堪忍袋の緒の修繕方法

駿台の伝統的な教材『700選』に「解説が貧弱だ。使う人の身になって作られていない。」と文句を言う人はあまりいないでしょう。あれは例文集ですから。
検定教科書ではどうでしょうか?対訳や詳細な解説が施されていたら、授業を必要とはしないでしょう。授業がある、教師がそこにいる、という前提で、あのような構成・体裁・記述内容になっているのですから。参考書や資料集とはその点が違います。
では、問題集は?
問題集にはanswer keyがついている「自習用」と、ついていない「授業傍用」とがあります。当然、授業傍用では、教師の解説を前提としていますから、解説の冊子は前提とはならないでしょう。あればあったで復習がしやすいでしょうけど。考える必要があるのは「自習用」の問題集の解答と解説になります。
『フォレスト』など英文法の準教科書といわれるものを考えると、授業傍用が原則であるにもかかわらず、その母体となる教科書や参考書というものが用意されていますから、解説部分はその母体へと戻って、詳細な記述を参照すればよいことになります。シリーズものの唯一の利点はここでしょうか。教材をまとめて買わされる側は大変ですけど。
問題集単体であれば、やはり解説は必要でしょう。私も関わった『高校入試スーパーゼミ英語』(文英堂)では、本編約120ページに対して、解答解説は2段組で40ページ弱。教材としてこの一冊で完結することを考えると良心的な方ではないかと思います。ユーザーからのご批判は甘受いたしますので、どんどんお寄せ下さい。
もし、この問題集の解説で、「語義や語法の詳述、適切な用例の追加はスペースを取りすぎるから、この語は辞書を引いて例文を確認してください」などとあったら学習者はどう思うでしょうか?例えば、同じ出版社だから「『ユニコン英和』(文英堂)を見ると同じ例文が出ている」、などという作りにすれば相互参照が行き届いて学習の効率が上がるのでしょうか?そうは思えません。だったら、『ユニコン英和辞典ワークブック』にすればよいのですから。マクミラン社からは良質の辞書指導のワークブックが出ていましたよね。例えば、ある文法項目で、「解説をすると長くなるから、他社本になるけど、ここは『パーフェクトコース』(学研)の解説を読んでね。太田先生も久保野先生も信頼できる先生だから。安心して。」などと書いてあったらどうでしょう?いくら安心して、と言われたからといって、その問題集を信じて使い抜こうと思えますかね?
やはり、まず問題演習よりも、しっかりとしたテキスト、教科書、参考書を用意することから基礎の構築は始まるのではないでしょうか?
さて、
私の関わった教師向けのライティングの指導書が来月刊行となります。(8月20日発売予定。刊行が遅れたのは私のせいです、平にご容赦を。)
『パラグラフ・ライティング指導入門 中高での効果的なライティング指導のために』

  • 大井恭子編著、田畑光義・松井孝志著、大修館書店・英語教育21世紀叢書

定価は2000円(税込みだと2100円ですね)
著者代表は千葉大学の大井恭子先生。クリティカル・シンキングをしっかりと踏まえた作りになっています。私の担当した、高校編の実践例と資料編の大学入試編の出来は読者の方々の評価に任せますが、中学段階の実践例が発達段階を考慮し、丁寧な手順で、テクストタイプをバランスよく配置して収録されています。高校の指導者でも、この中学編の内容が大いに参考になると思われます。日本というEFL環境で、これだけ初歩の段階からのライティング指導事例がまとまったのは希有なことではないでしょうか。これも偏に大井先生、田畑先生のご尽力の賜です。
英語教育に関心のある方は、是非お手にとって、そして実際に授業や課題で使ってみて下さい。その上で、ここが使いにくい、ここは参考になったという声を聞かせてもらえると有り難いです。高校編と大学入試編で示した英文例は私の生徒が書いたものをもとにしていますが、ここに載せたのは私ですので、不備があればご指摘をお願いします。私も、これまで、いろんなところで、問題集の入試過去問や模擬試験の解答例の英文批判を展開してきましたから、今度は私が批判を受ける立場です。

てつがくのみち、から多読書が届く。今回は店長さんに1冊、絵本をサービスしていただいた。深謝。
これらは、高校1年生用として活用させてもらいます。
高2は、個人課題の進捗状況が芳しくないので、計画表を戻して、やり直し。約1時間残して、個人個人のノルマ達成に向けての活動に当てさせる。一番順調な者はもう『藤本本・宝島ムック版』へと移行している。8月には『ケネスの速読』シリーズが終われるだろう。
『ぜったい音読・入門編』(中1,2年レベル)は2週間以上経ったので回収命令。こちらは高1の書棚行き。夏休み後半で高1生は、多読書と『ぜったい音読・入門編』をやることになります。勉強合宿時に確認しますから頑張って「楽しんで」下さい。
高3「出直し英語塾」の塾生二人は、ダイアログの役割練習がお粗末なのでさらなる出直しに。このレベルの素材は血肉化、自動化するまでやっておかないと意味がないですからね。
奈良女の英文和訳問題では、助動詞的表現が名詞句に収斂している部分とgiven that S+Vで案の定躓いていた。自分の誤読の可能性がいくつも分かるくらいなら、その過程で正しい読みに辿り着いているものでしょうから、やはりこういうところで初めて教師は必要となるのでしょうね。

大分県の教員採用にまつわる不正・汚職(=犯罪)で、次々と「事実」が報道されている。
そのうち、前教育委員長の次の発言は看過できない。

  • 公務員の守秘義務、しゃべらないことは、仕事を辞めた後も生きていると思う。例えば会社員は、会社の不利益になることをわざわざしゃべらないでしょう。非常に残念だ.

都合の良いことだけ、民間を言い訳に使うんじゃない。今回の事件を「会社の不利益になること」という程度の認識だとすれば、病根はとてつもなく深い。この人には、「組織ぐるみの犯罪」が問われているという意識がないのだろう。昨年の7月まで、つまり、教員採用試験が行われている時期に教育委員会のトップに立っていた人が、まだ何の責任も取らずに、教育委員を務め、会議で威勢良く発言しているんですよ。所詮人ごとの教育評論家に任せておかないで、地域住民は不正と不正に関与した人間、その不正を見逃した責任者を許さない姿勢を強く打ち出すべし。
気がつけば、7月も終わり。
佐伯胖の本を読み直す。
久しぶりに「正統的周辺参加」という考え方を思い出した。いつの間にか、自分の軸がぶれていることの方が多いのだろう。

  • 『マルチメディアと教育---知識と情報、学びと教え』(太郎次郎社、1999年)
  • 『新・コンピュータと教育』(岩波新書、1997年)

教育の可能性を開こうという、学者や現場教師の取り組みが、結実することを願うばかりである。

本日のBGM: If you tolerate this, your children will be next (Manic Street Preachers)