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  • 「為にする議論」

などというときの「ためにする」という日本語は、余り良い意味では使われない印象ですが、今日の気になる語法は「…のために;…するために」で目的・意図・目論見などを表すどどいつ(=副詞句)と、その扱われ方。

大学入試対策を謳う教材(学参・問題集・辞典)では、

  • to 原形 (in order to 原形;so as to原形)

以外にも

with a view to
with the aim of
with the intention of
for the purpose of

などが、=で言い換えられたり、重要表現としてコラムでくくられたりしている印象ですが、肝心の用例、文例は余り示されないので、誰が誰に対して、どこでいつ、それこそ、「何のために」言う表現なのか、の実感が掴み難いと思っています。

20世紀の大学入試英語問題データベースとも言える
『クラウン受験英語辞典』(三省堂、2000年)
では、「超頻出」として

He saves the greater part of his salary with a view to buying a car.
彼は車を買うつもりで給料の大半を貯金している

という英文を完成させる空所補充問題を収録していて、その注記に

[話]では to doingではなくto doが使われることもあるが、入試では不可

という有り難い助言を加えてくれています。
同書の同ページには、次のような過去問も収録されています。

彼は文学を勉強する目的でイタリアへ行った。
He went to Italy ( ) studying literature.
1. with an aim to
2. with a view to
3. in the purpose of
4. in the intention of

正答として想定されている選択肢は2番でしょうね。もっとも、この程度の内容であれば、to studyと、to原形で表現すれば充分だとは思います。

同書では<頻出>として、for the purpose of = with the purpose of の項目をpurposeの下に立てています。withを許容していますが、withの用例は出てきません。

Taro attended the party ( ) seeing Junko there.
1. for the purpose of
2. in the care of
3. on account of
4. by way of
5. by means of
6. in addition to

正答は1を想定しているでしょうが、選択肢は6つも必要なのでしょうか?

これらの「目的」の表現が最近の辞書でどう扱われているか?「物書堂」のアプリ辞書の「学習英和」でちょっと見てみましょう。

viewの成句で扱っているもの

with a view to →G6、O-LEX、コンパスローズ
with a view toとwith a view of 併記 →Wisdom

purposeの成句で扱っているもの

for the purpose ofとwith the purpose of併記 →エースクラウン
for the purpose(s) of → コンパスローズ、Wisdom(旧版では成句扱い;現行版では用例で収録)

aim/intentionの成句では扱いなし。
用例で収録されているものを引いておきます。
aim

with the aim of making money お金をもうける目的で (Wisdom)
save money with the aim of buying a house 家を買う目的で貯金する(G6)
with the aim of graduating in June 6月の卒業を目指して(O-LEX)

intention

with the intention of going home 帰宅するつもりで (Wisdom)
with the intention of doing one's duty 義務を果たすつもりで (G6)
She went to Vietnam with the intention of buying silk dresses.
彼女は絹のドレスを買うつもりでベトナムへ行った (O-LEX)
She studied English very hard with the intention of going to America.
彼女はアメリカへ行くつもりで英語を熱心に勉強した (コンパスローズ)

最近見た某英熟語集では、 with a view to は「目的」を表し for the purpose ofと同意であるとして「=」の記号で結んでいましたが、その他の表現は取り上げていませんでした。

所謂「動名詞 (-ing形)」が続くものだけでも、上記二つが同じと言えるのか、ちょっと調べてみました。

COCAでfor the purpose of

アカデミックな領域とWEBが濃いが、話しことばやブログでも使われている。

COCAでwith a view to

全体の使用頻度が、for the purpose of より低いだけでなく、明らかにレジスターに偏りのある「堅い」表現。TVや映画、小説でも殆ど使われない。話しことばでの使用頻度は相当に低いと考えられる。

GLOWBEでfor the purpose of

バングラデシュの濃さが気にはなりますが、広く使われている印象。

GLOWBEでwith a view to

やはり使用頻度はfor the purpose ofの方が高い。英文化圏/アフリカ圏が濃い印象。

この二つの表現をイコール(=)で結んで大丈夫ですかね?
今となってはかなり古い辞書ですが、A.P. Cowieらが編んだ、

  • Oxford Dictionary of English Idioms (1993年)

では、idiomとして収録されているのは “with a view to doing sth” の方で、定義は

  • with the intention and hope of doing sth, either soon or later

となっています。
収録された用例は、

  • I went to Mr A N Seligman’s chambers in Lincoln’s Inn with a view to getting called to the Bar (= qualifying as a barrister).
  • Attempts are being made to organize a conference on adoption law.
  • Corps was to break into the enemy positions and operate with 7th Armoured Division with a view to drawing enemy armour in that direction.

とかなり「堅い」話しであることがわかるでしょう。

同じOxford系で、OALDの現行の最新版(第10版)では、formalというラベルつきですが、用例はそれほど「堅い」話しの場面は想起させないかもしれません。

with a view to something/to doing something
(formal) with the intention or hope of doing something
He’s painting the house with a view to selling it.

英国の辞書では、LDOCEの定義はちょっと変わっています。

with a view to(doing) something [plan]
because you are planning to do something in the future:
We bought the house with a view to retiring there.

この定義と用例を通過してみると、先ほどのOALDの用例も同じ匂いが感じられますかね。

Oxfordでも、アカデミック版では、定義はOALDとほぼ同じですが、用例は「堅い」です。

with a view to (doing) sth
with the intention, aim or hope of doing sth
· Negotiations were in progress between France, Britain and the USSR with a view to an alliance.
· An official was sent to London to study police methods there with a view to improving the police service of his own city.

COBUILDは旧版も最新の第10版も同じで、formalというラベルはありませんが、用例は「堅い」話しです。

PHRASE
If you do something with a view to doing something else, you do it because you hope it will result in that other thing being done. する目的で
▶ He has called a meeting of all parties tomorrow, with a view to forming a national reconciliation government.
彼は,国家和解政府を組織する目的で明日の超党派会議を召集しました.

Cambridgeだと、 idiomで語彙のレベルはCEFRのC1扱いで、用例も堅めです。

with a view to doing sth
with the aim of doing something:
These measures have been taken with a view to increasing the company’s profits.

米国の辞書でMW’sの学習者版だと、次のような記述。

with a view to
somewhat formal: with the hope or goal of (doing something)
They have reorganized the department with a view to making it more efficient. [=in order to make it more efficient]

単純なto原形ではなく、目的を明示するin order to原形でパラフレーズしています。

ここまで見てきた辞書の定義で、with a view toのviewは不定冠詞で、前置詞はtoですが、定義文で使われる with the aim of では、aimは定冠詞で、前置詞はofです。これは「混交」してもおかしくないですね。

また、for the purpose of よりも頻度は低めですが、with the purpose of と、最初の前置詞にwithを使う人はいるわけで、この辺りも「混交」しておかしくないでしょう。

いくつか実例を。

with a view of -ingの例

with the purpose of -ingの例

with the aim of -ingの例

with the aim to原形の例

with the intention of -ingの例

with the intention to原形の例


このように「混交するのが人情」というわけで、日本のテスト、そしてテストに忠実な教材ではあまり示されない英語の実態を見ておきましょう。

COCA 全部載せ

COCAは均衡コーパスですので、ベンチマークにはなるかと。
この後に示す検索結果にも当てはまりますが、intentionやaim はtoの後に原形をとりますので、ノイズは含まれていることをご了承願います。

TV 全部載せ

GLOWBE 全部載せ

地域差・文化圏差がでてくるところでしょう。

NOW 全部載せ

渾沌に映るかも知れませんが、これが現代の英語の実態といえるでしょう。

  • 「英語は国際語」「英語を駆使してグローバルなコミュニケーションを」

などと喧伝している人たちは、これらのバラエティ溢れる組み合わせを全て受け入れてくれるんでしょうか?

その一方で、「コミュニケーション重視」の英語教育政策と実践を批判し、「文法」を中心として「知識」を授けることを主張する人の声が年々大きくなっているような印象をもっているのですが、そのような声の大きい人たちに、これだけ多様な英語使用の実態を背景に「英語を身につけた」人が存在するという認識はあるでしょうか?

英語テスト大国の日本ですが、英語のテストを受けた時に、その各人各様の英語の運用力が発揮されずに悲劇が生まれるような問題を作るのはやめて欲しいと切に願います。

本日はこの辺で。
本日のBGM: すべての悲しみにさよならするために (KAN)

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