はずれくじ、すごろく、そして風呂敷

今日は追試指導です。
該当者は「チャンス」を得た訳ですから活かしてください。
私には私の実作。
春期課外講座のメニュー作成が完了したところです。これから旬の素材を探して「風呂敷」包み。風呂敷は使わない時、畳んでおかないとね。何時でも、何処でも、何にでも広げているのは感心しません。

自分の呟きで知ることになった自分のteacher's beliefsにちょっと驚いています。

文科省等の指定校・拠点校で頑張っている先生も多数知っているけれど、教員全てが同一・統一の指導法を採る職場には魅力を感じない。「一枚岩」の如く同じというのは「硬直」と紙一重。大き過ぎるのも困るけど風呂敷の様に中身に応じて形も変わり、不要の際には畳んでしまえるのが理想です。比喩です。

そう、学びとして求めているのは「はずれくじ10枚理論」と「すごろく理論」だけれども、指導法としては「風呂敷理論」を求めていた訳ですねぇ。
読解・作文ではあれほど「日本語の段落は風呂敷、英語のパラグラフはブリーフケース」と生徒に対して説いてきたのがちょっと皮肉に感じました。

さて、
国公立大の後期入試も終了しました。
今、九州大学の後期試験を見ています。
気になったのは、やはり和文英訳での「主題」と「論理」でした。
出題の日本文は以下の通り、そのうちの (1) の1文と、(2) の1文のみを英訳するものです。

自分の仕事に責任を持つのは当然です。(1) 一般に、責任をとるということは自らのミスの償いをするという意味ですが、仕事上の失敗に金を払ったり、辞職をしてもそれですむものではありません。むしろ一面では無責任のそしりをまぬがれないでしょう。
責任は “とる” ものではなく “果たす” ものと考えるべきなのです。仕事をするということは、自己の責任において仕事を完成させることなのです。(2) たとえミスを犯したとしても、最善の方法で対策を講じ、仕事を完成させるよう努力しなければなりません。同時に、なぜ誤りが発生したのか、その原因を追及し、二度と同じような誤りをしないよう研究することが、責任を果たすことなのです。

「責任」のコロケーションを取り上げた出題なのですが、そもそも日本語で、

  • 責任を持つ
  • 責任をとる
  • 責任を果たす

はそれぞれどのように定義づけられ、使い分けられているのでしょうか?

ほとんど同じissueを扱う、こんなコラムを目にしました。

豊田尚吾 「責任を『とる』と『果たす』の違い」 (http://www.osakagas.co.jp/company/efforts/cel/column/management/1193870_1647.html)

このコラムの中で豊田氏は広辞苑を引き、

  • 責任には、「とる『責任』」と「果たす『責任』」と二つの意味がある。

という趣旨のことを述べています。私の理解、語感も、豊田氏の引いた広辞苑に近いものです。
このような語感をもつ日本語話者にとっては、今回の九州大の出題は難問です。日本語の記述が、

  • 「とる責任」だけでなく、「果たす責任」を重視するべき。

というようなものであれば、論旨を理解するのが容易であったかと思われますが、そうであっても、英語に直す時に、”responsible” という形容詞、または “responsibility” という名詞を用いる際には、注意が必要だと言えるでしょう。
形容詞responsibleの定義を見てみます。

  • morally liable for the carrying out of some duty; in a position where one will be blamed for failure (ISED)
  • having a duty to see that something is done etc, and likely to have to report to (a particular person) when it has not been done etc: We’ll make one person responsible for buying the food for the trip; He is responsible to the manager for the way his staff behave. (Chambers Universal Learners’)
  • 1. obliged or expected to account (for, to); accountable; answerable 2. deserving credit or blame (World Book Dictionary)
  • 1. deserving to be blamed for something that has happened 2. someone who is responsible for someone or something is in charge of them and must make sure that what they do or what happens to them is right or satisfactory (MacMillan English Dictionary - American)
  • 1. having an obligation to do something, or having control over or care for someone, as part of one’s job or role 2. being the primary cause of something and so able to be blamed or credited for it (Oxford Dictionary of English)
  • 1. if someone is responsible for an accident, mistake, crime etc, it is their fault or they can be blamed 2. having a duty to be in charge of or to look after someone or something (LDOCE)

注意点が見えてきたでしょうか?
Longman Activator Thesaurus では、"be responsible for / have responsibility for" の定義として、

  • if you are responsible for or have responsibility for doing something, it is your job or your moral or legal duty to do it

をあげています。
また、Oxford Learner’s Thesaurus では、"be responsible for sb/sth" の定義として、

  • to have the job or duty of doing sth or taking care of sb/sth, so that you may be blamed if sth goes wrong

をあげています。
英語で responsibleを用いる際も、その語義が

  • やり遂げる仕事、責務、使命がある
  • 功であれ、罪であれ、起こったことの主因となる

と「二義的」であることに注意が必要である、ということです。日本の学習者は前者の語義を的確に把握していないことが多く、さらには後者の語義では「功」にも用いることがあまり分かっていないようです。(過去ログ、 credit の語義参照 → http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130221)
大手予備校などでは解答速報を出しているところもあるでしょう。その模範解答で、(1) の英訳、つまり、「取る責任」の英訳に “responsible” や “responsibility” という語が使われていたなら、その語義とどのような対比で、(2) の英訳、すなわち「果たす責任」の英訳を記述し纏めているのか、というところが、解答者の腕の見せ所となるでしょう。
今回の出題文では、日本語文をそのまま英語にすると、一体何を言っているのかがよくわからない文になりがちなので、正直なところ、ケリー・伊藤氏にでもバッサリ斬って欲しいところです。
私自身が受験生だったのは約30年前ですが、市販の英作文問題集はほとんどやっていません。その代わり、当時英語を教わっていたM先生のところに、新聞や雑誌に載っている私が好きなスポーツ選手や俳優、作家などのコラムやインタビュー記事をレポート用紙にスクラップよろしく貼り付けては英訳し添削してもらっていました。そのM先生に、

  • ここは英語としては全く論理になっていないから書き直し。

とバッサリ斬られ、何度もダメ出しされた「文章」があったことを覚えています。日本語として、何か分かったような気になるけれども、英語に直す際に、論理の飛躍や、崩れに気がつく経験をさせてもらっていたわけですから、受験勉強も有り難いものです。
九州大学は初夏になれば、標準解答例を公開してくれる良識ある大学なので、この後期の問題は是非「標準解答」の英語を見てみたいと思っています。
前期試験でも一橋大学の出題文の変更など、いくつか気になるものがありますので、また日を改めて取り上げてみたいと思います。
今は、フィギュアスケートの世界選手権を見届けることが先ですかね。
男子はSPで興醒めの採点でしたが、女子は見応えのある演技を期待したいところです。

本日のBGM: はだかにはさせない---はだかにはならない (Carnation)