「忘れてしまったたくさんの話」

サミットとオバマ大統領の任期切れ駆け込み広島訪問が話題です。
授業で演説を逐一扱う余裕はないかな、と思いますが、高3生が表現ノートでどう扱うかに注目しています。
NYTの記事はこちら。

http://www.nytimes.com/2016/05/28/world/asia/text-of-president-obamas-speech-in-hiroshima-japan.html?smid=fb-share&_r=0

その高3生の中間試験後の授業では、教科書の読解の精度を高めなさい、という指導。
高校の教科書が「読解偏重」という批判がよく聞かれるけど、今や「読解」に特化した科目は「学習指導要領」から消えています。批判されるべきは「読解」に重きを置いているのに「読解力」が養われない教科書や指導法であって、「読解力」がついているなら、少なくともその部分では成功しているのです。

教科書に限らず、「教材」の批判もどんどんやって風通しを良くすればいい。ただ、教科書検定制度そのものを無くすとか、学習指導要領の法的拘束力を無くすとか、そういった動きは何とも鈍いのですよ。教科書検定では、教科書の音声指導をする頁でさえ、CD等付属音源のチェックなどありませんから。

教科書の検定も、今では政治的配慮が求められる記述を除けば、見た目の構成や、活動の(4技能から見た?)バランスあたりをチェックしているだけではないでしょうか?各社の教科書の新出語のカウントをしてリストが発表されることもありませんし、英文そのものの吟味がされているとも思えません。

検定に合格し実際に高校で採択されていた「リーディング」教科書の「英文」の杜撰な編集についてはこのエントリーで明らかにしました。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20130528

新課程に変わったら、その英文はそのまま「コミュニケーション英語」の教科書に採録されていました。世も末です。

Bathing1.jpg 直
Bathing2.jpg 直
Bathing3.jpg 直

Bathing ってタイトルまで変えずに使っています。しかも、ご丁寧に、改訂サイクルに入っても、まだ使ってくれて構わないんですよという但し書きまで。いや、他の英文に差し替えるか、ちゃんと書き直すかしましょうよ。

このような「実例」は例外的なお粗末さなのか、それとも氷山の一角なのか、一般の教員には確かめるのは大変です。少なくとも「採択しよう」と思った教科書一冊くらいは事前に読み通せる「時間的&精神的余裕」があるといいのですが、現状ではそれさえも難しいのではないでしょうか?

それでも検定教科書は複数の作り手、教科書検定官の目を通過しているからまだましなのかも。学校採択専用教材の中にはリスニングであれ、読解であれ「エイブン」のお粗末さが目に余るものがあります。

「だが、それはたいしたことじゃない?」
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20160507

次のエントリーは、とりわけ高校の英語の先生に読んで考えて欲しいです。

”Cradle to the grave”
http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/20151123

そして、来年度は高校の教科書の改訂の時期です。今、各社が見本を携え学校へと営業をかけている頃でしょう。現行の各科目教科書の売れ筋に倣った改訂に なってしまっているのでしょうか?それともユーザーの声を反映させた改訂となったのでしょうか?そして、6月の1ヶ月で何冊読み通せるでしょうか?

私がどういう教材に関わってきたかは、こちらをご覧下さい。

http://d.hatena.ne.jp/tmrowing/about

批判や嘆きだけでは埒が明かないので、目の前の授業に精を出すことになります。

読解のガイドラインとして、ボトムアップ側の強化を図っています。現任校だと、高2から高3が対象です。それ程習熟度は高くありませんので、いきなり「鷲掴み」とかは考えていません。むしろ、「なぜ鷲掴みができないのか?」の部分にスポットライトを当てています。

2016高3読解のガイドライン.pdf 直

高3の上位層向けの読解(&ライティング)には、「焦点化と強調」の話を。類型化です。 これだけの短い例文・用例で意味が取れるかが肝なので、ある程度の英語力は前提になります。過度の単純化に自分が陥らないよう心して使っています。

焦点化による強調の類型2016.pdf 直

この2つとも、もともとは、まだ東京で働いていた頃に作ったもの。暫く忘れていました。
当時、某私立大学のエクステンションでTOEFLの講座を持っていました。ライティングをさせようにもまずきちんと読めない学生が多くて苦肉の策でリーディングからライティングへの橋渡し教材を投げ込みで入れていたのでした。その時のハンドアウトが残っていたので、それを改編したものです。


今年度の高2は週2コマだけなのに、行事による時間割変更で一コマが授業カットのためほとんど進まず。
土曜日課外で、『コーパス口頭英作文』(DHC) の導入。
「トリセツ」を丁寧にしています。
2008年から授業で使っていて、一時期絶版となり、卒業生に寄贈してもらったりして「飢え」を凌いだ時期もありましたが、今では5刷ですよ。今年は、「スラスラ感」「1秒反射」ができるようにしてから、意味順スロットに入れて駄目押しの流れです。この「同じ釜の飯を食う」ではありませんが、「同じスロットの飯を食う仲間」が分かるということが大事ですから。

過去ログでも触れましたが、

Where are you?
Where are you from?

だけでも結構面倒なんですよ。今日も、生徒に、

Where are you? って、誰が誰に言ってるの?どんな時に発する質問なの?
では、Where are we? だと?

というやりとりで、「生息域」の話まで。

生徒は勿論、教師もあまり気にしていなさそうですけど…。

高1は、初の中間試験の出来・不出来を踏まえて、「助動詞の番付表」と「名詞は四角化で視覚化」、そして「意味順」の重要性を認識する日々。ここでも「音声」「音調」が大事。そしてそのためにも「対面リピート」をきちんと行うことが必要になってきます。

「四角化ドリル」では、「その7」で、代名詞。対面リピートではペアの相手が読み上げた名詞句を復唱するのではなく、その名詞句を代名詞に置き換えたものを答えます。
こんなドリルです。

Shikakuka7.jpg 直

昔ながらの、she, her, her とか he, his, him とかit, its, it とかthey their them とかです。
ドリルへの記号付けは次の要領。
時制を持つ動詞・助動詞の前でとじカッコ、という約束事なので、sheはとじカッコの左側にいる・来る時の形でそれ自体を四角で囲む。名詞の目印のherはそこから下線が始まるけど、四角で囲むのはその後に来る名詞の方。とじカッコの右や、前置詞は波線(=ホニョホニョ)をつける約束事なので、ホニョホニョの後に来るherはそれ自体を四角で囲む。という作業を踏まえて、口頭でやらせています。自分で見ながら言えるようになったら、対面リピート形式で、名詞句はリピートせず、代名詞を3セット答えるという活動へ。名詞句を耳で聞いて、それを代名詞に置き換えて先へと引っ張っていけることが狙い。


ドリルでは主として名詞句(の限定表現)を扱うのですが、今回は、「このドリルだけで閉じていてはダメ」ということで、応用編。free substitution の名詞句の限定表現版ですね。

名詞句.jpg 直

ペアになって、一人はこの白板を背にして立ち、もう一人は自由に組み合わせて「意味のある名詞句」を相手に言う。言われた方は、それを聞いてリピートするのではなく、代名詞に置き換えるというもの。

  • a cat in the bag
  • cool rain in August

は容易くても、

  • a lot of cats along the street
  • a lot of rain in August

で、「ムムっ⁉」ってなることを想定してはいますけどね。
対面リピートならぬ、代名詞への置き換え練習へと発展させてみました。


番付表も並行して進めています。
助動詞 can の「可能性」では、定番の衣類洗濯用の洗剤ネタ。「アリエール」を使っている家庭が思いの他多かったのでこちらが驚きました。
助動詞の扱いで気になったのは、「中学校、または高校入試前に通った塾で、must とhave toの書き換えをやらされた人」という問いに7割以上の生徒が手を挙げていたこと。中学校の先生なのか、塾の講師なのか、問い詰めてはいませんが、

イコールで書き換えられる、という理解をしているとするなら、それはひとまず忘れて下さい。

と伝え、使い方・使い分けの「大まかな目安」は教えておきました。
芸人さんの「タカ&トシ」の片方がやっている「オレダオレダ…」のジェスチャーを引き合いに出して記憶のヒントに。

意味順で「する・です」をやっているので、

You must be tired after driving so long.

の前半は比較的すんなり入りますが、after に続く、-ing形のところで滞ります。

You must be tired after that.

と代名詞にすると分かったつもりにはなりますが、「で、thatって何?モノ?」と問うて、 driving so long が「ワニ」だよね、という確認です。合言葉は「ことがらはワニの口、ウ○コ漏らすな、○ロ吐くな」。忘れたら、思いだせばいいんです。思いださなくてもできるようになれば、身についたということですけど。

土曜日課外では、番付表の「大関」の導入。所謂「完了形」です。
使用頻度が多くはない表現形式ですが、それでも「使い所」「ツボと効き目」「がありますから、一つ一つ用例を見て、その使われ方を吟味する極めて明示的な扱いです。
典型的な用例を提示し、

「時の隔たりを超えて現在時へと伝わる余波」
「成果・達成感」「失敗・喪失感」

などのキーワードを示していますが、サッカー元日本代表、川島選手の「ドヤ顔」や芸人さん、クールポコの「やっちまったな!」あたりで実感を補足しています。

生き急いで劣化コピーのような問題演習の文字列にうつつを抜かすのではなく、お膳立てされた教材であれ、それが適切に用いられたものであるなら、その一つ一つのことばを自分で生き直すことが大事だと痛感しています。

本日はこの辺で。

本日のBGM:いちょう並木のセレナーデ(『刹那』バージョン)/ 小沢健二