”Your dead silence is hard to ignore.”

台風一過で、地元の天気は持ち直したけれども、四国や近畿は被害が出た模様。
授業は淡々と。
進学クラス2年の「質問づくり」はダメ出しでやり直し。お互いに鍛えられますね。
放課後は本業で湖へ。1Xで腕漕ぎからシート10センチまで。バランスを気にしすぎて、フィニッシュポジションより前でクラッチへの加重を緩めてオールを抜こうとすると艇がどこかに行ってしまうので、余計にバランスが乱れます。フィニッシュとリリースとはよく言ったものだと思います。
帰宅したら、首相官邸前の抗議行動の呟きでTLは埋まっていた。
先週から一段と参加者が増えて、45000人とも言われている。私の知人も参加していたので、岩上さんのUstream配信を見ていた。山本太郎氏も記者に答える形で冷静に力強いメッセージを送っていた。
先週とは違って、日本のメディアも黙殺はしていないようだが、地上波のTVニュースなどは8時台、9時台とも空振り。国営放送と言われる局では、代わりに北海道でのホッケの不漁が取り上げられていた。確かに、漁師や関係者にとっては痛いことではあるのだろうけれども…。
晩酌はなし。
さて、
とある英語関係のブログで、「能動受動態」という用語を見かけました。今時、そんな文法用語を使って英語の授業が出来る学校は珍しいな、と思って読み進めていたのですが、そこで示されている用例は、もともと文法の問題で与えられた語を適切な形に直しなさい、とでもいうような指示で示されたものでした。

Lots of things (sell) at a convenience store.

ここで空所に sellという形を補充した結果出来上がった英文を「能動受動態」の例として容認するのは、適切さを欠くのではないかと思いました。私の頭に「?」が浮かんだのは、能動受動態といわれる文構造がどういうものなのかは、そのブログでも適切な用例を用いて適切に説明されていたからでもあります。
この文構造は「主語として取り上げられる名詞句の意味内容、その『もの』が持つ特徴」に依存することで形の上での歪みが気にならない、とでもいうような現象ですから、"lots of things" という、この文だけでは、意味を把握しにくい漠然とした名詞句を主語として、その「主語の性質・特質・特徴」を述べる文を考えるのは難しいのではないかと思いました。何か、先行する文脈でも引き受けて、”Lots of those things” とか “Lots of them” のように主語を立てているならまだ容認度は上がろうかとは思うのですが、いかんせん、この文だけではちょっと…。
辞書の用例を見ると、

These little books sell for 95p each.
Their revolutionary jet did not sell well.

の他に、

a pocket calculator selling at the same price

という現在分詞も使えるのかな、と思わせてくれます。(以上、 BBC English Dictionary (1990年))
Chambers Universal Learners’ Dictionary (1980年)
の定義は “to be sold” とそっけないのですが、少ないスペースに豊富な用例。

These apples are selling at 40 pence a kilo.
The picture sold for £200,000.
His book sold well.
The shop stopped stocking those pens because they didn’t sell.

WBDでは、 “to be in demand as an article of sale; find purchasers; be on sale; be sold” と定義は沢山なのですが、用例は2つのみ。

This article sells well.
Strawberries sell at a high price in January.

COBUILD School Dictionary of American English (2008年) の定義文は、 “If something sells, it is bought by the public, usually in fairy large quantities.” となっていて、用例として、

Even if this album doesn’t sell, we won’t change our style.

を載せています。
個人的に最も頻繁に使うMacmillanのオンライン版では、

if something sells, people buy it:
Designer clothes don’t really sell much in the smaller towns.

something sells well (=a lot of people buy it):
Her new book sold very well in the first six months.

となっていました。

オンラインコーパスは用例検索には非常に便利なツールとしても使われますが、たとえばCOCAでこの類の用例を探すのは結構大変だと思います。一応、文脈の辿れる用例を。

Newer homes here average $600,000 to $800,000, and they sell well.

We're bringing in 20 or 25, which probably doesn't seem like a lot for a business our size. But we think that's a good number. If they sell well, we can quickly put together a new order and have them here in three weeks.

Jeans have been one of the most stable categories in apparel for 10 years. In really good years sales were up 3% to 4%. In really bad years sales were up 1% or 2%. The exposure they get in fashion magazines changes. But that's high-end jeans, and sometimes they sell well and sometimes they don't.

次は関係代名詞を受ける例。COCAで見つかった先行詞となる名詞は、items, products, designs, colors。WBDで見られた articleの例はみられず。

I think retailers are going to take a hard look again at their inventories and edit out any items that are slow movers or fringe items and really focus on the items that sell well.

代名詞を先行詞としている場合は、その前の何を受けているかを辿って。

Morningstar analyst Erin Swanson said Sara Lee, like other consumer-products companies such as Kraft and General Mills, decided it made sense to sell off less-profitable, slow-growing businesses to concentrate on faster-growing products, including those that sell well in emerging markets overseas.

この場合は、productsと見るのが妥当でしょう。

Currently, most commercial fish farmers who have successfully adapted these sustainable techniques operate in high-value niches of the industry, raising fish such as arctic char, hybrid striped bass, cobia, and others that sell at a premium price, thereby softening the blow of RAS's significant upfront costs.

ここで、othersはother fishと見るのが妥当。

英語教師には釈迦に説法でしょうが、私自身の備忘録も兼ねて、手許の学参の頁を繰って見ます。
清水護他 『詳説英文法』 (南雲堂、1956年)

The wine drinks well for its price.
The blankets wash well.

大塚高信 『英語百科小事典』(垂水書房、1958年)

Meat will not keep in hot weather. 肉は暑い天候ではもたない。

林語堂 『開明英文文法』 (文建書房、1960年)

The poem reads smoothly.
This pen writes very smoothly.

『英語ニューハンドブック (新訂新版)』 (研究社、1967年)

These goods sell well. これらの品はよく売れる。
His speeches read well. 彼の演説集はおもしろく読める。

木村明 『英文法精解 (改訂版)』 (培風館、1967年)

Milk does not keep in this heat.
Cotton cloth wears well.
My stockings have worn thin.
The parcel carries easily.
次の例も見られたが、学ぶべき例とすべきかは疑問。
They sell like hot-cakes.

西尾孝 『実戦英文法活用辞典』 (日本英語教育協会、1976年)

His novels sell well.
This book sold ten thousand copies last year.
The meat cooks all the better if you cook it slow.
She always photographs well.
His letters read stark and bald as time-tables.

比較的新しいもの (といっても四半世紀前ですが) では、
相原仁郎 『英文法精講』 (開拓社、1988年)

This weekly magazine sells well.
Ripe peaches peel easily.
This cloth washes well.

相原は解説で、

これらの動詞は、それぞれ主語 this weekly magazine, ripe peaches, this cloth の特性を述べているので、だれが行為者になっても結果は変わらない。しかし、He peels ripe peaches easily. <彼は熟した桃の皮を簡単にむく。>では、彼の皮のむき方が上手だという意味で、特定の主語の能力を述べている。

と妥当な記述をしています。
学参ばかり見ていてもしかたないので、もう少し専門的なものを。
『クエスチョンボックスシリーズ 6 時制・法・態』 (大修館、1960年)
を見ると、
「81. best-seller の意味」 (pp. 119-120)
で興味深い指摘、用例があります。長いですが出来るだけ正確に理解するために引用します。

形はActiveだが意味はPassiveであるという理由で、そんな名称をつけたのでしょうが、これはどうも少し理屈にかたよった説明ではないかという感じがします。なるほど文法的にはそういう説明も可能ですが、The book sells well.という表現のsellに対して、英米人はいちいちpassiveという感じを意識していないと思います。The bookを主体にして、単に「その本がよくsellする」と考えているのではないでしょうか。直感的にと言うと語弊がありますが、the book→sellと結びつけて、その間に「本来は本屋がthe bookをsellするのだ」という論理的な反省を許さないのでしょう。(中略)
ところで、「本がよく売れる」というときは
The book sells well.
と言うわけですが、「その本は1ドルで売っている」と言うときは、
The book is sold at a dollar.
となり、the bookがsellという動作の客体としてとらえられることになります。売買関係ということになると、やはり人間が主体として前面に出てくるのでしょう。もちろん、at a dollarがついても、売れ行きを問題にするなら The book sells well at a dollar. (その本は1ドルでよく売れている) となります。
日本語では「この本は100円で売っているが、よく売れている」と言いますが、英語ではこの売っていると売れているをis soldとsellで表しているわけです。余談ですが、上の日本語を「この本は100円で売れているが、よく売っている」としたらどうでしょうか。こういう日本語の微妙な意味の相違は、われわれ日本人には別に理屈で考えなくてもすぐにわかりますが、英米人が日本語を勉強する場合には、大いに悩みの種になるのではないでしょうか。われわれの場合は逆で、英米人には何でもないことに、始終悩まされているわけです。若干の例を示しますが、いずれも形容詞もしくは副詞的要素によって修飾されている点に注意していただきたいと思います。これは単に動詞だけで用いられたときは、ここで指摘したような用法にならないことを示すものと言えましょう。

この項の回答者は江川泰一郎氏。流石です。
『続クエスチョンボックスシリーズ 18 動詞・時制・法・態』 (大修館、1974年)
では、
「42. park (v.i.) 」 (pp. 38-39) の (3) 〜 (5) の項目で、いわゆる「能動受動態」が取り上げられています。この項の回答者は渡辺登士氏。取り上げられた用例も簡にして要。

(4) また、能動受動態は進行形をとったり、助動詞を用いたりして、概して迂言的 (Periphrastic) 動詞形態をとることが多いのです。たとえば、
e) Ducks were roasting. --- A. Christie / Apples will not keep for ever. --- P. Norbury / …the noise of it had carried far across the fields. (その物音は畠を越えて伝わっていた) --- R. Dahl, Kiss Kiss.
のようです。

40年、50年前の解説では、古すぎる、と説得力を感じない人もいるかもしれません。少しだけ新しめで四半世紀前のものから。
『例解現代英文法辞典』 (大修館書店、1987年) では、「185. The book sells well.」 (pp. 478-479) の項目に、非常に分かりやすい説明が見つかります。

標記の文にみられる「本の売れ行きがよい」ということは、その本の内容が心をそそられるものであるために、皆が買い求めるとういうことである。述部のsells wellが述べているのは本の性質であって、主語としての本が受ける動作ではない。(中略)
1.
a. This material washes well.
b. The trailer pulls easily.
c. The clothes iron well.
d. The door won’t open easily.

これらの例においてもまた、特定の動作主 (agent) が行う場合に限って布地の洗いがきいたり、トレーラーが引きやすかったり、アイロンがかけやすかったり、ドアが開けにくかったりということが成り立つのではない。(1) はだれが行っても同じようにそうである、という意味である。能動受動文は、単一の出来事について述べるのではなく、誰がいつどこで行っても、繰り返し具現化するような動作、行為、出来事を述べる文で、そこで述べられていることはいずれも、主語の特性を規定する内容である。さらにいえば、能動受動文の述部で表されている内容の具現化に責任をもっているのは、その文の主語名詞句に備わっている性質である。

先人が残してくれた資料に感謝です。
これで振り出しに戻って考えてみて、私の頭に浮かんでいた「?」が消えていればめでたしめでたしですね。

さあ、明日は本業で国体の県予選。天候が持つことを祈ります。

本日のBGM: Good News (& Bad News) / John Wesley Harding