冷蔵庫にキリンを入れる4つの手順

昨日は昼間、いきなり北海道に住む兄から、

  • お前、TOEC何点だったっけ?

というメールが来て、TOEICにまつわる四方山話。
私の場合、山口に来る前、まだ東京で働いている時に一度受けただけですので、今の試験内容とは直接比較はできません。会場は普通の学校の教室で、リスニングではポータブルのCDデッキで再生して聴き取るというのもちょっと驚きで、受験者の詰め込まれた中、私の座席は一番前の左端で、角度的に音は良く聞こえませんでしたが、リスニングは満点で、合計965点でした。まあ、その中途半端なスコアが私らしいかなという感じですね。とにかくリスニングは聴いて正解を選ぶだけで退屈、東京にいた時分でさえmaterials writerとして仕事をする中で英文中の疑義の解消のやりとりをメールで交わしたりするくらいしか、ビジネスで英語を使うことがほとんどありませんから、読解のセクションだというのに、invoiceとか社内回覧メールとか読まされたりしてなんだかなぁ、という感じで後半は眠たくて眠たくて…。でも、TOEIC講座関連業界の人だと思うのですが、外見上いかにも英語ネイティブという方が二人くらい私の教室にいて、おそらく、分担して問題を覚えて帰られるのだろうな、と。ご苦労様です。
呟きの方から、とある有名な方のbotが流れてきたので、私も呟き返しておきました。お隣韓国の大学生が就活で求められるスコアと比べて、

  • 「日本の中学・高校の英語教員は海外では“教わるレベル”である。」

なのだそうです。
こういう批判をする人たちは、

  • 「教えられるレベル」に英語のできる人たちが日本人の中にもいるのであれば、その人たちが中学高校の英語教員になりたがらないのは何故なのか?

ということは、敢えて考えないようにしているのだろうか?なぜ、社会的に発言に影響力のあるだろう彼らはその単純な疑問を掘り下げようとしないのか、それを誰か私に教えて欲しい。
日本の英語教師って、スコアが低ければ叩かれ、900点越えていても「スコアが高いから英語ができるわけではない」と叩かれる。歓迎や賞賛されることを社会構造上許されていない職業であるかのよう。吉井和哉ではないが、「トカゲのように地を這う」存在だな、まるで。トカゲやトカゲファンには申し訳ない比喩だけれど。でも、上ばかりを見ていたら見えないものが、地を這うものには見えるからね…。私の主張はいつも同じです。

  • 英語教師は英語力を高めよう。
  • 教育そのもの、教師という職業のイメージアップに皆が動こう。

さて、そんなイメージアップ戦略の一環。進学クラス高1での実作の様子です。
模擬試験の出題にあった、ある程度の長さの論説文・説明文を元に、精読をして、これから高校レベルの英語を読めるようになるために必要なガイダンスをしています。やっていることは単純。

  • 速読は不要。スラスラ読めるところはどんどん進むのだから勝手に速くなる。あれ?とか、うむむ、というところは、じっくり腰を据えて、腹を括って取り組むか、何か手がかり、足がかりだけ残して先へ進むか、わからないけど気にせず先へ進むか、などを判断するのだから時間はかかる。
  • 常に、「それまでに読んできた部分の理解から、全体として何を伝えているのかという統一した主題を浮かび上がらせ」ながら読む。
  • 「英語で考える」「英語で読む」のは理想だが、「英語的に考え」て「英語を読む」ことから。語義の理解を大切にして、「訳語」に置き換えてわかったつもりにならない。「…というのはどういうことか?」を自問自答するのに、日本語は頼りになる。
  • 英英辞典的な定義ができると読解の役に立つので、授業での私のパラフレーズを聞き逃さないこと、復習で教室にある英英辞典を活用すること。
  • そこで用いられた具体例は、何のために必要だったのか、何をサポートするためのものか、を考える。「迷ったら主題に戻れ」、ということ。

導入で使ったのは、proposeの派生語proposalと日本語の「プロポーズ」。発音と品詞。日本語のカタカナで定着しやすいのは「名詞」と「形容詞」、というのは普段から指摘して実例を挙げているので、解説。生徒には、自分が言われてみたい、自分ならこういうだろうという「プロポーズ」の言葉を聞いてお互いの顔を見合わせてから、英語での語義・定義。
「求婚する」にあたる、 “ask someone to marry you” で<動詞+目的語+ to原形>という下地を用意しておいて、本文中での「提案する」にあたる語義へと移る。
本文中で名詞のproposalがでてくる前にはproposeという動詞は出てこないので、それまでのどこがproposeにあたるのか、を読み返し、newという形容詞に着目させその形容詞を含む名詞句をパラフレーズして、<if A, then B>と解凍し、条件節・副詞節のifの種まき。
<the construction of 名詞>という部分で、<A of BでBのA>を合い言葉に、ただ日本語に置き換えて安心しないこと、Aの名詞のなかに、動詞や形容詞の意味内容が読み取れる時は、その「圧縮」された情報を「解凍」できるように、という説明に私の授業では定番の「魔女の宅急便」と「黒猫ヤマトの宅急便」の話し。この場合は、construct、さらにはbuildくらいまで噛み砕いておくといいですね、といって、読み進めると、<building + 複数名詞 + doesn’t +動詞の原形>という部分が出てくるので、主述の呼応を間違えている生徒に対して、「さっき、 buildまで噛み砕かなかった?」と問うて、-ingが動名詞で「〜すること」を表しているのを確認。
<make + 目的語 + 補語>の文型が、少し入り組んだ文で不定詞の形で出てくるので、授業のオープニングで蒔いた種へ。 “I will make you happy.” でのmakeと同じ考え方。目的語のyouにあたる語句が長くて難しかったり、happyにあたる語句が長くて難しくても、頭の働かせ方は変わらない、ということを確認して本文へと戻り先へと進む。
encourageの語義と文型を確認するのに、proposeの定義で板書したaskの文型を喚起。自分で蒔いた種を刈り取っていきます。次の文では、the methodと通過しがちな「方法」でも、もっと噛み砕いてwayあたりまで易しくしておいて、さらに「〜によってencourageされたway」とその前の内容を引き取っておくと、 “under …’s direction” での directionというイメージが掴みやすくなる、という話し。
で、この段落の最初のハードル、名詞節を導くif の文へ。パラフレーズを板書した、副詞節のifとの違いを図示。「ことがら」を表す名詞句、名詞節はワニの口、として四角化しているので、そのワニの口の目印として働くifの場合は、その前に目的語を取る動詞があり、その意味の結びつきが決め手。副詞節として用いられているifの場合はそのまとまりを前へと動かしても意味が通じるはず、とまとめて一段落。そこまでを音読し、頭の働かせ方をおさらい。
次の時間では、次段落の冒頭に、processという語が出てくるので、その種まきに、「冷蔵庫に象を入れる3つの手順」の話しから。生徒はほとんど雑談だと思っています。続いて「冷蔵庫にキリンを入れる4つの手順」の話しへ。そこからの教訓を、

  • 主題から離れずにシンプルに考えること。
  • 記憶はまず入れること。引き出したあと、整理のために、前よりも綺麗に入れ直すこと。

と纏めてから、processへ。象と冷蔵庫の話しにでてきた、「まず、こうして、つぎにこうして、でもって、最後はこうする。」という実感を持って、本文を読み、begin with をただ訳語に置き換えるのではなく、頭の中に映像を思い浮かべることを求めています。ここは<動名詞の意味上の主語>も絡んでくるので、結構きついハードルです。その後、具体例の列挙で、その提示順が肝、となるところがあるので、ナンバリング。名詞に数字を1から3まで振らせて、「これは何の順番?」と問い、どのように機能するのかを確認。ここでも、「この具体例は何のため?」「迷ったら主題に戻れ」を徹底。alsoが出てくるので、「何に何を添加したものか?」「何のレベルが同様なのか?」を問い、次の文を読む前に考えさせる。そこまで読んできた部分の記述の理解が確かで、そこから統一した主題を引き出せていたら、その次の文はもう、読めたも同然、だけど、ちゃんと読んで確認しないとダメ。ということで読んで確認。under the groundという記述から、本文中の種を見つける読み直しの作業。wells「井戸」を見つけたところで一段落。音読の指示で終了。
次回は、processの英語での定義と<source of 名詞>の本文以外での実例の補足から始める予定。
こんな、まどろっこしいことを、日本語に訳すためではなく、日本語を頼りに英語を理解し、英語を頭に残し、英語的に頭を働かせるためにやっています。生徒にはこう言っています。

  • 焦りは禁物。続けていれば、必ずそのうちできるようになる。ただ、あなたのそのうち、とあなたのそのうちは違うからね。大事なのは続けること。今の自分の力よりも少し上の英文での精読を、お膳立てを利用して取り組むのが授業。自力で読めるものから始めて、自分のペースでどんどん読んでいくのが多読。その両方がないとダメ。授業でやっているレベルが厳しいなと思ったら、それより下の多読をしっかり。もっと精読のレベルを上げたいなと思っても、読みでは無理せず、多読のレベルを少しずつ上げていく。先行するべきなのは「語彙学習」の方。『P単』でコロケーションを確実に、音声CDのフル活用。小テストの範囲などと、みみっちいこと言っていないで100個一気食いで反応速度を上げること。

本日の晩酌: 上喜元・純米吟醸・完全発酵 (山形県)
本日のBGM: 脳プロブレム (YO-KING)