英語学習で大事なことは全て『P単』が教えてくれた

その昔、全米ベストセラーで、『人生で必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』という本がありました。 Robert Fulghum ですね。当時、自分の読解の授業でよく使っていたのですが、そのタイトルがふと思い出されたので。
高2、高1とも試験前最後の授業日。
高2は、「今月の歌」の課題の返却、「のりP」課題の返却。
高1は、試験前最後の授業だったのですが、教科書や歌など、教材として扱った素材文から、『P単』で普段扱っているような、フレーズを括り出して自作したワークシートを用いての自 (分での)演 (習)。名付けて「自作自演ピーナツ」。
人からお膳立てされて、テストされるのではなく、自分の努力で自分の脳にご褒美を与えなさい、というコンセプト。
先日の研文書院の単語集のように、シンプルに、「動詞句」「名詞句」という程度なら、高1で十分対応可能です。強いて、分類すれば、以下のようにでもなるでしょうか。

  • 名詞 1 + and [but / or] +名詞 2 → 例: questions and answers
  • (前置詞 +) 名詞 1 + 前置詞 +名詞 2 → 例: studies on the intelligence / a tutor for Griffin
  • (前置詞 +) 名詞 1 + 前置詞 +名詞 1 → 例: from one kind to another / from time to time
  • 名詞 + to原形 → 例: intelligence to solve a problem
  • 名詞 1 (=形容詞として働く) + 名詞 2 → 例: animal intelligence
  • 形容詞 + 名詞 → 例: an interactive technique
  • 動詞 + 名詞 (=いわゆる目的語) → 例: imitate humans / conduct experiments / deny their intelligence / give an automatic answer
  • 動詞 + 前置詞 / 副詞 +名詞 → 例: search for the correct answer / hold up a small object

でも、こういった細かな分類・分析は、高2くらいになってからで充分。まずは、既習事項から括り出せることが大事。
B4の用紙を縦長に使い、半分に折って、左に日本語→右に英語、という流れで自作自演、自問自答です。その後、怪しい綴り字は、縦書きドリルで万全を期す。
2コマ目は、全課の音読。個人指名で何回もダメ出しを経て、最後は斉読。アコーディオンのように息をたっぷり吸って、息継ぎ無しでチャンクは次々とまとめながら声にできるように、まだまだトレーニングが必要。

1コマ目で作成したような、基礎的なコロケーションの感覚を高2くらいまでに自分のものにできれば、たくさん読んでいく中で、語句や表現に関して、何をどのように覚えて整理すればいいのかがわかってくる。そうすれば、もう、『P単』に頼らなくてもいい、という段階に足を踏み込むことができ、自主的な読書の中でも、トピックに関わるキーワードと、コロケーションを常に意識して自分の中に取り込むことができるようになる。これが、高3での『表現ノート』に繋がっていくわけです。というわけで、「英語学習で大事なことはみんな『P単』が教えてくれた」と。

前任校で高3の「ライティング」を持っていたとき、多くの「優秀な」生徒が、表現ノートのネタになる英文を、大学入試の長文問題から選んでいました。私も、無碍には否定とかダメ出しはしませんでしたが、とにかく繰り返し、「自分が興味関心を持てるネタに限る」、「本当に自分がとことん追求できるトピックで」と念を押し続けました。そうすると、不思議なもので、提出回数を経る毎に、入試問題を扱う者は減っていくのですね。その代わりに、自分の本当に興味を持てる分野・トピックの新聞記事、雑誌の特集、インターネットのニュースアーカイブからの抜粋、小説、歌詞、テレビドラマや映画のスクリプトなどなど、多種多様な内容を扱うようになり、そのそれぞれで、英語ネイティブが普通に読むレベルにかなり近づいていき、気がつけば、入試の読解問題の素材レベルを越えていることも。まんべんなく、各種のテーマ、トピックを過去問演習宜しく読ませることでは突き抜けられなかった領域に、表現ノートを作成するために「読む」ことで突入でき、一度、何かで突き抜けた感覚を得た者は、その他のトピック、素材でも、極めて高い習熟度を見せてくれましたし、クラスの他の生徒の実践からinspireされることで、自分のネタ探しや、掘り下げ方が変わってくるのは、見ていて本当に楽しかったです。

  • まず、語彙をしっかり覚え、文法や構文に習熟し、きちんと読めるようにして、それから発信。

などといっていたら、普通の高校生は発信の頃には卒業式を迎えてしまうので、発想そのものからの転換。

  • 書くことを、初期の段階から運用のレベルで取り入れ、その運用からの学びを、英語学習の要に据えることで、他技能を結びつけ、それぞれのレベルを上げていき、語彙も文法も自分のものにする。

私が目指していたのは、そういう「英語学習」でありました。
『パラグラフ・ライティング指導入門』の高校編で私が書いた実践例は全てこれまでの実際の授業に基づいているのですが、お読みになった方から「レベルが高い」などというコメントを受けることがあります。その際の「レベル」ということばの定義が私にはよくわかりません。模擬試験の偏差値で言えば、45くらいの公立高校でも、60を下回る程度の私立中高一貫校でも、帰国子女が多くを占める私立の高校の上位クラスであっても、ほとんど同じことをやってきました。その授業を受けている生徒が在籍している高校の学力レベルというのは、あくまでも可視化しやすい指標を用いて総合的な評価でなされているわけですから、「英語力」の定義を吟味することなく、「偏差値45の英語力」とか「偏差値70の英語力」などと比較することは乱暴以外の何物でもありません。
そんなことより、1年間の授業を終えて、自分の払った努力を肯定的に評価でき、たとえ小さくても自分の英語力の伸びを素直に喜べることの方が私には大切です。
現任校には、カリキュラム上「ライティング」という科目がありません。しかしながら、書く活動は授業に入っています。
たとえば、最近の高2の課題がこちら。ドラフトに書き直しの指示を与えた後で再提出された英文ですから、いきなり初見のお題で書いたわけではありません。
「のりP」課題から。「もしあなたが酒井法子の立場だったら…。」

  • If I were in her place, I would make a song of apology for what I did. I would go on a national tour at my own expenses to sing the song for people who once trusted me. (38 words)
  • If I were in her place, I would live in exile. For example, in America, India or Australia, where there is no one who knows about me, and I would be a pop star again. If I became a successful pop star, I would never betray the trust of my fans. (51 words)
  • If I were in her place, I would become a street musician who would still sing a song, “Aoi Usagi.” I would regret what I did. (26 words)
  • If I were in her place, I would do my housework, such as cleaning all rooms and doing the laundry all day. And I would begin to study hard nursing care at university to be qualified as a care worker. (40 words)
  • If I were in her place, I would leave the world of show business, divorce my husband. And I would live apart from my child until I start some work and find myself again. (34 words)

「今月の歌」の「作者なりきりPR」から。

  • The phrase , “On smooth streets paved with gold” contrasts with the phrase, “hard times and tears.” I used the word “gold” to suggest that the streets paved with gold look shiny and beautiful but slippery. True love enables this couple to get over many difficulties. (46 words)
  • We also travel on a gravel road whose name is “life”. Get over all kinds of hardships, and we are getting stronger. We should choose to travel on a gravel road if we are to enjoy true love. (38 words)
  • True love is hard to understand. It can be cold in the summer. You can face difficulties but I want you to stay together. I hope that this song will sound lovely. When you are not sure about what true love means, listen to this song. (46 words)

模試の偏差値で言えば、50あるかないか、といった生徒が中心のクラスです。このように、まずは自分で書き、その英語が修正されていく過程でいろいろな気づきを得ることこそを大切にしています。

  • 添削したところで、そのフィードバックが新たな英文の産出能力を向上させるとは限らない。

確かにそうなのでしょう。でも、何処の誰が書いたかわからない日本語の英訳を元に暗唱するよりも、自分の中から生まれてきたのではない英文を暗唱するよりも、自分が書きたかった内容の英文の方が暗唱するにせよ身を乗り出すと思うのです。教師の直しが入り、自分が生み出したのがそのうちのたとえ欠片であったとしても、その英文を自分の中に取り込もうとする際には、「よりよいものになった」、「これがいいたかったんだ」と実感の持てる英語表現にして返してあげたいと思うのです。そうすることで、英語を使えるようになりたい、という気持ちを育ててあげられるのではないか、とナイーブに信じています。

月を愛でて、一献。やけどに良くないので、自分へのご褒美に買っておいたとびきりの酒をほどほどに。

本日の月見酒: 呉春・特吟・大吟醸 (大阪・池田;雄町40%精米)
本日のBGM: Soryasouda (100s)