時の記念日

一週間が過ぎるのが早い。
授業は山有り谷有り。
昨日で行事前最後の授業となった商業科1年は「ぐるぐる」を終え、「対面リピート」での課題練習が出来るところまで辿り着いた。ターゲットとなる文法項目の「助動詞」はwill / can / must の3つ。それぞれの「肝」を解説した後、辞書引き作業から、ハンドアウトに用例転記、音読で締め。本課で学んだテーマ関連語彙を元に、主題に関わる表現活動の下準備として、「アイデアジェネレーション」の観点、目の付け所を一つずつ。

  • 本文で学んだ、「事実・出来事」に対しての「自分の気持ち・感想・意見」を想起する。
  • プラスのイメージを持つ語句とマイナスのイメージを持つ語句とを整理する。
  • 「する」系の動詞と、「である・になる」系の動詞とを使い分ける。出来る限り、be動詞に逃げない。
  • まずは「語順」。意味を思い浮かべたら、四角→とじかっこ→四角の順に言葉に置き換え並べる「回路」を作る。

などという感じ。この課の最初に行った、3つのキーワード「広島」「原爆」「平和」に基づく連想リストがここにきて活きることになる。もっとも、それを活かそうという意志がなければ始めてなどいないのだが。
今回は、授業で扱った題材を元にした表現活動を志してみたのだが、最近気になるのは、ネット上で目にする、やたら「インテイクからアウトプット」と謳う英語教材やら、指導方法。そんなに簡単に「インテイク」なんて出来るのかしら?そして、何をもって「アウトプット」と称しているのか?ときどき、問題集で4択の答えから正解を選んだのち、その正しい英文を「再生」することを「アウトプット」と称しているものがあったりすることに驚く。また、free substitution drillsのように最低でも自分の頭の中で選択組み合わせなどの意味の処理くらいは行った上で、英文を産出するというのではなく、単に、教師のキューに従ったパタンプラクティスもどきの和文英訳作業を「アウトプット」と称しているものがあったりすると、大学での英語科教育法で扱われる英語教授法のイロハって何の役に立っているのだろうかと、頭が痛いのを通り越して、悲しくさえなる。「アウトプット」というものが適切に扱われない一因には、検定教科書の作り方もあるだろう。現在使っている教科書の課末の「活動」にも大いに不満があったので、教室で生徒に問いかけてみた。

  • これだけの社会性のある内容を学び、音読も語彙の記憶も厳しくトレーニングをして、文法も日本語に訳すというためだけではなく、「使うため」の観点で整理してきて、その最後に、「Tシャツに英語の語句でメッセージを!」でいいの?それで満足?英語が苦手な人が使う教科書だから、この程度のものでいいと思われているんじゃないの?

私が教室に持参したのは、今は亡き忌野清志郎さんをリスペクトしている日本のミュージシャンが、忌野さんの生誕60周年を記念して作成したロゴの入ったTシャツ。「ユニクロ」の企画である。(http://store.uniqlo.com/jp/store/feature/ut/lovepeace/)
胸には、 “Love & Peace & …” でこの2語に加えて、最後にそのミュージシャンならではの一言を付け加えるというもの。私が個人的に買い求めたのは二種類。まずは真心ブラザーズのデザイン。

  • Love & Peace & Enjoy

英語の観点では品詞のレベルが揃っていないダメダメコピーだけれど、「そんなに真面目でどうする?気楽に生きろよ!」という彼ら (主にYO-KING) の真心がこもっている。
続いて、Charさんデザインによるものは、

  • Love & Peace & … How?

という、ベテランならではの知性溢れる切り返し。自分なりの1語を選ぶ際の基準、感性が問われる企画でもある。現実社会でのTシャツのスローガン、メッセージがここまで来ているのに、教科書の中の課題だけが子供騙しや時代遅れなのでは、その教材で学ぶ者の心も立ち位置も揺すぶられはしないだろう。教師用指導書に目をやると、教科書のタスクとはかけ離れた「ディスカッション」の指導例が載っているのだが、この教科書のページでの活動から、いったいどのように「発展」や「飛躍」させれば英語での議論が可能なのか教えて欲しいものだ。
昨日は寮の当番だったので9時まで舎監室。宿直の先生に引き継いで帰宅。そこから夜のうちに教材研究や自分の英語のトレーニングをするのは今の私には無理。早く寝て、早く起きて朝やります。
明けて、週の終わりの金曜日。
進学クラス高一は、<wh-不定詞>名詞句が終わり、副詞節へ。いよいよホワイトボードの出番です。
調べ学習は小学校から経験してきているはずですが、辞書の用例を抜き出してホワイトボードに転記する、という単純極まりない作業でも、その生徒の学びの姿が浮き彫りになるもの。あぶり出しといってもいいでしょう。朝から雷鳴混じりの空でしたが、1限から雷を落としておきました。ホワイトボードの両面に、beforeとafterの用例が揃ったところで、意味の処理、構造の確認、そしてチームによる音読練習。一区切りついたところで、beforeチーム、afterチームからそれぞれ一人ずつ選手を出してペアを組みじゃんけん。買った方は負けた方を自分のボードの前に立たせます。この時、英文の書いてあるボード面に背中を向けて相手を立たせるのがポイント。そう、「対面リピート」です。自分のチームで調べて書き出して、音読練習もしっかりやった英文がスラスラ読めるのは当たり前。相手側のプレゼンを聞いて分かったつもりになっていた英文が実は何も分かっていなかったということに気づく局面でもあります。読み上げる側も、チャンクの切り出しとか、バックワードビルディングとか私の授業で私にやってもらっている「手法」が身についているか自分に問い直す局面にもなるわけです。

  • Your wife came in just after you left.

などという物凄く短い文であっても、 Your wife cameで切ってしまっては全てが崩壊。in just afterでチャンクを切り出されたら私もお手上げです。

  • It began to rain heavily a couple of minutes after I left home.

であれば、まず一通りやってみてスラスラ言えなければ、It began to rain → after I left home をまず確認しておいて、そこからの積み上げとなるでしょう。「It began to rain heavily で切った後に、a couple of minutesで切ることは絶対にないな。」という実感が相手に対して読み上げることで得られなければ、この対面リピートもただの「呪文」になります。ということで、

  • Her grandma died two weeks after she was born.
  • I received a letter from him two weeks after he left Japan.

などと文が長くなって行くと「崩れそう」どころか、実際に何度も崩れては立て直してリピートすることになります。
beforeでやっかいなのは、

  • Call him before you forget.
  • I must go home before it gets dark.
  • You have two minutes to get out of my house before I call the police.

などでの、日本語では「〜しないうちに」などと否定的な「未遂」表現を用いるところを、英語では前後関係で捉えているもの。ここはきちんと私の方から指導をしておきました。
接続詞の左に来る「期間」は常に接続詞とセットなのだという意識が出来上がったところで面食らうのは、

  • She had not been employed five months before she was fired.

などの <否定+before>。今回の高1は、この最後のタイプは誰も抜き出していなかったので扱われませんでした。生徒のノートに、この類の用例が付け加わるのはいつの日になるでしょうか…。

教育実習生の研究授業があったので、進学クラス高3の「ライティング」で課題を出して自習させ、参観に。この学校に来てからの教え子がもう実習に来ているのだなぁ。彼らの学年は平均的な英語力や言葉の力は今の生徒よりもあったように感じているが、英語を教える英語力となると話しは全く別。当然、厳しい目で見ることになります。多くの方に参観してもらえるのはこの実習生の在学中の人となりの賜。
放課後は湖で乗艇の予定だったのですが、実習生の研究授業の反省会を行うということで、体育館でのエルゴに変更。非常勤講師の先生も残ってくれました。私も助言・講評を少々。反省会の後、非常勤の先生と今年の授業での取り組みを少し話しました。現任校では、「長州英語指導研究会」という私の立ち上げた会のメンバーとして、「山口県英語教育フォーラム」の下準備などを手伝ってもらうことで、徐々に校内の英語科の取り組みも活発になっていきました。余所からいきなりやってきた私が「トップダウン」で校内研修を企画していたら、当然、拒否反応などが出ていたでしょうが、「フォーラム」で日本を代表するような本物の姿を見て、話しをして、自分自身の英語教育観を揺すぶって、それでいて自分の目の前の現実としっかりと向き合って、という泥臭い営みを一人一人の先生が続けることで、変化が生まれてきています。習熟度の取り組みも毎年見直しをし、教材の選定も、前年度の流れをただ踏襲するのではなく、進度以上に、どのように使うのか、達成目標は、という部分の議論もなされています。今回も、私が反省会に出るということなので、どういうコメントをするか期待して残ってくれた、と聞かされては、身も心も引き締まろうというものです。今回の実習生の指導教官に当たる先生とも普段から情報交換をしています。今年度に入ってからは、萩原一郎先生の実践をまとめた上巻・下巻。「すごいですよね」から先へと進む指導のヒントを探しています。先達・先哲に触発され、同僚に学び、実習生の姿を鑑に自分を振り返る。このような良いサイクルで仕事を続けたいですね。これから採用試験の季節ですが、来年度以降私たちと一緒に英語を教えたいという方がいましたらご連絡を。

ということで、本業のエルゴは短時間集中のスプリント系。
アップ4kmに続いて、500mオン+3分オフx3セットを2ラウンド。ラウンド間のレストは10分。ダウンは2km。2ラウンド目は、アベレージのハードルを1秒上げて厳しく追い込みました。エルゴでやると結構きついメニューです。案の定、2ラウンド目の2セット目、3セット目は出力がズルズルと落ちていきます。「ここで加速を緩めたら二度と艇速は戻ってこないぞ」、というレースが終わるかどうかの瀬戸際を感じる危機管理能力を養うにはいい経験でしょう。ダウンの2kmで端々を確認してリラックスしたリカバリーから緩ませずにドライブというところができると、本当に美しい動きで安定したリズムと低レートのスピードが生まれるものです。一番実感するのは本人でしょう。
明日は、課外講習が終わってから近い方の湖で乗艇。日曜は朝から遠い方の湖でタイムトライアルの予定。大雨の予報ですが、無事に終われますように。
菊池では全日本ジュニア開催中。ベストを尽くし、自己ベストを越えて下さい。

本日のBGM: My back pages (真心ブラザーズ & 奥田民生)