの漕ぎだったように思います。この2人がペアに回っているのだから、M8+がいかに高いレベルのクルーかが分かる気がしました。

  • 東北大学のM8+ の順決勝での猛烈なラストスパート

これは鳥肌が立ちました。加速し、スピードを出す漕ぎってこういう長さとリズムになりますよね。ただ、この漕ぎを二日続けて勝負所で出すのは、本当に難しいのでしょう。
シングルスカルは、

  • 早稲田大学のW1X
  • 日本大学のM1X

どちらも圧勝と言えるレースで優勝です。W1XはSRD装備、M1Xはノーマル。
決勝レース、1st Q での2位との差が、W1Xは約5秒、M1Xは約7秒です。
スタートスパートでのレートは、W1Xが45、M1Xが42でした。
艇の挙動、キャッチからリリースまでの身体操作という点で、いろいろと学ぶことの多い二人でした。

インカレも無事見届け、せっかくの上京なので、足を伸ばして恵比寿まで。

  • 山田稔明バンド 『新しい青の時代』レコ発記念ライブ

に行ってきました。

  • 名盤の名曲を名演

で終わらないところが凄い。名盤の名曲たちがさらに成長していく瞬間に立ち会えて満足。山田氏MCで「曲が嬉しそうにしている」と言う顔に自信が充ち満ちていました。まさに、今聴くべき、新しい時代の “Middle Of the Road” だと思います。
個人的には、山田さんの「つま先立ち」も観察でき、安宅浩司さんの (スチール) ギター演奏を間近で堪能でき、「各駅停車」の頃からのファンでもある五十嵐祐輔さんとも握手できて感激です。

今回の上京で、久しぶりに訪れた恵比寿の街は、焼肉天国のような様相を呈していてかなり驚きました。それを横目に、魚貝の美味しいお店に行きましたとさ。

インカレが終わって一夜明ければ、そこには秋の風。
帰りの飛行機でも、行きと同じ雑誌を読んでいました。
先週か先々週くらいでしょうか、新幹線のグリーン車に乗ると無料でもらえる雑誌、『WEDGE』に掲載されていた大津由紀雄先生の「英語教育」関係の記事が話題になっていましたが、英語教育に携わる、どのくらい多くの方が読んだでしょうか。
私が読んでいた雑誌は、こちら、

  • 『教職研修』9月号 (教育開発研究所)

特集記事が、

  • これからの日本人に必要な、「英語教育」

一般の方は、まず読まないでしょうが、この『教職研修』の9月号特集こそ、英語教育関係者必読の執筆陣と内容です。主な執筆者を列挙します。
有識者代表なのか、行政を代表するのか、位置づけは微妙だけれどもネームバリューのある中原徹大阪府教育長、日本の言語教育政策を司る文科省からは現職で神代浩、平木裕。大学で英語教育に携わり、現場にも影響を与える人として、吉田研作、白畑知彦。民間から校長に転身の平川理恵。
これら執筆者一人あたり、かなり分量が与えられているので、皆さん自分の主張したいことをしっかりと書いています。
ただ、気になるのは、この雑誌を読むのは主として教育現場の管理職とその志望者だということ。
中高現場のトップの意識付け?外堀から埋めていくどころか、本丸を先に落としてしまおう、というような印象。このような「一人当たりの分量が潤沢な記事」と比べると、主として英語教師の読む『英語教育』 (大修館書店) の特集や連載は、本題や争点に移った肝心なところで終わってしまい、「食い足りなさ感」が残るだけでなく、そこで語られる「論考」や「主張」「提言」もナイーブ過ぎるのではないか、という感じを受けました。
『教職研修』まだお読みでない方は、是非、お手にとって読んで下さい。私は「呟き」の方で先日取り上げていたのですが、出版社の方からRTでお礼をされてビックリ。誤解があってはいけないので、

  • 申し訳ありませんが、私は雑誌そのものはさておき、今回のこれらの特集記事は、プラスの評価をほとんどしておりません。日を改めて拙ブログで取り上げるつもりです。

と返信しておきました。
このブログで、熟読の上、後日、きちんと評価をして、質すべきところは質したいと思います。

昨日で朝一からの課外講座は一段落。
本日は明日からの2学期開始に備えて職員会議と学年会議。
教材研究も少しだけ。
9月には本業での東京国体があり、県の監督として参加するので、授業は振り替えと自習課題での対応となります。毎年のことながら、お互いに納得のいくような「課題」を達成することは難しいものです。特に高2は、私が担当する授業の週4コマ全てが「多読」となります。当然、授業時間内だけでなく、放課後や自宅での時間も活用して読むことになるわけですが、そのガイダンスを昨日しておきました。
私の基本スタンスは、「呟き」でも書きましたが、

多量のインプットは必須、多読多聴は有効、でも、「初期の読み方指導において、子供を1つの学習法に片寄らせてはならないということです。たとえその学習 法がどんなに本質的なものであっても、この原則には変わりがありません。」ハイルマン『フォニックス指導の実際』(玉川大学出版部、1981年)
「…だけでいい」とか「…しかない」という学習法をいくら説かれても、「…」の部分をアレンジしたりカスタマイズしたら丸っきり別物になってしまいます。こちらの懐かしい動画でもどうぞ:テイジン「だけじゃないカトリーヌ」2 http://youtu.be/9AmclKP_8Vg

というものです。
私が教壇に立って直ぐくらいに読んだ本に、

  • 柴田徹士・藤井治彦 『英語再入門』 (南雲堂)

があります。
初版は1985年。二昔どころか三昔近く前に出版された本です。著者の柴田氏はそれよりも遙かに前の世代を生きてきた英語教師なのですが、精読と多読についてこんなことを言っています (過去ログだと、http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20090625 で同書の一部を引用しています)。

とにかく、精読法は問題点が多い。そして、細部は細部で、考え、調べて、完全を期さなければいけないのですが、最終的には一パラグラフ全体、一編の全体、一巻の全体というものがわからなければいけない。最初から隅ずみまで理解しようという完全主義はたいてい失敗に終わります。必ず、どこかわからない部分、あるいは面がある。そう覚悟してかかるのが、精読法の秘訣です。 (p. 149)

精読法の利点と欠点を踏まえて、多読との併用を勧めています。

だから、対象は限定しなきゃ仕方がない。主として教科書を精読せよ、というのはそのためです。ただし、狭い範囲の精読法でも、必ず速読法に利用できるのですから、時間と手間がかかり過ぎとは言えません。精読法を知らない人の学力は、ある程度以上は伸びませんね。あとで楽に勉強しようと思えば、なるべく早く精読法を身につけることです。
ただ、前にも言ったように、精読法だけでは十分でない。多読法と精読法と両方を利用しないと、効果はあがりにくい。どちらも両極端ですが、極端な方法が会得できないと、うまくいかないのです。 (p. 151)

そして、本題の多読法へ。

多読については、一般に大変な誤解があります。まるで、アルプス登山のような大プロジェクトである、と思っている。それで、みんないやがりますね。逃げ腰になる。実は老人子ども向きハイキング程度のものです。
多読に楽しく取りかかるには、最初の心構えが大切です。まず、初めから開き直るのです。「わからなくてもいい」、「暗闇の中を歩くのでいい」とあきらめてかかるのです。暗闇の中を歩いていても、家の姿とか道すじとかはおぼろげにわかるだろう、話しのあらすじだけでもわかればいい。そういう心構えをまずお勧めします。 (pp. 151-152)

何を読むかに関しては、

そして、その人にとって興味のある内容のものであれば読みやすい。
小説を読むことばかり考えなくてもいい。その人が自動車に興味があれば、自動車の本を読めばわかる。絵が好きならば絵の本を、料理が好きならば料理の本を、スポーツが好きならスポーツの本を読めば、なんとなくわかるわけです。
逆に言えば、自動車の好きな人が自動車の本を読むときには、あらすじが最初にわかっている。だから、大体見当がつく。既知の部分があって、そこで明かりをつけながら進んでいくと、段々わかってくる。(pp.153-154)

そして、心構え。

わからなかったら、二回くり返して読む。そうすると、ずっとよくわかる、なぜ初めにわからなかったのか不思議なくらい、わかるようになる。三回もくり返して読めば、断然よくわかる。ただ、その場合、心構えが大切です。英語の学力をつけるために、多読をしようと、思う人が多い。これはよくない。「絶対に英語の勉強をするな」「英語の単語も覚えるな」「辞書を引くな」これがモットーです。辞書を引いて、単語を覚えて、英語の力をつけて、と思うから、多読も失敗する。英語の力もつかない。
精読では、ありとあらゆる努力をする。辞書はもう猛烈に引くし、英語の単語も覚えるし、考えもする。しかし、多読では全然なにもやらない。それでも力はつく。ただその力は精読でつく力とはまた違った力です。精読ではつかない力---目に見えない力です。
多読では、こういうふうに気楽に読む。楽しんで読む。期待せずに読む。だからかなりの分量が消化できる。少し慣れれば、数冊くらいはすぐ読める。そうすると、目に見えない実力が物すごくつく。残念なことに、多読をする人は少ない。目先の利益しか考えない。結局は、損をしている。かえって、時間の節約になるんですが。 (p.154)

さらにダメ押し。

とにかく、多読ほど気楽で楽しい方法はない。これを利用しないのはおかしい。どんな本でもよいのですが、一般的には推理小説を推薦します。内容が具体的な日常茶飯事で、話の筋が簡単でしかも面白いからです。 (p.157)

この本が出版されたのは1985年。
そして、著者の柴田氏は、1910年生まれ。「文検」「高検」合格者で、大学教授となった人なのでした。
私が付け足すことはほとんどありませんが、一言だけ。

精読とか多読とか言っていますけど、本当に必要なのは、「冊数」でも「語数」でもなく、「本」ですらもなくて、ただただ良質の「物語」なのですよ。

本日のBGM: 一角獣と新しいホライズン (山田稔明バンド / Live at 恵比寿・天窓Switch)