脈々

センター試験自己採点資料提出完了。
0限の授業を終え、1,2限と4社分の自己採点の指示をして、3,4限と授業、4限直後から慌ただしく梱包し、事務室へ運び回収。現任校は進学クラスが一クラスしかありませんから、これを全部担任の私一人で。2時過ぎにようやくお昼を食べ、2時20分から6限の授業。

ということで、「授業日誌」がデフォルトのこのブログですが、あまりにばたばたしていたので、本日の授業の様子は詳細には残せません。高1、高2ともに、地元の予備校で「リアルセンターチャレンジ」なる模試を受けてきたので、センター試験の前半部分の講評・解説をしておりました。どのように、効率よく正答を見極めるかとか得点するか、ではなく、昨日のブログに書いたような「なげかけ」を中心として、生徒に「英語を使う」ということと「英語を学ぶ」ということを考えさせることが主眼です。
たとえば、昨日も指摘した、第3問の対話文問題の登場人物名。

  • YukoとBethany の性別は?Yukoは女性っぽいね、ではBethanyは?辞書に載っているかな?

などというやりとりから、Bethanyは一般に女性名であることを指摘し、女性同士の対話であることが推測でき、そこから夫に関する愚痴をこぼしている、というリアリティーを感じることができる、ということを狙って生徒を揺すぶるわけです。

  • Mr. ZhangとMr. Ota の対話は、男性同士ということは自明。では、さっきのYuko & Bethanyの対話との違いは?名前を見て違いに気がつかない?

と問いかけて、first nameとfamily nameの差、Mr. という呼称・肩書きから、informal な対話とformalな対話の差を考えさせるわけです。で、今回の出題の「英語表現」はそれに見合ったクオリティとなっていたか?それにふさわしい使い分けがなされていたのか?という問いかけです。
そこまで踏み込まないのであれば、登場人物なんてAさん、Bさんで充分でしょ?
センター試験の過去問の解説でも、センター模試の解説でも、こういったことに気を配ったものを見た記憶がないのですね。オーセンティックとか、現実の使用場面とか、コミュニケーションを重視したとか、聞こえの良いバナーはいいから、もっと地に足のついたところで言葉を扱い、言葉を教えてもらいたいと思う。

年末から結構気合いを入れて、

  • 遠田和子 『Google 英文ライティング 英語がどんどん書けるようになる本』 (講談社インターナショナル)

を読んでいた。良かったのは後半の英文を書く時の「セルフチェック」。何が良かったか?私がライティングの授業で強調しているポイント (「四角化で視覚化」と「とじかっこ」による検算) と重なっている点。では、何が食い足りないか?それは、「和英辞典」の限界を指摘する部分で、辞書相互の比較検討を読者に全く示していないこと。これをやると、「和英辞典」の格付けを行っているととられかねない危惧があることは私にもよくわかる。しかしながら、冒頭のintroduction (pp. 16-18) で取り上げられている、

  • 今後とも末永くお引立てお願い申し上げます。

を英訳する際に、和英辞典では限界があることを示すために引かれたのは、『ジーニアス和英』(大修館) のみ。さらに、「辞書の単語は本当に使えるのか --- 文脈からのアプローチ」と題した第9章で、

  • 喫煙は心臓病の危険を増大します。

の英訳に際して (pp. 156-158) 引用されているのは、『ルミナス和英』 (研究社) のみ。「危険」という語を和英で引いても文脈に合致した訳語や表現が得られないというのであれば、『アンカー和英』では?『ウィズダム和英』では?などなど、新しい時代に対応すべく編纂された和英辞書がどのように、「文脈」を当てはめようと努力していて、なおかつ不十分なのか、という部分を精査した上で、読者にも示すのがフェアであろうと思う。

本日の学び直し。
山田和男 『へそ曲がり英作文』 (三省堂、1986 年)

  • 日本語の作文で1行や2行の短文を書いて練習させるということは、まずない。また翻訳でそれをさせることも行われない。それから考えて和文英訳、ことに現在ふつうに高等学校でやっているような短文の和文英訳は、やっても悪くはないが、作文力を養う主たる手段としてはやらないこと。あれは文法の練習にすぎず、その他には、せいぜいのところ生徒のworking vocabularyを増やすのに役立つだけであって、実は作文以前のものである。このことを認識して、できるだけそれ以外の形で練習をやらせること。和文英訳を利用するなら少なくとも5,6行あるいは10行以上にわたる長いものを原文に選ぶこと。いわゆる補填 (Fill the blanks) とか置き換え (Substitution) その他の制限作文も、文法練習であって作文ではないことを忘れないこと。(p. 44)

山田氏がなぜ、「和文英訳を利用するなら少なくとも5,6行あるいは10行以上にわたる長いものを原文に選ぶこと」と念を押しているのか、反芻しています。

本日のBGM: 月曜のバラッド (4 pieces version) / 青山陽一