ペアと伏線と選択肢

高1は、発音と綴り字の関係を、規則変化動詞の過去形を使って。これは、『エースクラウン英和』(三省堂) の学習ページにも簡便なマトリクスがありますが、高校の英語教師の多くは、中学で既習と見なして、ほとんどフォローをしていない項目です。確かに英語が得意な人にとっては全く問題にならないのですが、英語が苦手な人には複雑怪奇な仕組みになっています。さらには、文字指導。書写指導。それぞれの文字を構成するストロークの練習で、ただ、うねうねと線を引き続けたり、短・長、短・長とダウンストロークを延々と繰り返し、ストレスなく、素早く、かつ正確な運筆ができるようなドリルを行っています。いわゆる「筆記体」の指導などはせずに、このストローク練習やjoiningの練習を丁寧に扱っているのですが、その大切さがよくわかっていないものは、手が休んでいて、顔も「ぼーっ」としてたりするわけですね。当然、「喝!」です。今日は、後半で「ラウドスピーカー」をやる予定だったのですが、残念です。連休前最後の授業が無惨な結果に終わりました。やれやれ…。

一方の高2は、and, but, orの徹底。ロジックと分類分析です。さすがに上級生、集中力とメリハリが身に付いています。
オープニングの英語スモールトークは、昨夜のTV番組。お笑いやバラエティがほとんどの中に、ひとり、来ました。

  • 世界卓球

福原愛選手と、石川佳純選手の試合を見たとのことだったので、私も熱中した石川選手の大逆転劇を話し、設問。

  • この石川選手の勝利のように、周囲の評価で絶対に勝てないと思われている試合に勝つことを何というか?

まずは、日本語で何というかが自分からは出てこないので、国語辞典を用意させ、「番狂わせ」の定義を読み上げさせる。そこから、『グラセン和英』で、名詞としてのupsetに進み、『ユースプログレッシブ英和』で、upsetの語義の全体像を見る。an upset stomachなどの体調や、心理状態にも用いることを確認して、一段落。ここからが、本日の導入。黒板にtable tennis = ping-pongを書き、「ピング・ポング」とは読んでいないことを確認し、King Kongのカナ読みと対比。次に、日本語で良いので、「6歳の子供にわかるようにping-pongを定義する」課題。

  • テニスみたいなスポーツで、机の上でするやつ

などという予想通り、トラップにかかったような定義が出たので、机の上に立ってラケットを振っている絵で更なる問いかけ。

  • テーブル「で」するスポーツ

ときたので、「withってこと?」と畳みかけ、テーブルを右手に持って振り上げている更なる図解を。
ようやく、選手と机の位置関係や使う道具などを整理できてきたので、COBUILDの定義を援用して、板書。

  • Ping-pong, ( 1 ) table tennis, is a game played inside by two ( 2 ) four players. The players stand at each ( 3 ) of a table which has a low ( 4 ) across the middle and hit a small light ball ( 5 ) the ( 4 ), using small ( 6 ).

順番に空所を埋めさせていき、音読。当然答えは、1. or, 2. or, 3. end, 4. net, 5. over, 6. bats
難しかったのは意外や意外、 batsでした。この球技で使うものはracketとは言わないのですね。後半のandのペアを確認しながら、現在のレッスンでのポイントを復習。テキストでは、andの長文しか用意されていないので、投げ込み教材を探していたのですが、市販教材で「これ一冊でOK!」という良いものがなかったので、自分で練習問題を作成。
単文(短文)が20ちょっと、3文 (40 words) くらいの文が2つ。まずは、自力で読み英文和訳。等位接続詞に焦点を当てたくても、語彙の面で行き詰まる生徒は多いので、まず、辞書を引く前に手がかりが作れるところは作っておくことを徹底。その後、辞書引きへ。今風の英語教育はとかく和訳を毛嫌いしますが、使えない和訳や、和訳で止まってしまうからいけないのです。たとえば、今回の練習問題の最初の一文は、こうです。

  • He is a poor but honest man.

多くの生徒は「彼は貧しいが正直な人だ」と訳します。ここからが学習です。何と何が対比されているのかと問うて、英語で “poor” と “honest” と答えさせたところで何にもなりません。poorに関しては、基本的に物心両面を思いつく生徒は少ないので、物でイメージを浮かべさせます。問題は、honestの語義です。「an honest man で予想される典型的な言動は?」と肯定的な定義を求めてもなかなか芳しい答えは得られません。ひっくり返して「では、an honest man がしないことは?」と問えば、

  • 嘘をつかない
  • 人を騙さない

あたりがスラスラ出てきます。では、「貧乏」と「嘘をつかない」はどういうレベルでの対照・対比なのか?「貧乏」と「人を騙さない」とはどういう対比・対照なのか?今ひとつ実感が湧かないのです。ここで、「心の貧しさ」を持ち出すのは甚だしい間違いです。
英語がわかっている人には何でもなくても、訳語で思考が止まっている人にとっては、honestのような基本語に盲点があります。英英辞典は決して、万能ではありませんが、基本語を引いてみると、ヒントが見つかることもあるのです。要は、効き目と弱り目、たたり目の間のバランスです。
OALDでは、

  • always telling the truth, and never stealing or cheating

LDOCEでは、

  • someone who is honest always tells the truth and does not cheat or steal

WBDでは、

  • not lying, cheating, or stealing

という具合に「人のものを盗らない」「盗みをはたらかない」ことが重要な概念として含まれていることに気づきます。ここから、原文に戻れば、なぜ poorとhonestが対照されているのかが腑に落ちるわけです。この瞬間に初めて、日本語訳はどうでもよくなったといえるのではないでしょうか。足場としての日本語の助けを借りて、英語の実態・真相に迫ることができればそれでいいでしょう。もっとも、私の場合は、ここから、『巨人の星』の左門豊作の話題に進んで、「渇すれども盗泉の水を飲まず」のエピソードに言及するという遠回りを選んでいますが…。
次の例文は、

  • Great works are performed not by strength but by perseverance.

と、"perseverance"という高校2年生には難しすぎる語を入れました。ここでも、対比から、語義に迫っていくわけです。Honestの場合は、知っているつもりで知らない語義へのアプローチ、今度のperseveranceは、知らないものを対比によって、浮かび上がらせてみようというアプローチです。英和辞典ではわざわざ「粘り (強さ)」と言葉が補ってあったりすることが多い perseveranceですが、英語では、この語は「強さ」とは認識されていないのだと思います。「偉大な作品を生み出す原動力」という比喩がすでに、「力」を連想させているわけですが、むしろ「能力」 vs. 「努力」というよりは「根気」というようなイメージを浮かべるのが正解でしょう。(ここでも漢字で「力」という言葉から自由になりきれないのですが…。)
OEDでは、

  • persistence in doing something despite difficulty or delay in achieving success

COBUILDでは、

  • the quality of continuing with something even though it is difficult

MEDでは、

  • a determined attitude that makes you continue trying to achieve something difficult

LDOCEでは、

  • determination to keep trying to achieve something in spite of difficulties - use this to show approval

とわざわざ、「プラスの評価を示して」という但し書きがあるように、このような「『変化しないこと』を高く評価することはあまりない文化圏でも肯定的に評価される資質である」ことを実感として理解することが大切と思って授業をしています。

  • Paris was, and is, a city of adventures.

では、前回、語源に興味を示していた生徒に対して、adventureと「アバンチュール」が同じ語源に収束することを指摘。
その他の例文も少し引いておく。

  • Reading is supposed to be, and often is, a pleasure.
  • He felt, and looked, terribly disappointed.

などを見て、andでの挿入というものを実感してもらう。

  • Hurry up, or you will fail to catch the last train.

という、巷では、命令文+ orという公式で覚えさせているだろう項目も、「選択肢二つから一方を選び取る」という論理に焦点を当てています。

  • My father is now in Hong Kong, but he will be home next week. Can I take a message?

ここまできて、ようやく、ping-pongからの伏線に繋がったことになります。

空き時間で、連休最後に予定の高3の模擬試験の時間割を組み、問題の仕分け。志望校などを記入するカード表の配布などなど。
7月のセンター試験の説明会の中国地区、九州地区の日程を確認。とりあえず、どちらでも行けるように準備を進める。車での会場入りが認められていないため、九州地区会場の九州大学の方が、交通の便がいいのだが、国体の中国ブロックの翌日なのだなぁ。一応、夏休みには入っているのだが…。
放課後は生徒の方が7限まであるので、それを待って連休のスケジュール配布と練習の指示。
他校の顧問とメールでスケジュール調整。
新幹線の切符を取りに駅まで往復。
いよいよ慌ただしいGWの始まりです。

本日のBGM: Laugh and be happy (Randy Newman)